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5章裏切りと真実の愛
2,孤独な帝王&御魂士
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ウサギ村で初めてレイン様に会った時、氷の彫刻のような人だと感じた。
美しいけれどその姿はどこか儚げで、何かの拍子で粉々に砕け散ってしまいそうだったからだ。
「『もしあの日、自分が母の離宮に会いに行かなければ、母は殺されずにすんだかもしれない』
ってレイン様はずーと自分を責め続けているんだわ」
そう思うと、レイン様が不憫すぎて私の胸はキリキリと痛む。
窓辺のヘリにチョコンと腰かけて、のんびりと美しい庭園を鑑賞するつもりだったのに……。
気がつけばいつの間にかレイン様の事ばかり考えている。最近何を見ても何をしても、頭の中に浮かぶのはレイン様の事ばかり。
あの日。刺客殺しの件をうちあけられてから、ずーとこんな調子なのだ。
今。レイン様は貴族院の定例会議に出席している。
いつもなら私を連れて行ってくれるに、今回は置いてきぼりだ。レイン様はしれっとポショットを身体からはずすとサッサと部屋を後にした。
「俺が部屋に戻るまで、大人しくしているんだぞ。
俺の許可なく、出歩くんじゃないぞ」
「どうして急にそんな事を言うのよ。今まで通り、私も会議に連れていって欲しいな」
しかめっ面をして強い口調で命令するレイン様に口をすぼめる。
「ぬいぐるみがキリン村で魔法の雪をふらせた話が国中にひろがっている。
今やウサ公は皇国民のマスコットだ」
「アリーナから聞いているけど、私、凄い人気者になっちゃったみたいね」
照れくさくて、短い腕でテへへと頭をかく。
「喜んでいる場合じゃない。目立つ者は排除するが皇城内のルールだ。
きっと反皇帝陛下派がウサ公をなんとかしようと暗躍しているぞ。
だから今は人前にでるのは極力控えた方がいい」
「私をなんとかしようって悪いヤツらね。そんなヤツらはウサギジャンプでぶっ飛ばしてやるわ」
そう言ってファイテングポーズをとって、戦闘意欲を見せつけた。
なのにレイン様はフッと目を細めて、大きな手で私の頭を優しくなでただけ。
そしてその後、無言で部屋を去って行った。
「もう!レインたら。心配のし過ぎよ。
それにしてもこんな小さなぬいぐるみのままじゃ、行動に限界があるわ。
あーあ。早く人間の体に戻りたい。
一体どうすればいいかしら。こればかりはラビもなんともできないみたいだし」
目を閉じて胸の間で両手を組んでアレコレ思案していたら、突然ノックもなしに扉がバタンと開いた。
「あら。もう会議はおわったの?
早かったわね」
てっきりレイン様が戻ってきたと思って、ピョーンと窓辺から飛び降りる。
けれど扉の隙間から顔をだしたのはルーカス様だった。
「実はね。キャンディ。貴方にいい知らせを持ってきたの」
ルーカス様はフードがついた丈の長い黒いローブをはおっている。そのせいかいつものクールビューテイな感じとは違う。
「いい知らせって何?」
「貴方が人間に戻れる方法が見つかったのよ。
今すぐ戻らせてあげるから、黙って私についてきなさい」
「それは本当に本当なの?」
顔をパッと輝かせて、ルーカス様を見上げた。
「本当に決まってるでしょ。私はルーカスよ。けっして嘘はつかないの」
「わかったわ。信じるから、どうやって戻るか教えて欲しいの」
「いいわよ。実はね。お母様に相談したら、孔雀国の優秀な御魂士を紹介してくれたの」
「御魂士って?」
ルーカス様のお母様といったら孔雀国の王妃さまだ。聞いたことがない職業だけど信頼に値するだろう。けど念のため確認してみる。
「迷子になった魂を元へ戻す専門職よ。孔雀国にはね。公表されてないけれど、貴方のように魂が迷子になる人が多いんだって。それで王家が内密に御魂士を雇っているの。
御魂士に貴方の事を話したら、自信たっぷりにこう言ったわ。
『なんてことない問題です。すぐにでもぬいぐるみから魂を移してさしあげましょう』
って」
「へー。孔雀国では私のようなケースはよくあるのね。知らなかったわ。
レインも知らなかったのかしら?」
もしも知っていたなら、なぜ教えてくれなかったのだろう。
「わからないわ。でも孔雀国は皇太后様の母国よ。たとえ知っていても孔雀国に頼りたくはなかったと思うわ」
「そっか。二人は犬猿の中だものね」
「そういう事よ。じゃあこれで話はついたわね」
ルーカス様はフードを深くかぶって自分の顔を隠すと、手にしたバスケットに私を押しこむ。
「今から御魂士に会いに行くわよ」
「え! 今から? レインが帰ってきてからじゃダメかしら。
私、約束したのよ。レインが戻るまでここにいるって」
「ダメよ。皇帝陛下は貴方の事になると異常な心配性になるでしょ。
きっとこの件も大反対するに決まってるわ」
「たしかにそうだわ。こっそり人間に戻ってレインを驚かすのも面白そうね」
「そうよ」
「ふふふ。レインがどんな顔をするか楽しみだわ」
バスケットの中からほんの少しだけ顔をのぞかせた私はニマニマがとまらなかった。
美しいけれどその姿はどこか儚げで、何かの拍子で粉々に砕け散ってしまいそうだったからだ。
「『もしあの日、自分が母の離宮に会いに行かなければ、母は殺されずにすんだかもしれない』
ってレイン様はずーと自分を責め続けているんだわ」
そう思うと、レイン様が不憫すぎて私の胸はキリキリと痛む。
窓辺のヘリにチョコンと腰かけて、のんびりと美しい庭園を鑑賞するつもりだったのに……。
気がつけばいつの間にかレイン様の事ばかり考えている。最近何を見ても何をしても、頭の中に浮かぶのはレイン様の事ばかり。
あの日。刺客殺しの件をうちあけられてから、ずーとこんな調子なのだ。
今。レイン様は貴族院の定例会議に出席している。
いつもなら私を連れて行ってくれるに、今回は置いてきぼりだ。レイン様はしれっとポショットを身体からはずすとサッサと部屋を後にした。
「俺が部屋に戻るまで、大人しくしているんだぞ。
俺の許可なく、出歩くんじゃないぞ」
「どうして急にそんな事を言うのよ。今まで通り、私も会議に連れていって欲しいな」
しかめっ面をして強い口調で命令するレイン様に口をすぼめる。
「ぬいぐるみがキリン村で魔法の雪をふらせた話が国中にひろがっている。
今やウサ公は皇国民のマスコットだ」
「アリーナから聞いているけど、私、凄い人気者になっちゃったみたいね」
照れくさくて、短い腕でテへへと頭をかく。
「喜んでいる場合じゃない。目立つ者は排除するが皇城内のルールだ。
きっと反皇帝陛下派がウサ公をなんとかしようと暗躍しているぞ。
だから今は人前にでるのは極力控えた方がいい」
「私をなんとかしようって悪いヤツらね。そんなヤツらはウサギジャンプでぶっ飛ばしてやるわ」
そう言ってファイテングポーズをとって、戦闘意欲を見せつけた。
なのにレイン様はフッと目を細めて、大きな手で私の頭を優しくなでただけ。
そしてその後、無言で部屋を去って行った。
「もう!レインたら。心配のし過ぎよ。
それにしてもこんな小さなぬいぐるみのままじゃ、行動に限界があるわ。
あーあ。早く人間の体に戻りたい。
一体どうすればいいかしら。こればかりはラビもなんともできないみたいだし」
目を閉じて胸の間で両手を組んでアレコレ思案していたら、突然ノックもなしに扉がバタンと開いた。
「あら。もう会議はおわったの?
早かったわね」
てっきりレイン様が戻ってきたと思って、ピョーンと窓辺から飛び降りる。
けれど扉の隙間から顔をだしたのはルーカス様だった。
「実はね。キャンディ。貴方にいい知らせを持ってきたの」
ルーカス様はフードがついた丈の長い黒いローブをはおっている。そのせいかいつものクールビューテイな感じとは違う。
「いい知らせって何?」
「貴方が人間に戻れる方法が見つかったのよ。
今すぐ戻らせてあげるから、黙って私についてきなさい」
「それは本当に本当なの?」
顔をパッと輝かせて、ルーカス様を見上げた。
「本当に決まってるでしょ。私はルーカスよ。けっして嘘はつかないの」
「わかったわ。信じるから、どうやって戻るか教えて欲しいの」
「いいわよ。実はね。お母様に相談したら、孔雀国の優秀な御魂士を紹介してくれたの」
「御魂士って?」
ルーカス様のお母様といったら孔雀国の王妃さまだ。聞いたことがない職業だけど信頼に値するだろう。けど念のため確認してみる。
「迷子になった魂を元へ戻す専門職よ。孔雀国にはね。公表されてないけれど、貴方のように魂が迷子になる人が多いんだって。それで王家が内密に御魂士を雇っているの。
御魂士に貴方の事を話したら、自信たっぷりにこう言ったわ。
『なんてことない問題です。すぐにでもぬいぐるみから魂を移してさしあげましょう』
って」
「へー。孔雀国では私のようなケースはよくあるのね。知らなかったわ。
レインも知らなかったのかしら?」
もしも知っていたなら、なぜ教えてくれなかったのだろう。
「わからないわ。でも孔雀国は皇太后様の母国よ。たとえ知っていても孔雀国に頼りたくはなかったと思うわ」
「そっか。二人は犬猿の中だものね」
「そういう事よ。じゃあこれで話はついたわね」
ルーカス様はフードを深くかぶって自分の顔を隠すと、手にしたバスケットに私を押しこむ。
「今から御魂士に会いに行くわよ」
「え! 今から? レインが帰ってきてからじゃダメかしら。
私、約束したのよ。レインが戻るまでここにいるって」
「ダメよ。皇帝陛下は貴方の事になると異常な心配性になるでしょ。
きっとこの件も大反対するに決まってるわ」
「たしかにそうだわ。こっそり人間に戻ってレインを驚かすのも面白そうね」
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