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二、ヒステリーなお義母様

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翌日、屋敷の玄関に、王宮の豪華な馬車が到着した。

ゴットンは領地、義父のコーエンは愛人の家にお泊まりだ。

だから、私、義母バルモア、義姉のバーバラの女三人で、出迎えることになった。

「おはようございます。お義母様。
朝早くから、ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」

「いいざますよ。けど、王様もせっかちね。 
朝というより、まだ夜明け前じゃない」

義母は、うっすらと明るくなっている庭園を見渡しながら、大きな欠伸をする。

「すいません。まだお披露目前の聖女なので、なるべく内密に、事をすすめたいご様子なんです」

「アイリスは、まるで王族の一員気取りね」

義母は、プイと横をむく。

「王族の一員だなんて、とんでもないです。 
兄が、第二王子と親しくさせてもらっているだけです。
生意気に聞こえたなら、あやまります」

低く頭を下げる。

「そんな風にされたら、まるで私が、嫁イビリをしているみたいじゃない。
どうせ、私は嫌われ者の年寄りざますわ。
誰にも相手にされず、孤独に死んでゆくのよ」

義母はそう言うと、扇で顔をかくした。

扇の向こうでは、嗚咽する声がする。

「そんなご冗談を。
お義母様には、お優しい伯爵がいらっしゃるじゃないですか」

眠たいのをこらえて、顔に微笑みをはりつけた。

けど、それがマズかったようだ。

「いい加減な事を言わないで。
昨夜主人が、愛人宅から帰らなかったのを知っているくせに。
ニヤニヤして、私の不幸を面白がってるのね」

扇をパタンと閉じると、義母は私をニラミつける。

桁違いな女好きの主人のせいで、お義母様は、ちょっとした事でヒステリーをおこすようになっていた。


「落ち着いて下さい、お義母様。
お義父様に、どれだけ愛人がいようと、一番はお母様だけなんですよ。
私はそう信じているから、ああ言っただけです」

胸の前で、両手をひろげて弁解をする。

こんな時間に、姑のご機嫌とりをする自分にちょっと嫌悪をだきながら。

けど、これが結婚というものなのね。

我慢。我慢。

「そうだったざますか。
賢いアイリスの言うことだもの。
間違いないわね。オホホホ」

今度はお義母は高らかに笑う。

最近のお義母様は、感情の起伏が激し過ぎるし、激やせしていた。

ゴットンと同じ茶色の髪はパサパサで、茶色の瞳は暗く沈んでいるし、心配です。

でも、それに気がついているのは、嫁の私だけというのが悲しい。

主人はもちろん、息子も娘も呑気なものだった。

「ところで、アイリス。聖女と言っても若い女よ。
うちの主人が、手をだしたらどうしましょう。
その聖女はブスざますか」

「あいにく、まだお会いした事がないので、ブスかどうかはわかりません。
わかっているのは、平民で酒場で働いていたという事だけです」

「なら、男あしらいも、手慣れたものざますね。
アイリス、お互い主人をとられないように気をつけましょう」

「はい。お義母様」

そう言ったものの、心で舌ウチをする。

お義父と一緒にしないでください。

ゴットンは、妻一筋なんですから。

「二人とも、独身の私の前で、主人の話はやめてよ。当てつけのつもり」

そう言って、眉をつり上げているのは、義姉のバーバラだった。

正直、うっとおしいです。
 
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