【完結】冷酷陛下はぬいぐるみ皇妃を手放せない~溺愛のツボはウサギの姿?それとも人間(中身)の私?~

りんりん

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3章 ポショットにはぬいぐるみ。陛下! 大丈夫ですか

8、ガオー王国のシザー王

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ラクダの身体から発せられる独特の匂い。
視界の先に広がる色彩のない砂漠の風景。
時折吹きあれる砂嵐。
照りつける灼熱の太陽。
その中を皇帝陛下のキャラバンは砂漠に長い影をおとしながら、静かに進んで行く。
「ウサ公。大丈夫か」
堂々とした姿でラクダにまたがるレイン様がポショットから顔を覗かせる私を気使ってくれる。
「私は全然平気よ。
どちらかというと、初めてみる景色にワクワクしてるの」
「なら良かった。
ウサ公は俺の唯一無二の皇妃だからな」
突然さしてきた鋭い太陽の光に目を細めながら、レイン様は声をたてて笑う。
「唯一無二の皇妃かあ……。
その言葉が人間の私に向けられたなら、どんなに幸せだったかしら」
レイン様を見上げながら、ポツンと呟く。
旅立つ前、ルーカス様に強い嫉妬を抱いた。
それは私が間違いなくレイン様を好きになっていたからだ。
ぬいぐるみの姿になった私にレイン様は無意識に心につけていた鎧を外していたのだろう。
一緒に暮らした数週間、私の前ではただの男の顔になっていたから。
皇帝陛下としての威厳ある姿とのギャップに最初はとまどったが、いつしかレイン様にすっかり惹かれていた。
「もし私が人間の姿に戻ったら、レイン様は二度とあんな風に接してくれないわよね」
掌にすっぽりおさまる小さな身体。
虹色の丸い瞳。
長い耳をもつウサ公だから心を開いてもらっている。
ただそれだけの事。
その事実に「一生ぬいぐるみのままでもいいわ!」と思ってしまう。
「そんな自分がこわいわ」
自分で自分に驚いた時だった。
視界の先に夕陽を浴びて紅色に輝く堅固な砦のような城がそびえていたのは。
どうやら目的の地についたようだが、悪名高いシザー王に会うのは勇気をふりしぼらないとできない。

銃撃戦の痕跡が残る城壁に囲まれた曲がりくねった階段を昇りつめると、立派な石造りの扉が現れた。
扉には彷徨する獅子が彫られ、両端には褐色の肌をした半裸の男が槍を手にして立っている。
「お前がレイン・ファン・バルバド皇帝陛下なのか?」
右の男がレイン様の喉元に槍をつきつけると、ぶっきら棒な声をだす。
「そうだ。これが王からの招待状だ」
レイン様は胸元から招待状を取り出すと、男に負けないぐらい不愛想な返事をかえした。
「たしかに。どうかご無礼をお許し下さい。
ここへは王の名をかたる偽者も多く訪れるもので」
招待状を表裏しっかりと確認した男の語気が弱まる。
「気にするな」
「では中へお入り下さい。
シザー王がお持ちでございます」
男が頭を下げた時、偶然私と視線がバチンと交わったのだ。
よし。ここは皇妃として愛嬌をふりまかなくっちゃ。
ポショットから半身をのりだして「よろしくお願いしますね」の意味をこめて男にお手ふりをする。
「ええええええ!!!!!!」
その瞬間男は手にした槍を地面に放り投げ、間抜けな声を上げた。
いけない。私はぬいぐるみだったんだわ。
ここではルーカス様が皇妃様だったのね。
気をつけなくっちゃ。

城内に一歩足を踏み入れると内はまるで洞窟のようなだった。
薄暗い長い廊下を誘導されるがままに私達は歩いてゆく。
ゴツゴツした廊下を照らしているのはよくある蝋燭型魔道具じゃない。
「まあ。珍しい。あれは火蛍ね」
壁のあちこちに張り付いている黒い昆虫に目をみはる。
ちょうどアーモンドのような形をした虫のお尻から炎が揺れていた。
つきあたりまで歩くと右手の壁がグワーと左右に開いて、その中から陽気な騒めきが流れてきた。
どうやらここが舞踏会会場のようだ。
うながされてレイン様が会場へ足を踏み入れたとたん、
「バルバド帝国レイン・ファン・バルバド皇帝陛下と皇妃様のご到着!」
スキンヘッドの男が威勢よく声を張り上げる。
と同時にツーブロックの髪をした品のない男がツカツカとこちらへ向かってきた。
「無事到着したのかよ。途中で砂漠の民に襲われ号泣しながら国へ帰ると思ってたんだがな」
「失礼だぞ。お前は誰だ。名を名乗れ」
男にレイン様が声を荒げると、側にいるダンアグレが腰にさした剣に手をおく。
「俺はこの国の王。シザーサミエルだ。
ちょっとからかっただけだ。ムキになるなよ」
「お前が王だと? 噂には聞いていたが、ここまでチャラケタ野郎だとは思わなかった」
「ハハハハハ。俺にそこまでハッキリ言った男はお前が最初だ。
どいつもこいつも俺をおそれて世辞ばかり言ってくる。
さすが血の雨と呼ばれるレイン・ファン・バルバドだ」
シザー王はそう言いながら、レイン様の肩にポンと手を置く。
それにしてもシザー王の格好には驚いた。
国内外の権力者を集めた舞踏会だというのに、まるで戦に向かうような恰好だ。
王は全身を黒く光るプレートで覆いつくしていた。
王がそれだから、部下も皆それにならっている。
ガオー王国の男は怖ろしく体格がいい男ばかりだ。舞踏会というより軍の慰安会に招かれたような感じだ。
天井に燦然と輝く巨大なシャンデリア。
会場のあちこちに並べられた異国のご馳走を豪快に盛った皿。
肌の露出が多い踊り子のような恰好をした侍女。
それらはたしかに舞踏会らしかったが……。
それでも煌びやかな優雅な気分にはなれない。
少しで気を許せば、誰かに襲われそうな気がする。
ただの取り越し苦労だといいのだけれど、私の感じている事をレイン様に伝えたい。
けど今はぬいぐるみよ。人前で堂々と話しかけられない。
私って本当に役立たずね。
ポショットの中でしょんぼりしていると、きっぱりとしたルーカス様の声が頭からふってくる。
「皇帝陛下はね。貴方のようなガサツなタイプには慣れているのよ。
だってこの人がバルバド帝国の騎士団長だもの」
胸の前で両手を組んだルーカス様はダンアグレ騎士団長に視線を移す。
「なるほどな。確かに俺と同じ匂いのする男だ。
それにしても気の強い皇妃だ。気にいった」
「でも私は貴方を気にいらなくてよ」
「どうしてだ?」
「こんな舞踏会を主催するなんてセンス0だもの。
それとも舞踏会はただの口実で私達をおびき寄せて拘束する気なのかしら。
レイン様。どうみてもこの王は曲者だわ」
あまりのルーカス様の言葉にさすがのレイン様も目を丸くした。
「これは面白い! どうだ皇妃。俺の妻にならんか。
なんて言うとそこの皇帝陛下に切り捨てられるな」
「いや。大丈夫だ。
俺の皇妃はこのウサ公だからな。どうだとても可愛いだろ」
レイン様は私を掴んだ手を高々と掲げて胸をはる。
「……なんだと!!!!」
天井を仰いでバカ笑をしていたシザー王は一瞬で凍り付いてしまった。
バカ、バカ。レイン様のバカ。
そんな事をしたらガオー王国の笑い者になるじゃない!

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