【完結】冷酷陛下はぬいぐるみ皇妃を手放せない~溺愛のツボはウサギの姿?それとも人間(中身)の私?~

りんりん

文字の大きさ
30 / 38
4章 深まる2人の絆

4, 捨てられたキリン村&お飾り皇妃じゃありません

しおりを挟む
「皇帝陛下に剣を突きつけるとは、お前らは自分が何をやっているのかわかっているのか!?」
ダン騎士団長は怒りで肩を震わせる。
「そんなにカッカするな。まずは彼らの考えを聞いてみようじゃないか。
たしかお前は副騎士団長のパーカスだったな。
どうしてこんな事をするのか遠慮なく話してみろ」
レイン様はダン騎士団長を手で制すると一人の兵士を見据えた。
こんな前代未聞の出来事に遭遇してもレイン様は少しも取り乱していない。
けれどパーカス副騎士団長に向ける眼差しは厳しい。
「先ほど早馬で皇都からやってきた伝令に従ったしだいです」
副騎士団長は剣を鞘におさめると背筋を伸ばし敬礼をした。
黒髪、黒目の副騎士団長からは落ち着いた印象をうける。
怒りの導火線が短いダン騎士団長とは真逆なタイプだ。
「それは誰からのどんな伝令だ?」
「それは皇太后様からの物で、村人を一人残らず焼き払えという内容です」
「「なんだと! どうしてだ!!」」
レイン様とダン騎士団長が同時に怒声を上げる。
「村人は魔獣がまき散らした細菌で汚染されているからです」
「キリン型魔獣が口からはく液体には恐ろしいウイルスが含まれているという説は俺も知っている。
がまだ確証にはいたってない。
それなのに村人を切り捨てろだと?
俺は同意できない」
レイン様は片眉を上げきっぱりと言い切った。
「パーカス。俺も同意できないぞ」
今まで黙って二人のやりとりを聞いていたダン騎士団長が剣に手をそえる。
「お二人がそう言われる事はわかってました。だから」
「だから俺達に剣を向けたのだな」
パーカス副騎士団長の言葉を途中でさえぎって、レイン様が剣をパーカス副騎士団長の喉元に突きつけた。
その瞬間。別の兵士がポショットの中から私を拾い上げる。
器用に長剣の先で私をひっかけたのだ。
「こら。なにするのよ!」
私は兵士を罵倒した。つもりだったけど、しょせんぬいぐるみの身。
小鳥のさえずりのような声しかだせない。誰にも私の声は届かなかった。
「それ以上、動かれるとこのぬいぐるみをズタズタに切り裂きます。
なのでどうか大人しく私達に従って下さい」
兵士から私を受け取ったパーカス副騎士団長が悟すような声をだす。
「なんて卑怯な奴だ」
レイン様は剣を鞘におさめる。
悔しそうに唇をかむレイン様を前にして、私はどうしようもなく自分に腹がたった。
この役立たず!
いつもレイン様の足をひっぱってばかりね。
怒りをエネルギーに変換した私は思いっきりパーカス副騎士団長の手を噛んだ。
「いて!」
副騎士団長が私を握っていた手の力をゆるめたので、そのスキにレイン様の元へ駆けだす。
すると短い手足を必死でふってトコトコと走る私にそこにいた全兵士の視線が集まった。
ある者達は「嘘だ!」と叫び、ある者達は自分の腕で何度も目をこすっている。
そりゃそうよね。ぬいぐるみが自ら動いているんだもの。
「ぬいぐるみに皇妃の呪いがかけられているという噂が本当だったとは……」
パーカス副騎士団長は目を丸くした。
「パーカス。このぬいぐるみにかけられているのは呪詛ではない。
皇妃の守護だ」
「皇帝陛下。これ以上私を失望させないで下さい。
私は血の雨と異名をとる最強の騎士である貴方に憧れて騎士団に入隊したのです。
なのに最近の陛下は子供のようにぬいぐるみを持ち歩き、皆の失笑をかっている。
どうか目をお覚まし下さい」
「余計なお世話だ。
どんなに反対されようが俺はぬいぐるみを手放さないし、キリン村も守ってみせる」
レイン様が力強く宣言した。
その堂々とした姿に目を奪われた私は小石にけつまずいて、コテンと地面に倒れてしまう。
その瞬間副騎士団長の声が頭の上からふってきた。
「皇帝陛下を惑わす悪魔など斬り捨ててやる」
「もうダメだわ」
あまりの恐怖に身体が固まって動けない。
「アワアワ」と情けない声をだすとギュッと目を閉じた。
と同時に兵士達から動揺した声が上がる。
「「「「「副騎士団長!!!!!」
「え? どうなっているの」
不思議に思って起き上がった私の視線の先には血まみれになって倒れているパーカス副騎士団長がいた。
そして副団長のすぐそには血に染まった剣を手にしたレイン様が立っている。
「一体これはどういう事なの? まさかレインが副騎士団長を?」
レイン様は冷たく見えるけど本当はとても繊細で優しい人だ。
なのに私のせいでこんな事をさせてしまった。とても辛い。
とめどとなく涙が溢れてくる。
「パーカスの馬鹿!
キリン村は貴方の村でしょ。なのにどうして焼き払おうとするのよ」
悲しみの底にいた私の耳に届いたのはアリーナの声だった。
「皇太后のいいつけだからだ。
皇太后は貧乏村から俺とアリーナを救ってくれた恩人だ。
どうしても、そむくわけにはいかない」
地面にしゃがみこんだアリーナの腕の中で副騎士団長は苦しそうに言葉をしぼりだす。
「私もずーとパーカスと同じように考えていた。けれど私の弟まで焼こうとする皇太后は許せない。お願いだからもっとよく考えてみて。
皇太后は私達が思っているような人じゃないわ」
「俺には兄弟もいないし両親も去年病で亡くなった。
だから村への配慮が足りなかったというわけか。
賢いアリーナならわかるだろ? 教えてくれ」
「ええそうよ。あと私への配慮も足りないわ。私の家族は貴方の家族でしょ。
だってパーカスは私に『大きくなったら嫁にもらってやる』って言ったじゃない」
「あんなガキの頃の話を真に受けていたのか?」
「ええそうよ。だってあの時からずーと私はパーカスを好きだったんだもの」
「俺にいつもツンケンしてたのに?」
「なかなか素直になれなくて……」
「そうか。その言葉を地獄に落ちる前に聞けてよかった。
けど俺の方がお前をずーと愛しているはずだ。気がつか……」
パーカス副騎士団長は告白の途中でパタンと目を閉じた。
「いやあああ。パーカス。私をおいていかないで!」
自分の胸の中でぐったりする副騎士団長にアリーナは泣き叫ぶ。
なんて切ないの。私までポロポロ泣いていると身体ごと大きな手でつかまれた。
「キャンディ。大丈夫か」
手の主はレイン。レインは私の頭を愛しそうに撫でるといつものポショットの
中にしまう。
けどこのまま自分だけヌクヌクとここに隠れているのは嫌。
私はお飾り皇妃なんかにはなりたくないから。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

半世紀の契約

篠原皐月
恋愛
 それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。  一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

完結·婚約破棄された氷の令嬢は、嫁がされた枯れおじのもとで花開く

恋愛
ティリアは辺境にある伯爵の娘であり、第三王子ガフタの婚約者であった。 だが、この婚約が気に入らないガフタは学園生活でティリアを冷遇し、卒業パーティーで婚約破棄をする。 しかも、このまま実家に帰ろうとするティリアにガフタは一回り以上年上の冴えないおっさん男爵のところへ嫁ぐように命令する。 こうしてティリアは男爵の屋敷へと向かうのだが、そこにいたのは…… ※完結まで毎日投稿します ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿中

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!

灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ? 天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

処理中です...