側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。

gacchi(がっち)

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3.領主になるために

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「あ、馬車が着いたようですよ」

「本当!?」

ルーイに言われて、玄関へと走った。
後でロビンに叱られるかもしれないけれど、すぐに出迎えたい。

ちょうど馬車からエラルドが降りてくるのが見えた。

「エラルド、カファロ領へようこそ!」

「……あ、ああ」

「もしかして、馬車に酔った?」

「うん……気持ち悪い」

ただでさえ白い肌が青ざめて、今にも倒れそうだ。
すぐに部屋に案内するように指示を出し、エラルドに休んでもらう。
ふらふらと部屋に向かったエラルドを見て、
いつの間にかそばに来ていたロビンがつぶやいている。

「これだから王都の者は軟弱で……」

こればかりはエラルドが悪いんじゃない気がする。
だって、初めて馬車で旅をしたのなら、
自分が馬車酔いするって知らなかったのかもしれない。
王都内を移動するだけなら、それほど長く馬車に乗ることもないだろうから。

次の日の昼になって、ようやくエラルドは元気になった。
だるそうにしていたが、食欲は普通にあるようだ。

昼食の後、執務室でジョイとルーイに会わせる。
とりあえず基本的なことは二人がエラルドに教えることになっている。
顔合わせもできたし、私は自分の勉強をしに別室に行こうとした。

「じゃあ、ジョイとルーイに何でも聞いてね」

「え?ディアナは一緒に学ばないの?」

「私も?どうして?」

「どうしてって……違うの?」

どうやらエラルドは私と一緒に勉強するのだと勘違いしていたようだ。

「あのね、侯爵と侯爵夫人では仕事が違うでしょう?
 だから、学ぶことも違うのよ」

「……そうなんだ」

お母様が亡くなってからは、お父様は夫人がやる仕事もしている。
忙しいお父様の負担を少しでも軽くするためにも、
早く夫人としての仕事を覚えて手伝おうと思っていた。

そのため、エラルドが学ぶこととは違ってしまう。
だけど、一緒に学べないとわかったエラルドは見るからにがっかりしている。
どうしたらと困っていたらルーイが口をはさんだ。

「ディアナ様、まずは領地の案内をしてはいかがですか?」

「領地の案内?」

「ええ。ほら、エラルド様は知らない場所にお一人で来たわけですから、
 勉強を始めるのはもう少し慣れてからでもいいのでは?」

「そっか。それもそうね。じゃあ、エラルドにカファロ領地を案内するね!」

「うん、ありがとう」

ほっとしたようなエラルドに、ルーイが言うとおり心細かったのかなと思う。
私しか知り合いがいない場所に来て、一緒にいられないとわかったから。

領地を見回るために乗馬服に着替え、執務室に戻ると、
同じように乗馬服に着替えたエラルドが青い顔をしている。

「どうかした?」

「どうしてこんな服に着替えなくちゃいけないんだ?」

「馬に乗って領地をまわるからよ?」

「はぁ?馬に?僕はそんなの無理だよ!」

馬に乗ったことがないエラルドは泣きそうな顔をしているが、
カファロ領地は馬車ではまわれないような道もある。
馬で見に行くのが一番早いのだ。
こればかりは少しずつでも慣れてもらわなくてはいけない。

「馬に乗れなくても大丈夫よ。ジョイが乗せてくれるわ」

「……ディアナは?」

「私?私は一人で乗れるから平気よ。
 エラルドだって、そのうち一人で乗れるようになるわ」

「ディアナが乗れるなら、そうかな」

「よし、行きましょう」

玄関から外に出ると馬が三頭用意されていた。
エラルドとジョイが一緒に乗り、私とルーイは一人ずつ乗る。

初めて間近で見る馬にかたまっていたエラルドは、
ジョイにひょいっと抱き上げられて馬に乗せられていた。

「さぁ、行きますか。ディアナ様、街の方からでいいですか?」

「そうね。今日は近いところだけにしましょう」

エラルドの様子を見て、あまり長時間は出かけないほうが良さそうだと思った。
馬車に乗るよりかは酔わないとは思うが、身体に負担はかかる。

なるべくエラルドを怖がらせないように、ゆっくりと走り始める。

街をぐるりと回り、ジョイがエラルドに説明をする。
これからはジョイとルーイに勉強を教わることになる。
こうして説明を聞くことで仲良くなってもらおうとしていた。

初日は馬が怖かったのか楽しそうではなかったけれど、
三日目には少し慣れてジョイに質問をするようになり、
六日目には楽しそうに笑うようになった。

ジョイとルーイとは話せるようになったようだし、
これなら大丈夫かと次の日から勉強を始めることになった。

ここからは残念だけど、一緒に勉強するわけにはいかない。
朝食を食べた後、エラルドに頑張ってねと応援して別れた。

もうじき、カファロ領では収穫祭が行われる。
その準備のため、領地に住む夫人が集まって大きな布に刺繍をする。
これは神に奉納するもので、領主夫人が主導で行うものなのだが、
さすがにお父様が代わりにするわけにはいかない。

まだ十歳の私が主導するのも難しいので、
屋敷の侍女長が領地の夫人に声をかけて進めてくれている。

私ができることと言えば、刺繍の手伝いをするくらいだ。
それほどうまくはないので、端の目立たないところを手伝うだけだけれど。
一応はカファロ家の者が参加したという形が必要なのだ。

街の集会場に集まって刺繍をするので、
エラルドと一緒に食事がとれるのは朝くらいだった。
昼は集会場で取るし、帰りの時間も遅くなる。

そのうち、エラルドは朝起きるのが遅くなったようで、
朝も顔を合わせなくなってしまう。
大丈夫なのか心配はしたけれど、収穫祭までに刺繍を終わらせなくてはいけない。

あと十日もすれば終わるはずだし、
ゆっくり話を聞くのはそれからでもいいかと思っていた。

それから一週間、
集会場から帰ってきたらジョイとルーイが待ち構えていた。

「ただいま、どうかした?」

「ディアナ様、申し訳ありません」

「ん?何があったの?」

「……エラルド様が王都に帰ってしまいました」

「……は?」


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