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三、ひがみっぽいお義姉様

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「お義姉様、あてつけだなんて誤解です」

「そうざますよ。もう少し待ってたら、あなたには、誰よりも素晴らしい夫が現れるのよ」

お義母様は、私以上にあわてた様子だ。

それが、ちょっと心地よいです。

「『もう少し、もう少し』って、一体いつなのよ」

バーバラお義姉が、眉をキュッとよせる。

「さあ。そこまでは、占い師にもわからないざんす」

「でたあ。また占い師ね。
ママが、占いに固執するおかげで、私はいきおくれよ。 
『学園の胡蝶蘭』ともてはやされたこの私には、ふるほど求婚者がいたのにね!」

お義姉様は唇をかむと、地団駄をふんだ。 

それを横目で見ながら、お義姉様と貴族学園で同じクラスだったお兄様の
「バーバラは、地味で目立たない学生だった」という、言葉を思い出す。

『学園の胡蝶蘭』なんて、とんでもない話です。

お義姉の嘘つき。

ま、どーでもいいですけど。

「バーバラ、いつも言っているでしょう。
結婚は、早ければいい物じゃないって。
あなたにはね、私のような結婚生活を送って欲しくないのよ。
だから、待つざんす」

「あーん、ママ。早く私の王子様が現れないかしら」

お義姉様が、胸の前で両手をあわせて、大袈裟にため息をついた。

「お義姉様のレベルが高すぎて、つりあう人が、なかなかいないんでしょうね」

ここはヨイショするしかない。

いい年をして、人前で母親を『ママ』と呼ぶ幼稚な人でも、一応私のお義姉様なのだから。

「まあ、アイリスもそう思うのね。
それでも、もう限界にきてるのよ。
邸にいても、退屈で死にそうなの」

「ですよね。でも、お義姉様は、日に日に、綺麗になられて羨ましいです」

「やっぱり、わかるのね。これも魔法美容のおかげよ」

ご機嫌のなおったお義姉様は、華やかにカールした茶色い髪を、自慢そうにゆらす。

実家で、ダラダラ過ごすお義姉様は、最近魔法美容にはまっている。

毎日のように、高額な魔法美容院へ通っては、顔をあちこちお直ししてくるのだ。

おかげで、髪も肌もツヤツヤ、茶色の瞳も、明るい空色に変わっていた。

さすがに、昔の地味子の面影はない。

「けど、お金がかかりすぎですよね」

つい本音をもらしてしまった。

「あら、アイリス。今なんて言ったの」

お義姉様は地獄耳です。

私の方へ、ドンと足を一歩だして問いつめてくる。

「いえ、なぜか兄の趣味を急に思い出してしまって」

「ふうん。そう言えば、イエルもまだ独身だったわね。
ひょっとしたら、私の王子様だったりして」

お義姉様は、天井を見上げて笑う。

お兄様は、身内が言うのもなんだけど、文武にたけ、イケメンで評判だ。

お義姉様にはもったいない。

自分でも、みるみる顔がくもるのがわかった。

「あら、アイリス。その顔はなんなのよ」

さっそくお義姉様にとがめられた時、馬車の扉がおもむろにひらいて、聖女がおりてきたのだ。 

「馬車に酔っちまって、しばらく中で休んでたんだよ。
待たせてごめんよ」

小柄な身体、薄桃色の髪に同じ色の瞳の聖女は、ニッコリと微笑む。

「あの子、私には負けるけど、可愛いわね。 
きっと、あの瞳の色のせいよ。
決めたわ。明日、魔法美容院で、私の瞳も薄桃色に変えてもらうの」

耳元で、お義姉様がささやいた。

どうぞ、ご勝手に。

けどコーエン家が破産したら、責任をとってくださいね。






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