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拗らせ初恋は厄介です(前編)
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♢片思い拗らせ年下イケメン×強面口悪ペットショップ店員
***
飼うつもりもないくせに、毎日現れては、いつもニコニコと猫を眺めるだけの変わった男が居た。
来る時間は日によってまちまちで、夕方ごろの時もあれば、開店と同時に来ることもあった。男は俺より幾分も若く爽やかで綺麗な顔立ちの所謂イケメンというやつだと思う。
そんな男がなんで飽きもせずに都内とはいえ片田舎のペットショップに二年も通い続けているのか。
そんな疑問を思い浮かべるだけで、俺は店員なのにソイツに話しかけるでもなく……男と同じで、ただ眺めるだけの毎日を過ごしていた。
そんな均衡が崩れたのは、他でもない、俺自身の言葉だった。
ある日、また閉店間際に現れたその男は、いつものようにケースの前でしゃがみ込んで一生懸命に遊ぶ黒猫の姿を目で追っていた。そんな男を、俺もまたいつものように見つめていた。
「ん……?」
でも真剣に見つめるその横顔が、何故かいつもと違って見えた気がした。どこか物悲しそうな、寂しそうな、そんな風に見えてしまってその時の俺は妙に男のことが気になって仕方なかった。
だから、俺らしくないことをしてしまったのかもしれない。
「いつも見てるよな。好きなの?」
「え?」
男がぽかんと口を開けながら俺を見上げた。その呆然とする姿がイケメンな顔とかけ離れ過ぎていて思わず堪えきれなかった笑いが漏れた。
「ククッ……アンタみたいなイケメンでも、そんなqアホ面できんだ」
言葉にすると更に面白くなってきて声に出して笑う。するとコソコソと話す声が聞こえて我に返った。
俺、何言ってんだ……。いくら口下手だからって、良く知らない他人にこんなこと。しかもお客さんだぞ。
未だ呆けたままの男を見て、血の気が引いた。
責めるような視線が痛くなってきて男に謝ろうとしたとき、男が突然立ち上がり言った。
「可愛い……やっぱ好きっす」
コイツ真顔で何言ってんだ~~~っ!
至近距離で囁くように言われたその言葉で、不覚にも顔が熱くなってしまった。突然襲ってきた羞恥に耐え切れず後退って背を反らすが雀の涙ほどの距離しか離れることは叶わなかった。
切れ長の鋭い目つきと厳つい凶悪面のせいで愛だの恋だのとは無縁だった俺には、それだけでも刺激がかなり強すぎた。
コイツ、俺のこと? だから毎日通って……。そこまで考えて、ふと思う。俺はコイツになんて言って話しかけた? 猫をずっと見ていた男に、好きなのか? って聞いたよな。じゃあさっきコイツが言った好きって、もしかしなくても猫のことだったりすんじゃねーの……?
一気に冷や水を掛けられた気分になり肝が死ぬほど冷えた。
さっきの俺をぶっ殺してやりたい何言ってんのマジ二秒前の俺のバカ!
脳内で口汚く一息に罵倒した俺はこれでもかと長い溜息を吐いた。そして体制を立て直し、咳払いで誤魔化して、何事もなかったかのように話を続けることにした。そうでもしないと確実に俺の中の何かが死ぬ! 否、もう半分死んでいる……。
「ん? ……嗚呼、うちの猫可愛いっしょ」
誰がどう見ても1回顔真っ赤にして勘違いしてたのに、何カッコつけて何もなかったことにしてんだー! 否、それしか選択肢なかったけどこれはこれで痛すぎる! クソ恥ずかしいやつじゃねーか!
面の皮が厚すぎて感情が表に出ないこの顔がこれほどありがたいと思った時はない。強面の父親に激しく感謝した。ありがとな、親父。今までこの顔を遺伝させたこと呪っててごめんな。
俺が海外で暮らす父親に想いを馳せていると、男が急に俺の右手を取った。
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飼うつもりもないくせに、毎日現れては、いつもニコニコと猫を眺めるだけの変わった男が居た。
来る時間は日によってまちまちで、夕方ごろの時もあれば、開店と同時に来ることもあった。男は俺より幾分も若く爽やかで綺麗な顔立ちの所謂イケメンというやつだと思う。
そんな男がなんで飽きもせずに都内とはいえ片田舎のペットショップに二年も通い続けているのか。
そんな疑問を思い浮かべるだけで、俺は店員なのにソイツに話しかけるでもなく……男と同じで、ただ眺めるだけの毎日を過ごしていた。
そんな均衡が崩れたのは、他でもない、俺自身の言葉だった。
ある日、また閉店間際に現れたその男は、いつものようにケースの前でしゃがみ込んで一生懸命に遊ぶ黒猫の姿を目で追っていた。そんな男を、俺もまたいつものように見つめていた。
「ん……?」
でも真剣に見つめるその横顔が、何故かいつもと違って見えた気がした。どこか物悲しそうな、寂しそうな、そんな風に見えてしまってその時の俺は妙に男のことが気になって仕方なかった。
だから、俺らしくないことをしてしまったのかもしれない。
「いつも見てるよな。好きなの?」
「え?」
男がぽかんと口を開けながら俺を見上げた。その呆然とする姿がイケメンな顔とかけ離れ過ぎていて思わず堪えきれなかった笑いが漏れた。
「ククッ……アンタみたいなイケメンでも、そんなqアホ面できんだ」
言葉にすると更に面白くなってきて声に出して笑う。するとコソコソと話す声が聞こえて我に返った。
俺、何言ってんだ……。いくら口下手だからって、良く知らない他人にこんなこと。しかもお客さんだぞ。
未だ呆けたままの男を見て、血の気が引いた。
責めるような視線が痛くなってきて男に謝ろうとしたとき、男が突然立ち上がり言った。
「可愛い……やっぱ好きっす」
コイツ真顔で何言ってんだ~~~っ!
至近距離で囁くように言われたその言葉で、不覚にも顔が熱くなってしまった。突然襲ってきた羞恥に耐え切れず後退って背を反らすが雀の涙ほどの距離しか離れることは叶わなかった。
切れ長の鋭い目つきと厳つい凶悪面のせいで愛だの恋だのとは無縁だった俺には、それだけでも刺激がかなり強すぎた。
コイツ、俺のこと? だから毎日通って……。そこまで考えて、ふと思う。俺はコイツになんて言って話しかけた? 猫をずっと見ていた男に、好きなのか? って聞いたよな。じゃあさっきコイツが言った好きって、もしかしなくても猫のことだったりすんじゃねーの……?
一気に冷や水を掛けられた気分になり肝が死ぬほど冷えた。
さっきの俺をぶっ殺してやりたい何言ってんのマジ二秒前の俺のバカ!
脳内で口汚く一息に罵倒した俺はこれでもかと長い溜息を吐いた。そして体制を立て直し、咳払いで誤魔化して、何事もなかったかのように話を続けることにした。そうでもしないと確実に俺の中の何かが死ぬ! 否、もう半分死んでいる……。
「ん? ……嗚呼、うちの猫可愛いっしょ」
誰がどう見ても1回顔真っ赤にして勘違いしてたのに、何カッコつけて何もなかったことにしてんだー! 否、それしか選択肢なかったけどこれはこれで痛すぎる! クソ恥ずかしいやつじゃねーか!
面の皮が厚すぎて感情が表に出ないこの顔がこれほどありがたいと思った時はない。強面の父親に激しく感謝した。ありがとな、親父。今までこの顔を遺伝させたこと呪っててごめんな。
俺が海外で暮らす父親に想いを馳せていると、男が急に俺の右手を取った。
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