居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi(がっち)

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番外編

番外編4 家族ができた

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「あぁ、名乗っていなかった。エヴェリスト・ルノアール。
 魔術師団長をしている」

「え?」

商会の審査にどうして魔術師団長が?

「……ラシェルは髪を売っていたか?」

「あ、はい。何度かカツラとして売っていました」

「そうか……お前か」

俺の髪で作ったカツラを知っている?
だけど、もう売っていないのに、どうして今?

「ラシェルをうちで雇いたい。魔術師団の事務として」

「え?」

「商会のほうにはこちらから話をつける。契約内容を確認してくれ」

反論は認めないという雰囲気に、思わず書類を受け取る。
見たら、本当に魔術師団の事務として採用する契約書類だった。
給与は今の五倍!?こんなにもらえるなら、孤児院にいっぱい寄付できる!
休みも好きにとっていい!?ありえない!


「あの!どうして俺を?」

「そうだな、いくつか理由はあるが、
 お前のカツラをつけていたのは私の大事な妹だ。
 義理の妹?になるのかな。
 実際に養女にしてはいないが、まぁ、妹だと思っている。
 その妹がな、心配していたんだよ。
 このカツラの髪の持ち主は幸せだろうかと」

「あのカツラを買ってくれていた人なら、俺の恩人です。
 そのおかげで孤児院の院長先生の命が助かりました」

もしかして、髪を売っていたことへのお礼なのだとしたら、
お礼を言わなければいけないのは俺のほうだ。
黒髪なんて誰も買うわけないと思っていたのに、ちゃんと正規の値段で買ってくれた。
しかも、二回目からは指名されて売っていたから、高値で買ってくれていたはずだ。

「こっちの事情ではあるが、お前が魔術師団で働いてくれるとありがたいんだ。
 理由は……いつか話す。頼む、うちに来てくれ」

驚いた。この人は貴族なのに、平民の俺に頭を下げている。
驚きすぎて反応が遅れたけれど、慌てて頭を上げてもらう。

「うわ!あの!わかりました!俺でいいのなら、いくらでも働きますから!」

「受けてくれるか。よし、じゃあ早いとこ契約してしまおう」

一瞬、やってしまったかと後悔しかけたけれど、新しい職場は快適だった。
まずは基本から学べと言われ、文官としての仕事を一から教えてもらえた。
貴族でもない俺がこんな教育を受けられることに感謝しかない。
一通り教えてもらった後、魔術師団で働けるようになり、団員とも仲良くなれた。

あっという間に三年が過ぎた頃、団長と出かけることになった。
行き先は知らないが、ついて来いと言われたらついて行く。
団長の説明が足りないのには慣れた。いつものことだ。

だが、これはさすがに予想外だった。
連れて行かれたのは、団長の生家。ルノアール公爵家だった。

王宮よりも豪華な応接室に案内され、緊張してお茶に手が出ない。
失礼だとわかっているから、何とか一口飲んだが、味もわからない。
向かい側に座るルノアール家の当主が渋い顔をしているのが怖い。

「それで何の用だ。エヴェリスト。
 めずらしく来たからにはそれだけ重要なことがあるのだろう?
 それはその連れてきた男に関係するのか?」

「ああ、紹介しよう。こいつはラシェル。
 王都の孤児院の出身だが、実際にはルノアール家の四男だ」

「「は?」」

思わず声が出た。当主と俺の声が重なる。
団長、いったい何を言っちゃってんの!?
急に変なことを言うのには慣れたけど、さすがにこれはない。

「俺が学園に入る直前、父上の近くにいた侍女が一人消えた。
 どうやら父上が手をつけたらしいが、産んだ子は黒髪だった。
 父上は母上に育てるように言ったらしいが、産まれた子を見て母上が拒否した。
 エヴェリストでさえ恥ずかしいのに、黒髪なんて育てられるわけがない。
 今すぐ捨てて来て、と」

「俺たちの異母弟だと?どうして知っている?」

「その頃、やけに母上が俺に突っかかって来ていてな。
 他の侍女が噂していたのを聞いて父上に確認した。
 異母弟は孤児院に預けた、と。お前は気にするなと言われたがな」

「父上が話したのか。では、こいつは本当に弟なのか?」

「え?……団長、嘘ですよね?」

「本当だ。孤児院を探したが、見つけられなかった。
 ラシェルのいた孤児院は正式なものじゃなかったから、見つけられなかったんだ。
 だから王妃が始めた政策にかこつけて、探すことにした」

あの最初に会った時、俺を探していた?
だから、魔術師団で働くように言われたのか。

「急に言えば驚くと思って……。
 だが、魔術師団で正式に団員として認めるには、貴族の籍が必要になる。
 ルノアール公爵家の四男だと公表するのと、俺の養子になるの、
 どちらがいいか選ばせようと思って連れてきた」

「え?団長の弟になるか、息子になるか……二択なんですか!?」

どっちもできれば遠慮したい。
団長って親しければ親しいだけ遠慮がなくなるのはよくわかってる。
最近は団員たちにも団長の世話をよろしくなんて言われるし。
あれ?今の時点でも俺が団長の身内なのかっていうくらい世話しているな。

「公爵家の四男となればそれだけ責任も伴う。
 だが、本来ならラシェルは四男として育つはずだった。
 俺の養子なら、侯爵の長男となる。好きに選んでいい」

「いや、どっちも大変な地位ですけど?」

団長は陛下から侯爵位を授けられている。功績などで個人で持っているものだ。
…公爵家の四男になったら、目の前にいる怖い当主が兄になるってことだよな。
実の父親に会うのも怖いし、俺を捨てて来いと言った奥様に会うのは絶対に嫌だ。

「……団長の養子でお願いします。できるかぎり社交はしたくないです」

「よし、わかった。では、兄上。一応は報告したからな」

「……うちに戻ってくる気はないのだろう。好きにしろ」

「ああ、では行こうか」

話は終わったとばかりに応接室から連れ出される。
あまりのことに驚いてはいるが、なんとなく納得する自分もいた。

今まで団長のそばにいて嫌じゃなかったのは、
血のつながりをどこかで感じ取っていたのかもしれない。
養子になれば父になるのだけど、それも落ち着いて考えたら別に嫌じゃなかった。
どうせ今まで通り、団長の世話をするだけだろうから。

王宮に戻ったら、すぐに書類が用意され、署名した。
ラシェル・ルノアール。
ルノアール侯爵の息子となったが、あまり生活は変わらなかった。



それからしばらくして、旅に行くぞと連れて行かれた先がルフォールで、
俺の髪をカツラにして使っていた義理の姉に出会うことになるのだが、
人生はどこで救われるのか本当にわからないものだと思った。

俺が黒髪で受けたのと同じだけ、義姉も嫌な思いをしただろうに。
何も無かったように綺麗に笑う義姉は強くて優しくて。
父親だけじゃなく姉までできて、ついでに頑固そうなお祖父様までできて。
これから産まれてくる甥か姪に出会えるのも楽しみになった。

家族って悪くないなって、そう思えたんだ。




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