【完結】冷酷陛下はぬいぐるみ皇妃を手放せない~溺愛のツボはウサギの姿?それとも人間(中身)の私?~

りんりん

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3章 ポショットにはぬいぐるみ。陛下! 大丈夫ですか

5、魔法の刺繍セット

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皇太后様の突然の訪問から一週間と二日が過ぎた頃だ。
「レインファンバルバド皇帝陛下と孔雀国の第三王女、ルーカスピッコーネ様のご成婚!!」
と書かれたゴシップ新聞が出回ったのは。
「ご成婚じゃないわ。獅子国の舞踏会に二人で参加するだけなのに早とちりの記者がいたもんだわ。だいたい私という皇妃がいるのよ」
私はイライラしながら、ハンカチにバラの蕾の刺繍をする。
「おい。ウサ公。もう少し冷静にならないとそのうち自分の指を針でさすぞ」
テーブルの上にのって、刺繍をしている私を心配そうにレイン様がのぞきこんだ。
「指じゃなくて心臓をさして死んだら、皇太后様はさぞお喜びでしょーね」
「そうでもないだろ。キャンディがウサ公とは知らんのだから」
レイン様はそう言うと、私から針を奪った。
「ぬいぐるみの小さな身体ではこの針を扱うのは危険だ。
趣味の刺繍はちゃんと人間に戻れてからにしろ」
「これは趣味じゃなくてアルバイトなの。だから休みたくないの。少しでも稼ぎたいんだもん」
「バイトだって? それはどういう事なんだ」
レイン様はテーブルの上にひろげたハンカチ、刺繍糸、針に視線を移すと不思議そうな顔をする。
これらは刺繍セットとして私が実家から持ってきた大事な物なのだ。
部屋のクローゼットにしまっていたのをアリーナが見つけたようで、こないだ皇太后様とやってきた時に陛下に渡してくれたのだ。
「見たところ皇妃様の大切なお品のようなので、皇妃様の意識がお戻りになるまで、陛下に預かっていただきたいのですが」
ってね。
気の利くアリーナのおかげで、私はまたアルバイトを続けられるのだ。
「決まってるじゃない。これを売ってお金儲けをするのよ。まあ見ててね」
私はバラの蕾の手を触れて「キュキュキュ」と呪文を唱えた。
すると蕾はアッというまにバラの花に変わる。
「刺繍の蕾が本物の花のように開いた!」
「ふふふ。これはね。魔法の刺繍セットなの。
この針と糸でつくった刺繡は呪文を唱えると動きだすのよ」
「凄いな。目の前で魔法を見たのは初めてだ」
白いハンカチを手にしたレイン様は綺麗に咲き誇るバラを眺めて、目を丸くした。
「私は魔力が低いからこの程度の物しかつくれないの。
でも珍しいからオークションにかけたら、けっこうな値がつくのよ。
オークションの主催者によれば、買い手のほとんどは大金持ちの男性らしいわ。
きっと恋人にでもプレゼントするんでしょうね」
「オークション?」
「ええ。ウサギ村の知人にツテがあって私はその知人にハンカチを預けているの。
どんなオークションかはよく知らないけど、ハンカチ一枚でもかなりの儲けになるのよ」
「おい。ウサ公。
実家の借金は俺に嫁いだ時にチャラになったはずだぞ。
なのにまだバイトをしているとは、お前はほんとうにガメツイ奴だな」
レイン様は手にしたハンカチをふわりとテーブルに置くと、心底ガッカリしたように眉を下げた。
そんなレイン様の顔を見ていると私の心臓はおし潰られそうになる。
「そうよ! 私はガメツイ女よ。それのどこが悪いって言うの?
これだからお坊ちゃんは嫌なのよ」
「どんなオークションに出品しているのかわからないのだろ?
例外もあると思うが、あまり評判のいいオークションはない。
お前は皇妃だ。軽々しい行動は慎んでくれ」
「わかっているわよ。
けどもう少しで借金がおわるから、それまでは許して欲しいの」
「まだ借金があったのか?
なら即払ってやる。一体いくらだ。教えろ」
「嫌よ!
だってレインが使うお金は国民が払った税金でしょ。
私は実家の為に国民の税金を使いたくないのよ。
お父様がグレー伯父様から借りたお金は全部返したと聞いていたけど、実はお父様のカン違いだったのよ。
借金の額はお金を返す時の金利で決まる契約だったのに、お父様は借りた時の金利と思っていたから」
「なるほど。借りた時より返す時の金利が上がっていた
 というわけか」
「そんな大事な事を忘れているなんて、馬鹿なお父様でしょ。私もこんな話をするのはすごく恥ずかしいのよ」
小さなぬいぐるみの中にいても、プライドはある。
惨めだった。
「わかった。ウサ公の言う通りだな。
俺が悪かった。だがオークションと関わるのはやめろ。
俺が信頼できる店を紹介するから、そこでハンカチを売ればいい」
目に両手をあてて子供のように泣きじゃくっていると、レイン様はヨシヨシと優しく頭をなでてくれた。
「本当に?」
「ああ。ただしハンカチの作者は偽名にしろ」
「ありがとう。箱にはあと3枚ハンカチが残っているでしょ。
これが全部売れれば借金はおわる計算なの」
「わかった。頑張れよ」
「はい! 少しでも高く売れるように頑張りまーす」
まだ涙でぬれている瞳にうつるレイン様の笑顔はとろけるように優しくて、私の頬は真赤に染まる。
「おい。ウサ公。よく聞けよ」
「はい」
「お前は。じゃなくてキャンディ。貴方は立派な皇妃だ。
ぜひ獅子国の舞踏会にも参加して欲しい」
首を傾ける私にレイン様は真剣な視線を向けた。
「いやあ。それは……。私はぬいぐるみだし」
「問題は見かけじゃない。自分の為に税金の無駄使いはしたくない、という気持の方が大事だろ」
レイン様はそう言うと私を頭をつかんでポショットにしまうと、あわただしく部屋をでてゆく。
「そんなに急いでどこへ行くの?」
「宮廷衣装院だ。
 そこでお前の舞踏会用のドレスを仕立てる事にした」
「ちょっとまって。
 宮廷衣装院って皇家専属の機関よね。
 そこでぬいぐるみの衣装をつくるのはどうかと思うけれど」
「ぬいぐるみじゃない。
 皇妃の衣装だ」
「そんな事を言っても誰もわかってくれないわ。
 きっと笑い者になるだけだから、お願いだからやめてちょうだい」
 皇城の廊下を走りぬけ皇帝陛下専用の厩の前で長い足で力強く地面をけり、白い馬にとびのったレイン様に私は情けない声をだしたのだ。
 


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