詐欺るシリーズ「冤罪！幾重にも塗り替えられた真実」

林と連絡を取る

判決が出て二週間後に、林は東京拘置所から府中刑務所、通称府刑に収容された。
府刑は日本最大の刑務所で、収容人数は三千人にも及ぼうかというマンモス刑務所である。
林は起訴されて留置所から東京拘置所に移されていた。
刑務所での面会は親族だけ可能だと綾香は知っていたから、手紙で連絡を取ろうとした。
だがその事で問題があった。
手紙はまず官が内容を確認する事になっている。
犯行を否定する内容の手紙を果たしてやりとりなどできるのであろうか？
綾香はルポライターとしての勉強のほかに法律の勉強も欠かさなかった。
刑務所内の手紙についても詳しく調べてみた。
刑が確定した受刑者の場合は、手紙を出す回数を毎月制限されるが、受け取る場合は余程のことがない限り可能であった。
手紙の発受は毎回刑務所の官が内容を確認する事になっている。
余程のこととは、手紙の内容に暗号が用いられたりしていて官が理解できないと判断した場合である。
官が犯罪性があると判断したり、施設の規律及び秩序を害したり、受刑者の公正を妨げると思われた時の事だった。
何度もその事項を読み返しながら、綾香は林に手紙を出す事にした。
手紙を林がちゃんと読んでくれなければ意味がない。
最初の手紙は簡潔にすべきであると判断した。
最初に出した手紙の内容はこうだった。

初めてお手紙差し上げます。
私は殺された小比類巻純真の娘です。
私たち家族は十一年前に母が白血病で死んでから、父と娘二人の三人で平凡でも幸せに暮らしてきました。
それが突然悪夢のようなあの事件が起きたのです。
あの日から私たち娘二人は辛く悲しい思いで生きています。
裁判で貴方は犯行を否定されていました。
捕まった時から一貫して犯行を否認し続けていたと聞いています。
私たち娘は犯人が憎くて憎くてたまりません。
もし貴方が犯人でないとしたならば、犯人は別にいるはずです。
その犯人をどうしても捕まえたいのです。
判決が下りて刑務所に入ってしまった貴方の無実を証明するためには、真犯人を見つけ出すしか方法がありません。
どうか私に連絡を下さい。
殺人があった日の記憶を思い出して手紙に書いて送って下さい。
どんな些細なことでも構いません。
待っています。
　　　　　　　　　　　　小比類巻綾香