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219.転売屋は入札される

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「19番様、金貨29枚で落札です、おめでとうございます!」

拍手が会場に響き渡る。

今セリ落とされたのは今回出品した品物の一つ、『老狼の牙』という品だ。

『老狼の牙。年老いた狼が死ぬ前に落とすと言われる牙で、長年の魔力が蓄積しているため魔道具等の触媒として利用される。狙って取る事が難しく、大抵は他の魔物に奪われてしまうが為大変貴重。最近の平均取引価格は金貨15枚、最安値金貨10枚、最高値22枚。最終取引日は2年と551日前と記録されています。』

露店をさまよっている時に見つけた品で、代々受け継がれてきたお守りという事だった。

本来であれば非売品だったんだが、出品されていた品を総て買うことを条件に譲ってもらった。

ちなみにその時に買った品の大半はベルナの店に持ち込んだけどな。

元手は確か金貨7枚、それが金貨29枚に化けたら上々だろう。

ちなみに今回出品したのはメインの二つの他に4つ。

これで二つ目も無事に売れたことになる。

よきかなよきかな。

「これで前半は終了です。後半はいよいよお待ちかねの品が登場します、どうぞお楽しみに!」

割れんばかりの拍手を受けて司会者が大げさに手を振っている。

はぁ、やっと半分か。

とりあえず1時間ほどは食事休憩らしいので、出品者特権で旨いものを食わせてもらおう。

ザワザワとした声が大広間に響き渡る。

誰かに会うのも面倒なので、足早に目ぼしい料理を片っ端からさらに乗せて急ぎ控室に戻ってきた。

見た目は食いしん坊だが・・・、まぁ気にする必要はない。

「なんとまぁ、すごい量だな。」

「お、マスターお疲れ。」

「売れたか?」

「あぁ、それなりの利益が出たぞ。」

「残りは四つ、そのうちの二つが大一番だな。」

「今回は出品順が分からないから品が出るたびにドキドキするんだが、何とかならないか?」

「俺に言うなよ。」

「知ってた。」

皿の上に積みあがった料理を美味しく頂いていると、疲れた顔をしたマスターがやって来た。

会場の隅から見ていたがやはり国王陛下と思しき人の近くで警護に当たっていたようだ。

この街の最古参、加えて裏の顔役。

そして今日新たに警護も出来るという新しい事実が発覚したわけだ。

「俺も何か食べて来るか。」

「離れていいのか?」

「向こうは別の誰かが警護してるさ、それにこの時間は挨拶ばかりだろう。上辺ばかりの会話なんて聞いているだけでもうんざりだよ。」

「聞かれたら怒られるぞ。」

「別にいいさ。」

そう言いながら俺の皿から料理を食べだした。

いや、自分で取って来いよなまったく。

口をつけていない皿をマスターに渡し、新しい料理を取りに行く。

皆会話に夢中であまり料理は減っていなかった。

「シロウ様こんな所におられましたか。」

「あ、レイブさんお疲れ様です。今回も後半の出品みたいですね。」

「おかげ様で。ですがシロウ様もまだ大きいのが残っておられる様子、国王陛下も待ち焦がれておりますよ。」

「え、そうなんですか?」

「聞いた話ではオリハルコンは王家へ、ノワールエッグは国王陛下直々にご入札されるとか。皆それを知って遠慮するかもと言われています。」

それってつまり安く落とされるって事じゃないだろうか。

それはまずいぞ。

「・・・何か方法は?」

「残念ながら。」

「そうですか。」

「ですが折角のオークションで単一入札はあり得ないでしょう。多少は競り合ってくれるのではないでしょうか。」

「そうである事を祈ります。」

せめてオリハルコンぐらいは高値で売れてほしいなぁ。

あまり聞きたくないことを聞いてしまった。

テンションがた落ちだ。

「では私はこれで、後半もお楽しみください。」

いつものように深々と頭を下げてレイブさんは去って行った。

はぁ、俺も戻るか。

料理片手に元の場所に戻るとマスターの姿はなかった。

「お久しぶり・・・になるのかしら?」

「どうも。」

「なによ随分とテンションが低いじゃない、安く買いたたかれたのかしら?」

かわりにアナスタシア様がやってきた。

いつもより上機嫌で心なしか頬が赤い気がする。

随分と飲んでいるんだろう。

「そう言うわけじゃないが・・・。」

「オリハルコンなら心配ないわ、王家が狙っているようだけど他にも狙っている人は多いから。」

「そうなのか?」

「ここはただのオークション会場、身分や肩書ではなく個人が買い付けをする場だもの。王家だからって遠慮する必要はないわ。ただ・・・。」

「ノワールエッグは違うと?」

「珍しい品だけどあの品の効果を考えると、国王陛下こそ持つべきものだとみんな思っているのよね。」

「個人が購入して献上するとかはどうだ?」

「なら貴方が献上すればいいだけの話でしょ?」

確かにそうかもしれないが、別に俺は名誉も名声もほしくない。

欲しいのは金だけだ。

まぁ、なるようになるか。

しばらくしてオークションが再開された。

「さぁ、後半最初の商品は・・・皆様お待たせしました!数年ぶりに発見され名工マートンによって加工された最高の逸品!切れ味、見た目、その全てが最高の品です。使って良し、飾って良し、この品を誰が競り落とすのでしょうか!オリハルコンの長剣、金貨100枚からスタートです!」

って開始早々俺のかよ!

開始の合図と共に会場中の参加者が手を上げる。

「はい、2番様130枚、7番様150枚、22番様・・・え!200枚ですね!ありがとうございます!」

どんどんと吊り上がっていきあっという間に金貨200枚を超えてしまった。

相場を考えるともう少し上がってもいいんだけど・・・。

「1番様、金貨250枚!250枚です!」

流石にこの金額になってくると一気に入札が少なくなるな。

せめて金貨300枚入ってほしい所だ。

そうすれば税金と家賃、それに食費関係は安泰だからな。

「250枚、250枚です、他におられませんか?」

因みに1番は王家の関係者だ。

ってことはレイブさんの話通り王家の宝物庫にしまわれるのだろう。

ま、売れればあとは好きにしてくれていいぞ。

マートンさんもそれを了承していたしな。

「16番様260枚!1番様270枚!16番様280枚ですね!」

落ち着いたと思ったら再び競り合いが始まった。

16番は確か・・・。

俺は手元の資料をぱらぱらとめくる。

えーっと・・・勇者ヒヒロ!?

へぇ、勇者なんているんだなぁ。

そういえば昔クリムゾンティアを鑑定した時にそんな名前を見た気がするが・・・。

どう見ても勇者っぽくないよなぁ。

恐らくは関係者って所だろうが、王家と競り合って大丈夫なんだろうか。

普通は王家が勇者を支援しているとか、そういうのじゃないの?

知らんけど。

「1番様300枚!本日初めての300枚の大台に達しました!」

この日一番の金額に会場中がどよめく。

まさか本当に行くとは思わなかった。

これで来年も安心だな。

流石の勇者ご一行?もそこまでの予算は無かったらしく悔しそうに手を下した。

「他にございますか?ございませんね?では番号札1番様金貨300枚で落札です。」

スタンディングオベーションで今の入札を称える。

番号札1番こと王家の関係者が階段の踊り場、つまりは国王陛下の方に頭を下げた。

いやー、金持ちですねぇ。

ありがたやありがたや。

「皆様ご静粛に、商品の受け渡しは最後になります。では引き続き参りましょう、次の商品は・・・。」

一発目にあんなものを見せられてテンションが上がらないはずがなく、その後も高額入札が続出した。

これがオークション側の策略なんだろうけど、上手い事やってるなぁ。

もちろん俺の出品したほかの二品も予定よりも高い値段で落札されている。

オリハルコンを除いても金貨80枚以上だ。

利益も金貨50枚を超えている。

いやー、笑いが止まらない。

はっはっは。

そろそろ終盤という所でレイブさんの奴隷が出品された。

男の奴隷で、えーっと・・・。

ドラゴン?

いや、正確にはドラゴンの血を継いでるらしく、奴隷として出てくるのは非常に珍しいそうだ。

通常よりも強い力を持ち、長寿で、健康。

奴隷自体は家族にも引き継げるので長い事一族に仕えてくれる事でしょう。

そんな売り文句だった。

顔は無茶苦茶イケメンってわけじゃないがそれなりに整っているし、背も高い。

彼と子を成した場合はドラゴンの血を継いで生まれてくる可能性もあるそうだ。

でも奴隷との子供だろ?

それってどうなの?

その辺は偉い人にしかわからないんだろうなぁ。

別に絶滅危惧種とかそういうのではないらしいので、絶対に手に入れなければならないというわけではないだろう。

と、俺は勝手に思っていたのだが結果は金貨280枚で落札されていた。

まぁアネットよりかは安いな。

買ったのはいかにも金持ちという見た目の奥様、どこぞの貴族らしい。

まぁ好きにしてくれ。

「皆様、お楽しみいただけていますでしょうか、長らくお楽しみいただきましたオークションもこれで最後になります。名残惜しいですが時は流れゆくもの、還年祭を盛り上げるにふさわしい最後のお品の登場です。厄災をも退ける漆黒の輝き、これを目当てに来られた方もいると伺っております。おっと、長々とした説明は不要ですね、ではご覧いただきましょうノワールエッグです!」

中央に鎮座した台。

その上にかけられた布が勢い良く外され、会場中の視線が漆黒の卵・・・もといノワールエッグに集まった。

黒い輝きはその視線をも吸い込み無かったことにしてしまう。

銘品中の銘品、ハーシェさんの旦那が最後に残した贈り物だ。

「さぁこの輝きがいくらの金貨で落札されるのか、金貨100枚からお願いします!」

司会者の合図で落札が開始される。

が、誰も手を上げない。

やっぱりか。

出来レースにも近いこの状況、このままいけば国王陛下が金貨100枚で手を上げてそれでおしまいという流れになるだろう。

そうなると大赤字だ。

折角の儲けがすべてなくなってしまう。

まぁ、オリハルコンで稼いだとはいえそれはちょっとなぁ。

と、その時だった。

会場中の視線がノワールエッグではなく、その正面にいる人物に向けられた。

階段の踊り場に鎮座し、オークションをずっと見続けていたその人が、手を・・・上げた。

「金貨500枚。」

は?

その声に本人以外の全員が同じ感想を抱いただろう。

もちろん、心の中で。
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