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七章 嗤う悪魔と、最後の戦い(2)上
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ロイを中心に、レオン達が援護攻撃を繰り出し、休む暇もなく悪魔への攻撃が開始された。
サードは、彼らが致命傷を受けないよう目を光らせた。危ない場面で彼らの間に割って入り悪魔の攻撃を受けとめ、かわしつつ攻撃し返すのが手いっぱいで、悪魔を殺すことだけに集中出来るチャンスは訪れない。
彼らがいなかったなら、状況は違っていたかもしれない。これまで守りながらの戦闘は経験になく、サードにとってはかなり戦いにくい状況だった。
しかも、ところ構わずエミルは爆弾を降らせるし、無機質の大小の物体の動きも把握しなければならなかった。いいところでレオン達の攻撃に遮られるなど、状況はかなりよろしくない。
一対六になった悪魔は、隙が出来れば構わず攻撃を放ってくるようになっていた。一斉に相手をした方が楽しいと気付いたのか、更にスピードと殺気量が上がっている。
エミルが悪魔を大剣で吹き飛ばしたのをきっかけに、戦場は運動場から校舎の大広間へと移った。サードが力任せに悪魔を上階へと殴り飛ばし、校舎を破壊しながら戦いの場は次々と変わっていった。
悪魔が休むような隙を与えない、多勢による攻撃だ。ロイを中心とした聖騎士の子孫たちのコンビネーションは絶妙で、時にはユーリスがフォローするように、ナイフと槍先で悪魔の隙を作ろうと画策してくれる。
だが、彼らと共に戦った事のないサードは、非常にやりにくさを覚えていた。ロイ達のコンビネーションと全く息が合わず、苛立ちが積もっていた。
「何故、あの位置から飛び出してくるのですか? 少し防ぎ方を誤っていたら、悪魔の蹴りで肋骨を負傷するところでしたよ」
「おい、副会長。俺はお前が急に出てくるから、代わりに悪魔に吹き飛ばされて、三階から一階まで貫通する威力で叩きつけられたんだけど?」
「私には到底真似出来ませんね。通常であれば死んでいます。普通なら動けません」
「それは否定しねぇ」
ロイ達が、悪魔を追って天井に空いた穴から屋上へ飛び出した後。瓦礫を足場に跳躍して三階へと戻ってきたサードは、瓦礫を払いつつそう答えてレオンの状態を確認した。
先程、悪魔の攻撃を防いだ際、レオンは背中から壁に衝突していた。制服のジャケットには薄らと血が滲んでいたが、擦り傷程度で大きな損傷はないらしい。そう分かって、サードはひとまずこっそり安堵の息をついてしまう。
レオン達は生身の人間ではあるものの、さすがは聖騎士の一族というべきか、その身体能力はかなり高かった。戦う中で悪魔のスピードにも追いつき始めており、エミルに関しては、百キロ近い瓦礫を持ち上げるほどの怪力も備わっている。
常人よりも丈夫で力もあるおかげもあって、今のところ重症者と死亡者は出ていない。……全員が少なからず擦り傷や打撲といった軽傷を負っているので、安心は出来ないのだが。
サードは、「はぁ」と溜息をこぼして、天井に空いた穴からレオンと共に屋上へ飛び出した。そこには、ロイ達から一斉攻撃を受けている悪魔がいて、不意に、カチリと目が合った。
「お前、すごく頑丈だねぇ。とても面白いよ」
言いながら、悪魔が赤い目を細めて笑った。聖剣により焼き切れた頬の傷が、ゆっくりと閉じていくのが見えた。
どうやら聖なる魔力やら加護やらで受けた損傷は、超治癒再生が遅れるらしい。ロイ達は、剣に宿っている対悪魔の力を身にまとっており、彼らの身体に触れるだけでも悪魔の肌は焼けてしまうようだった。
「うーん。身体そのものに、神の強い加護を受けた魔力が移るのは、厄介だなぁ」
自身の黒い剣で攻撃を受けとめた悪魔が、ちっとも困っていないような口調でそう呟いた。
悪魔と剣を交えたロイが、刃をギリギリと軋ませながら黒い剣を力で押し、汗が浮かぶ顔に苦い表情を浮かべて口角を引き上げる。
「想定規格外の存在であるお前の方が、よっぽど厄介だぞ」
そう言いながら目配せすると、悪魔の背後からエミルが飛びかかって大剣を振り降ろした。しかし、悪魔はロイの剣をあっさり弾き飛ばすと、難なく避けてしまう。
それを見たサードは、歯痒い思いで「またかよ」と舌打ちした。
戦い始めた当初から、ずっとこの繰り返しである。悪魔は自身の深いところまで貫かせないよう、巧妙に剣の切っ先を避け続けていた。
こうして全員での闘いが始まってから、どれくらいの時間が経過しているのかは分からない。ただ、自分の呼気もやや上がり始めているので、魔獣と対峙した時の数倍の時間が経過しているとは察せる。
サードは、額に浮かんだ汗を拭った。ずっとほぼ全力状態で、ロイ達がここまでついて来られた事に関しては、人間にしては強いなと褒めてやってもいいような気がする――が、やはり邪魔である。
多分、奴らがいなかったら、とっくに決着は付けられていたのではないだろうか。戦闘敷地内に人間がいるなんて、計画にはなかった大誤算である。
数々の邪魔な場面を思い返したサードは、悪魔と闘うロイとエミルの動きを改めて目で追った。彼らのそばにはユーリスが待機していて、隙を作るべくタイミングをみて魔法攻撃とナイフを放っているのが見えた。
ずっと、このままのやり方では埒(らち)があかない。彼らの事を考えると、これ以上の長時間に及ぶ戦いには持って行きたくなかった。
その時、サードは、ふと思い立った。
もし、こちらで悪魔の動きを封じる事が出来れば、大人しく引っ込んでいてくれない彼らの剣を利用して、この戦いをどうにか終わらせられるのではないだろうか?
「おい、副会長と書記」
方法を思い付いたサードは、隣にいたレオンと、近くで剣を構え直していたソーマにすぐ声を掛けた。
「お前らの剣は、どんな武器よりも悪魔を確実に斬り裂けるんだろ?」
「――そうですが。何か?」
改めるようにして確認されたレオンが、僅かに警戒を浮かべた表情でそう答えた。サードは、構わず次の質問をした。
「あいつの動きを『どれくらい止められれば』、お前らは高確率で悪魔の急所を狙える?」
「急所、ですか……あの、サリファン先輩。こちらの陣形が、もし一番良い状態であるとすれば三秒はかからないと思いますよ」
ソーマがためらいがちに答え、「でも」と続けた。
「状況によっては、二十秒は必要かもしれないです」
「分かった、『それくらいならいける』な」
「え、その、それは一体どういう――」
「俺が今から悪魔を止める。悪魔の動きを完全に封じられた時には、合図を出すから、そう会長達にも伝えておいてくれ」
半悪魔体として、本能のままに戦い動けないというのなら、今の状況で一番効率のいい方法を考えて計画を遂行するまでだ。
何せ、自分には時間がない。
ロイ達の体力は、それよりも早くに底を尽きるだろう。
本来は自分の獲物だというのに、まるでサポート役割を負うのは少々癪ではあるが、こうなったら彼らには最後まで責任をもって付き合ってもらう事にしよう。
悪魔が放った剣圧で、ロイが吹き飛ばされた。ユーリスとエミルが、屋上の縁まで蹴り飛ばされたタイミングで、サードはコンクリートを砕く驚異的な瞬発力で、すかさず悪魔の懐に入っていた。
「おや、今度は君かい?」
ようこそ、というように笑う、背の高い悪魔を見上げた一瞬、サードは時が止まったように感じた。頭の中では、ただただずっと、どうすればロイ達に急所を向けた状態で、この悪魔を抑え込めるのかを考えていた。
何しろ、確実に仕留めてもらわないと、自分は働き損になってしまうだろうから。
カチリ、と思考の指針が振れたのを感じた。そうしたら悪魔が「そろそろ来てくれると思っていたんだよ」と、にっこりと笑って声を掛けてきた。
「君となら、人間の武器なんて使わずに済む。とても愉しいよ」
「――ご指名とは有り難いな。俺は武道派の風紀委員長だ、楽しく殺しあおうぜ、悪魔」
悪魔が残酷さの漂う笑顔を返し、サードも殺気立った不敵な笑みを浮かべて見せた。向かい合う全く同じ赤い目が、互いにざわりと鈍い光を帯びる。
さぁ、最後の戦いをしよう。
どちらかが生き残る、なんて事は、有り得ない。
ここで悪魔も、半悪魔も死ぬのだ。サードは体内の血が、悪魔の死を求めて騒ぎ出すのを感じながら「殺し合いをしようか」と拳を構えた。
サードは、彼らが致命傷を受けないよう目を光らせた。危ない場面で彼らの間に割って入り悪魔の攻撃を受けとめ、かわしつつ攻撃し返すのが手いっぱいで、悪魔を殺すことだけに集中出来るチャンスは訪れない。
彼らがいなかったなら、状況は違っていたかもしれない。これまで守りながらの戦闘は経験になく、サードにとってはかなり戦いにくい状況だった。
しかも、ところ構わずエミルは爆弾を降らせるし、無機質の大小の物体の動きも把握しなければならなかった。いいところでレオン達の攻撃に遮られるなど、状況はかなりよろしくない。
一対六になった悪魔は、隙が出来れば構わず攻撃を放ってくるようになっていた。一斉に相手をした方が楽しいと気付いたのか、更にスピードと殺気量が上がっている。
エミルが悪魔を大剣で吹き飛ばしたのをきっかけに、戦場は運動場から校舎の大広間へと移った。サードが力任せに悪魔を上階へと殴り飛ばし、校舎を破壊しながら戦いの場は次々と変わっていった。
悪魔が休むような隙を与えない、多勢による攻撃だ。ロイを中心とした聖騎士の子孫たちのコンビネーションは絶妙で、時にはユーリスがフォローするように、ナイフと槍先で悪魔の隙を作ろうと画策してくれる。
だが、彼らと共に戦った事のないサードは、非常にやりにくさを覚えていた。ロイ達のコンビネーションと全く息が合わず、苛立ちが積もっていた。
「何故、あの位置から飛び出してくるのですか? 少し防ぎ方を誤っていたら、悪魔の蹴りで肋骨を負傷するところでしたよ」
「おい、副会長。俺はお前が急に出てくるから、代わりに悪魔に吹き飛ばされて、三階から一階まで貫通する威力で叩きつけられたんだけど?」
「私には到底真似出来ませんね。通常であれば死んでいます。普通なら動けません」
「それは否定しねぇ」
ロイ達が、悪魔を追って天井に空いた穴から屋上へ飛び出した後。瓦礫を足場に跳躍して三階へと戻ってきたサードは、瓦礫を払いつつそう答えてレオンの状態を確認した。
先程、悪魔の攻撃を防いだ際、レオンは背中から壁に衝突していた。制服のジャケットには薄らと血が滲んでいたが、擦り傷程度で大きな損傷はないらしい。そう分かって、サードはひとまずこっそり安堵の息をついてしまう。
レオン達は生身の人間ではあるものの、さすがは聖騎士の一族というべきか、その身体能力はかなり高かった。戦う中で悪魔のスピードにも追いつき始めており、エミルに関しては、百キロ近い瓦礫を持ち上げるほどの怪力も備わっている。
常人よりも丈夫で力もあるおかげもあって、今のところ重症者と死亡者は出ていない。……全員が少なからず擦り傷や打撲といった軽傷を負っているので、安心は出来ないのだが。
サードは、「はぁ」と溜息をこぼして、天井に空いた穴からレオンと共に屋上へ飛び出した。そこには、ロイ達から一斉攻撃を受けている悪魔がいて、不意に、カチリと目が合った。
「お前、すごく頑丈だねぇ。とても面白いよ」
言いながら、悪魔が赤い目を細めて笑った。聖剣により焼き切れた頬の傷が、ゆっくりと閉じていくのが見えた。
どうやら聖なる魔力やら加護やらで受けた損傷は、超治癒再生が遅れるらしい。ロイ達は、剣に宿っている対悪魔の力を身にまとっており、彼らの身体に触れるだけでも悪魔の肌は焼けてしまうようだった。
「うーん。身体そのものに、神の強い加護を受けた魔力が移るのは、厄介だなぁ」
自身の黒い剣で攻撃を受けとめた悪魔が、ちっとも困っていないような口調でそう呟いた。
悪魔と剣を交えたロイが、刃をギリギリと軋ませながら黒い剣を力で押し、汗が浮かぶ顔に苦い表情を浮かべて口角を引き上げる。
「想定規格外の存在であるお前の方が、よっぽど厄介だぞ」
そう言いながら目配せすると、悪魔の背後からエミルが飛びかかって大剣を振り降ろした。しかし、悪魔はロイの剣をあっさり弾き飛ばすと、難なく避けてしまう。
それを見たサードは、歯痒い思いで「またかよ」と舌打ちした。
戦い始めた当初から、ずっとこの繰り返しである。悪魔は自身の深いところまで貫かせないよう、巧妙に剣の切っ先を避け続けていた。
こうして全員での闘いが始まってから、どれくらいの時間が経過しているのかは分からない。ただ、自分の呼気もやや上がり始めているので、魔獣と対峙した時の数倍の時間が経過しているとは察せる。
サードは、額に浮かんだ汗を拭った。ずっとほぼ全力状態で、ロイ達がここまでついて来られた事に関しては、人間にしては強いなと褒めてやってもいいような気がする――が、やはり邪魔である。
多分、奴らがいなかったら、とっくに決着は付けられていたのではないだろうか。戦闘敷地内に人間がいるなんて、計画にはなかった大誤算である。
数々の邪魔な場面を思い返したサードは、悪魔と闘うロイとエミルの動きを改めて目で追った。彼らのそばにはユーリスが待機していて、隙を作るべくタイミングをみて魔法攻撃とナイフを放っているのが見えた。
ずっと、このままのやり方では埒(らち)があかない。彼らの事を考えると、これ以上の長時間に及ぶ戦いには持って行きたくなかった。
その時、サードは、ふと思い立った。
もし、こちらで悪魔の動きを封じる事が出来れば、大人しく引っ込んでいてくれない彼らの剣を利用して、この戦いをどうにか終わらせられるのではないだろうか?
「おい、副会長と書記」
方法を思い付いたサードは、隣にいたレオンと、近くで剣を構え直していたソーマにすぐ声を掛けた。
「お前らの剣は、どんな武器よりも悪魔を確実に斬り裂けるんだろ?」
「――そうですが。何か?」
改めるようにして確認されたレオンが、僅かに警戒を浮かべた表情でそう答えた。サードは、構わず次の質問をした。
「あいつの動きを『どれくらい止められれば』、お前らは高確率で悪魔の急所を狙える?」
「急所、ですか……あの、サリファン先輩。こちらの陣形が、もし一番良い状態であるとすれば三秒はかからないと思いますよ」
ソーマがためらいがちに答え、「でも」と続けた。
「状況によっては、二十秒は必要かもしれないです」
「分かった、『それくらいならいける』な」
「え、その、それは一体どういう――」
「俺が今から悪魔を止める。悪魔の動きを完全に封じられた時には、合図を出すから、そう会長達にも伝えておいてくれ」
半悪魔体として、本能のままに戦い動けないというのなら、今の状況で一番効率のいい方法を考えて計画を遂行するまでだ。
何せ、自分には時間がない。
ロイ達の体力は、それよりも早くに底を尽きるだろう。
本来は自分の獲物だというのに、まるでサポート役割を負うのは少々癪ではあるが、こうなったら彼らには最後まで責任をもって付き合ってもらう事にしよう。
悪魔が放った剣圧で、ロイが吹き飛ばされた。ユーリスとエミルが、屋上の縁まで蹴り飛ばされたタイミングで、サードはコンクリートを砕く驚異的な瞬発力で、すかさず悪魔の懐に入っていた。
「おや、今度は君かい?」
ようこそ、というように笑う、背の高い悪魔を見上げた一瞬、サードは時が止まったように感じた。頭の中では、ただただずっと、どうすればロイ達に急所を向けた状態で、この悪魔を抑え込めるのかを考えていた。
何しろ、確実に仕留めてもらわないと、自分は働き損になってしまうだろうから。
カチリ、と思考の指針が振れたのを感じた。そうしたら悪魔が「そろそろ来てくれると思っていたんだよ」と、にっこりと笑って声を掛けてきた。
「君となら、人間の武器なんて使わずに済む。とても愉しいよ」
「――ご指名とは有り難いな。俺は武道派の風紀委員長だ、楽しく殺しあおうぜ、悪魔」
悪魔が残酷さの漂う笑顔を返し、サードも殺気立った不敵な笑みを浮かべて見せた。向かい合う全く同じ赤い目が、互いにざわりと鈍い光を帯びる。
さぁ、最後の戦いをしよう。
どちらかが生き残る、なんて事は、有り得ない。
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