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388.転売屋は海の幸を堪能する

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「どれ、見せてみろ。」

「エリザ頼む。」

「はいはい、ちょっと待ちなさいって。」

ミラ達がまとめておいてくれた木箱を床にドンと卸す。

ふたを開けると親方は無言で品定めを始めた。

さて、どんな返事が聞けるのやら。

「なかなかの品だな、誰が狩った?」

「目の前にいるこいつだよ。」

「ほぉ、良い腕してるじゃないか。ぶら下がってる武器は飾りじゃないんだな。」

「当たり前じゃない。」

「他の素材もなかなかいい物だ、後いくつある?」

「裏にあと三つ。店に戻ればまだ山ほどあるが、今はこれだけだ。」

「全部でいくらほしい?」

お、食いついてきた。

っていうか買う事前提で話が進んでるし。

「言い値でかまわない。」

「お前、正気か?」

「エリザが命を懸けて手に入れた素材だと知って買い叩くような人じゃないだろう。もしそうだとしたら俺の目が残念だったってだけだ。」

「言うじゃねぇか。」

「必要ならもっと持ってくるぞ、さっきも言ったように山ほどある。」

「それだけあっても冒険者が命を懸けて取ってきた素材に変わりはない。それを言い値で売るようなやつは何か隠しているもんなんだよ。何が目的だ、それ次第で値段が変わるぞ。」

親方がじろりと俺を睨んでくる。

答え次第では殺すぞ。

そう言っているような鋭い目だ。

だがそんな事でビビる俺じゃない。

「目的なんてねぇよ。ただ良い武器を仕入れて帰りたいだけだ。ついでに塩とかその辺を扱ってる店を教えてくれると助かる。」

「塩?」

「今回の目的は塩の仕入れだ。ドラゴンこいつはおまけだよ。」

「ってことは何か?俺目当てに持って来たんじゃねぇのか?」

「さっきもいっただろ、入り口の隊長・・・レイリーさんだったか?その人の紹介だから来たんだよ。それが無かったら商業ギルドに持ち込んでたさ。」

「金儲けしか考えない馬鹿共に卸すような素材じゃねぇ、次もうちにもってこい、わかったな?」

「了解した。え~っと・・・。」

「ゴードンだ。」

「宜しく頼む、ゴードンさん。」

まっすぐ腕を伸ばすとごつごつした手で折れるんじゃないかってぐらいに強く握り返してくれた。

これで新しい卸先が増えたな。

ドラゴン種はなかなか手に入らないが、数がたまったら出荷するようにしよう。

「これ全部で金貨25枚、それと店の好きな武器をいくつか持って行っていいぞ。」

「お、いいのか?」

「あぁ。その姉ちゃんならしっかり使いこなすだろう。」

「じゃあ、あのドラゴンの盾も?」

「あれはダメだ。アンタにはデカすぎる。」

何でもいいと言いながらダメなものはダメという。

確かにエリザが使うにはちょいとデカいな。

素材を裏に運び込み、代わりに店の武器をいくつかと金貨を25枚受け取って店を出た。

外はまだまだ明るい。

もう一仕事できそうだな。

「じゃあ次は二か月後ぐらいに、うちのハーシェって商人に持ち込ませる。適当に値段をつけて渡してやってくれ。」

「さっきの話だがな。」

「ん?」

「港にゾイルって漁師がいる。あいつの弟が塩田をやっていたはずだ、俺の名前を出せば譲ってくれるだろう。」

「そりゃ助かる。」

「俺にできるのはこれぐらいだ、せいぜい稼げよ買取屋。」

それだけ言うと親方は店の奥に引っ込んでしまった。

武器をエリザに持たせて馬車に戻ると、ちょうどハーシェさんが戻ってきたようだ。

「お疲れ様です。」

「次の行商からゴードンさんの店にも寄ってくれ、ハーシェさんの名前を出してある。」

「え、よろしいのですか?」

「もちろん仕入れはうちからだが、値段は悪くない。良い儲けになるだろう。」

「代理販売ではなく?」

「そんなことしてたらいつまで経っても借金が減らないぞ。」

「別に構いませんけど。」

いや、構いませんって・・・。

ハーシェさんの堂々とした返答にミラとアネットが大きく頷いている。

借金を返さない方がいいこともある。

そう言いたげな顔をしていた。

「ま、好きにしろ。そっちはどうだった?」

「干物をいくつかと真珠を買い付けてきました。」

「真珠か、ルティエが喜びそうだな。」

「涙貝ほどではありませんが、気に入ってくださると思います。ですが塩はどこも売ってくれなくて。」

「それならば心配ない、ゾイルって漁師から買えることになった。」

「その方に断られたんですが・・・。はぁ、やっぱりシロウ様の方が仕入れに向いてるみたいです。」

「拗ねるな拗ねるな。」

子供のようにほほを膨らませて拗ねるハーシェさん。

その顔はやめてくれ、そそられるだろ。

「アネットさん。」

「勉強になります。」

「お前らなぁ。」

「良いから早くいきましょうよ、日が暮れちゃうわ。」

「お前は早く飲みたいだけだろ?」

「そんなことない。」

「そういうことにしといてやる。」

エリザもほほを膨らませて拗ねるのだが、ハーシェさんのようにそそられない。

代わりに出たのはため息だった。

流石に馬車で動き回るのは邪魔なので商業ギルドに行き残りの在庫を売り捌き、宿に置いていくことにした。

四人でのんびりと港へと向かって歩く。

港は夕方にもかかわらずたくさんの人でにぎわっていた。

いや、賑わうというかごった返している方が正しいか、おそらくは昼に出た船が戻ってきているんだろう。

「すごい匂いね。」

「そうか?」

「まるでサハギンの巣にいるみたい。」

「サハギンって食えるのか?」

「食べられるわけないでしょ。」

そうか。

魚介の匂いがするならいけると思ったんだが、詳しく聞いてその気も無くなった。

さすがに二足歩行は食う気にならない。

「お、あれはなんだ?」

麻籠に入れられた魚を見て回っていると、床にドンと置かれたマグロのような魚を見つけた。

なかなかの大きさだ。

「あれはトゥーンフィッシュだ、今日一番の奴だな。」

「美味いのか?」

「もちろんうまい、釣ってきた俺が保証する。」

「アンタは?」

「そこの姉ちゃんなら知ってるだろ。」

「シロウ様、この方がゾイルさんです。」

海賊と見紛う眼帯をつけた、いかにもという風貌の男がその魚の横でドヤ顔していた。

これはあれだな。

俺を値踏みしてる感じだな。

「ふむ、いくらだ?」

「金貨10枚だ。」

「お、安いな。」

「はぁ?」

男が信じられないという顔をする。

おいおい、自分からふっかけてきたんだろ?

「俺が知ってる奴は金貨300枚以上したはずだ。この大きさで金貨10枚なら安い方だろう。問題は日持ちしない事だが、今から食えば問題ないか。」

「いやいやいや、冗談言うのも大概に・・・。」

「ミラ、金貨10枚払ってくれ。」

「かしこまりました。」

涼しい顔で財布代わりの革袋を取り出し、中から金貨を取り出すミラ。

一枚二枚と俺の手に乗せるたびに、そいつの顔がひきつっていくのがわかった。

「金貨10枚だ。確認してくれ。」

「お、おぅ間違いない。」

「ゴードンさんの紹介で来たんだが、良い品を仕入れることが出来た。感謝するよ。」

「げっ、爺の知り合いかよ。それじゃ売れねぇなぁ。」

「なんだって。」

「金持ちの道楽かと思ったが爺の知り合いからぼったくれねぇ、銀貨50枚で十分だよ。」

「ふっかけたのか?」

「魚の事も知らないで珍しいからと買っていく金持ちが嫌いなんだ。悪かったな。」

そう言いながらゾイルは深々と頭を下げた。

銀貨50枚。

それでも十分高いが・・・。

いや、俺にとっちゃそうでもないか。

「なら、詫びついでに塩田を紹介してほしい。確か弟がやってるんだって?」

「塩が欲しいのか?じゃあ最高のやつを手配してやるよ。どのぐらいいる?」

「その手に持っている分だ。あぁ、その魚の分は引いてくれよ。」

「こんなにどうするんだよ。」

「売るのさ。良い塩なんだろ?」

「いいねぇ、気前も度胸もある男は好きだぜ。」

金持ちが嫌い。

色々とあったんだろうが、まぁ俺には関係ない話だ。

美味い魚が手に入ればそれでいい。

「そいつはどうする?」

「もちろん食べるさ。捌くついでに他にも美味いものを食わせてくれる店を教えてくれると助かるんだが・・・、一緒にどうだ?」

「そうこなくっちゃ!」

「え、この人も一緒なの?」

「美味い店は地元の人間が良く知ってる。っていうか、これだけデカいやつを俺達だけでは食いきれないだろ?」

「そうだけど・・・。」

「あそこは酒も美味いぞ。国外から来た酒が沢山ある。」

「行くわ!」

まったくこれだから飲兵衛は。

ゾイルはマグロ?を担ぎスキップするように先を進んだ。

途中漁師仲間と思しき人とすれ違い、一言二言話しをしていた。

一緒にどうだとか誘ったんだろう。

話しかけられた奴がそんな顔をしていた。

ついた先は見た目に古臭い料理屋。

だが、新鮮な魚介類に遠くから運ばれてきたという珍しい酒、何を食べても文句なしの品ばかり出るまさに隠れた名店だった。

大騒ぎしていると地元民と思われる他の客がいぶかしい顔でこちらを見てくるので、ゾイルから買った魚も捌いてもらい、ついでに他の客にもふるまってもらう。

すると途端に上機嫌になり、代わりにと様々な料理を持ってきてくれた。

自分の家から。

ここまでくるともうお祭り騒ぎだ。

「いいねぇ、アンタ最高だよ!」

「そりゃどうも。」

「干物を買い付けに来たんだって?それじゃあうちのを買っていきな、安くしてやるよ。」

「やめとけやめとけ、そいつのを買うなら俺のを買えって。どこにも負けない最高の海苔だぞ。」

「うるせぇ!」

「なんだやんのか!?」

騒ぎながらもちゃっかり自慢の品をアピールするんだから商魂逞しい。

その後も海の幸をたらふく堪能しながら地元民の隠れた名品を紹介してもらった。

買い付けは明日でいいだろう。

「な、良い店だっただろ?」

「お魚最高!」

「いいねぇ!姉ちゃん良い飲みっぷりだ!」

「シロウ様こちらの貝をどうぞ。」

「このお刺身もおいしいですよ!」

「お醤油がこんなに合うなんて、これは売れますね。」

「むしろこっちが買いたいぐらいだ。どこで買える?アンタに言えばいいのか?」

あぁ、また始まった。

静かに食べる食事もいいが、たまにはこれだけ賑やかなのもいいだろう。

そんなこんなでその日は夜遅くまで騒ぎは続いた。

翌朝、全員が二日酔いで目を覚ましたのは言うまでもない。
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