私、女王にならなくてもいいの？

13.自分の価値

部屋に戻ってハンスにお茶を入れてもらっていると、
ジルが部屋に飛び込んできた。

「ルヴィ、隣国から第二王子が来るって？」

どこから走って来たんだろう…。この前まで騎士団長だった人が汗をかいている。
ハンスが無言で上着を脱がせ、ハンカチを渡している。

「とりあえず、落ち着いて座って？」

「あ、ああ。」

「ハンス、冷たいお茶も用意してくれる？」

「かしこまりました。」

お茶が用意されると、それを受け取ってぐいっと飲んで大きく息を吐いた。
大丈夫かしら…。

「ごめん。聞いて慌てて来たから、汗臭いかも。」

「それは気にしないけど、どうしたの？
　留学生が来るっていうのは、さっきお父様から聞いたわ。
　エルドリアの第二王子が来るそうよ。」

「エルドリアの。ルヴィとは血縁関係か。」

エルドリアから来たのは私のお母様なので、ジルとは何も関係がない。
私もあると言っても、特に気にしたことも無いのだけど。

「血縁関係があると言っても、お母様は亡くなってるし、
　一度も行ったことが無い国なのよ。よくわからないわ。」

「それでも従兄弟だろう。むこうはそう思って来ると思うぞ。」

「急に言われても…話したこともない王子、仲良くなれるかしら。」

それを聞いて、怖い顔になったジルがソファを立って、私の隣に座り直した。
え？どうしたの？


「ダメだよ？ルヴィ。
　そんな王子と仲良くなったら、連れて帰られるよ？」

「え？連れて帰られる？」

「正妃にって、兄上からも聞いただろう？」

「あれ、本気だったんですか。
　だって、王太子は第一王子になる予定じゃ？」

「だからだよ。第一王子はエルドリアの公爵令嬢と婚約している。
　他の公爵家に年の合う令嬢はいない。
　だから、第一王子に勝つには公爵以上の身分の妃が必要なんだ。
　それがルヴィだ。エルドリアの元王女の娘で、ベルンシアの唯一の王女。
　これ以上の妃候補は他にいないだろう？」

「…そういうことですか。王になるために、私が必要なんですね。」

「はぁぁぁ。ルヴィ、それも理由だけど、いい？よく聞いて？」

「はい？」

「ルヴィは可愛いんだ。その光をまとう栗色の髪も、澄んだ大きな青い瞳も、
　一度も外に出たことありませんってくらい透き通った白い肌も、
　小さくて守りたくなる手や肩も、それでいて柔らかい身体も。
　全部全部、ルヴィにしかない魅力なんだ。」

一気にまくしたてられるように言われても、それが私のことだとは思えない。
え？どうしたらいいの？ジル、正気なの？

「…言っても理解しないか。
　そこがいいところでもあるんだが…。心配だな。
　いい？ルヴィは俺の唯一の妃になるんだから、
　簡単に王子に笑顔見せちゃダメだよ。」

両頬に手をそえられて、見つめられる。
子どもに言い聞かせてるみたいだと思って、少し面白くない。

「そんなに言われなくても大丈夫よ。
　ちゃんと王女として、失礼のない程度で話すだけよ。
　もう卒業前だし、そんなに学園の授業もないだろうし。」

「じゃあ、学園の無い日は俺と一緒にいること、いいね？」

「え？どうして？」

「王妃になる勉強だって言っておけば、休日に誘われても断りやすいだろう？
　それと、部屋も移動するから。」

部屋？王女の部屋から移動するの？

「王弟妃の部屋に移動するよ。俺の私室の隣。
　他国の王子が来るのに、こんなに離れた部屋じゃ護衛しにくいからね。」

…あぁ、護衛の問題なのね。

「わかったわ。いつ移動するの？」

「早くて3日後かな。今、準備させている。
　王子が来る前に移動終わらせておかないと、不審がられても面倒だからね。」

確かに急に部屋を変えるなんて、
王子を信用していないと言っているようなものだ。
同盟国として、それはまずいだろう。
早めに部屋を変えて、王子の留学とは無関係だと思わせなければいけない。

こうして、部屋が移動になったわけだけど、早くて3日後って言ってたのに、
移動したのは次の日の夜だった。