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269.転売屋は珍しい魔物を見る
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団長が店に来て二日ほどして長雨は上がった。
俺達は無事に最前列でショーを堪能する事となる。
いやー、すごいわ。
流石異世界。
魔法は入り乱れ、本物の剣によるパフォーマンスは迫力満点。
また、魔物を使ったショーも圧巻だった。
手懐けられているから魔獣って事になるんだろうけど、エリザ曰くかなり危険な奴らしい。
いやー、大満足だわ。
俺達に気付いたからかは知らないが、わざわざ近くでパフォーマンスをしてくれたり、魔法をぶちかましたりとこれ以上ないほどの物を見せてもらった。
噂が噂を呼び晴れてからは満員御礼。
滞在ももう一週間延長ということになったようだ。
「この間は世話になったな。」
「シャウトさん、大好評らしいじゃないか。」
「あぁ、おかげで何とか利益を出せている。冒険者相手の商売は初めてだが楽しんでもらえてなによりだよ。」
「みんな派手好きだからな。冒険者仲間が良くあの魔獣を手懐けたと褒めてたぐらいだ。」
「ちゃんと世話をすればいうことぐらいは聞いてくれる。それでも危険な事に変わりはない。」
「くれぐれも気をつけてくれって、俺みたいな素人が言うのはおかしいな。」
畑を耕しているとサーカスの方からシャウトさんがやってきた。
今日はオフの日。
サーカスの関係者も久々の休日を満喫するべく街に繰り出していくのを何度か見かけた。
「そっちだって、良いオオカミを手懐けているじゃないか。」
「ルフだ。手懐けると言うよりかは仕事をしてもらっている感じだな。その証拠に首輪はつけていない。」
「確かに。隷属の首輪なしによく従うな。」
「前に死にかけている所を助けてな、それ以降恩義を感じてくれているようだ。義理堅いっていうかなんて言うか、今はこの畑の番をしてくれている。そういやショーにもオオカミが出ていたな。確か白い奴が。」
「ホワイトウルフっていう珍しい魔獣でな、魔物に襲われている所を助けたんだ。」
「似たようなものか。」
「確かに。」
二人で声を出して笑い合う。
その様子を見てルフが不思議そうに首を傾げた。
「良かったらサーカスの中を見ていくか?」
「いいのか?」
「スポンサーは大事にする方なんだよ。」
「スポンサーっていう程支援した覚えはないが?」
「アンタが来てから常に満員御礼だ。買い取ってもらった礼もしたい。」
「あれは商売・・・、でもまぁせっかくだから見せてもらおう。そこのガキ共も一緒でも構わないか?」
「もちろんそのつもりだ。」
畑の奥ではガキ共が泥だらけになりながら土を耕していた。
あれは耕しているのかそれとも虫を捕まえているのか。
ま、どっちでもいいか。
サーカスの内部を見せてもらえるなんてまたとないチャンスだ、エリザ達にも声をかけてやろう。
「じゃあ昼過ぎに向かわせてもらう。大人数になったらすまん。」
「出来ればその子も一緒に来てくれ。」
「ルフも?」
「たまには美人を見せてやらないとあいつも拗ねちまう。」
「なるほど。」
どうやらあのホワイトウルフは雄のようだ。
残念ながらルフは会場に入れなかったので初めて会う事になるだろう。
なんだろう、このソワソワする感じ。
団長に礼を言ってガキ共にさっきの件を伝えに行く。
皆目を輝かせて大喜びしていた。
本番を見る前に裏側を見せるのはアレかもしれないが、まぁいいだろう。
店に戻って事情を説明するとエリザよりもアネットの方が喜んでいた。
あまり興味がなかったように思っただけに意外だ。
そして昼過ぎ。
ぞろぞろと大人数でサーカスの裏側へと向かうと、団長以下大勢の団員が俺達を迎えてくれた。
「「「「ようこそセプレントサーカスへ!」」」」
「まさかの大歓迎だな。」
「言っただろ、スポンサーは大事にするんだ。」
団長が一歩前にでて俺達を迎えてくれる。
まさかこんなに歓迎されるとは。
「さぁ、早速中へ案内しようついてきてくれ。」
巨大なテント内で行われるサーカスと違い、円形の広場をまるでコロッセイウムのように囲んだ作りになっている。
移動式の観客席は1m程の段になっており、最上段は3m程の高さから見下ろす形となる。
そしてその観客席の下が団員の待機所になっているというわけだ。
あれだな、前に街で行われた武闘大会みたいな感じだな。
階段下には様々な器具が置かれ、魔獣の檻もそこに設置されていた。
例の危険な奴はいなかったので、おそらく別の場所で隔離されているだろう。
ぐるりと一周して元の場所に戻り、休憩する。
子供達はピエロに遊んでもらって大はしゃぎしていた。
「すまないが、こっちに来てくれるか?」
団長に呼ばれて俺達だけ少し離れた団員の居住場所へと向かう。
「おいおい、こんな所も見せていいのか?」
「あいつはこっちにいるんだ。」
「あぁ、なるほど。」
「ねぇ、どこ行くの?」
「前に見たホワイトウルフいただろ?」
「あの綺麗なオオカミですね。」
「彼がルフに会いたいんだとさ。」
心なしかルフもソワソワしているようだ。
臭いで何かわかるんだろうか。
「彼ってことは雄なのね。」
「では綺麗よりもカッコいいの方がいいんでしょうか。」
「はは、どっちでもいいさ。」
オフなので住居代わりの天幕では何人かの団員がくつろいでいた。
遊牧民のゲルのような感じだろうか。
中までは見えないが、洗濯物が干されていたり子供が走り回っていたりと生活感が半端ない。
その一番奥、大きな天幕の横に彼は丸くなっていた。
「ホワイト。」
団長が呼ぶとピクっと耳を立てて顔を上げる。
真っ白いオオカミが精悍な顔つきでこちらを見つめて来た。
「名は体を表すか。」
「なんだそれは。」
「名前負けをしない美しい毛並みだなと思っただけだ。」
「安直だろ?」
「ルフだって一緒さ。本人が気に入っていたらそれでいいんだ。なぁ、ルフ。」
ブンブン。
彼はまっすぐにルフを見つめている。
どうやらお気に召したようだ。
「首輪はしてるんだな。」
「あぁ、出入りする街によっては必須だからな。」
「それは致し方ないか。」
「どうやらホワイトは彼女を気にいったらしい。」
「そのようで。」
俺達の事なんて見向きもせずにまっすぐルフを見つめたまま動かない。
「ルフって美人さんだったのね。」
「当たり前だろ。」
「ふふ、そういうのを親バカっていうのよ。」
「あぁ、なるほど、そういうことか。」
「どういうことですか?」
エリザの一言に何かがコトンと音を立てて嵌った気がした。
このモヤモヤとした感じ。
娘に彼氏を紹介される父親というのはこんな感じなんだろうか。
親バカか、確かにそうかもしれないな。
「いや、なんでもない。ルフ折角だから話でもするか?」
ブンブンブン。
「嫌なのか?」
ブンブンブン。
うーむ、どういう事だろうか。
「きっと私達がいて恥ずかしいんだと思います。」
「シロウもまだまだ女心が分かってないわね。」
「悪かったな。」
「ふふ、表情までわかるようです。ルフも気に入ったんですね。」
「それはよかった。こいつもなかなか面食いだからな。」
「誰に似たんだ?」
「もちろん俺だよ。」
団長はニヤリと笑い彼の方を見る。
何のことだか?とふいと横を向いたのがおかしくて思わず笑ってしまった。
本当に彼らは賢い。
人の言葉をしっかりと認識し、理解して行動している。
だからこそ愛着がわき家族のように感じるのだ。
うちの大事な娘に何かしたら承知しないぞと、父親でもないのに思ってしまうのはそのせいだろう。
「ほんじゃま若い二人に後は任せて、他の場所を案内してもらおうかな。」
「あ!それなら、この前魔物と戦っていた人に会ってみたいわ。」
「トバルか?あいつだったら奥にいるはずだ。」
「何するんだ?」
「面白い動きをしていたから教えてもらおうと思って。」
「これだから脳筋は。」
「なによ。」
「別に。」
他の男の話が出たときにムッとしてしまったあたり俺もまだまだだなと感じてしまった。
昔はこんなこと思わなかったのになぁ。
情が移ったというか親しくなったというか。
それもまた成長か。
「ミラ達は誰かいないのか?」
「そうですね・・・、中盤で演技をしておられた女性の方にお会いしてみたいです。輪っかを使っていたかと。どうすればあんなにしなやかに動けるのでしょうか。」
「私は後半の魔物を手懐けていた人に会いたいです。麻酔を使ったと思うんですけど、どんな材料か知りたくて・・・。」
「三人とも似たようなものか。」
「何よ。」
「その二人も今は奥にいるはずだ、一緒に呼んでこよう。」
ルフは例の彼と見つめあったまま動こうとしない。
何を話しているのか興味はあるが、邪魔ものは退散しないとな。
せっかくのオフだというのに俺達の為に色々としてくれる団長に感謝しつつ、バックヤードをたっぷりと堪能させてもらうのだった。
俺達は無事に最前列でショーを堪能する事となる。
いやー、すごいわ。
流石異世界。
魔法は入り乱れ、本物の剣によるパフォーマンスは迫力満点。
また、魔物を使ったショーも圧巻だった。
手懐けられているから魔獣って事になるんだろうけど、エリザ曰くかなり危険な奴らしい。
いやー、大満足だわ。
俺達に気付いたからかは知らないが、わざわざ近くでパフォーマンスをしてくれたり、魔法をぶちかましたりとこれ以上ないほどの物を見せてもらった。
噂が噂を呼び晴れてからは満員御礼。
滞在ももう一週間延長ということになったようだ。
「この間は世話になったな。」
「シャウトさん、大好評らしいじゃないか。」
「あぁ、おかげで何とか利益を出せている。冒険者相手の商売は初めてだが楽しんでもらえてなによりだよ。」
「みんな派手好きだからな。冒険者仲間が良くあの魔獣を手懐けたと褒めてたぐらいだ。」
「ちゃんと世話をすればいうことぐらいは聞いてくれる。それでも危険な事に変わりはない。」
「くれぐれも気をつけてくれって、俺みたいな素人が言うのはおかしいな。」
畑を耕しているとサーカスの方からシャウトさんがやってきた。
今日はオフの日。
サーカスの関係者も久々の休日を満喫するべく街に繰り出していくのを何度か見かけた。
「そっちだって、良いオオカミを手懐けているじゃないか。」
「ルフだ。手懐けると言うよりかは仕事をしてもらっている感じだな。その証拠に首輪はつけていない。」
「確かに。隷属の首輪なしによく従うな。」
「前に死にかけている所を助けてな、それ以降恩義を感じてくれているようだ。義理堅いっていうかなんて言うか、今はこの畑の番をしてくれている。そういやショーにもオオカミが出ていたな。確か白い奴が。」
「ホワイトウルフっていう珍しい魔獣でな、魔物に襲われている所を助けたんだ。」
「似たようなものか。」
「確かに。」
二人で声を出して笑い合う。
その様子を見てルフが不思議そうに首を傾げた。
「良かったらサーカスの中を見ていくか?」
「いいのか?」
「スポンサーは大事にする方なんだよ。」
「スポンサーっていう程支援した覚えはないが?」
「アンタが来てから常に満員御礼だ。買い取ってもらった礼もしたい。」
「あれは商売・・・、でもまぁせっかくだから見せてもらおう。そこのガキ共も一緒でも構わないか?」
「もちろんそのつもりだ。」
畑の奥ではガキ共が泥だらけになりながら土を耕していた。
あれは耕しているのかそれとも虫を捕まえているのか。
ま、どっちでもいいか。
サーカスの内部を見せてもらえるなんてまたとないチャンスだ、エリザ達にも声をかけてやろう。
「じゃあ昼過ぎに向かわせてもらう。大人数になったらすまん。」
「出来ればその子も一緒に来てくれ。」
「ルフも?」
「たまには美人を見せてやらないとあいつも拗ねちまう。」
「なるほど。」
どうやらあのホワイトウルフは雄のようだ。
残念ながらルフは会場に入れなかったので初めて会う事になるだろう。
なんだろう、このソワソワする感じ。
団長に礼を言ってガキ共にさっきの件を伝えに行く。
皆目を輝かせて大喜びしていた。
本番を見る前に裏側を見せるのはアレかもしれないが、まぁいいだろう。
店に戻って事情を説明するとエリザよりもアネットの方が喜んでいた。
あまり興味がなかったように思っただけに意外だ。
そして昼過ぎ。
ぞろぞろと大人数でサーカスの裏側へと向かうと、団長以下大勢の団員が俺達を迎えてくれた。
「「「「ようこそセプレントサーカスへ!」」」」
「まさかの大歓迎だな。」
「言っただろ、スポンサーは大事にするんだ。」
団長が一歩前にでて俺達を迎えてくれる。
まさかこんなに歓迎されるとは。
「さぁ、早速中へ案内しようついてきてくれ。」
巨大なテント内で行われるサーカスと違い、円形の広場をまるでコロッセイウムのように囲んだ作りになっている。
移動式の観客席は1m程の段になっており、最上段は3m程の高さから見下ろす形となる。
そしてその観客席の下が団員の待機所になっているというわけだ。
あれだな、前に街で行われた武闘大会みたいな感じだな。
階段下には様々な器具が置かれ、魔獣の檻もそこに設置されていた。
例の危険な奴はいなかったので、おそらく別の場所で隔離されているだろう。
ぐるりと一周して元の場所に戻り、休憩する。
子供達はピエロに遊んでもらって大はしゃぎしていた。
「すまないが、こっちに来てくれるか?」
団長に呼ばれて俺達だけ少し離れた団員の居住場所へと向かう。
「おいおい、こんな所も見せていいのか?」
「あいつはこっちにいるんだ。」
「あぁ、なるほど。」
「ねぇ、どこ行くの?」
「前に見たホワイトウルフいただろ?」
「あの綺麗なオオカミですね。」
「彼がルフに会いたいんだとさ。」
心なしかルフもソワソワしているようだ。
臭いで何かわかるんだろうか。
「彼ってことは雄なのね。」
「では綺麗よりもカッコいいの方がいいんでしょうか。」
「はは、どっちでもいいさ。」
オフなので住居代わりの天幕では何人かの団員がくつろいでいた。
遊牧民のゲルのような感じだろうか。
中までは見えないが、洗濯物が干されていたり子供が走り回っていたりと生活感が半端ない。
その一番奥、大きな天幕の横に彼は丸くなっていた。
「ホワイト。」
団長が呼ぶとピクっと耳を立てて顔を上げる。
真っ白いオオカミが精悍な顔つきでこちらを見つめて来た。
「名は体を表すか。」
「なんだそれは。」
「名前負けをしない美しい毛並みだなと思っただけだ。」
「安直だろ?」
「ルフだって一緒さ。本人が気に入っていたらそれでいいんだ。なぁ、ルフ。」
ブンブン。
彼はまっすぐにルフを見つめている。
どうやらお気に召したようだ。
「首輪はしてるんだな。」
「あぁ、出入りする街によっては必須だからな。」
「それは致し方ないか。」
「どうやらホワイトは彼女を気にいったらしい。」
「そのようで。」
俺達の事なんて見向きもせずにまっすぐルフを見つめたまま動かない。
「ルフって美人さんだったのね。」
「当たり前だろ。」
「ふふ、そういうのを親バカっていうのよ。」
「あぁ、なるほど、そういうことか。」
「どういうことですか?」
エリザの一言に何かがコトンと音を立てて嵌った気がした。
このモヤモヤとした感じ。
娘に彼氏を紹介される父親というのはこんな感じなんだろうか。
親バカか、確かにそうかもしれないな。
「いや、なんでもない。ルフ折角だから話でもするか?」
ブンブンブン。
「嫌なのか?」
ブンブンブン。
うーむ、どういう事だろうか。
「きっと私達がいて恥ずかしいんだと思います。」
「シロウもまだまだ女心が分かってないわね。」
「悪かったな。」
「ふふ、表情までわかるようです。ルフも気に入ったんですね。」
「それはよかった。こいつもなかなか面食いだからな。」
「誰に似たんだ?」
「もちろん俺だよ。」
団長はニヤリと笑い彼の方を見る。
何のことだか?とふいと横を向いたのがおかしくて思わず笑ってしまった。
本当に彼らは賢い。
人の言葉をしっかりと認識し、理解して行動している。
だからこそ愛着がわき家族のように感じるのだ。
うちの大事な娘に何かしたら承知しないぞと、父親でもないのに思ってしまうのはそのせいだろう。
「ほんじゃま若い二人に後は任せて、他の場所を案内してもらおうかな。」
「あ!それなら、この前魔物と戦っていた人に会ってみたいわ。」
「トバルか?あいつだったら奥にいるはずだ。」
「何するんだ?」
「面白い動きをしていたから教えてもらおうと思って。」
「これだから脳筋は。」
「なによ。」
「別に。」
他の男の話が出たときにムッとしてしまったあたり俺もまだまだだなと感じてしまった。
昔はこんなこと思わなかったのになぁ。
情が移ったというか親しくなったというか。
それもまた成長か。
「ミラ達は誰かいないのか?」
「そうですね・・・、中盤で演技をしておられた女性の方にお会いしてみたいです。輪っかを使っていたかと。どうすればあんなにしなやかに動けるのでしょうか。」
「私は後半の魔物を手懐けていた人に会いたいです。麻酔を使ったと思うんですけど、どんな材料か知りたくて・・・。」
「三人とも似たようなものか。」
「何よ。」
「その二人も今は奥にいるはずだ、一緒に呼んでこよう。」
ルフは例の彼と見つめあったまま動こうとしない。
何を話しているのか興味はあるが、邪魔ものは退散しないとな。
せっかくのオフだというのに俺達の為に色々としてくれる団長に感謝しつつ、バックヤードをたっぷりと堪能させてもらうのだった。
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