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1巻
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∞・∞・∞・∞・∞
エステルは馬車の中で、自分とアンドレアがどんな状況なのか話した。
母に支えられながらぽつりぽつりと、婚約してからこれまでのことを、屋敷に着くまでずっと語っていた。
「嫁ぎ先を、変更させてください」
帰宅し、リビングでソファにそれぞれ父と母、兄とエステルが並んで腰かけたところで、彼女は用件を告げた。
紅茶の支度について確認に来た執事や、メイドたちにまで緊張が走った。
「殿下は恐らく、彼女をお選びになるでしょう」
「……まさか、そんな……殿下は我が公爵家を裏切ったのか?」
兄の言葉にエステルは小さく首を振る。
「いいえ、まだ育んでいるところだとは思いますが……彼は伯爵令嬢を気に入っていて……恋した相手を、選ぶのではないかと」
恋、と口にした際、こらえきれず涙がすーっと流れていった。
「エステル……お前、まさか……」
兄がひどく狼狽し、言葉を続けられずエステルを抱き締める。
(七歳から今までいろんなことがあったけれど、……お兄様を驚かせたのね)
両親も初めて見たエステルの涙に驚愕している様子だった。
「殿下を慕っているのに、そんなことを言い出すなんて、ずっと一人で悩んで、苦しんでいたのか……?」
間もなく、父が慎重にそう言った。
エステルは兄をそっと離し、うなずく。
「事態が公爵家を巻き込んでしまう前に、私の嫁ぎ先を変更させてください」
「おいエステルっ、お前はどうしてそう普通に話せるんだっ?」
手首を摑まれ、兄のほうを向かされた。
「お前、まだ自分が泣いているのにも気付いていないんじゃないだろうな」
「お兄様――」
「お前は十年以上も婚約者として努力した。それは殿下を心から慕っていたからだろうっ」
すると父が「やめなさいっ」と言って、兄の肩を掴んで止めた。
いつの間にか立ち上がり駆け寄った父と肩越しに振り向いた兄が睨み合う。けれどエステルには、兄が涙ぐんでいるのが見えた。
エステルも自分が泣いているのには気付いていた。ただ、どうにもできなかったのだ。
表情だけは、落ち着いている。
それを見ていた母が、とうとう顔を両手で覆い、泣いた。
「ごめんなさい、ごめんなさいエステル。あなたがこんなにもつらい思いでいたなんて……」
かける言葉が、見つからなかった。
こうなってしまうので、エステルは今までアンドレアのことを一切口にできなかったのだと思い知る。
「婚約の解消を王家から知らされたら公爵家は損害をさけられないでしょう」
泣く母の元に父が駆け寄ったのを見て、エステルは考えを切り出す。
「ですから先に、こちらで手を打ってしまえばいいと考えています」
「だが王家との婚約だ。お前を逃がすにしても、時間が――」
「いいえ。とても簡単な方法があります。私が殿下の婚約者になった理由である、魔力をなくしてしまえばいいんです」
エステルは昨夜までに練った解決策を話して聞かせた。
その方法に父と兄は驚いていた。執事たちがすぐに反対の声を上げ、母が怒って泣きながら立ち上がる。
「あなたにそんなことはさせられません! 我が国の全員が魔力を持っているのは、生きるためにも必要だからですよ⁉」
「他国ではほとんど魔力を持たない者だっています。私の身体に……一パーセントでも魔力を残せばいいのです」
そうすれば心臓は止まりません、なんてことは言えなかった。
父が母を宥める。
「お前に魔力操作はできないだろう」
「危険だ、考え直せ」
ソファの上にいる兄の拳が、硬く握り締められる。
こんなに兄から睨まれたことはなく、エステルは恐怖を覚えた。
でも、怒りではないと分かっている。
「エステル、お前は自分の命を懸けてまで公爵家を救わなくていいんだ。それは跡取りの俺がすべきことだ」
「私がこの魔力をなくしてしまいたいのです。……どう言い訳しようとも、国内第二位の魔力を持ったままでは、私は自由になれないでしょうから」
エステルは胸が痛くて、皮肉な笑みを浮かべた。
「私には魔法が使えません。そのうえ魔力までなくせば、結婚相手としての価値はなくなり縁談などなくなるはずです。そうすれば私は……お兄様たちに話したように、この国の利益になる他国に嫁ぐことになるでしょう」
すると父が、難しそうな顔でがりがりと頭をかいた。
「うーむ、お前が未練を捨てて外国に行きたいのはよく分かる。だが……そうなるかなぁ……エステルよ、お前は、お前が思っている以上に人気が――」
「そうだなっ、国内の男共にお前は合わないっ」
突然、兄がエステルに賛成だというように言った。
「未婚の俺の同級生から連絡があろうとも無視しろ」
「お前は私情が入っているな……」
エステルはきょとんとしたが、涙目で震えている母が気になった。
「私が裂傷を受けた時、私を生かしたのは医療系に特化した私自身の魔力だったでしょう? もし計画が成功すれば、婚約は問題なく解消へと進められます」
「お前を放っておいた殿下へ復讐も叶うわね」
「え?」
エステルは、目をぱちくりとした。
温厚な貴婦人たる母の口から『復讐』という言葉、そして低い声色が出たのは、気のせいだろうか。
「殿下のお心は知りませんが、教養さえ全然足りない伯爵令嬢を妃にして困るのは殿下自身でしょう。この際、お前が言っていた以上に世間の目を利用し、責任を取るため娶らせてしまえばよいのです」
「お、お母様?」
「覚悟は分かりました。死ぬかもしれない方法を選ぶほど……お前を追い込んでしまったのは私もお父様も、同罪です」
母の目から、涙が溢れて頬を伝っていった。
室内に重い沈黙が落ちる。父が手で指示を出し、メイドがハンカチで母の涙を拭った。
「はぁ……仕上げで他国に嫁ぐ、か……たいしたことを考えるものだ。愛する娘とほとんど会えなくなってしまうのは私としては避けたいところだが」
「お父様、どうかお願いします」
エステルが強く見つめ返すと、父も真っすぐ見据えてきた。
「お前のことを何も察してやれなかったことを恥ずかしく思う。最後に、父としてお前を助けてやりたい。手筈はすべて公爵家が整えよう。お前の負担が最も重いが――それでも、やるか?」
「覚悟のうえです」
あるはずの魔力を失ったら、不調をきたすだろう。
健康を手放すことになる可能性を思うと怖くなる。
(でも、王太子の婚約者という肩書きからは逃げられる)
魔力量という価値がなくなってしまったら国内で嫁ぐことは叶わないだろう。
他国なら問題ない。そうすれば国に貢献できるし、アンドレアが別の女性と結婚する光景を見ずにいることだってできる――
「俺も、最大の協力をする」
兄が袖で目をこすり、力強くそう答えてくれた。
そしてエステルたちは、舞踏会の衣装を着替えもせず、執事たちに紅茶とつまみを用意させてそのまま家族会議へと突入した。
エステルが立てた計画を聞きながら父と母、兄が細部まで意見を出し合い、夜が更けていく中で計画は完璧なものへと仕上げられた。
「私が唯一できる【魔力放出】は、ほぼ魔力暴走に等しいとのことですが、医療を専門とする方々の監督のもとで行えば、魔力がすべて出切ってしまうリスクを回避できると思うのです」
「だが、大病院が協力すると思うか?」
父が動けば目立つので、説得と交渉は兄とエステルが担当することになる。
「お兄様、問題ありませんわ。パカル院長を利用するようで申し訳ないのですが……私の魔力量なら大病院のすべての患者をまかなえるでしょう。治療率は百パーセント、こちらからの提案は断れないでしょう」
夜が更けた頃、明日の予定が決まり家族会議は終わった。
∞・∞・∞・∞・∞
――筋書きは、こうだ。
エステルは王太子と伯爵令嬢との噂で錯乱し、外に飛び出してしまう。
たどり着いた先は偶然にも医療機関だった。エステルはそこで助けられたものの、魔力暴走を起こしてしまい、魔力をほとんど失うという大事件が起こる。
けれど暴走により医療機関にいた患者は全員治療されてしまい、公爵家は感謝される。
【治療魔法の禁術。魔力移植による、難病の消滅】
医療系の魔力に属する場合にのみできる方法であり、放出した魔力を他人の体に移植することでどんな病も治療する。しかし、膨大な魔力量を消費することから昔に禁じられた。
『その方法によって一命を取りとめた』
『難病が完治した』
それらの記録は医師の魔力暴走、命を懸けた治療、希に現れる魔法医療の大魔法使いによる偉業として数少ない記録が残されている。
だが、実のところエステルは同じ現象で死の淵から戻ったのだ。
七歳の子供にあの大怪我は致命的だった。エステルは出血多量で死にかけていたのだが、王宮の治療室に運び込まれた時に医療専門の魔法使いたちは驚いたという。
血液が不足し、肉体を損傷したエステルだったが、膨大に放出された自らの魔力がそれらの代わりを成し、生命を維持しようとしていた。
『お嬢様が助かったのは【魔力放出】によるものです。魔力操作も行えないのに【魔力放出】を行使できるなど不思議なことですが……膨大な量の魔力が動くのですから、魔力暴走のようなものです』
『――そして、この力については黙っていたほうがよいと思っています』
彼らはエステルの身を案じた。
『周りが知ればいつか何かあった際、お嬢様の命を使って国にとって有益な者を生き延びさせることも、生き永らえたい者がお嬢様を狙う可能性も出てくるかと――』
それを聞いた父は、家族だけの秘密にしようと言った。
∞・∞・∞・∞・∞
舞踏会の翌日、エステルは人目を避けて兄と大病院へ向かった。
大病院には各地から難病患者が集まっている。
魔物の襲撃によって瘴気毒に侵され、治療を受けられず生まれ、余命十年未満の子供も数人入院していた。
パカル院長は、迷いを示したものの最終的にエステルの提案に応じた。
――魔力移植による魔法治療を、病院にいるすべての患者に。
所属している医師たちが、医療魔法でエステルの【魔力放出】をサポートすることになる。
ただしパカル院長は、失敗の可能性を減らすためにも、医者たちと精密な計算式と考察を立てたいと言った。
そこに同意したのは、兄だった。
「妹は他の方法を捜してでも魔力を手放すだろう。医療系の魔法はこの国で一割の者しかできない特殊分野、俺も妹の過去の事件で先生に世話になった恩を忘れていない。腕もいいと分かっている……妹の覚悟が覆らない今、できればここに貢献させてほしい」
パカル院長は涙を浮かべ、兄の代わりに泣いているのだと下手な言い訳をした。
「お嬢様が、あまりにも哀れで……」
「……」
過去の大怪我の事情を知っているというのも選んだ理由だが、エステルは彼がどんな人柄かも熟知していた。
「ごめんなさい。どうか、お願い」
人のいいパカル院長を利用するようで胸が痛かったが、王都に彼ほどの名医はいないと分かっていたから、ここでしたかった。
現在のエステルの魔力量を測定し、その日は帰宅した。
翌日、さらにその翌日も密かに通い、計算式と考察をもとに話し合い施術方法の精密な段取りまで固めた。
そしてパカル院長が了承した四日後には実行の目処が立った。
「難病患者と重傷患者が、例年より多いことをなんと思えばいいのか複雑な気持ちですが……」
「今年の雪解けまでの魔物討伐は、ひどかったらしいですね」
「ええ、複数の地域で魔物の繁殖が予想以上で、殿下が率いていた部隊でも重傷者が出たと言います。死亡者が出なかったのは素晴らしいと周りはほめたたえていますが」
パカル院長は溜息をこぼしながら顔に手をあてていた。
「殿下は、いったい何を考えていらっしゃるのか」
ソファの間のテーブルには、今朝の新聞が置かれていた。
アンドレアが同行するユーニの講演は、デートではないかと書かれている。彼はそれを読んだのだろう。
「……殿下の御心は私などにわかりかねます」
エステルは、兄の手が拳を作ったのに気付き、上からそっと自分の手を重ねた。
「そのような寂しいことをおっしゃらないでください。これまでどれだけエステルお嬢様がお心を砕いてきたのか」
「パカル院長、患者数を合わせる件は解決しましたか?」
兄がこらえているのを見て、エステルは話を戻す。
「はぁ。他の病院から移される患者を増やすことについては問題ないと報告が届いています。腕が動かなくなった王国騎士も、リハビリで少しでも動く可能性があることを匂わせれば了承してくれるでしょう」
「そう、ですか……」
知っている騎士はいるだろうかとエステルは考える。
アンドレアが連れている護衛騎士は、騎士団の部下なのだ。
数年変わらない顔ぶれであることもあり何人かは名前も知っている。
『どうぞ、足元にお気を付けください』
まだ雪が積もっていた時に、そう言って手を差し出してくれた大柄な騎士の姿が、エステルの脳裏によみがえった。
エステルは魔法が使えないので、魔法使いたちには見下されることもあるけれど、どの騎士もそんなことはしなかった。
(もし私と関わったことがある騎士がいたら、その人が治るといいな)
後遺症すら完全に治すそうだ。
「計画の実行日までには、お嬢様の魔力ギリギリの患者数に達するはずです」
経過報告を送るとパカル院長は言った。
その日の夕刻、両親も揃ったところで、エステルは兄と共に大病院の件については無事に協力を得たと報告した。
「それでいいのですか? お前は、それほど……」
計画をした際にはさらに人の目が集まるよう意見を出していた母だったが、父の胸に飛び込んで涙を流した。
『それほど殿下との結婚が嫌なのか』
母が問いかけようとした内容を、エステルは理解していた。
打ち明けた日以降、王太子への文句を我慢している兄も、そして父も同じだろう。苦しそうな表情を浮かべている。
死なずに成功したとしても、婚約解消、そして国外から嫁ぎ先を選定――
そしてもう、アンドレアはなかなか会えない人になるだろう。
(今でさえ、会えているとはいいがたいけれど)
顔を合わせても彼と何を話したか、覚えていない。
社交で必要な時は呼ばれるけれど、思い出らしい出来事など、探そうとしてもエステルの中には、ない。
それに改めて気付いて、エステルは目の前が真っ暗になった。
「ごめんなさいお母様。彼とは、結婚できないと感じたのです」
――本当は、結婚したかった。
エステルはスカートを握り、涙を見せないよう言葉を続ける。
「公爵令嬢としては愚かかもしれませんが、私は心から、殿下をお慕いしてしまいました。けれどもう彼が振り向いてくれるかもしれないと考えることも、期待することにも疲れてしまったのです」
去年生誕祭のパレードに同行させなかったことは、もしかしたら彼なりの思い遣りと優しさなのではと今だって考えてしまう。
それほど彼を愛してしまった自分は、なんて愚かなのだろう。
「形だけの夫婦になって、彼のそばで彼が愛した人と仲良く過ごすのを見つづけるなんて、私には、耐えられないのです……お許しください」
結婚してからもあんなに冷たい視線で見られるのは、耐えられない。
彼に心を許されたユーニが、羨ましい。
妃教育を受ける前の自分だったら、ほんの少しくらいは彼女のように素直に振る舞うことができたのだろうか。あなたと歩きたいのだと、一緒に出掛けてみたいのだと……
どれも、もう間に合わない願いだけれど。
「エステル、私はこれから計画通りアレス伯爵と接触するつもりだ。王太子殿下の行動を知るために」
母をなだめている父が、言った。
父がアンドレアのことを親しみを込めて『アンドレア殿下』『殿下』と呼ぶことは、もうないのだろう。
「本当に、やっていいのだな?」
「はい」
確認の問い掛けに、エステルはうなずいて見せる。
「新聞から見るにそう待たずとも、我々が動くべき時は間もなく訪れるだろう。アレス伯爵の品のない自慢と行動のおかげで、異常なくらい人々の関心が高まっている」
「私は早く資格を手放して殿下と無縁になりたいですから、――構いません」
エステルは息苦しくて胸に手を当てた。
婚約者を放っておいて、アンドレアはユーニと堂々と交流している。それなのに二人の婚約をどうするのかも口にしないままだ。
そのせいで苦しいのはエステルのほうなのに、なぜか彼に決断を迫るような状況を作り、追い込むことに良心が痛む。
合わせる顔がない。
いや、もうこんなに苦しいのは嫌だ。会いたくない――
「エステル、ことが終わったら、お前を領地に避難させるつもりだ」
兄が肩を優しく包んだ。
「え? ですが――」
「魔力をほとんど手放したら絶対に安静に過ごさなくてはならない、と言われただろう。どうなるか分からないし、ここにいて注目されるのも回復には邪魔だ。あとは俺たちが対応する」
エステルはすぐに返事ができなかった。
(妃教育が終わって王宮に行くことはない……)
じゃあもう、アンドレアに会うことはないのか。
このまま二人の関係は終わっていくのだなと、エステルは新聞でしか状況の分からない婚約者のことを思った。
∞・∞・∞・∞・∞
決行のタイミングは、王太子と伯爵令嬢の行動次第だ。
二人が動くと人々の注目が集まるので、エステルたちはその時が判明すれば国民の関心をさらに集めるように動く予定だ。
アレス伯爵は活発に動いていた。
彼の努力が実ったのか、翌週、ユーニの学校訪問に王太子が同行することが決定した。
王家は誤解を招かないよう、魔法発展の講演のために二人は行動すると発表した。
だが、社交界だけでなく庶民たちの間でも『王太子はとうとう彼女を公務のパートナーにするようだ』と噂された。
おかげでエステルたちは、来週の二人の予定を知ることができた。
アレス伯爵はなんとしてもユーニを王太子の婚約相手にしたいのか、日程についても各場所で自慢話をする。
魔法使いたちの学びの場で講演したのち、二人は学生たちに案内されて設備や学生たちの様子を案内されるという。
それだけではきっと終わらないだろうし、二人で散策でもするにちがいない。
護衛部隊を配置され、警備も万全にした状態でというから――公に、デートだと見られても文句は言えない。
(私とは一度もしなかった、外での散歩を彼女とするのね)
仕方のないことだとは分かっている。
エステルは魔法が使えないので、アンドレアと外に出るとなると警備は厳重だった。
公務で外に出るたび動員される護衛の多さ、そして道の確保といった大変さを見ていたから、それを思うと『二人で出かけたい』なんて我儘は言えない。
でも――なんて残酷な人だろう。
完璧な婚約者である公爵令嬢は、なんとも思わないとでも……?
エステルは馬車の中で、自分とアンドレアがどんな状況なのか話した。
母に支えられながらぽつりぽつりと、婚約してからこれまでのことを、屋敷に着くまでずっと語っていた。
「嫁ぎ先を、変更させてください」
帰宅し、リビングでソファにそれぞれ父と母、兄とエステルが並んで腰かけたところで、彼女は用件を告げた。
紅茶の支度について確認に来た執事や、メイドたちにまで緊張が走った。
「殿下は恐らく、彼女をお選びになるでしょう」
「……まさか、そんな……殿下は我が公爵家を裏切ったのか?」
兄の言葉にエステルは小さく首を振る。
「いいえ、まだ育んでいるところだとは思いますが……彼は伯爵令嬢を気に入っていて……恋した相手を、選ぶのではないかと」
恋、と口にした際、こらえきれず涙がすーっと流れていった。
「エステル……お前、まさか……」
兄がひどく狼狽し、言葉を続けられずエステルを抱き締める。
(七歳から今までいろんなことがあったけれど、……お兄様を驚かせたのね)
両親も初めて見たエステルの涙に驚愕している様子だった。
「殿下を慕っているのに、そんなことを言い出すなんて、ずっと一人で悩んで、苦しんでいたのか……?」
間もなく、父が慎重にそう言った。
エステルは兄をそっと離し、うなずく。
「事態が公爵家を巻き込んでしまう前に、私の嫁ぎ先を変更させてください」
「おいエステルっ、お前はどうしてそう普通に話せるんだっ?」
手首を摑まれ、兄のほうを向かされた。
「お前、まだ自分が泣いているのにも気付いていないんじゃないだろうな」
「お兄様――」
「お前は十年以上も婚約者として努力した。それは殿下を心から慕っていたからだろうっ」
すると父が「やめなさいっ」と言って、兄の肩を掴んで止めた。
いつの間にか立ち上がり駆け寄った父と肩越しに振り向いた兄が睨み合う。けれどエステルには、兄が涙ぐんでいるのが見えた。
エステルも自分が泣いているのには気付いていた。ただ、どうにもできなかったのだ。
表情だけは、落ち着いている。
それを見ていた母が、とうとう顔を両手で覆い、泣いた。
「ごめんなさい、ごめんなさいエステル。あなたがこんなにもつらい思いでいたなんて……」
かける言葉が、見つからなかった。
こうなってしまうので、エステルは今までアンドレアのことを一切口にできなかったのだと思い知る。
「婚約の解消を王家から知らされたら公爵家は損害をさけられないでしょう」
泣く母の元に父が駆け寄ったのを見て、エステルは考えを切り出す。
「ですから先に、こちらで手を打ってしまえばいいと考えています」
「だが王家との婚約だ。お前を逃がすにしても、時間が――」
「いいえ。とても簡単な方法があります。私が殿下の婚約者になった理由である、魔力をなくしてしまえばいいんです」
エステルは昨夜までに練った解決策を話して聞かせた。
その方法に父と兄は驚いていた。執事たちがすぐに反対の声を上げ、母が怒って泣きながら立ち上がる。
「あなたにそんなことはさせられません! 我が国の全員が魔力を持っているのは、生きるためにも必要だからですよ⁉」
「他国ではほとんど魔力を持たない者だっています。私の身体に……一パーセントでも魔力を残せばいいのです」
そうすれば心臓は止まりません、なんてことは言えなかった。
父が母を宥める。
「お前に魔力操作はできないだろう」
「危険だ、考え直せ」
ソファの上にいる兄の拳が、硬く握り締められる。
こんなに兄から睨まれたことはなく、エステルは恐怖を覚えた。
でも、怒りではないと分かっている。
「エステル、お前は自分の命を懸けてまで公爵家を救わなくていいんだ。それは跡取りの俺がすべきことだ」
「私がこの魔力をなくしてしまいたいのです。……どう言い訳しようとも、国内第二位の魔力を持ったままでは、私は自由になれないでしょうから」
エステルは胸が痛くて、皮肉な笑みを浮かべた。
「私には魔法が使えません。そのうえ魔力までなくせば、結婚相手としての価値はなくなり縁談などなくなるはずです。そうすれば私は……お兄様たちに話したように、この国の利益になる他国に嫁ぐことになるでしょう」
すると父が、難しそうな顔でがりがりと頭をかいた。
「うーむ、お前が未練を捨てて外国に行きたいのはよく分かる。だが……そうなるかなぁ……エステルよ、お前は、お前が思っている以上に人気が――」
「そうだなっ、国内の男共にお前は合わないっ」
突然、兄がエステルに賛成だというように言った。
「未婚の俺の同級生から連絡があろうとも無視しろ」
「お前は私情が入っているな……」
エステルはきょとんとしたが、涙目で震えている母が気になった。
「私が裂傷を受けた時、私を生かしたのは医療系に特化した私自身の魔力だったでしょう? もし計画が成功すれば、婚約は問題なく解消へと進められます」
「お前を放っておいた殿下へ復讐も叶うわね」
「え?」
エステルは、目をぱちくりとした。
温厚な貴婦人たる母の口から『復讐』という言葉、そして低い声色が出たのは、気のせいだろうか。
「殿下のお心は知りませんが、教養さえ全然足りない伯爵令嬢を妃にして困るのは殿下自身でしょう。この際、お前が言っていた以上に世間の目を利用し、責任を取るため娶らせてしまえばよいのです」
「お、お母様?」
「覚悟は分かりました。死ぬかもしれない方法を選ぶほど……お前を追い込んでしまったのは私もお父様も、同罪です」
母の目から、涙が溢れて頬を伝っていった。
室内に重い沈黙が落ちる。父が手で指示を出し、メイドがハンカチで母の涙を拭った。
「はぁ……仕上げで他国に嫁ぐ、か……たいしたことを考えるものだ。愛する娘とほとんど会えなくなってしまうのは私としては避けたいところだが」
「お父様、どうかお願いします」
エステルが強く見つめ返すと、父も真っすぐ見据えてきた。
「お前のことを何も察してやれなかったことを恥ずかしく思う。最後に、父としてお前を助けてやりたい。手筈はすべて公爵家が整えよう。お前の負担が最も重いが――それでも、やるか?」
「覚悟のうえです」
あるはずの魔力を失ったら、不調をきたすだろう。
健康を手放すことになる可能性を思うと怖くなる。
(でも、王太子の婚約者という肩書きからは逃げられる)
魔力量という価値がなくなってしまったら国内で嫁ぐことは叶わないだろう。
他国なら問題ない。そうすれば国に貢献できるし、アンドレアが別の女性と結婚する光景を見ずにいることだってできる――
「俺も、最大の協力をする」
兄が袖で目をこすり、力強くそう答えてくれた。
そしてエステルたちは、舞踏会の衣装を着替えもせず、執事たちに紅茶とつまみを用意させてそのまま家族会議へと突入した。
エステルが立てた計画を聞きながら父と母、兄が細部まで意見を出し合い、夜が更けていく中で計画は完璧なものへと仕上げられた。
「私が唯一できる【魔力放出】は、ほぼ魔力暴走に等しいとのことですが、医療を専門とする方々の監督のもとで行えば、魔力がすべて出切ってしまうリスクを回避できると思うのです」
「だが、大病院が協力すると思うか?」
父が動けば目立つので、説得と交渉は兄とエステルが担当することになる。
「お兄様、問題ありませんわ。パカル院長を利用するようで申し訳ないのですが……私の魔力量なら大病院のすべての患者をまかなえるでしょう。治療率は百パーセント、こちらからの提案は断れないでしょう」
夜が更けた頃、明日の予定が決まり家族会議は終わった。
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――筋書きは、こうだ。
エステルは王太子と伯爵令嬢との噂で錯乱し、外に飛び出してしまう。
たどり着いた先は偶然にも医療機関だった。エステルはそこで助けられたものの、魔力暴走を起こしてしまい、魔力をほとんど失うという大事件が起こる。
けれど暴走により医療機関にいた患者は全員治療されてしまい、公爵家は感謝される。
【治療魔法の禁術。魔力移植による、難病の消滅】
医療系の魔力に属する場合にのみできる方法であり、放出した魔力を他人の体に移植することでどんな病も治療する。しかし、膨大な魔力量を消費することから昔に禁じられた。
『その方法によって一命を取りとめた』
『難病が完治した』
それらの記録は医師の魔力暴走、命を懸けた治療、希に現れる魔法医療の大魔法使いによる偉業として数少ない記録が残されている。
だが、実のところエステルは同じ現象で死の淵から戻ったのだ。
七歳の子供にあの大怪我は致命的だった。エステルは出血多量で死にかけていたのだが、王宮の治療室に運び込まれた時に医療専門の魔法使いたちは驚いたという。
血液が不足し、肉体を損傷したエステルだったが、膨大に放出された自らの魔力がそれらの代わりを成し、生命を維持しようとしていた。
『お嬢様が助かったのは【魔力放出】によるものです。魔力操作も行えないのに【魔力放出】を行使できるなど不思議なことですが……膨大な量の魔力が動くのですから、魔力暴走のようなものです』
『――そして、この力については黙っていたほうがよいと思っています』
彼らはエステルの身を案じた。
『周りが知ればいつか何かあった際、お嬢様の命を使って国にとって有益な者を生き延びさせることも、生き永らえたい者がお嬢様を狙う可能性も出てくるかと――』
それを聞いた父は、家族だけの秘密にしようと言った。
∞・∞・∞・∞・∞
舞踏会の翌日、エステルは人目を避けて兄と大病院へ向かった。
大病院には各地から難病患者が集まっている。
魔物の襲撃によって瘴気毒に侵され、治療を受けられず生まれ、余命十年未満の子供も数人入院していた。
パカル院長は、迷いを示したものの最終的にエステルの提案に応じた。
――魔力移植による魔法治療を、病院にいるすべての患者に。
所属している医師たちが、医療魔法でエステルの【魔力放出】をサポートすることになる。
ただしパカル院長は、失敗の可能性を減らすためにも、医者たちと精密な計算式と考察を立てたいと言った。
そこに同意したのは、兄だった。
「妹は他の方法を捜してでも魔力を手放すだろう。医療系の魔法はこの国で一割の者しかできない特殊分野、俺も妹の過去の事件で先生に世話になった恩を忘れていない。腕もいいと分かっている……妹の覚悟が覆らない今、できればここに貢献させてほしい」
パカル院長は涙を浮かべ、兄の代わりに泣いているのだと下手な言い訳をした。
「お嬢様が、あまりにも哀れで……」
「……」
過去の大怪我の事情を知っているというのも選んだ理由だが、エステルは彼がどんな人柄かも熟知していた。
「ごめんなさい。どうか、お願い」
人のいいパカル院長を利用するようで胸が痛かったが、王都に彼ほどの名医はいないと分かっていたから、ここでしたかった。
現在のエステルの魔力量を測定し、その日は帰宅した。
翌日、さらにその翌日も密かに通い、計算式と考察をもとに話し合い施術方法の精密な段取りまで固めた。
そしてパカル院長が了承した四日後には実行の目処が立った。
「難病患者と重傷患者が、例年より多いことをなんと思えばいいのか複雑な気持ちですが……」
「今年の雪解けまでの魔物討伐は、ひどかったらしいですね」
「ええ、複数の地域で魔物の繁殖が予想以上で、殿下が率いていた部隊でも重傷者が出たと言います。死亡者が出なかったのは素晴らしいと周りはほめたたえていますが」
パカル院長は溜息をこぼしながら顔に手をあてていた。
「殿下は、いったい何を考えていらっしゃるのか」
ソファの間のテーブルには、今朝の新聞が置かれていた。
アンドレアが同行するユーニの講演は、デートではないかと書かれている。彼はそれを読んだのだろう。
「……殿下の御心は私などにわかりかねます」
エステルは、兄の手が拳を作ったのに気付き、上からそっと自分の手を重ねた。
「そのような寂しいことをおっしゃらないでください。これまでどれだけエステルお嬢様がお心を砕いてきたのか」
「パカル院長、患者数を合わせる件は解決しましたか?」
兄がこらえているのを見て、エステルは話を戻す。
「はぁ。他の病院から移される患者を増やすことについては問題ないと報告が届いています。腕が動かなくなった王国騎士も、リハビリで少しでも動く可能性があることを匂わせれば了承してくれるでしょう」
「そう、ですか……」
知っている騎士はいるだろうかとエステルは考える。
アンドレアが連れている護衛騎士は、騎士団の部下なのだ。
数年変わらない顔ぶれであることもあり何人かは名前も知っている。
『どうぞ、足元にお気を付けください』
まだ雪が積もっていた時に、そう言って手を差し出してくれた大柄な騎士の姿が、エステルの脳裏によみがえった。
エステルは魔法が使えないので、魔法使いたちには見下されることもあるけれど、どの騎士もそんなことはしなかった。
(もし私と関わったことがある騎士がいたら、その人が治るといいな)
後遺症すら完全に治すそうだ。
「計画の実行日までには、お嬢様の魔力ギリギリの患者数に達するはずです」
経過報告を送るとパカル院長は言った。
その日の夕刻、両親も揃ったところで、エステルは兄と共に大病院の件については無事に協力を得たと報告した。
「それでいいのですか? お前は、それほど……」
計画をした際にはさらに人の目が集まるよう意見を出していた母だったが、父の胸に飛び込んで涙を流した。
『それほど殿下との結婚が嫌なのか』
母が問いかけようとした内容を、エステルは理解していた。
打ち明けた日以降、王太子への文句を我慢している兄も、そして父も同じだろう。苦しそうな表情を浮かべている。
死なずに成功したとしても、婚約解消、そして国外から嫁ぎ先を選定――
そしてもう、アンドレアはなかなか会えない人になるだろう。
(今でさえ、会えているとはいいがたいけれど)
顔を合わせても彼と何を話したか、覚えていない。
社交で必要な時は呼ばれるけれど、思い出らしい出来事など、探そうとしてもエステルの中には、ない。
それに改めて気付いて、エステルは目の前が真っ暗になった。
「ごめんなさいお母様。彼とは、結婚できないと感じたのです」
――本当は、結婚したかった。
エステルはスカートを握り、涙を見せないよう言葉を続ける。
「公爵令嬢としては愚かかもしれませんが、私は心から、殿下をお慕いしてしまいました。けれどもう彼が振り向いてくれるかもしれないと考えることも、期待することにも疲れてしまったのです」
去年生誕祭のパレードに同行させなかったことは、もしかしたら彼なりの思い遣りと優しさなのではと今だって考えてしまう。
それほど彼を愛してしまった自分は、なんて愚かなのだろう。
「形だけの夫婦になって、彼のそばで彼が愛した人と仲良く過ごすのを見つづけるなんて、私には、耐えられないのです……お許しください」
結婚してからもあんなに冷たい視線で見られるのは、耐えられない。
彼に心を許されたユーニが、羨ましい。
妃教育を受ける前の自分だったら、ほんの少しくらいは彼女のように素直に振る舞うことができたのだろうか。あなたと歩きたいのだと、一緒に出掛けてみたいのだと……
どれも、もう間に合わない願いだけれど。
「エステル、私はこれから計画通りアレス伯爵と接触するつもりだ。王太子殿下の行動を知るために」
母をなだめている父が、言った。
父がアンドレアのことを親しみを込めて『アンドレア殿下』『殿下』と呼ぶことは、もうないのだろう。
「本当に、やっていいのだな?」
「はい」
確認の問い掛けに、エステルはうなずいて見せる。
「新聞から見るにそう待たずとも、我々が動くべき時は間もなく訪れるだろう。アレス伯爵の品のない自慢と行動のおかげで、異常なくらい人々の関心が高まっている」
「私は早く資格を手放して殿下と無縁になりたいですから、――構いません」
エステルは息苦しくて胸に手を当てた。
婚約者を放っておいて、アンドレアはユーニと堂々と交流している。それなのに二人の婚約をどうするのかも口にしないままだ。
そのせいで苦しいのはエステルのほうなのに、なぜか彼に決断を迫るような状況を作り、追い込むことに良心が痛む。
合わせる顔がない。
いや、もうこんなに苦しいのは嫌だ。会いたくない――
「エステル、ことが終わったら、お前を領地に避難させるつもりだ」
兄が肩を優しく包んだ。
「え? ですが――」
「魔力をほとんど手放したら絶対に安静に過ごさなくてはならない、と言われただろう。どうなるか分からないし、ここにいて注目されるのも回復には邪魔だ。あとは俺たちが対応する」
エステルはすぐに返事ができなかった。
(妃教育が終わって王宮に行くことはない……)
じゃあもう、アンドレアに会うことはないのか。
このまま二人の関係は終わっていくのだなと、エステルは新聞でしか状況の分からない婚約者のことを思った。
∞・∞・∞・∞・∞
決行のタイミングは、王太子と伯爵令嬢の行動次第だ。
二人が動くと人々の注目が集まるので、エステルたちはその時が判明すれば国民の関心をさらに集めるように動く予定だ。
アレス伯爵は活発に動いていた。
彼の努力が実ったのか、翌週、ユーニの学校訪問に王太子が同行することが決定した。
王家は誤解を招かないよう、魔法発展の講演のために二人は行動すると発表した。
だが、社交界だけでなく庶民たちの間でも『王太子はとうとう彼女を公務のパートナーにするようだ』と噂された。
おかげでエステルたちは、来週の二人の予定を知ることができた。
アレス伯爵はなんとしてもユーニを王太子の婚約相手にしたいのか、日程についても各場所で自慢話をする。
魔法使いたちの学びの場で講演したのち、二人は学生たちに案内されて設備や学生たちの様子を案内されるという。
それだけではきっと終わらないだろうし、二人で散策でもするにちがいない。
護衛部隊を配置され、警備も万全にした状態でというから――公に、デートだと見られても文句は言えない。
(私とは一度もしなかった、外での散歩を彼女とするのね)
仕方のないことだとは分かっている。
エステルは魔法が使えないので、アンドレアと外に出るとなると警備は厳重だった。
公務で外に出るたび動員される護衛の多さ、そして道の確保といった大変さを見ていたから、それを思うと『二人で出かけたい』なんて我儘は言えない。
でも――なんて残酷な人だろう。
完璧な婚約者である公爵令嬢は、なんとも思わないとでも……?
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