氷の森で苺摘み〜女装して継母のおつかいに出た少年が王子に愛される話〜

おりたかほ

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第二十章 王の部屋

1 王の部屋

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1 王の部屋



「……なるほどね。まあ、いろんなことが重なっちゃったわけね」

 トーマは頭をかきながら、僕らの話を大雑把にまとめた。

「執事殿がテンパる姿が目に浮かぶよ。俺に相談してくれればよかったのに」
「トーマ様はお留守だったじゃないですか」
「まったく、うかうか留守にできないねえ」
「何か策はありますか」
「策も何も……」

 トーマは笑った。

「本当のことをお話すりゃすむことだ」

 そう言ってトーマは僕とマリアの鼻をつついた。

「お話しするって、誰に?」

 ニケが尋ねた。

「王妃様にきまってるでしょ」

 すぐに二人を連れて行く、とトーマは言って立ち上がった。

「ほら、なにしてんの。立って立って」

 イタチの姿に戻って膝の上に丸くなっていたピノは、ヒゲを揺らして顔をこすると、僕の首元に這いあがって襟巻きになった。

「しかし、あの、執事殿のご命令は……」
「あのねえ、俺を誰だと思ってんの」

 トーマは苦笑しながら言った。

「王のお気に入りだぞ?」

 ニケは小さく、そんな役職ないっすよとつぶやいた。

 僕たちはトーマに付いて牢を出た。神殿を抜けて中庭に面した回廊まで来ると、トーマは立ち止まって言った。

「ニケ、お前はここでジュンが来るのを待っててくれる?」
「かしこまりました」
「来たら、王様の部屋に連れてきて」

 ニケは目をぱちくりさせた。

「……王妃様の部屋じゃないんすか?」
「そうだよ、王様の部屋ね」

 トーマはニケの肩を叩くと、また歩き始めた。

 僕はニケにハグすると、トーマの後に続いた。マリアとニケは不思議そうに顔を見合わせながら分かれた。


***************


 トーマは迷いなくお城の廊下を進み、小さな広間のような場所に出た。壁一面、絵画や彫刻で装飾されている。その突き当たりの大きなドアの前で、トーマは立ち止まった。

「王様の寝室よ」

 マリアは心なしか青い顔をして僕にささやいた。こんな夜更けに、押しかけていい場所なわけがない。僕はごくりと息を呑んだ。

 トーマは僕たちの不安をよそに、扉をリズミカルにノックして、返事もないのに開けてしまった。

「トーマ様?」

 扉の内側から慌てたように従僕さんが出てくる。

「今はだめです!」
「君は寝といで。あとは俺が代わるよ」
「いや、だって、その者たちは?」

 従僕さんはトーマとその後ろの僕たちを見やりながら扉の外に押しやろうとした。

「ああ、この子達は王妃様に用があるんだ」
「えっ?」
「いらっしゃるんだろ?」
「なんだ。ご存知で……」
「当たり前だろ。ほら、王様のことは俺に任せて。お前は休んできな」

 従僕さんはほっとした顔で頷くと、礼をして部屋を出て行った。

「何してんの、おいで」

 気後れして廊下に立ち尽くしている僕たちを、トーマは中から手招きした。

 扉を入ると、控えの従僕の小部屋だった。小さなソファと呼び鈴がある。その壁にくり抜かれたアーチを隔てた向こうが、王様の部屋らしい。

「王様、トーマです」

 部屋の奥から衣擦れの音が近づいて来た。

「何用じゃ、こんな時間に」

 トーマが踏み込むより早く、王様自らがナイトガウン姿で現れた。僕とマリアは慌てて目を伏せて、その場にひざまずいた。

「王妃様にお話が」
「……王妃に?」
「道中の睦まじいご様子から察するに、きっと今夜はこちらにおいでだと」

 トーマは部屋の奥を覗く。王様は慌てて、それを遮るように立ち塞がる。

「まったく、困ったやつじゃ。そこまで察したならば遠慮するのが筋ではないかの」
「おや王様、私には遠慮はいらないと、いつも仰るではないですか」

 マリアは僕の隣でぎゅっと目をつぶっている。気持ちはわかる。信じられない会話が繰り広げられている。

 王妃様と二人きりの時間を過ごしている王様の部屋に乱入するなんて。

 すると、王様の背後でランプが灯されはじめ、部屋が明るくなった。

「アンヌ!」

 部屋の奥から現れたのは王妃様だった。白いネグリジェに異国風の長いガウンを羽織っている。

「まあ、トーマに、マリアじゃないの」

 髪はいつものように結い上げていなかったので、別人のように見えた。

「可愛い小姓さんまで、私に何のご用?」

 王妃様はみんなの後ろにいる僕にも微笑みかけた。面白がるようにきらめく目と、それを誤魔化すようにさがる眉。その仕草と表情があまりにもケイトに似ていて、僕は言葉を失った。

「どうぞ、お入りなさい」

 王妃様は燭台を持ったままゆっくりと部屋をめぐって灯を灯していく。

 王妃様の背中で豊かな滝のように揺れる銀色の髪に、僕はぼんやり見とれてしまった。

「なにを見ておる?」

 僕ははっとして王妃様から目を離し、王様を見た。

 王様の鳶色の目が僕を見ていた。王様とケイトは生き写しだとジュンは言う。

 僕は無意識にケイトの面影を探したけれども、王様の瞳は繊細で穏やかで、ケイトとは別の人格を宿していた。

 王様の視線は妙に長く僕の顔にとどまったように感じた。

「入ってもよろしいですか?」

 トーマが言う。王様はため息をついてトーマに道を開けた。


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