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一章 一学年の美少女に告白された人、という覚え方をされている現状について

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 入学早々、理樹は一気に有名人と化した。
 なぜなら正門をくぐってすぐの場所で、クラス発表さえチェックしていない中、まれにない最速記録の一目惚れをされたうえ告白大会が起こったからだ。

 張り出されているクラス表を見て、自分が五組だと知った。親友である拓斗も同じクラスであり、席番号が出身中学別に並べられていたこともあって、教室の窓側の最後尾が理樹、その前の席が拓斗だった。


 理樹は朝を思い返しながら、机に突っ伏していた。休み時間のたび、クラスメイトや廊下沿いの窓から向けられる好奇心と興味本位の視線が、憎い。

 高校デビュー早々、数時間も経たずに『一学年の美少女に告白されていた人だ』という、なんとも嬉しくない覚え方をされている。


 どうしてこうなってしまったのか。

 楽しむはずの高校デビューに失敗した感が強いが、それを認めてしまったら、自分の中で三年間楽しむぞと抱いていた希望が地の底に沈みそうな気がするので、出来れば考えたくない。

 朝に告白してきた桜羽(さくらば)沙羅(さら)は、理樹が通う幼稚園を変更することになったきっかけの、あの女の子だった。前世で出会ったとき彼女は十六歳で、今の顔とそっくりそのまま一緒だったから、そのおかげで目の前に現れた瞬間に一目で彼女本人だと分かった。

 というより、なぜ彼女が一般の高等学校を受験しているんだ?

 彼女は確か、いいところの社長令嬢であったはずだ。あのまま私立の学校を高校まで進んで、女子大にでも入るのかと思っていたから、まさか今になって、このような形で再会するとは思ってもみなかった。

「というか、一目惚れってなんだ…………」

 机に突っ伏したまま、理樹は思わず喉の奥で「ぐぅ」と呻った。

 まさか幼稚園の頃の事を覚えていて、ずっと捜していたとかいうオチじゃないよな?
 どうして幼稚園を変えてしまったの、と問われるのは面倒臭い。そもそも、彼女に再会したことで自分が前世の記憶を取り戻したような状況が、もし彼女の身にも起こっていたら……という展開だったとしたら最悪だ。

 とはいえ、そうだった場合は、彼女の一連の行動の辻褄は合わなくなるだろう。
 なにせ、前世の記憶があるのだとしたら、わざわざこのように接触してこないだろうと理樹は踏んでいるからだ。

 理樹は彼女が、どんな女性であるのかよく知っていた。自分が前世を思い出すより以前からあの時代の性格のままである、とも気付いていたから、こうして生まれ変わった彼女も、執着したり計画立てて何かを行うことは出来ないだろうとも理解していた。


 あれは悪い女だと――悪役令嬢だなんて言ったのは、誰だったか。


 五歳の頃に思い出したまま、出来るだけ手を付けないようにしていた前世の記憶が過ぎり、理樹は机から頭を起こして組んだ手に顎を乗せた。

 正規の婚約者ではなく、別の女性を妻にした男に非があるという話は一切されていなかった。邪魔者の婚約者が、とうとう観念したように身を引いたとだけ噂された。
 けれど実際は、何かを妨害出来るような女じゃなかった。壁際にひっそりと立ち尽くしていて、だから彼は、婚約破棄されるかもしれないぞという噂が立つまで、その存在すら知らなくて――


「お前、すっかり有名人だなぁ。昼休みに学食とかいったら、アイドル並みに注目されるんじゃないか?」


 拓斗の声が聞こえて、理樹は我に返った。

 組んだ手を口許にあて、今生きている時代に必要のないことを思い出したものだ、と無表情の下でそう思った。

「で、どうすんだよ、理樹? 高校生活一日目で非モテ組脱却して彼女ゲット、って感じで付き合うのか?」
「ぶっ飛ばすぞ」

 奴が、この一件をニヤニヤと面白がっているのは分かっている。

 理樹は第三者として傍観している親友を睨み付けると、「んなわけねぇだろ」と忌々しげに言葉を続けた。

「これまでのモテ期はゼロ。そんな中、タイミング良く高校デビュー初日に知らない女にいきなり告白されて、お前はオーケーするのか?」

 前世の出来事を抜きにしても、俺だったらまず警戒する。

 理樹はそう思いながら、顰め面で拓斗を見つめた。自身に置き換えて考えてみろよ、と視線で促された拓斗が、途端に自信をなくしたように視線を泳がせた。

「あ~……多分、オーケーはしないな。そこまで条件が揃ってると返って警戒するというか――」

 そこで、拓斗は己の結論を導きだした様子で一つ頷き、真面目な顔をこちらに戻してこう言った。

「――運気がそこで全部なくなって、不幸のどん底に落ちる気しかしない」
「そうだろ」

 そもそも『出会って僅かの間の一目惚れによる告白は断りました』で終わらせて、放っておける問題ではない。理樹としては、彼女の行動に他の理由や目的があるのか気になっていた。

 どことなくピリピリとした空気を発している理樹の思案顔を見て、拓斗は声をかけた。

「考えようによっては、初っ端からとんでもない迷惑を被られたってことになるよな。どうすんの?」
「ひとまず話をして、本当の理由がどこにあるのか聞き出す」

 理樹は、思案しながらそう答えた。

 なぜ、あの状況下で告白という行動を起こしたのか。それを聞き出して、今、置かれている状況について把握しなければ考えようがなかった。
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