【完結】冷酷陛下はぬいぐるみ皇妃を手放せない~溺愛のツボはウサギの姿?それとも人間(中身)の私?~

りんりん

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5章裏切りと真実の愛

6,怒りの皇帝陛下2

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もし私がお金めあてでレイン様に嫁がなかったら……。
もし私がぬいぐるみにならなかったら……。
レイン様はこれまで通り冷徹な皇帝陛下として敵対する貴族に睨みをきかせていたはずだ。
私はレイン様に散々迷惑をかけたあげく、今ここでレイン様の弱みになろうとしている。
最後の最後まで役立たずなんて嫌だ。
だから私は目を閉じると祈った。
「ここにいる私達全員を炎で焼きつくして下さい」
同じ言葉を何度も何度も繰り返していると、突然グレイ叔父様の怒声が耳をつんざく。
「気持ち悪い奴らだな。あっちへ行けよ!!!」
「何かあったのかしら?」
目を開けて叔父様へ視線を移した私は口をポカンとあけて驚いた。
あちこちの炎が人型になり、伯父様を囲んでいたのだから。
「まずはこの男を火あぶりにしてやろう」
どこからだろう。ラビの声がする。
どうやら私の願いは届いたようだ。
ホッとしたが、皆が天井を見上げガタガタと震えているのに気がついた。
不思議に思って天井を仰ぐと、なんと巨大化したラビが大きく翼を広げて浮遊しているではないか。
「どうしてあんな姿をしているのかしら」
私が知っている七色の身体と虹色の瞳はそこにはない。
目の前のラビは塗りつぶされたような真っ黒な身体に不気味に光る金色の瞳をもっていた。
「ワシの名はラビ。ラビット家を守る聖獣だ」
「おおお。俺はずーと貴方を待っていたんだ。これからは俺と手をくみ、ウサギ族が支配者になる新世界を築こうじゃないか。俺が王になれれば貴方に贅をつくした神殿を
与えよう」
グレー叔父様がニヤリとすると、炎は一斉に叔父様に飛びかかってゆく。
「うおおおお。熱い!!! ラビ。この化け物を今すぐ
追い払ってくれよ」
「それはできん」
「俺だってラビット家の一員だぞ。守ってもらえる権利はあるはずだろ。なのになぜだ」
「根性の腐った奴は一族とは認めん」
「ひゃあああ。キャンディ助けてくれー」
ラビの冷酷な声とグレー叔父様の悲鳴が重なり部屋中に響き渡る。
そして黒焦げになった叔父様の身体とラビが忽然と私達の前から消えた。
「あれが聖獣なのか!?
この世にあんな生き物がいるとは……信じられん」
エドワルド所長が顔を蒼くして頭を左右にふった時、
バタンと大きな音をたてて部屋の扉が開き、剣が所長に向かって飛んでくる。
「俺だって信じられん。
やはりお前が俺を裏切っていたとはな」
声の主はレイン様だった。
「レイン様! ここは敵ばっかりよ。
私は大丈夫だから逃げてちょうだい」
全身から最後の力をふりしぼって声を上げていると、剣が所長の胸を貫いた。
「さすがレインだ。あの距離から見事命中とはな」
エドワルド所長が呟きながらバサリと床に倒れると、あたり一面が真っ赤な血に染まる。
「見ろ。エドワルド。これがお前の自慢の血だ。
 残念ながら俺には平民の血とまったく同じに見えるがな」
レイン様はそう言うと唇を引き結びあたりを見渡した。
「いつまでも血筋にこだわっているとこうなるんだ。
他にもそういうヤツはいるだろう。いるならでできて俺と勝負しろ。
もし俺に勝ったらすぐに皇帝の座を譲ってやるぞ」
けれども戦いを望む者は誰一人いないようだ。皆はオズオズと後ずさりを始める。
「裏でコソコソと動きまわる事しかできないのか!?
なんとも情けない奴らだな」
レイン様の言葉に背後に控えるダン騎士団長と騎士達から
笑い声がもれた。
「恐れながら皇帝陛下。そんな風に笑ってられるのもあとわずかでしょう。
なぜならもうすぐ貴方の大事な皇妃の命がつきるからです」
勝ち誇ったような顔をしてパリスがしゃしゃりでる。
「まずは名をなのれ。皇帝陛下に失礼だろ」
ダンはパリスに声を荒げたがすぐに顔を曇らせた。
パリスの隣にいるルーカス様に気がついたのだろう。
そんな騎士団長が気の毒だったけど、私にはどうする
事もできない。
「僕は没落したリント公爵の息子、パリスでございます。
先ほど皇妃様に毒矢を刺して父の仇をとらせていただきました」
「なに。毒矢だと!」
いつも冷静なレイン様が片眉を上げて目を見開く。
「はい。あと数時間で毒は全身にまわる事でしょう」
静かに言葉をつむいだパリスは手の中に隠し持っていた小刀でレイン様を切りつけようとした。
けれどすぐにレイン様にナイフを持つ手をつかまれてしまう。
「こんなに震えていたら俺どころか小鳥一匹仕留められないぞ。
ダン。コイツを地下牢に連れていけ」
「わかっているな。陛下を殺そうとしたんだ。罪は重いぞ」
ダンはチラリとルーカス様を見てからパリスを捕縛した。
「妾はそなたの可愛いヌイグルミを借りて、皆と遊びたかっただけじゃ。
なのになぜこんな大騒ぎになってしまったのかのう。
おかげで妾はすっかり疲れてしまった。
悪いが部屋に戻らせてもらおう。
さあ。ルーカス行くぞよ」
皇太后様が扇を仰ぎながら、ゆっくりと退出しようとした。
けれどもレイン様が両手を開いてゆく手を塞ぐ。
「皇太后様。貴方を皇帝陛下殺人未遂の件で逮捕します」
「おやおや。これは驚いたのう。
なぜそうなるのじゃ。妾はパリス殿と一緒にいただけで、何もしてはおらんぞ」
皇太后は優雅に微笑んだ。がその瞳はまったく笑っていない。
「先ほどの件ではなく、初夜の日の件でだ。
貴方は爆弾をしのばせたぬいぐるみを侍女に頼んで聖夜の間に置いた。
そう言えばおわかりですか?」
「フフフフ。悪いがそんな事をした覚えはないぞ」
「だが貴方に頼まれたという侍女がいるのですよ」
レイン様がパチンと指をならすと部屋の中にアリーナが現れた。
と同時に皇太后様は目を見開く。
「おのれアリーナ。お主。妾を裏切るのか!
 この恩知らずめが」
「皇太后様がキリン村を切り捨てようとされたので、私も
 同じ様にさせていただきます」
「くくくく。これだから田舎娘は嫌いじゃ」
皇太后様は薄く笑うとレイン様を真っすぐ見据えた。
「妾も年だからのう。最近もの忘れが多い。そう言えばアリーナに頼んだような気もする。
 かといってそれが皇帝陛下を殺そうとした事にはならんじゃろ。
 妾はぬいぐるみに爆弾が隠されていた事など知らなかったのじゃからな」
「本当に爆弾の件はご存知なかったのですか?
 これ以上嘘を重ねると罪が重くなるだけですが」
「しつこいわい!知らんと言っておるじゃろ!」
 皇太后が手にした扇を床に投げつけると、ルーカス様がレイン様の前に進みでて膝をおる。
「ルーカス! まさかそなたまで妾を裏切る気なのか」
「皇帝陛下。私に証言させて下さい」
「よし。続けろ」
「私は皇太后様に頼まれて、ある魔道具屋にぬいぐるみを持っていきました。
 そしてそこでぬいぐるみに爆弾を埋め込んでもらったのです」
「そのぬいぐるみはアリーナが聖夜の間に置いた黒うさぎなのか?」
「はい。あれは皇后様のぬいぐるみ好きにつけこんで考えた皇帝陛下殺害の作戦でした。
 従弟を殺された恨みで目が曇っていた私もその作戦に加担していたので、証拠になりそうな書類を色々と預かっております。
 これは魔道具屋から爆弾ぬいぐるみを受け取った時の引き取り証です。
 受取人の所には私の名前が。依頼人の所には皇太后様の名前が記載されております」
 ルーカス様はスカートのポケットから一枚の紙を取りだすとレイン様に差し出す。
「これでも罪を否定されるのですか!」
 レイン様が皇太后様の目の前で書類をヒラヒラさせると、皇太后様は膝からくずれおちた。
「ルーカス。なぜじゃ。従弟の事はもう忘れたのか?」
「ダンと出会って真実の愛を知った私は過去に縛られるのはやめました。
 これからは未来だけを信じて生きていきたいのです」
 皇太后様の問いかけにきっぱりと答えたルーカス様の細い肩をダン騎士団長はしっかりと抱き寄せる。
 「よかったわね。ダン騎士団長。ルーカス様」
 ホッとした瞬間、全身から急に力がぬけていき私は意識を手放してしまう。
 
 
 
 
 
 
 
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