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212.転売屋は折角なので準備をする

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レイブさんには事情を話し、了承を貰った。

とはいえ向こうも商売だ、過剰な割り増しはしないだろう。

なによりそれを俺に振られても困る。

とりあえずビアンカの件は一段落したので、俺は還年祭の準備をしつつもう一つの仕込みをすることにした。

「なぁ王都ってどんなところだ?」

「え、シロウさん行ったことないんですか?」

「無いから聞いてるんだよ。」

「意外ですね、てっきりそっちで腕を上げて来たのかと思ったんですけど。」

「金儲けは別にどこでもできるからな。」

「そうか、鑑定スキルがあれば商品は分かりますしね。」

まぁ俺の場合はそれに加えて別のスキルも関係してるけど、それは内緒だ。

「で、どんなところだ?」

「そうだなぁ・・・、私も一回しか行ったことないんですけど、大きいですね。」

「そりゃ王都だ大きいだろう。」

「そうじゃないんですよ、建物も何もかもが大きいんです。」

「ふーん。」

「石造りにも装飾が施されていますし、随所に木材を使って見た目も華やか。道行く人も・・・いや、それはあまり変わらないですね。」

「そんなもんか。」

「冒険者も多いですし商人も多い、この街をものすごく大きくして国王陛下が住む王城を置けばそっくりです。」

わかるようなわからんような。

一つ言えるのは人の集まる所には高い建物が多いという事だ。

これは元の世界とも共通だな。

人口密度の問題で横に広げられない分、縦に大きくするしかないんだろう。

「美味い物も多いんだろうな。」

「そりゃあ食の中心地ですから。」

「三日月亭や一角亭よりもか?」

「あそこはあそこで美味しいですけど、なんか違うんです。」

「雰囲気の問題じゃないのか?」

「それもあるかもしれませんけどね。」

俺はこの街の食事でも十分美味しいと思ってる。

だが、干しモイの件もあるしまだ見ぬ美味い物は山ほどあるんだろう。

それが一堂に集まる場所、ってのが王都というわけだ。

「つまり美味い物は食い飽きてるってわけだな。」

「・・・まさか何かするつもりですか?」

「いやいや、何もしないさ。」

「さっきの言い方はどう考えても何かするつもりですよね。」

「オークションには参加するが運営する気はない。あの酒が高値で売れただけで十分だって。」

「経理に無茶苦茶怒られたんですからね。」

「その分オニオニオンを納品してやっただろ?」

「まぁそうなんですけど・・・、本当にあの値段で良かったんですか?」

この間収穫したオニオニオンは備蓄という名目で街に買い取ってもらった。

『オニオニオン。オニオーガがダンジョン内で栽培している食べ物で、通常の物より四倍ほど大きい。味は見た目とちがい甘みが多く、水分量も多いので食べごたえがある。最近の平均取引価格は銅貨25枚、最安値は銅貨15枚、最高値銅貨22枚。最終取引日は昨日と記録されています。』

卸値は銅貨15枚。

最安値で取引して

「あぁ、備蓄は必要だし何よりあそこは俺個人の畑だ。自分で消費出来ないやつは腐るだけだしな。」

「ご協力感謝します。」

「13月になったらまた冬野菜を植えるつもりだ。また残るだろうからその時もよろしく頼むな。」

「えぇ、備蓄できるものであれば喜んでご協力しましょう。」

よしよし、これで次の納品も問題ないな。

元々金儲けの為に作った畑じゃない。

もちろん高値で売れるに越したことは無いが、マジカルキャロットやグリーンラディッシュで儲けているからちゃんと黒字化している。

それにだ、下手に儲けすぎると収益用と誤認されて税金を請求されない。

に安値で売り払う物が必要なんだよ。

大義名分ってやつだな。

「それで、何をするつもりなんですか?」

「王都にはうまい物が集まっている。でもそれはこうやって栽培されたやつだけだよな?」

「そうですね。」

「ダンジョン産の食材はどうなんだ?」

「王都の近くにダンジョンはありませんね。」

「ってことはだ、新鮮な食材は手に入らないんだな。」

「シロウさん、まさか。」

「そのまさかだよ。こんな辺鄙な所までわざわざ来るんだ、お出迎えするのがギルド協会の仕事だろ?」

ニヤリと笑うと羊男が信じられないという顔をした。

いいねぇ、その顔。

でも、お前だってその気じゃないか。

その証拠に拒否も否定も一切しない。

むしろどうするかを頭の中で必死に考えているという感じだ。

「俺はダンジョンで手に入る食材を集めるつもりだ。もし必要な物があればで売ってやるから安心しろ。」

「あはは・・・。」

「仕込みはあと二週間って所だが、まぁ十分間に合うだろう。」

「ってことはこちらが用意する以外にも作るつもりですか?」

「言っただろ、こんな辺鄙な所までくるんだからお出迎えしないとってな。」

確か図書館にダンジョンで採れる食材を使った料理本があったはずだ。

その中でなかなか見栄えが良く、かつ珍しい物を作ってみる。

イライザさんに協力してもらえばなんとかなるだろう。

「はぁ、くれぐれも過激な物は止めてくださいよ。」

「なんだよ過激って。」

「ダンジョン産の食材って加工次第では毒にも薬にもなるんですよ。一歩間違えたらって食材は使わないでくれという事です。」

「さすがにそう言うのは避けるつもりだ。俺だって暗殺疑惑とかで投獄されたくないからな。」

「ほんと、頼みますね。」

拒否されないということはやってもいいという事だろう。

それじゃあ早速仕事に取り掛かるか。

羊男に礼を言ってギルド協会を出たその足で図書館へと向かう。

予定通り料理の本をいくつか発見できた。

「飲食店でも開くのかい?」

「いや、今回だけだ。」

「ダンジョン産の食材は多種多様にあるけど、一番のオススメはボンバーカウの肉だね。」

「牛?」

「牛は牛でも常に火をまとっている牛だよ。」

「いい匂いがしてそうだな。」

「あはは、想像だとそうかもしれないね。常に熱せられているから肉は柔らかく脂もよくのっているそうだ。っていっても僕は食べたことないし本に書いてあっただけだけどね。」

「ダンジョンにしかいないんだろ?」

「うん、奥深くにある炎牢の岩戸って場所にいる珍しい魔物だよ。」

随分と難しい名前の場所だな。

炎牢・・・炎の牢屋って感じか?

中々に暑そうだ。

資料をいくつかメモして家に戻る。

丁度エリザが戻ってきた所だった。

「おかえり、早かったな。」

「ん~今日はなんだか気乗りしなくて。」

「そんな日もあるだろう。」

「でもね、珍しいの見つけて来たよ。ほら。」

若干返り血がついた手でエリザが差し出したのは願いの小石だった。

確かに珍しいがここではありふれたものだなぁ。

「今月の食費として貰っとくな。」

「えー!」

「冗談だよ、ミラ銀貨10枚渡しといてくれ。エリザ先に風呂に行ってこい、終わったら話がある。」

「シロウ様は?」

「倉庫。」

願いの小石は倉庫の奥に積み上げてある。

今何個溜まってたっけか。

100個溜まると願いが叶うらしいが、ぶっちゃけ自分の願いは自分で叶えてるんだよな。

やりたいことしたい事、今の所なんとかなっている。

こういうのに頼まなければいけない願いなんてぶっちゃけないなぁ。

ま、溜まってから考えるか。

いつもの場所に願いの小石を突っ込んで店へと戻る。

「今日の飯はイライザさんの所に行くつもりだ、構わないか?」

「まだ準備前ですので大丈夫です。」

「アネットにも声を掛けて来るか。」

「あ、アネットさんでしたら外に出ております。」

「そうか。」

「あと半月ですから、ビアンカさんの様子を見に行くそうです。」

「・・・まぁ、大丈夫だろう。向こうもアネットが手伝う事は予想していたみたいだし。俺が手を出さなければそれでいいんだろう。」

どうやって儲けを把握しているかは知らないが、どれだけ頑張っても一か月で金貨10枚稼ぐことはできない。

俺の取り分も考えてせいぜい金貨1枚って所だ。

飼い主がいなくなった以上向こうも返済してもらう方が助かるだろうから多少は緩くなるんじゃないかな。

「おっまたせー。」

「早!」

「ほとんど汗かいてないし、どうせ戻って来てもお風呂するから。」

「まぁいいけどさ。イライザさんの店に行くんだが、来るよな?」

「当たり前じゃない!あ、でも急にどうしたの?」

「ん~、接待?」

「・・・やっぱやめようかな。」

「まぁそう言うなって。お前にしかできない事なんだからさ。」

「シロウが甘い時って絶対裏に何かあるんだもん。話を聞くだけだからね。」

中々勘の良い女だ。

って、俺がいつも露骨すぎるんだろう。

まぁ改める気はない。

しばらくしてアネットが戻って来たので四人で・・・と思ったら一人増えて五人でイライザさんの店に向かった。

ちょうど話が聞きたかった所だ。

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