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3章 ポショットにはぬいぐるみ。陛下! 大丈夫ですか
4、新皇妃にはルーカス様を!
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どのくらい時間が経過したのかはわからないけれど、目覚めた時は自分のベッドの中にいた。
「確か私は研究所にいたはずなんだけれど……。
そこでエドワルド所長から信じられない事を聞かされて、凄いショックをうけたの。あれは夢だったのかしら?」
上半身をおこして、コテンと首を傾げる。
重厚なカーテン。
金に縁どられたテーブルや優雅な調度品。
ここはどう見てもレイン様の私室だ。
真っ白な壁の無機質な研究所ではない。
「やっと目覚めたか、ウサ公。
このまま意識が戻らなければどうしようかと、心配してたんだぞ」
頭の上からレイン様の声がふってきた。
「ひょっとして私。気を失っていたの?」
驚いて、声のする方を見上げる。
「ああ。エドワルド所長の研究室でな」
「じゃあ。私の身体が何者かの手でプログラミングされているっていう話は夢じゃなかったのね」
「そうだが話の真偽はまだわからない」
レイン様はそう言うと私の目の前に大きな掌をさしのべた。
これはコッチへ来い、という合図だ。
私はうなずくとピョーンとレイン様の掌に飛び移った。
「レインはどう思う? やっぱり私を疑っているの?」
「いまの段階ではなんとも言えない。
仮にエドワルド所長の言っている事が正解だとしてもだ。
お前には一ミリの罪もない」
きっぱりとレイン様は言い切るとまっすぐに私を見据える。
「喜しい!レインは私を信じてくれているのね」
「信じるというか……。お前みたいな小心者には大それた事はできないと思っているだけだ。
もし俺の暗殺という任務をせおって嫁にきていたら、呑気そうにクッキーなんか食べていられないだろ?」
「なーんだ。ちょっとガッカリ。
ま。レインの言っている事は当たっているけどさ」
そう言ってシュンとうつむいたと同時にレイン様が弾けるような笑い声を上げる。
「ハハハハハ。お前はカラカイがいがあっていいぞ」
「もうううう。意地悪ばっかり言うと噛みつくわよ」
大きく口を開けて、歯を見せた時だった。
「皇太后様のおなりです」
という侍女の声とともに扉がノックされたのは。
「これは珍しい。皇太后様。一体何の御用ですか?」
さっきとは別人のようにレイン様が顔をこわばらせる。
「突然やってきた妾が悪いのだが、そこまでの迷惑顔をされると気持がおれるわいな」
「迷惑というか驚いているだけです。今までこういう事が一度もなかったもので」
「おそれながら、皇帝陛下。
立ち話は皇太后様がお疲れになると思うので、そちらの椅子を拝借してよろしいですか?」
皇太后が連れてきた侍女が遠慮がちに首を傾げる。
「たしか貴方はアリーナだったな」
「覚えていただき、光栄でこざいます」
「聖夜の間に爆弾人形をもちこんだ女を忘れるわけないだろう」
レイン様の冷たい言葉にアリーナは顔を曇らせた。
まったく私の友達を悲しませるのはやめて欲しいものだわ。
「これこれ。その話はもうよいではないか」
皇太后様は扇を口元にそえて笑ってから、
「ここに長くいるつもりはない。用件だけ伝えたらすぐに帰るので椅子の用意は必要ない」
とアリーナに指示をだした。
「そうですか。その方がこちらも助かります。
ではさっそくその用件とやらを教えていただけませんか?」
「それはなじゃ」
皇太后様はここでいったん言葉を切ると、レイン様の顔を見上げて意味深に微笑んだ。
「それは何ですか」
「先ほど獅子王国から、皇帝陛下あてに舞踏会の招待状が届いたのじゃ」
「それで本人より皇太后様の方が先に報告を受けたのですか?」
「そういう事じゃ。陛下の秘書官と妾は親しいゆえな」
「まあ、いいでしょ。で?」
「あちらは夫婦での出席を望んでおるのじゃ。けど今の皇妃の状態では無理じゃろ。
かと言って正直に理由を伝えるわけにもいかん。
バルバド帝国に内乱が起きたと考えた獅子王国が何をしてくるかわからんからのう」
「たしかにシザー王はその位警戒した方が賢明でしょうね」
顎に手をあてて天井を見上げ、思案していたレイン様も皇太后様の言葉に同意した。
獅子王国は正式にはガオー王国という。
ガオーは王国創設者の名前である。
先祖が獅子獣人である獅子族のみで成り立つ王国の王は世襲制ではない。
戦闘力が一番秀でた者が王座につくのだ。
なので国王は騎士団長もかねている。
荒くれものの歴代王の中でも、現在のシザー王は群をぬいての乱暴者だと噂されていた。
「人間でも容赦なく切り刻む非道のハサミ」との二つ名を得るほどだ。
これらの情報はここ数日の間にレイン様から教えてもらった。
一応私もまだこの帝国の皇妃。
だから少しでも帝国や近隣の事を知っていたかったので、お願いして色々と学んでいたのだ。
「シザー王の王国内の支持率はかつてないほど高い。
特に王のカリスマ性は若者に大人気で、軍の志願者も殺到しているという。
そんな勢いのある王国の招待を断るわけにはいかないわね。
うーん」
気がつけば私もテーブルの上で、腕組みして頭を傾げていた。
幸い皇太后に気がつかれなかったから良かったけれど……。
油断は禁物よ。
誰かが部屋にいる時はぬいぐるみに徹しなければ。
私はそう自分に言い聞かせて、コテンとその場に倒れた。
「でじゃな。
キャンディ皇妃のかわりにルーカスを連れていけばどうじゃ」
「ルーカスをですか?
それは代理としてじゃなく皇妃としてですか?」
「もちろんじゃ。その方が余計な詮索をされずにすむだろ。
幸い向こうはまだキャンディ皇妃の姿を知らない。
ルーカスが行ってもわからんじゃろ」
「それはそうだが」
「では決まりじゃ。
どうせ近いうちそうなるのじゃから良い良い」
レイン様が皇太后の申し出に首を縦にふった瞬間、皇太后は子供のようにはしゃいだ声をあげる。
それからすぐにアリーナをひきつれて部屋から出て行った。
「『どうせ近いうちそうなるのしゃから』ってどういう意味よ。
失礼な話だわ」
完全に2人が去った事を確認すると、私はテーブルの上でピョンピョンはねた。
「確か私は研究所にいたはずなんだけれど……。
そこでエドワルド所長から信じられない事を聞かされて、凄いショックをうけたの。あれは夢だったのかしら?」
上半身をおこして、コテンと首を傾げる。
重厚なカーテン。
金に縁どられたテーブルや優雅な調度品。
ここはどう見てもレイン様の私室だ。
真っ白な壁の無機質な研究所ではない。
「やっと目覚めたか、ウサ公。
このまま意識が戻らなければどうしようかと、心配してたんだぞ」
頭の上からレイン様の声がふってきた。
「ひょっとして私。気を失っていたの?」
驚いて、声のする方を見上げる。
「ああ。エドワルド所長の研究室でな」
「じゃあ。私の身体が何者かの手でプログラミングされているっていう話は夢じゃなかったのね」
「そうだが話の真偽はまだわからない」
レイン様はそう言うと私の目の前に大きな掌をさしのべた。
これはコッチへ来い、という合図だ。
私はうなずくとピョーンとレイン様の掌に飛び移った。
「レインはどう思う? やっぱり私を疑っているの?」
「いまの段階ではなんとも言えない。
仮にエドワルド所長の言っている事が正解だとしてもだ。
お前には一ミリの罪もない」
きっぱりとレイン様は言い切るとまっすぐに私を見据える。
「喜しい!レインは私を信じてくれているのね」
「信じるというか……。お前みたいな小心者には大それた事はできないと思っているだけだ。
もし俺の暗殺という任務をせおって嫁にきていたら、呑気そうにクッキーなんか食べていられないだろ?」
「なーんだ。ちょっとガッカリ。
ま。レインの言っている事は当たっているけどさ」
そう言ってシュンとうつむいたと同時にレイン様が弾けるような笑い声を上げる。
「ハハハハハ。お前はカラカイがいがあっていいぞ」
「もうううう。意地悪ばっかり言うと噛みつくわよ」
大きく口を開けて、歯を見せた時だった。
「皇太后様のおなりです」
という侍女の声とともに扉がノックされたのは。
「これは珍しい。皇太后様。一体何の御用ですか?」
さっきとは別人のようにレイン様が顔をこわばらせる。
「突然やってきた妾が悪いのだが、そこまでの迷惑顔をされると気持がおれるわいな」
「迷惑というか驚いているだけです。今までこういう事が一度もなかったもので」
「おそれながら、皇帝陛下。
立ち話は皇太后様がお疲れになると思うので、そちらの椅子を拝借してよろしいですか?」
皇太后が連れてきた侍女が遠慮がちに首を傾げる。
「たしか貴方はアリーナだったな」
「覚えていただき、光栄でこざいます」
「聖夜の間に爆弾人形をもちこんだ女を忘れるわけないだろう」
レイン様の冷たい言葉にアリーナは顔を曇らせた。
まったく私の友達を悲しませるのはやめて欲しいものだわ。
「これこれ。その話はもうよいではないか」
皇太后様は扇を口元にそえて笑ってから、
「ここに長くいるつもりはない。用件だけ伝えたらすぐに帰るので椅子の用意は必要ない」
とアリーナに指示をだした。
「そうですか。その方がこちらも助かります。
ではさっそくその用件とやらを教えていただけませんか?」
「それはなじゃ」
皇太后様はここでいったん言葉を切ると、レイン様の顔を見上げて意味深に微笑んだ。
「それは何ですか」
「先ほど獅子王国から、皇帝陛下あてに舞踏会の招待状が届いたのじゃ」
「それで本人より皇太后様の方が先に報告を受けたのですか?」
「そういう事じゃ。陛下の秘書官と妾は親しいゆえな」
「まあ、いいでしょ。で?」
「あちらは夫婦での出席を望んでおるのじゃ。けど今の皇妃の状態では無理じゃろ。
かと言って正直に理由を伝えるわけにもいかん。
バルバド帝国に内乱が起きたと考えた獅子王国が何をしてくるかわからんからのう」
「たしかにシザー王はその位警戒した方が賢明でしょうね」
顎に手をあてて天井を見上げ、思案していたレイン様も皇太后様の言葉に同意した。
獅子王国は正式にはガオー王国という。
ガオーは王国創設者の名前である。
先祖が獅子獣人である獅子族のみで成り立つ王国の王は世襲制ではない。
戦闘力が一番秀でた者が王座につくのだ。
なので国王は騎士団長もかねている。
荒くれものの歴代王の中でも、現在のシザー王は群をぬいての乱暴者だと噂されていた。
「人間でも容赦なく切り刻む非道のハサミ」との二つ名を得るほどだ。
これらの情報はここ数日の間にレイン様から教えてもらった。
一応私もまだこの帝国の皇妃。
だから少しでも帝国や近隣の事を知っていたかったので、お願いして色々と学んでいたのだ。
「シザー王の王国内の支持率はかつてないほど高い。
特に王のカリスマ性は若者に大人気で、軍の志願者も殺到しているという。
そんな勢いのある王国の招待を断るわけにはいかないわね。
うーん」
気がつけば私もテーブルの上で、腕組みして頭を傾げていた。
幸い皇太后に気がつかれなかったから良かったけれど……。
油断は禁物よ。
誰かが部屋にいる時はぬいぐるみに徹しなければ。
私はそう自分に言い聞かせて、コテンとその場に倒れた。
「でじゃな。
キャンディ皇妃のかわりにルーカスを連れていけばどうじゃ」
「ルーカスをですか?
それは代理としてじゃなく皇妃としてですか?」
「もちろんじゃ。その方が余計な詮索をされずにすむだろ。
幸い向こうはまだキャンディ皇妃の姿を知らない。
ルーカスが行ってもわからんじゃろ」
「それはそうだが」
「では決まりじゃ。
どうせ近いうちそうなるのじゃから良い良い」
レイン様が皇太后の申し出に首を縦にふった瞬間、皇太后は子供のようにはしゃいだ声をあげる。
それからすぐにアリーナをひきつれて部屋から出て行った。
「『どうせ近いうちそうなるのしゃから』ってどういう意味よ。
失礼な話だわ」
完全に2人が去った事を確認すると、私はテーブルの上でピョンピョンはねた。
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