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剣なんて重いし邪魔だし聖女になれば剣なんて持ち歩かなくていいし楽だよねなんて思ってた私は馬鹿子

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 「何てことしてんのよ。たぷ子」  
 千穂が友達と入ってきて私を殴った。また殴られたよ。痛い。
 「素人がいきなり殴ったら手傷つけるよ」 
 「殴らせるような事しないでよ」
 友達がスマホで動画を撮っている。
 「この動画、ネットにあげてるから。無抵抗の少女に襲いかかったらあんた達やばいよ」
 『聖女就任とかまじでやってんの』『ここ何時代よ』『jtレイプ中継と聞いてきた』『通報しといた』『まじ土人』
 『一度この島旅行に行こうと思ってたけど怖いしやめとくわ』『行方不明者多いんだよねこの島』
 『帯剣jt』『帯剣デフォの場所なんて行かねぇよ』『マニフェストディステニーしとけこんな島』
 『ここに白2マナしろ』
 実況動画の書き込みから、この島の評判の悪さが分かりやすい。私でも分かる。
 「いやさぁ、俺達は何もしようとしてないよ。むしろ俺達が殺されそうになってるのよ。こんなのネットに流しても
やばいのは君達の方だよ」
 「そういう状況?」
 「うん。ここでこの人達を大和君達が殺すのは簡単だろうけど、そんな事したらプロが出てくるだろうし」
そんな事になったらパパママも千穂の家族も友達の家族まで巻き込まれる。
 「千穂達は帰った方がいいよ」
 「まだ殴られたいの、たぷ子」
 「私は納得して契約したんだから。私が契約通り聖女やればそれで済む話なんだけどね」
 千穂がまた殴ってこようとしたから、制止するように言う。
 だから、素人がそんなに殴ったら手傷つけちゃうって。私も痛いし。
「そんな風に思ってたけど、パパにも千穂にも殴られて友達も皆こんなに止めに来てくれて
私、愛してもらってるんだなぁって。私が聖女なんてやったらパパもママも千穂も友達皆やっぱり嫌なんだなぁって」 
 「当たり前でしょ。なんで殴られなきゃ分からない子なのよ」 
 「私、聖女辞めます。スマホも1万円も返します。はい」
 「だからさぁ、スマホとか1万円とかそんなのどうでもいいんだよ」
 「お前、まさかこんなもののために聖女やろうとしたんじゃないだろうな」
 お父さんに言われる。
 「それもあるし、聖女になったら働かなくていいかなとか、生きていくのが大変そうだなとか面倒そうとか。
結界の向うに行って帰ってこれなくてもそれはそれで別にいいかなとか、モンスターに殺されても別にいいかなとか色々考えて聖女契約したんだ」
 「でもやっぱり生きる。結界の向うに行ったら不味い枝豆バーも食べられないし美味しくない島っ子ジュースも飲めないし
パパともママとも千穂とも皆にも会えないし」
 「枝豆バーは家族で食べる物だ。もう勝手に食べるんじゃないぞ」
 「そんな事まだ覚えてたんだ。パパまじぎれしてたよね」 
 「そんな話聞かされちゃ、俺達はもう引くに引けないぜ」
 大和君はここにいる人達を殺す事を厭わない雰囲気だ。
なんでそんなに力ずくなのかなぁ。でも、生きていくためには力も戦う事も必要なのかもしれない。面倒だけど。
 「千穂も皆も巻き込まれていいの。家族まで拷問されたり殺されるかもしれないんだよ」
 「いいわよ。たぷ子に迷惑かけられるのは前からよ」
 私そんなに千穂に迷惑かけてたかなって考えたけど迷惑いっぱいかけてる。いや、今回はそんな迷惑なんてもんじゃないんだけど。
 「やってやるわよ」「生きたいっていう友達を見捨てて逃げたら、もう人間じゃないからね」「帯剣jt舐めるんじゃないし。やってやるし」
 皆戦う気のようだ。私のために戦ってくれるようだ。剣振り回すなんて疲れる事やるぐらいなら、殺された方が楽だなんて思ってたけど
そんな事言っても千穂に馬鹿子って言われたけど、やっぱり馬鹿子だった私。
 私は剣を抜く。聖女やってたら剣なんて抜かないでいいし、もう剣なんて重たい物持ち歩かなくていいんじゃないかな楽だしなんて思ってた私は
やっぱり何も分かってない子だったのだろう。
 「聖女辞めさせてくれないなら、私も剣で戦うよ。大和君助けて。皆の事も守って」
 私はこの場にいる人達味方にも敵にも聞こえるように大声で話した。大声で話すなんてつかれるのに。
大きな声で怒るパパやママや千穂を見て、疲れそうなんて思ってたけど、助けを求めるのも敵意を向けるのにも大声出すのは
疲れてもやらなきゃいけない時があるよね。私にも今分かった。
 「喜んで。皆聞いたな。ここで戦わない者は俺の軍から未来永劫抜けろ。助けを求め、自らも剣を持つ少女を守れないなら、今後何も守れやしない」
 「やるぜ、大将」「お前等、命は大切にしろよ。後でプロがどれだけ来ようと今すぐ謝って聖女なんて諦めなきゃ、お前等の命はなくなるぜ」
 「この命、大将のために喜んで使うよ。人殺しも喜んで」
 名前も知らないけど、大和君の兵隊が協力してくれるようだ。
 というかもう剣を喉元に突き付けている人もいる。
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