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17、大人気のにこにこ焼き

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 お店をオープンさせて半月がすぎた。

 まだ商品はにこにこ焼きというお菓子だけだけど、これがなかなか評判がいいのだ。

 にこにこ焼きはどんなお菓子かっていうとね。 

 小麦粉を卵と水で溶いて鉄板で丸くやいた物に、目と口の焼き印を押したシンプルなお菓子なのだ。

 にこにこペンダントのお菓子バージョンといったところかな。

 開店から3日間は1日100個を無料で配ったんだけど、ほとんどの人がリピ買いしてくれたんじゃないかな、て思うほど4日めからはお客さんがおしよせてくれた。

 そして、誰もが同じ言葉を口にする。

「にこにこ焼きを食べた瞬間、イライラした気持ちがふっとんで笑顔になる」
と。

 それってピョーンと飛び上がってしまいそうになるほど喜しい。

 だって私。

 にこにこ焼きを手渡すとき、「これを食べるとお客さんが笑顔になりますように」と心でいつも願っているから。

「オイラの水のおかげだぞ」

「ちがうわ。ワタクシの火のおかげざます」

 白いコック帽をかぶって、毎日熱心にお菓子をつくってくれるマカとロンはそう主張している。

 小さな胸をはって得意そうに頬をふくらませる精霊は、食べてしまいたいほど可愛い。

「そうだ!
 次はマカとロンの姿をしたクッキーを販売してみようか。
 クッキーの名前はね。
 お菓子の精霊よ」

「わーい。オイラ大賛成だぞ」

「ワタクシもポポがどうしてもやりたいなら反対はしないざんす」

 ある日の昼下がり。

 午前中ににこにこ焼きが売り切れてしまって、お店のイートインスペースのテーブルで、マカとロンとジンジャージュースを飲みながら、新商品の話をしていた時だった。

「ポポ。たいへん、たいへん」
と血相をかえてリリーがお店に飛び込んできたのだ。 

 赤毛を三つ編みにしたリリーは向かいの花屋で働いている。

 気のいいリリーは市場で初めてできた、私の友達だった。

「とりあえずこれを飲んで落ち着いてね」

 ゼエゼエと息を荒げるリリーに、ジンジャージュースの入ったカップを手渡す。

「ポポ。ビッグニュースよ。
 明日ね。
 リオン王様がこの市場の視察にくるらしいわよ」  

 リリーはそうまくしたてると、一気にジュースを飲み干した。

「ねえ。ポポ。
 王様は歴代の王の中でも、1番美しいって評判の方よ。
 あーあ。
 そんな方がこのむさくるしい市場に、いらっしゃるなんて夢みたいだわ。 
 もしよ。もし。
 私がリオン王様に見初められたら、どうしよう」

 私より少し年上のリリーは、数日前にパン屋のジョーに告白されてつきあっていたにのに、そんな事を言うなんてがっかりした。

「それって最悪だよ。
 アイツはね。
 歴代の王の中で1番バカだもん。
 私はジョーの方が1億倍マシだと思う」

 紅潮した顔を両手でおおって、きゃあきゃあ騒いでいるリリーに、冷たい視線をなげかける。

「やあね。ポポ。
 まるで王様と暮らしたみたいに言うのね」

「まあ、そんなところかな」

「もう、真面目な顔して冗談言わないでよ」

「へへへ」

 リリーと笑いあいながらも、すでに脳内はレオンでいっぱいになっていた。

 だって、リオン王様が来るって事は、護衛騎士レオンも来るってことだから。

 なんとか話すチャンスをつかみたい。
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