側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。

gacchi(がっち)

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4.婚約は継続だけど

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それから一週間、
集会場から帰ってきたらジョイとルーイが待ち構えていた。

「ただいま、どうかした?」

「ディアナ様、申し訳ありません」

「ん?何があったの?」

「……エラルド様が王都に帰ってしまいました」

「……は?」


話を聞いたら、初日の勉強からエラルドはつまづいてしまっていた。
ロビンが用意したのは私が七歳の頃に使っていた教科書。
それを使って、どのくらいできるのかを確認してから、
あらためて教科書を用意する予定だったそうだ。

「それが……エラルド様は読み書きもあやしくて……」

「え?ブリアヌ家では家庭教師がついていたんじゃないの?」

「いいえ、侯爵夫人から教えてもらっていたそうですが、
 読むのは半分ほど、書くのはほとんどの単語を間違えていました」

「えええ?」

そんなにエラルドが勉強できないとは思わなかった。
だって、エラルドは今の宰相の息子だ。
美しいだけでなく優秀だと評判の宰相の息子であれば、
エラルドも優秀なんだと思い込んでいた。
まさか基本的なこともできないなんて。

ロビンも困ったようだが、
すぐに気持ちを切り替えて一から教えようとしたらしい。
ジョイとルーイは私の幼い頃に教えていたこともあるし、
時間はかかっても基本をしっかり教えたほうがいいと判断したそうだ。

「それで、読み書きを覚えるための教科書に変えて、
 単語を覚えるところから始めたのですが」

「まぁ、そうなるわよね。まずは覚えなきゃ始まらないもの」

「読み上げて覚えるのも、書いて覚えるのも嫌がり、
 かと言って、ジョイが丁寧に説明しても聞いてもらえず」

「私ではダメなのかと、ルーイが絵本を持ってきて読み聞かせをしたのですが、
 これには馬鹿にしているのかと怒ってしまって」

絵本といっても、うちにある絵本であればそれなりに文章は長い。
子供向けというよりも、移民の大人向けの絵本だと思う。

移民でこの国に来た人は話せても書けない者が多い。
そういう人が文字を書けるようになるために学ぶ絵本だ。
けっして馬鹿にするつもりではなかったはずだ。

「どうして私に言わなかったの?」

「ディアナ様には言わないでほしいとお願いされていて。
 最初にロビンが教科書を渡した時に、
 これはディアナ様が七歳の時に終わらせたものだと言ってしまって」

「言っちゃったんだ……」

「ロビンもまさかあそこまでできないとは思っていなかったんでしょう。
 むしろ、簡単な教科書を渡して馬鹿にしていると思われないように、
 簡単な所から順番にテストをしましょうと説明をしたんです」

そう言う理由であの教科書を用意していたんだ。
きっと簡単なところから順にテストをして、
次第に難しくしていくことで、どのくらいできるのか調べようとしていた。
ロビンのことだから、エラルドを褒めようと思っていたのかもしれない。

だけど、できるはずだったこともできなかった。
私は七歳の頃に終わらせている教科書すら、できなかった。
私に言わないでほしいと言われるのも無理はない。

「でも、王都に帰ってどうする気なんだろう。
 向こうで勉強し直してから戻ってくるのかしら」

「わかりません……もう嫌だとおっしゃって」

「泣きながら王都に戻ると言って聞かなかったので、
 ロビンも一度王都に帰したほうがいいだろうと判断しました。
 せめてディアナ様が戻ってくるまで待ってとお願いしたのですが、
 今は顔を見せたくないと……泣いてましたからね。無理も言えず」

「そうよね。わかったわ……」

そんなに泣くほど嫌だったとは。
勉強が嫌だっただけじゃなく、カファロ領地にいるのも嫌になってしまったのかも。
ここには両親も親しい使用人もいないから。

もうすでに王都に向かってしまったのなら、
とりあえずはエラルドが王都に戻って、
それから宰相とお祖父様の間で話し合いがされるだろう。

「収穫祭、見て欲しかったのに残念だなぁ」

「そうですね。エラルド様に見てもらうために頑張ってらっしゃったのに」

「ディアナ様、また来年がありますよ」

「うん……そうだね」


だけど、その次の年もエラルドがカファロ領に来ることはなかった。
宰相とお祖父様、そしてお父様で話し合った結果、
婚約はそのままだけど領主には私がなることになった。

エラルドがどうしても勉強したくない、自分には無理だと言ったらしい。
お祖父様とお父様は私なら領主になっても大丈夫だと思い、
宰相にはエラルドは爵位を継がずに婿入りできるか確認してくれた。

仕事が忙しかったからとはいえ、
まさか自分の息子がそこまで勉強嫌いだとは思わなかった宰相は、
それをすんなりと受け入れたそうだ。

がっかりもしたけれど、お祖父様とお父様が、
私が女侯爵になっても大丈夫だと認めてくれたのがうれしかった。

ロビンの教育は厳しかったけれど、生まれ育ったカファロ領を守るためだと、
できなくて悔し泣きしながらでも本は離さなかった。

こうしてロビンからの教育が終わり、女侯爵になっても問題ないと言われたころ、
私は十五歳になっていた。


あれからエラルドとは一度も会えていない。
私が王都に行くような余裕はなかったし、エラルドはカファロ領に来なかった。

家庭教師がつけられたと聞いたけれど、うまくやっているのだろうか。
誕生日にお祝いの品と一緒にカードがつけられていたが、
私が送った手紙には一度も返事がこなかった。

学園に行けば会えるし、交流するのはそれからでもいいと言われていたけれど、
成長したエラルドがどんな男性になったのか、想像できなくて少し不安になる。

入学の日、学園の掲示板には教室の名簿が張り出されていた。

私の名前はA教室のところにあった。
首席合格ではなかったけれど、いい成績ではあったようだ。
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