18 / 38
3章 ポショットにはぬいぐるみ。陛下! 大丈夫ですか
2,キャンディの胸の痛み
しおりを挟む
貴族会議が終了してから数日もたたないうちに、私の噂は帝国中を駆け巡っていた。
何者かの手によってつくられた皇妃の中傷記事をのせた号外が、あっと言う間に庶民の手に渡っていったからだ。
「一体誰がなんのためにこんな事をするのかしら」
テーブルの上にちょこんと座って、長いため息をつく。
「そう気に病むな。事実でないなら堂々としていればいい」
リラックスできる私服を着たレイン様はワイン片手に、自室の窓辺に立って景色を楽しんでいる。
「だってレインだって私を疑っているんでしょ。
そんな人と一緒に暮らしているんだもの。心が休まらないわ」
「ほうー。そうか」
レイン様はなぜか楽しそうな声をだすと、私のいるテーブルの前までやってきた。
最近わかった事だけど、レイン様は案外いたずら好きなのだ。
「レイン。指攻撃はナシですよ」
なんとなく嫌な予感がして眉をひそめた。
「指攻撃?
それはこういう事か」
レイン様はそう言って、人差し指で私のお腹をツンとつつく。と同時に私の身体はコテンと転覆する。
悔しい。またやられちゃったわ。
「もう! 人が真剣に悩んでいるのにからかわないで下さいよ」
両手両足をバタバタさせて、声を荒げた。
けど残念ながら、ぬいぐるみの身だ。レイン様には「ピイピイ」と小鳥がさえずっているようにしか聞こえないらしい。
前にそう言ってたから、間違いないわ。
「すまん。そう怒るな。
実はな。お前専用のベッドをあつらえたんだ。そこでゆっくり休んでくれ」
「私専用のベッドですって!
素直に喜しいです。ありがとうございます」
今日までレイン様と同じベッドで眠っていたけど、どうしても緊張してしまってゆっくり休めなかったのだ。
身体はぬいぐるみでも、心は女の子のままなんだもの。
こんな超絶美形の隣で寝るなんて、正気ではいられない。
はだけた寝巻から垣間見える、鍛え上げられた逞しい胸板にドキドキしていたら、突然「ウサ公」と寝ぼけた声で
呼ばれて抱きしめられる。
ものすごく心臓に悪かったのだ。
「お前のサイズにあわせてつくったんだか、寝心地はどうだ?」
「いい、いい! 凄くいいです!
頭の上には小物を置くスペースもあるし、お布団はフカフカだし枕はちょうどいい硬さだし、すっごく気に入りました!」
レイン様にベッドに寝かされた私はニマーと顔をほころばせた。
「うーん。気持ちいい。これで今日からはゆっくり眠れるわ。
感謝します。レイン様」
ご機嫌で寝返りをうってから、ハッとした。
「確かさっき『お前のサイズにあわせてつくったんだが』って言ってけど、このベッドをつくったのは
レインなの?」
「ああ。そうだ。材料はダンに調達してもらった。
ベッドはわりと簡単だったが、布団類は苦労したぞ。小さく切った生地を縫い合わせて、中に綿をいれるのは初めての経験だった」
「そりゃそうでしょう。レインは侍女じゃないんだもの」
「けどやればなんとかなるものだな。我ながら可愛く完成したと満足している」
人参柄の掛布団に視線を移したレイン様はドヤ顔をした。
「ええええ……。可愛いって!」
私は私でレイン様の口からでた思いがけない言葉にプッと吹き出しそうになる。
だって全然似合ってないんだもの。
「そうか。そんなに喜しいのか」
あわてて両手を口にあてて笑いをこらえる私を見てレイン様は眉尻を下げる。
それは今まで見た事がない柔らかな表情でつい見入ってしまう。
「レイン……」
思わず名前を呼んで見とれていると、扉の向こうからノック音とダンの声がした。
「いい物を見せてやるから、早くこっちへこい」
レイン様は扉に顔を向けて声を弾ませる。
「一体あれで何をつくるのか不思議に思っていたが、ぬいぐるみの為のベッドと寝具をつくっていたのか」
「そうだ。どうだ。なかなかの出来栄えだろ。見たところウサ公も満足したようだ」
レオン様はダンが部屋に入ってくるなり、ベッドをのせた掌を自慢そうにダンに差し出した。
「これは……お人形ごっこの真似事か?
まさかお前にそんな趣味があったとは思わなかった……」
一方ダンはピクピクと顔をひくつらせて固まっている。
そりゃそうよね。わかるわその気持。でもレイン様を見捨てないでね。
私はそう願うと、頭からすっぽりと布団をかぶってシッカリと目を閉じた。
なにはともあれ安眠が確保され、私の皇城生活は大きく改善されたのは間違いない。
レオン様はあれ以来、どうやら物づくりの楽しさに目覚めたようだ。
最近ではウサギ=私の着る服までつくってくれるもの。
私にとってはいい事なのかもしれない。
けれどレイン様とすれ違う人達の反応を見る限り、レイン様にとってはマイナスの行動だと思う。
ギョッとしてレイン様を二度見したら、あからさまに眉をひそめたり、吹き出しそうになっていたり、レイン様と会った人は誰もが極度に動揺していた。
会議に出席する時も公務に赴くときも、ウサギのぬいぐるみが顔を覗かせるポショットを離さない皇帝陛下は噂の的になっているようだ。
「情けない。我が国の皇帝陛下がまるで幼児のようなお姿をされているとは」
「レインファンバルバド陛下はウサギ族の呪いにかかっておられるのでは。
至急真相を明らかにして、あの皇妃を廃位にするべきだ」
「なんだかがっかりだわ。ぬいぐるみ遊びに夢中になっている皇帝陛下なんて」
皇太后派はここぞとばかり、レイン様を貶める記事をのせたタブロイド紙をばらまいて、人々の失望をあおっている。
元はといえば、こうなったのは私のせいよ。
私が皇妃なんかにならなかったら、レイン様は今まで通り国の英雄だったはずだ。
そう思うと張り裂けるように胸が痛い。
何者かの手によってつくられた皇妃の中傷記事をのせた号外が、あっと言う間に庶民の手に渡っていったからだ。
「一体誰がなんのためにこんな事をするのかしら」
テーブルの上にちょこんと座って、長いため息をつく。
「そう気に病むな。事実でないなら堂々としていればいい」
リラックスできる私服を着たレイン様はワイン片手に、自室の窓辺に立って景色を楽しんでいる。
「だってレインだって私を疑っているんでしょ。
そんな人と一緒に暮らしているんだもの。心が休まらないわ」
「ほうー。そうか」
レイン様はなぜか楽しそうな声をだすと、私のいるテーブルの前までやってきた。
最近わかった事だけど、レイン様は案外いたずら好きなのだ。
「レイン。指攻撃はナシですよ」
なんとなく嫌な予感がして眉をひそめた。
「指攻撃?
それはこういう事か」
レイン様はそう言って、人差し指で私のお腹をツンとつつく。と同時に私の身体はコテンと転覆する。
悔しい。またやられちゃったわ。
「もう! 人が真剣に悩んでいるのにからかわないで下さいよ」
両手両足をバタバタさせて、声を荒げた。
けど残念ながら、ぬいぐるみの身だ。レイン様には「ピイピイ」と小鳥がさえずっているようにしか聞こえないらしい。
前にそう言ってたから、間違いないわ。
「すまん。そう怒るな。
実はな。お前専用のベッドをあつらえたんだ。そこでゆっくり休んでくれ」
「私専用のベッドですって!
素直に喜しいです。ありがとうございます」
今日までレイン様と同じベッドで眠っていたけど、どうしても緊張してしまってゆっくり休めなかったのだ。
身体はぬいぐるみでも、心は女の子のままなんだもの。
こんな超絶美形の隣で寝るなんて、正気ではいられない。
はだけた寝巻から垣間見える、鍛え上げられた逞しい胸板にドキドキしていたら、突然「ウサ公」と寝ぼけた声で
呼ばれて抱きしめられる。
ものすごく心臓に悪かったのだ。
「お前のサイズにあわせてつくったんだか、寝心地はどうだ?」
「いい、いい! 凄くいいです!
頭の上には小物を置くスペースもあるし、お布団はフカフカだし枕はちょうどいい硬さだし、すっごく気に入りました!」
レイン様にベッドに寝かされた私はニマーと顔をほころばせた。
「うーん。気持ちいい。これで今日からはゆっくり眠れるわ。
感謝します。レイン様」
ご機嫌で寝返りをうってから、ハッとした。
「確かさっき『お前のサイズにあわせてつくったんだが』って言ってけど、このベッドをつくったのは
レインなの?」
「ああ。そうだ。材料はダンに調達してもらった。
ベッドはわりと簡単だったが、布団類は苦労したぞ。小さく切った生地を縫い合わせて、中に綿をいれるのは初めての経験だった」
「そりゃそうでしょう。レインは侍女じゃないんだもの」
「けどやればなんとかなるものだな。我ながら可愛く完成したと満足している」
人参柄の掛布団に視線を移したレイン様はドヤ顔をした。
「ええええ……。可愛いって!」
私は私でレイン様の口からでた思いがけない言葉にプッと吹き出しそうになる。
だって全然似合ってないんだもの。
「そうか。そんなに喜しいのか」
あわてて両手を口にあてて笑いをこらえる私を見てレイン様は眉尻を下げる。
それは今まで見た事がない柔らかな表情でつい見入ってしまう。
「レイン……」
思わず名前を呼んで見とれていると、扉の向こうからノック音とダンの声がした。
「いい物を見せてやるから、早くこっちへこい」
レイン様は扉に顔を向けて声を弾ませる。
「一体あれで何をつくるのか不思議に思っていたが、ぬいぐるみの為のベッドと寝具をつくっていたのか」
「そうだ。どうだ。なかなかの出来栄えだろ。見たところウサ公も満足したようだ」
レオン様はダンが部屋に入ってくるなり、ベッドをのせた掌を自慢そうにダンに差し出した。
「これは……お人形ごっこの真似事か?
まさかお前にそんな趣味があったとは思わなかった……」
一方ダンはピクピクと顔をひくつらせて固まっている。
そりゃそうよね。わかるわその気持。でもレイン様を見捨てないでね。
私はそう願うと、頭からすっぽりと布団をかぶってシッカリと目を閉じた。
なにはともあれ安眠が確保され、私の皇城生活は大きく改善されたのは間違いない。
レオン様はあれ以来、どうやら物づくりの楽しさに目覚めたようだ。
最近ではウサギ=私の着る服までつくってくれるもの。
私にとってはいい事なのかもしれない。
けれどレイン様とすれ違う人達の反応を見る限り、レイン様にとってはマイナスの行動だと思う。
ギョッとしてレイン様を二度見したら、あからさまに眉をひそめたり、吹き出しそうになっていたり、レイン様と会った人は誰もが極度に動揺していた。
会議に出席する時も公務に赴くときも、ウサギのぬいぐるみが顔を覗かせるポショットを離さない皇帝陛下は噂の的になっているようだ。
「情けない。我が国の皇帝陛下がまるで幼児のようなお姿をされているとは」
「レインファンバルバド陛下はウサギ族の呪いにかかっておられるのでは。
至急真相を明らかにして、あの皇妃を廃位にするべきだ」
「なんだかがっかりだわ。ぬいぐるみ遊びに夢中になっている皇帝陛下なんて」
皇太后派はここぞとばかり、レイン様を貶める記事をのせたタブロイド紙をばらまいて、人々の失望をあおっている。
元はといえば、こうなったのは私のせいよ。
私が皇妃なんかにならなかったら、レイン様は今まで通り国の英雄だったはずだ。
そう思うと張り裂けるように胸が痛い。
5
あなたにおすすめの小説
辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。
コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。
だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。
それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。
ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。
これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。
半世紀の契約
篠原皐月
恋愛
それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。
一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
完結·婚約破棄された氷の令嬢は、嫁がされた枯れおじのもとで花開く
禅
恋愛
ティリアは辺境にある伯爵の娘であり、第三王子ガフタの婚約者であった。
だが、この婚約が気に入らないガフタは学園生活でティリアを冷遇し、卒業パーティーで婚約破棄をする。
しかも、このまま実家に帰ろうとするティリアにガフタは一回り以上年上の冴えないおっさん男爵のところへ嫁ぐように命令する。
こうしてティリアは男爵の屋敷へと向かうのだが、そこにいたのは……
※完結まで毎日投稿します
※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿中
天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!
灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ?
天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる