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第二章・四人の【天使】
【第六節・プライド~後~】
しおりを挟む交易所の扉を開けると、屋内左奥の隅にある店舗の前に交易商人の人だかりと、男の罵声が耳に入った。交渉のもつれからの喧嘩か? 通路にも集まりつつある野次馬をかき分け、罵声の主を確かめるべく、人だかりの隙間から覗き見る。
「何度言わせれば分かるっ!! なぜ魔物が人間の街で呑気に買い物しているっ!? おかしいだろうっ!?」
人だかりの中心では通路の真ん中で、金や銀の装飾模様が入った派手な赤い外套に、白い鞘に収まった剣を帯刀した栗色短髪の男が、オロオロと困惑した様子のシスターへ向かって指を指して叫んでいた。あの左胸にある獅子の装飾模様は……【戦争屋】から成りあがった貴族か。
侵略戦争時、【戦争屋】と称して様々な種族に武器や物資を売り歩き、戦火を激化させた挙句、クーデター後も売り払って得た莫大な資産でのうのうと暮らしている奴らだ。クーデター中の治安悪化に便乗し、地主となって多くの街を裏から支配しており、取り押さえて処刑するのは簡単だが、王都の一部は既に貴族の支配区となっているため、内部の混乱は避けられないとされている。
王となった【勇者】や【ルシ】も手を出しあぐねている厄介者。住民達から表向きの評判こそいいが、彼らの話となると良い顔をしない。
「おい、誰か自警団か警備隊を呼んでくれっ!! 王都の駐屯兵でも何でも構わないっ!! この骸骨を街から叩き出せっ!!」
男の罵声は休むことなく、交易所内に響き渡る。恐らく、この街の住人や商人達が魔王の娘らを受け入れていることを知らないのだろう。こんな場所へ何をしに来たのか知らないが、関わり合いたくない者同士で面倒を起こしてくれるな。
そんな中、人だかりをかき分け、困惑するシスターの元へ駆け寄る一人の男の姿があった。バックスだ。彼はシスターの前に背を向けて立ち、貴族の男と対峙する。
「悪いな貴族さん、この人は俺らの恩人でお得意さんだ。魔物だろうが【悪魔】だろうが貴族だろうが、この街では平等に【人】として扱うことにしててね。自警団も警備隊も王都の駐屯兵も、あんたよりこの人らに百万倍は世話になってる。戦火に油を注ぎ続け、俺らを苦しめた奴の相手をしてくれると思わないほうがいいぜ」
バックスは眉間に皺を寄せ、貴族の男を睨みつける。私やシスターと陽気に話していた彼の声よりも幾段か低く、固く握った拳が震えていることから、腹の底から沸きあがる怒りを抑えて話しているように見える。バックスの態度に貴族の男は、シスターを指さしていた左腕を下ろし、眉間に手のひらを当て、やれやれといった様子で名乗り始める。
「俺は【ツメイ・ゴリニヒーチ】。身分は【第二階級貴族】だ。自慢ではないが、資産として王都近くに膨大な領地と街をいくつか持っている。……いや、今はそんなことはどうでもいい。交易市場にも手を出そうかと泥臭い様々な街を視察してきたが、ここまで頭のおかしな街を見たのは初めてだ。お前では話にならない。町長、もしくは地主をここに呼んでもらおうか。事と次第では王都議会にて、議論題材として提出させてもらう」
貴族の男――【ツメイ】は自分の足元を指して指図する。
貴族にも階級があるようで、奴の階級は五段階級中上から二番目。【第一・第二階級】は王都議会に参加する権利を持ち、議論結果によっては王都の内部情勢や法律の書き換え、鎮圧軍も動くそうだ。普通の街の市民なら震えあがるであろう脅し文句だが、バックスは鼻で笑う。
「いねーよ。町長はクーデター中のごたごたで、強盗に遭って一家皆殺し。後釜になりそうな金持ちの奴らもみーんな地面の下さ。だからこの街には最高責任者や権力者はいない。あんたらからしてみれば無法の街だが、俺らは俺らの良心を持ってここで暮らしてる。多分、あんたご自慢の資産よりも治安はいいぜ? 必要なのは、偉いだけの頭でっかちや法じゃねぇ。自分で立って生きられるか、種族関係なく人に手を差し伸べて肩を貸せるかどうかだ。あんたも俺も、ここでは平等。わかったら黙って帰んな」
ツメイの余裕そうな表情が、再び徐々に険しくなっていく。心から同情しよう、私もこの街の連中や魔王の娘達には散々振り回されている。
この街も、こいつらも、何もかもがおかしい。世間から見れば狂っている。あなたも私もその感性は正しい。ただ、今はあまりに分が悪い、面倒事になる前に、引いてはくれないだろうか?
「ドブ鼠の分際で、貴族にたてつくとはいい度胸だな。見たところ交易商のようだが……俺がその気になれば、商会そのものにも介入出来るのだぞ? 商会を買い占め、貴様の家族も隣人も、お似合いの暮らしをすることになる。丸々と肥えたドブ鼠が……口の利き方には気を付けろっ!!」
「はっはっはっはっ!! こいつぁめでてぇっ!! 誰よりも金に汚ねぇ商会が、貴族一人の投資如きで買い占められるわけねえだろっ!! あいつらは一生自分達だけが稼ぐことしか考えてねぇんだっ!! 汚ねぇ金も綺麗な新品の金貨も、奴らからしてみれば等しく金っ!! ましてや商売敵のてめぇら貴族がどうこうできる相手じゃねぇんだよっ!! やめとけやめとけっ!! 世間知らずのボンボンが、身内にも笑われて終わりさっ!!」
バックスの返し文句で、周囲から交易商人達の笑い声がどっと上がった。ツメイの目は怒りに満ちていたが、状況判断ができないほどではなかったらしく、取り囲む笑い声に若干引き気味で、バックスの後ろにいたシスターも口元に両手を当て、困惑している。
「ど……どいつもこいつも……狂っている……っ!!」
ツメイが私の言葉を代弁してくれた。
ああ、狂っている。目の前のこいつらも、周囲を取り囲む奴ら、この街の人間、魔王の娘やポラリス、そして【ルシ】も【勇者】も……皆、狂っている。
虫唾が走る笑い声が、頭に響く。一刻も早くこの場を離れたい気持ちに駆られたが、周囲の野次馬が邪魔で身動きができない。まるで、理解できない私自身が馬鹿にされているようで、惨めじゃないか。やめろ。私は【天使】だ。神々の手足となり働く、貴様ら家畜共の世話をしてやっている立場だ。
不敬である。生かされていることも知らない、愚かな畜生が。笑うな。神を笑うな。【天使】を笑うな。私を笑うな。
笑うな。
――気が付いた時には、一本の刀身に装飾が入った剣を両手で握りしめ、バックスの喉元に突き付けていた。
笑い声が止み、静寂が訪れる。
ああ……やっと静かになった。
何者かの悲鳴が上がり、囲んでいた野次馬共が出口に向かって一斉に散り始める。取り残されたのは、私の後ろで立ちつくす、鞘のみを携えたツメイ、目の前の脂汗を垂らして怯えるバックスと、その背後にいる両手を口元に当てたシスターだけだった。
状況を鑑みるに、私の手に握られている剣はツメイの帯刀していた物だろう。新品特有の握り心地がする。私がいつも鍛錬で扱っている木剣よりも軽いのは、ツメイの筋力ではこれぐらいが丁度良いからかもしれない。
バックスは両手を上げ、抵抗はしないことを主張する。
「……お、おいおい。あんちゃん……こいつぁどういうこったい……?」
黙れ。警告の意味も込めて更に喉元へ近づける。小さく悲鳴を上げたが、黙らせることに成功する。
「ふ、ふふふっ!! やはり俺以外にもまともな奴が街にはいたようだなっ!! どうしたドブ鼠っ!! また狂ったように笑ってみせろっ!!」
ツメイの声が背中から聞こえる。油を注いだ【戦争屋】と同等扱いをするな。私は【天使】や神々の誇りを守るために、こちら側へ立っているに過ぎない。家畜が勝手に鳴くな。
「ふはっはっはっはっ!! おいそこの男。ここはドブ鼠曰く、無法の街らしいな。ならば別にこの場で死人が出ようと、魔物が殺されようと問題はあるまい。何かあれば【第二階級貴族】の俺が揉み消してやろう。いい案だとは思わないか? 俺の剣を血に汚すのは少々気乗りはしないがぁ……これもまた平和な世を守る為だ。狂人共を斬り倒すなら惜しくはない……ふふっ!!」
なるほど、家畜にしては名案だ。本当に無かったことにできるなら協力してやる。これは身の程知らずへの粛清。人々を平和へと導く【天使】として、狂人共をまとめて吊るしあげてやろう。
私はバックスの喉元へ剣を突――
軽快な金属音と共に喉元の剣が真横に弾かれ、腹を蹴られたような鈍い痛みがした。少しえずいたが、私は目の前の乱入者を視界に捉えるべく顔を上げる。
「ティルレットさんっ!!」
シスターがレイピアを片手に、私の前に立ち塞がった無表情の【悪魔】の名を呼ぶ。構えてはいるが、追撃はしてこない。やはり助けに入ったか。狂人共を庇う【悪魔】、お似合いの立ち位置じゃないか。【天使】として、殺りがいがある。
右手の光り輝くレイピアは白い煙のような物を出していて、恐らく魔術で作った代物だろう。彼女の後ろでバックスがへたり込むのが見えた。
「なんだっ!? まだ魔物の仲間がいたのかっ!! お、おいっ!! そいつもだっ!! そいつも斬り捨ててしまえぇっ!!」
貴様に言われなくともそのつもりだ。私は両手で剣を握り直し、正面に構えて間合いを測る。奴に斬りかかるには五歩……といったところか。レイピアの長さは私の剣よりも長く見える。
レイピアは【突き】に特化した武器だ。【悪魔】のそれも例外でないのなら、奴の間合いは長いが間合いより内側は弱い。初撃さえ躱せれば、私の方に分がある、蹴りや体術は剣で捌けばいい。それに、奴には背後の奴らを庇わなければならないだろう、こちらは後ろの奴の安否は気になどせず、目の前の【悪魔】と狂人、魔物を粛清することに集中できる。
不思議なものだ。先程まで不気味で嫌で仕方がなかった二人を敵として認識しても、一切取り乱さない自分が今ここにいる。
「……これが、あなたの言う【身を焦がす情熱】か」
「左様でございます」
直後、ティルレットが低い体勢になって飛び込み、間合いを一気に詰めてくる。二歩、一歩――先端は私の頭か。
首を右へ曲げ、躱す。一瞬、耳元で風を切る音と冷たい風を感じた。突きの姿勢で制止する彼女へ、左の胴目掛けて剣を横に振り反撃する。彼女は後ろへ跳躍――するが、切っ先へ手応えがあった。
飛び退いて距離を取ったティルレットを確認すると、白黒のメイド服の左胴から血が染み出している。
「だ、だだ大丈夫ですかっ!?」
「シスター、バックス氏。そのまま下がり、隅へお逃げくださいませ。不肖ティルレット、お二人をお守りするには、少々力不足でございます」
「は、はいっ!! 立てますか、バックスさん?」
「あ……ああ、なんとか。……すまねぇシスター、腰が抜けちまった」
無表情で切っ先をこちらに構えるティルレットの背後で、シスターに差し出された手を掴み、バックスが立ち上がるのが見える。足手まといを逃がすのなら、外へ逃げるよう指示するべきだろう。囮か、もしくは足手まといがいても、十分だという事か。
だが、あの速さならまだ反応できるのは理解した。ならばこちらからは仕掛けず、突きを躱し、反撃で一太刀入れるのが堅実そうに思える。【悪魔】とて、血を流し過ぎれば死ぬだろう。首を落とすか、手足を切り落として動きを鈍らせるか――
「――よいぞっ!! その調子だっ!! ふははははっ!!」
私の後ろからツメイの高笑いが聞こえる。
黙ってろ、集中を切らさせるな。いざとなれば奴を盾にする事も考えておく。レイピア相手に効果は薄いだろうが、上手く骨や肉に刺さってくれれば、得物を奪えるかもしれない。一瞬でも素手にできれば十分だ。
シスターとバックスが隅へ辿り着くと同時に、ティルレットが動いた。先程よりも更に低い姿勢で地面を蹴り、滑るように詰め寄る。二、一――狙いは胸の中心。
左足を後ろへ下げ、右側へ上半身を逸らす形で躱す。こちらの体勢がやや崩れたが、まだ反撃できる間合いだ。踏み込まずに左脇へ、斬り上げる形で剣を振る。彼女が左へ飛び退く姿が見えたが、一瞬左腕に剣が接触する。目で追う。ティルレットは交易商人の品物を蹴散らしながら、木製の商品棚の上へ着地した後、素早く振り返る。
長袖のメイド服の左腕部分が赤く滲み、下げた左手を伝い、血がぽたぽたと不規則に滴っていた。一足一突、筋は一直線で防ぐのは無理だが、視線を逸らさなければ当たることはない。
殺れる。【下級天使】の私でも、【悪魔】を殺せる。
「客人、良い太刀筋です。不肖は感服いたしました」
「……ありがとうございます」
左腕や脇腹の怪我を庇う様子は無く、表情は無表情。もしや痛覚がないのか? だとしたら厄介だ。完全に腕や足を切り落としでもしない限り、動き続ける。失血死を狙うには何太刀必要だろう。それとも頭を狙うか。
「恐れ多きながら不肖、客人の青い瞳にポーラ司祭とは異なる、強い意志と情熱を感じました。故に、不肖と対峙するのもまた定」
「……私は、あなたやシスターとは分かり合えません。ポラリス司祭やあなたの主とも。私が信じるのは、神々と自分の役目のみです。あなた達がやろうとしていることは、我々の冒涜に等しい。人は我々が導くもの、余計な事を考えずに、【天界】に住まう神々を祈ればよいのです。……あなたやこの街の住人は、狂っている」
「………………」
ティルレットの動きが完全に止まる。停止した、といった方が正しいのかもしれない。狂っていると私の言葉で自覚して、混乱しているのだろうか。
棚の上に落ちる血の乾いた音が、やがて血溜りの上へ落ちる水滴音へと変わった。そしてティルレットは静かに瞼を閉じて、口を開く。
「三つ編みの客人。不肖ティルレット、是非情熱的に和解しとうございます。許可を」
……あなたは、私にどれほど否定されようとも、最後までその調子か。猟奇的な彼女の表情が頭をよぎる。その胸の内には、【悪魔】の名に相応しい残虐性が隠されているのだろう。わかる、わかるとも、私もそうなのだから。現にこうして敵と明確と呼べる存在と対峙し、【天使】として使命を全うしている事実を嬉しく思う。
だが、決定的にあなたと違うのは、私の信じる対象が偉大なる神々であること。彼らの手足となり、【地上界】の家畜の世話をする。誤らなければ死ぬことも無く、醜く朽ち果てもせず永遠に神々へ仕えられる。大変素晴らしいことではないか。恐怖心? そんなものは、今の私には無い。あったとしても、既に乗り越えたのだから。
それを今、あなたへ勝利することで証明しよう。
「許可しましょう」
「感謝」
そう一言告げると、彼女は両手の白い手袋を取った。すると、白い顔の肌からは想像もしなかった、真っ黒な手が露わになる。……いや、彼女の白い手を、黒い何かが纏わり付き、蠢いている。
「ティルレットさんっ!! それは――」
「静粛に。シスターは【壁】の準備をお願い致します」
シスターが何かを言いかけたが、ティルレットはそれを制する。そして手袋をスカートの左ポケットへしまうと、手に纏わり付いていた黒いものが、白く輝くレイピアへ伝っていき……刀身も柄も黒いレイピアとなった。魔術……呪詛の類にも見える。どちらにしても、彼女が本気になったには違いない。
左からツメイの小さな悲鳴と、後ずさる音が聞こえた。
「な……なんだ……なんなのだあれはっ!? 黒く蠢いて……まるで蟲のようではないかっ!! 気味が悪い……っ!!」
「戦火の名残にございます。然し、不肖には欠かせぬ情熱でもあり、スピカお嬢様をお守りする剣にもございます。身を焦がし続ける情熱は、死生の狭間を垣間見ることが叶います故。お見苦しいかもしれませぬが、どうかご容赦を」
彼女はツメイへいつもの抑揚のない声で説明した後、丁寧にこちらへ一礼し、先端を天井へ向ける形で自分の顔の前に黒く染まったレイピアを掲げる。
「不肖の情熱を、ポーラ司祭は気を失われることなく、美しいと受け入れてくださいました。願わくば、三つ編みの客人も、不肖の情熱を理解していただきとうございます」
レイピアを一度下ろし、こちらへ構え直す。黒いそれも尾を引くように弧を描き、煙のように揺らぐ。
「お嬢様の剣として、そしてポーラ司祭の友として、不肖ティルレットが情熱的に和解致します。決して、目を逸らさぬよう」
棚を両足で蹴り、私へ一直線に飛び込んで来る。一――狙いは頭と予想。右側へ飛ぶようにして躱――――腹部に鈍い痛みと、後頭部と背中に叩きつけられた痛みを感じた。
一瞬真っ白になった視界が徐々に鮮明になり、天井が見えたことで、彼女に蹴りか拳で倒されたことを理解する。起き……上がれない。何かが引っかかったような感触。腹部と背中が張り付けられたような……まさかと思い、鈍い痛みを感じる腹部を見る。
「な……うっ!?」
そこにはレイピアを私の脇腹へ深々と刀身の根元まで両手で刺し、あの表情を浮かべたティルレットが、私の下半身に跨るようにして覗き込んでいた。白い肌がうっすらと赤く高揚した、満面の笑みを浮かべて。
理解してしまった。圧倒的実力で勝ち誇った者の顔ではない。新しい発見をしたような、子が親にねだった品を貰ったような……愉悦に浸っている類の顔だ。あなたはこうなることを、あの会話の時点で全て分かっていたというのか。
脇腹からは出血……は無い。一撃で素早く貫通したレイピアは私の背中を貫通し、綺麗に床へ刺さったようだ。両手に握られていたはず剣の感触はどちらにも無く、手放してしまったらしい。そして脳が刺されていることをようやく認知したようで、燃えるような痛みが脇腹から走り始める。
「あっ!! あぁああっ!? あぁあああぁっ!!」
痛い。痛い。刺された部分が熱を出す。熱い溶けた鉛が、血液の流れに乗って循環するように、脇腹を中心に全身が燃えるように熱くなる。あの黒いものが私に流れ込んできているのか? わからない。経験したことのない勢いで、全身から汗が出る。業火に身を包まれているのか? だが炎は見えない。
視界の下には彼女の覗き込む顔。やめろ、そんな顔で見るな。焼ける痛みと熱さで声にならなず、悲鳴も上げられなくなった。死ぬのか? 【天使】の私が? 神々に忠誠を誓った私が? 嫌だ。こんな惨めな死に方は嫌だ。地獄の業火に全身を焼かれて、張り付けにされた罪人のように死ぬのは嫌だ。首を伝い、顔まで焼けたように熱を帯びる。熱さでむせ、息が吸えない。苦しい。しかし炎は見えず、意識が遠のくことはない。幻覚? 夢? 視界の下から、あの顔が昇ってくる。やめてくれ、来るな。
視界がうっすらと青くなり始め、【悪魔】と目が合い瞳を覗き込まれる。彼女の瞳の中には、揺らめく青い炎が映って見えた。燃えているのか、私は。怖い。嫌だ。死が怖い。未だ死ねないのが怖い。瞳を覗きこむ【悪魔】が怖い。やめてくれ、熱い、痛い、瞼を閉じたいができない、怖い、死にたくない、死なせてくれ、怖い、目の前の――【形を成した死】が怖い。
神よ、お助けください。哀れな【天使】を。なんで? なんで助けてくれない? 私は苦しんでいる。あなた方に仕えた【天使】が、手足が苦しんでいる。見ているのでしょう? 【悪魔】は私を見ている。
助けて、たすけて、いやだ――――こわい。
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