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力とは?
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食事会議後、皆は残っている仕事を片付けにバラバラに席を立って行った。
俺は最近のルーティンとしてベアードさんの皿洗いをお手伝いして、ご褒美のお菓子をもらう。
そういえば、ウランにお土産を渡していない事に気付き、部屋をノックするが反応が無い。
呑みに行ったのかな?
廊下の窓から外に目をやると、裏庭で弓の特訓をしているアルが目に入った。
夜でも当てられるって凄いな。
ぼーっと窓から見ていると、もう1人男が現れた。
あっ!ウラン!
俺は急いで裏庭に向かった。
「おい、そんな弓より大地の魔法は覚えたのかよ。」
ウランの声に俺は裏庭への扉の前で止まった。
確か、ミームス家は地の属性で、アルだけ風だと言っていたな。
「俺は風属性だよ。」
アルの声が冷たく感じた。
「属性が風だろうと、他もある程度練習すりゃ使えるだろ。そんな髪だろうがミームス家なんだ、ある程度地属性を使える様にしておけと言っただろ!」
ウランの声が低く怒気を含んでいた。
「悪かったな!ミームス家を汚して!だが、俺の属性は風だ、兄貴達みたいに、髪も赤く無いし、俺だけ違うが、俺は俺なりに頑張っているんだ!俺は風属性で、強くなる!」
アルの声が夜に響く。
俺はこの扉を開けられずにいた。
「クックッ!ふざけるな!風如きが、地属性に勝てるかよ!!だからお前はいつまでも俺に勝てねえんだ。何にプライド持っているか知らねえが、そんな甘っちょろいプライドなんて捨てちまえ。お前は認めろよ、ミームスの出来損ないだと。そうすれば少しは強くなるだろうよ。魔力量はあるんだ、もったいねー。」
「俺は風魔法で兄貴に勝つ!」
「ほう…そこまで言うなら1週間後、相手してやるよ。負けたら、出来損ないだと認めろよ?」
暫く睨み合いが続いたが、アルは夜の林へと走り去っていった。
俺は扉を開けて、1人残ったウランへと近付いた。
「ウラン…。」
「何だよ、覗きみとはいけねえな。」
俺に背を向けたまま、ウランは言った。
「気付いてたんだ、ごめんなさい。ねえ、なんでアルに冷たいの?」
俺の言葉に振り向いたウランの顔は、口元は笑っていたが、瞳は切なく思えた。
「冷たい?まあ、そうかもな。あいつは弱い。弱い奴は生きていけねえんだ。この世界ではな。」
そう言うとウランは一度夜空を見つめ、それから俺にまた視線を戻した。
「なんだ、アルなら林の方だぞ?慰めに行かねえのか?泣いてるかもよ?」
フンッと意地悪に笑うウランに、俺は何故か不思議な気持ちになる。
本当にアルが言うように、仲が悪いのだろうか…
「アルは弱くないよ。今は行かない方がいい気がする。それに、俺はウランに用があったから。」
そう言うと、ウランは驚いたように俺を見た。
「弱くないか……。で、俺に何の用だ?抱いて欲しいのなら、部屋いくぞ?」
いつものように、揶揄う顔をした。
「違う!!お土産渡そうと思って探してたんだ!皆にはもうあげた!ハイ!これからよろしく!」
ウランは俺からスカイブルーのガラス玉が付いたチャームを受け取ると、少し優しい顔をして、ベルトに装着してくれた。
「サンキュー。瞳の色とはシャレてんじゃん。」
それから一瞬、林の方を見た後、俺の肩を叩き、扉に手を掛けた。
「身体共々よろしくしてやるよ!」
手を振り、室内へと戻っていった。
「なんだかなー…。」
アルへの言い方は冷たいけど、ウランの瞳がね、なんか、うまく言えないんだが、冷たく感じないんだよな。
「中途半端に深入りしない方がいいぞ。」
ドキッと俺は辺りを見渡した。
すると、ギルドの屋根からティーンが飛び降りてきた。
「な、何してんの?」
俺はドキドキする胸を押さえて、急に現れたティーンに聞いた。
「眠れず、星を見ていたら、騒いでいた。」
なるほどですね。
ティーンは欠伸をして、俺をまたジッと見下ろす。
「他人の問題にあまり首を突っ込まない方がよい。所詮、自分でしか解決出来ない。」
「そうかもしれないけど…。」
なんか、ティーンの瞳って観察されてる感じや、心の中まで見られている気がして落ち着かない。
「中途半端に手を出して、本当に相手がお前に助けを求めて頼った時、お前は助けられる程の力があるのか?責任が取れるのか?」
俺は突き刺さるティーンの言葉に何も返せなかった。
俺は今無力である事は自分が1番分かっている。
だけどさ、だけど…
「話は聞くぐらい出来るよ。それに、なんかすれ違いな気もするし。」
「2人がお前に頼ったのか?解決してくれと?それとも自分の考えと判断か?」
「えっ…?」
「この世界は、力が全てだ。ウランはその部分は正しい。相手より、自分の方が劣っていると思った時点で負けだ。少し歩けばモンスターが出る。だが、食料確保の為に外に出る。1日当たりどれくらいの人が死んでいるんだろうな。狩る者もいれば狩られる者もいる。騙す奴もいれば、騙される奴も。最後に信じられるのは自分自身と強さだ。」
ティーンは感情の見えない赤い瞳でヒヨリを見つめる。
感情が見えないのに、責められている事はわかる。言葉の冷たさも。
俺は、多分傷付いている。この世界に来て、初めて厳しさ、甘さを責められているんだ。お前に力は無いと、正面切って言われているんだ。
「お前はお前自身も守れないのに、他人を心配できるのか?」
泣いちゃダメだ!泣くな!俺!当たり前のこと言われているんだ!ティーンだ正しい!!
くそっ!だけど!!
「うるさーい!!ああ!弱いよ!俺は弱い!分かっているんだよ!だがな、弱いからこそ、相手の不安や傷付いているのだっ
て理解出来るんだ!悩んでいる事だって分かるんだよ!狩るもの?狩られるもの?騙すもの騙されるもの?大いに結構です!誰かが悩んでんの分かってて無視するより、助けに行って狩られた方がいいわ!信じないでいるより、信じて騙された方がいい!だけど今はティーンさんの言う通り、逆に俺が迷惑掛けちゃうだろう!だから絶対強くなって、皆を助けちゃうもんね!信じちゃうもんね!相手と比べる為の強さなんていらない!俺は大好きな人を守る為に強くなってやるもんね!何が力が全てだ!誰が決めたんだよ!」
俺は鼻息荒く、フンッとティーンを睨み、室内に戻った。
絶対強くなる!!
置いていかれたティーンは目を丸くして、扉を見つめた。
「フッ…確かに、誰が決めたんだろうな。」
坊を怒らせてしまったかな。
「なるほど、面白い。」
ティーンは久しぶりに笑った。それがまた、自分でも信じられず、また、それが面白かった。
※土属性を地属性とありますが、
土属性=地属性となっています。
分かりにくく申し訳ございません。
地、土=大地魔法となります。m(._.)m
俺は最近のルーティンとしてベアードさんの皿洗いをお手伝いして、ご褒美のお菓子をもらう。
そういえば、ウランにお土産を渡していない事に気付き、部屋をノックするが反応が無い。
呑みに行ったのかな?
廊下の窓から外に目をやると、裏庭で弓の特訓をしているアルが目に入った。
夜でも当てられるって凄いな。
ぼーっと窓から見ていると、もう1人男が現れた。
あっ!ウラン!
俺は急いで裏庭に向かった。
「おい、そんな弓より大地の魔法は覚えたのかよ。」
ウランの声に俺は裏庭への扉の前で止まった。
確か、ミームス家は地の属性で、アルだけ風だと言っていたな。
「俺は風属性だよ。」
アルの声が冷たく感じた。
「属性が風だろうと、他もある程度練習すりゃ使えるだろ。そんな髪だろうがミームス家なんだ、ある程度地属性を使える様にしておけと言っただろ!」
ウランの声が低く怒気を含んでいた。
「悪かったな!ミームス家を汚して!だが、俺の属性は風だ、兄貴達みたいに、髪も赤く無いし、俺だけ違うが、俺は俺なりに頑張っているんだ!俺は風属性で、強くなる!」
アルの声が夜に響く。
俺はこの扉を開けられずにいた。
「クックッ!ふざけるな!風如きが、地属性に勝てるかよ!!だからお前はいつまでも俺に勝てねえんだ。何にプライド持っているか知らねえが、そんな甘っちょろいプライドなんて捨てちまえ。お前は認めろよ、ミームスの出来損ないだと。そうすれば少しは強くなるだろうよ。魔力量はあるんだ、もったいねー。」
「俺は風魔法で兄貴に勝つ!」
「ほう…そこまで言うなら1週間後、相手してやるよ。負けたら、出来損ないだと認めろよ?」
暫く睨み合いが続いたが、アルは夜の林へと走り去っていった。
俺は扉を開けて、1人残ったウランへと近付いた。
「ウラン…。」
「何だよ、覗きみとはいけねえな。」
俺に背を向けたまま、ウランは言った。
「気付いてたんだ、ごめんなさい。ねえ、なんでアルに冷たいの?」
俺の言葉に振り向いたウランの顔は、口元は笑っていたが、瞳は切なく思えた。
「冷たい?まあ、そうかもな。あいつは弱い。弱い奴は生きていけねえんだ。この世界ではな。」
そう言うとウランは一度夜空を見つめ、それから俺にまた視線を戻した。
「なんだ、アルなら林の方だぞ?慰めに行かねえのか?泣いてるかもよ?」
フンッと意地悪に笑うウランに、俺は何故か不思議な気持ちになる。
本当にアルが言うように、仲が悪いのだろうか…
「アルは弱くないよ。今は行かない方がいい気がする。それに、俺はウランに用があったから。」
そう言うと、ウランは驚いたように俺を見た。
「弱くないか……。で、俺に何の用だ?抱いて欲しいのなら、部屋いくぞ?」
いつものように、揶揄う顔をした。
「違う!!お土産渡そうと思って探してたんだ!皆にはもうあげた!ハイ!これからよろしく!」
ウランは俺からスカイブルーのガラス玉が付いたチャームを受け取ると、少し優しい顔をして、ベルトに装着してくれた。
「サンキュー。瞳の色とはシャレてんじゃん。」
それから一瞬、林の方を見た後、俺の肩を叩き、扉に手を掛けた。
「身体共々よろしくしてやるよ!」
手を振り、室内へと戻っていった。
「なんだかなー…。」
アルへの言い方は冷たいけど、ウランの瞳がね、なんか、うまく言えないんだが、冷たく感じないんだよな。
「中途半端に深入りしない方がいいぞ。」
ドキッと俺は辺りを見渡した。
すると、ギルドの屋根からティーンが飛び降りてきた。
「な、何してんの?」
俺はドキドキする胸を押さえて、急に現れたティーンに聞いた。
「眠れず、星を見ていたら、騒いでいた。」
なるほどですね。
ティーンは欠伸をして、俺をまたジッと見下ろす。
「他人の問題にあまり首を突っ込まない方がよい。所詮、自分でしか解決出来ない。」
「そうかもしれないけど…。」
なんか、ティーンの瞳って観察されてる感じや、心の中まで見られている気がして落ち着かない。
「中途半端に手を出して、本当に相手がお前に助けを求めて頼った時、お前は助けられる程の力があるのか?責任が取れるのか?」
俺は突き刺さるティーンの言葉に何も返せなかった。
俺は今無力である事は自分が1番分かっている。
だけどさ、だけど…
「話は聞くぐらい出来るよ。それに、なんかすれ違いな気もするし。」
「2人がお前に頼ったのか?解決してくれと?それとも自分の考えと判断か?」
「えっ…?」
「この世界は、力が全てだ。ウランはその部分は正しい。相手より、自分の方が劣っていると思った時点で負けだ。少し歩けばモンスターが出る。だが、食料確保の為に外に出る。1日当たりどれくらいの人が死んでいるんだろうな。狩る者もいれば狩られる者もいる。騙す奴もいれば、騙される奴も。最後に信じられるのは自分自身と強さだ。」
ティーンは感情の見えない赤い瞳でヒヨリを見つめる。
感情が見えないのに、責められている事はわかる。言葉の冷たさも。
俺は、多分傷付いている。この世界に来て、初めて厳しさ、甘さを責められているんだ。お前に力は無いと、正面切って言われているんだ。
「お前はお前自身も守れないのに、他人を心配できるのか?」
泣いちゃダメだ!泣くな!俺!当たり前のこと言われているんだ!ティーンだ正しい!!
くそっ!だけど!!
「うるさーい!!ああ!弱いよ!俺は弱い!分かっているんだよ!だがな、弱いからこそ、相手の不安や傷付いているのだっ
て理解出来るんだ!悩んでいる事だって分かるんだよ!狩るもの?狩られるもの?騙すもの騙されるもの?大いに結構です!誰かが悩んでんの分かってて無視するより、助けに行って狩られた方がいいわ!信じないでいるより、信じて騙された方がいい!だけど今はティーンさんの言う通り、逆に俺が迷惑掛けちゃうだろう!だから絶対強くなって、皆を助けちゃうもんね!信じちゃうもんね!相手と比べる為の強さなんていらない!俺は大好きな人を守る為に強くなってやるもんね!何が力が全てだ!誰が決めたんだよ!」
俺は鼻息荒く、フンッとティーンを睨み、室内に戻った。
絶対強くなる!!
置いていかれたティーンは目を丸くして、扉を見つめた。
「フッ…確かに、誰が決めたんだろうな。」
坊を怒らせてしまったかな。
「なるほど、面白い。」
ティーンは久しぶりに笑った。それがまた、自分でも信じられず、また、それが面白かった。
※土属性を地属性とありますが、
土属性=地属性となっています。
分かりにくく申し訳ございません。
地、土=大地魔法となります。m(._.)m
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