上 下
4 / 61

4、レオン護衛騎士

しおりを挟む
『ありがとう。
 これから、僕が全力でアナタをお守りします』

 推しは聖女になると決めた私にこう約束した。

 きっとこの人はあの時のリオン王子に違いない。

「ねえ。今まで一体どこに隠れていたのよ。
 王宮にあがってから、ずーと探してたんだから」

 やっと会えた喜びで涙があふれそうになるのを、グッとこらえて彼の顔を見上げる。

 なのに、なのに。

 そこには尊い推しの姿はなかった。

「私はどこにも隠れていません。
 常に王様のお側に控えていましたが。
 聖女様は実に面白い事を言うのですね」

 唇を引き結んだ厳しい顔で、ポカンとする私を見下ろすのは王様の護衛騎士。

 レオンだった。 

「なーんだ。つまらない。
 レオンだったの……」

 心底落胆した。

 悪いと思いながらも、ガクリと肩を落として太くて長いため息をついてしまう。


 けれど、生真面目な彼を当惑させる気は心底ない。

「良かったじゃない。
 悪魔よりレオンの方が千倍マシだもん」
と自分で自分をなぐさめる。

 レオンは王宮一強い騎士である。

 日焼けした肌に琥珀色の鋭い瞳。

 服の上からでもわかる鍛えあげられた身体の上には、りりしい短髪の整った顔。

 レオンと王様が並ぶと、一対の美しい彫刻のようだった。

 髪の色も瞳の色もまるで違うのに、同じ芸術家から同じ石で彫られたような、とてもよく似た像である。

 レオンはまさか前王様の隠し子? なんちゃってね。

 女たらしだったというサルラ王なら、やりかねないか。

「聖女様。
 王様はすでにお着きです。
 王様のいらっしゃるお部屋に案内しますので、私について来て下さい」

 レオンは私を身体から離すと、マントをヒラリと翻してきびすをかえした。

 マントが奇麗な半円を描いて宙に舞う。
 
 その瞬間だった。

 あまりに懐かしい柑橘系の香りがした。


「いい匂いね。
 昔、私が出会った推しと同じ香りだわ。
 私、鼻だけはいいんだから間違いないの。
 彼は言ってたわ。
 自分用に特別に調香してもらったって。
 ねえ。教えて。
 レオンはどこでそれを手に入れたの」
 
 先をいそぐ大きな背中に向かって、サラリと探りをいれてみる。

 王宮で暮らしていたんだもん。

 王子様の持ち物は唯一無二って事ぐらいは学習した。

 さっきのセリフといい、この香りといいどうも怪しい。

 ひょとしたら、レオンは推しについて何か知ってるんじゃないかな。

   1つの疑惑が頭に貼りついてはなれない。

 がぜん彼の正体を暴きたくなったじゃない。

 
 


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ダブルドリブル

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:126

秘密の男の娘〜僕らは可愛いアイドルちゃん〜 (匂わせBL)(完結)

Oj
BL / 完結 24h.ポイント:518pt お気に入り:8

私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:332

【完結】あなたの色に染める〜無色の私が聖女になるまで〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:405

会社を辞めて騎士団長を拾う

BL / 完結 24h.ポイント:3,280pt お気に入り:40

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:526pt お気に入り:673

最推しの幼馴染に転生できた!彼とあの子をくっつけよう!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:141

推しの推しは、推しの僕で知らぬ間に…推されていたようです

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:4

処理中です...