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第七話・相談2
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妹の養育費として父から支払われていたものは、風香が高校を卒業したと同時に打ち切られている。以降の母達の生活は祖父母の残したお金に頼っていると考えていいだろう。それがあとどのくらい残っているのかなんて、私には全く分からない。
向かいの席の高坂さんはスマホで地図アプリを表示させて、母の店の周辺を確認していた。
「確かに、コンビニどころか駅前には大型スーパーまでありますね。しかもこの辺りは住宅の方が多いのか……」
「初めの頃はスーパーだけだったらしいんですけど、競合するように次々とコンビニができたらしくて」
実際に現地を見てみないと、と言いながらも高坂さんは私の話とスマホで検索できる範囲の情報でいろいろ考えてくれているみたいだった。不動産情報から母の店のおおよそのテナント料や商圏内の人口を割り出したりと、私の方が教えて貰った情報も多い。
その眉を寄せた厳しい彼の表情を私はすがるような目で見つめる。専門家なら現状から救う手立てがあるんじゃないかという期待と同時に、忘れ物を届けたくらいでこんな面倒な相談をしてしまったことへの申し訳なさ。
「何か、ここにしかない特出した物があるのなら、広告を打って集客してみる手もあるとは思いますが――」
「母は料理が得意でしたけど、特にこれと言って……」
メニュー数もそれほど多くはない、ありふれたお弁当。全てが手作りというわけでもなく、仕入れが安く済むからと揚げ物なんかは業務用の物を利用しているし、ここだけという特別感は一切ない。注文してから作り始めるから待ち時間がある分、コンビニで温めてもらったお弁当の方が手軽だと言われたら否定できない。正直言って価格も微妙だ。
「実際に見てみなくても、こうして話を伺っただけでも最悪の状況ですね。すでに手の施しようがないというか」
言い辛そうにしながらも、高坂さんがズバッと直球で審判を下す。立地も競合状態も悪い上に、宣伝効果がありそうな商品もない。とにかく救いようのない店だという評価は予想通りで、そんな厳しいことを彼に躊躇いながらも口にさせてしまって、逆にこっちが恐縮してしまう。
「はっきり言ってしまえば、荒川さんのお母さんの店は営業すればするほど赤字を生み出している状況で、返済が残っていたとしても一日も早く閉めた方がマシです」
「やっぱり、そうなんですね……」
「はい。新メニューの開発や店舗の改装にはそれなりのコストがかかりますし、何か爆発的ヒット商品が生まれたとしてもこの立地では挽回は難しいかと」
もう何をやっても僅かな望みすらないと言われて、私は愕然とする。でも、それは彼から言われる前から十分に分かっていたことで、私は黙って頷き返すしかできなかった。
それよりもワザと期待を持たせるようなことを言ったりはせず、冷静に言葉を選びながらも現実をきちんと突きつけてくれた高坂さんへは感謝しかない。誠実な彼のことは信じても大丈夫な気がして、私は幼い頃に両親が離婚していて、母が私のことを毛嫌いし何を言っても聞き入れてくれないという話までしてしまっていた。彼は私の話すことを静かに頷いたりして聞いてくれた後、少し考える風に黙り込んだ。
――いきなりこんな身の上話なんか聞かされたら、普通に迷惑だったよね……
私が逆の立場だったら、確実にドン引きしていたはずだ。ファミレスのコーヒーだけで長々と引き留めてしまったことを謝る私へ、高坂さんは平気だと言うようにゆっくりと首を横に振った。
「今日は相談に乗っていただいて、ありがとうございました。私では母を説得できるとは思えないけど、店を閉めるようにもう一度話してみます」
そう言って私がテーブルの端に置いてあった伝票に手を伸ばそうとすると、高坂さんがさっと手で制してくる。
「今日のことは俺からのお礼の一環なので」
そう言って伝票を取ってから、隣の椅子に置いていた鞄とジャケットを片手で持ち、会計へと立ち上がった。あまりにさりげなく奢って貰う流れになったけれど、遅れた上に待ち合わせ場所までこちらの都合で変更してもらったのだから、せめてコーヒー代くらいはと私も慌てて席を立ち、彼の後を追いかける。
「あのっ、せめて自分の分だけでも――」
トートバッグから財布を出そうとした私の手にそっと触れてから、高坂さんは黙って首を横へ振ってみせる。
「じゃあ、それはまた今度、お願いします」
「えっ?」
「まだ今回の事は解決していません。最後までお付き合いします」
どういう意味かと首を傾げた私へ、会計を済ませた彼がスマホを取り出してスケジュールアプリを開き、少し考えた後に告げてくる。
「来週末、午後から空いている日はありますか?」
「え、えっと……土日は朝までバイトがありますが、午後からなら――」
「そうですか、じゃあできるだけ遅めの時間の方が良さそうですね。土曜の十五時に店に伺うとお母さんには伝えておいてください」
スマホを操作して予定を入力しながら高坂さんはまるで仕事のスケジュールを確認するかのように淡々と言ってくる。
「へ⁉ 母の店に、一緒に行って下さるんですか⁉」
「はい。おそらく直接説明した方が良さそうなので」
向かいの席の高坂さんはスマホで地図アプリを表示させて、母の店の周辺を確認していた。
「確かに、コンビニどころか駅前には大型スーパーまでありますね。しかもこの辺りは住宅の方が多いのか……」
「初めの頃はスーパーだけだったらしいんですけど、競合するように次々とコンビニができたらしくて」
実際に現地を見てみないと、と言いながらも高坂さんは私の話とスマホで検索できる範囲の情報でいろいろ考えてくれているみたいだった。不動産情報から母の店のおおよそのテナント料や商圏内の人口を割り出したりと、私の方が教えて貰った情報も多い。
その眉を寄せた厳しい彼の表情を私はすがるような目で見つめる。専門家なら現状から救う手立てがあるんじゃないかという期待と同時に、忘れ物を届けたくらいでこんな面倒な相談をしてしまったことへの申し訳なさ。
「何か、ここにしかない特出した物があるのなら、広告を打って集客してみる手もあるとは思いますが――」
「母は料理が得意でしたけど、特にこれと言って……」
メニュー数もそれほど多くはない、ありふれたお弁当。全てが手作りというわけでもなく、仕入れが安く済むからと揚げ物なんかは業務用の物を利用しているし、ここだけという特別感は一切ない。注文してから作り始めるから待ち時間がある分、コンビニで温めてもらったお弁当の方が手軽だと言われたら否定できない。正直言って価格も微妙だ。
「実際に見てみなくても、こうして話を伺っただけでも最悪の状況ですね。すでに手の施しようがないというか」
言い辛そうにしながらも、高坂さんがズバッと直球で審判を下す。立地も競合状態も悪い上に、宣伝効果がありそうな商品もない。とにかく救いようのない店だという評価は予想通りで、そんな厳しいことを彼に躊躇いながらも口にさせてしまって、逆にこっちが恐縮してしまう。
「はっきり言ってしまえば、荒川さんのお母さんの店は営業すればするほど赤字を生み出している状況で、返済が残っていたとしても一日も早く閉めた方がマシです」
「やっぱり、そうなんですね……」
「はい。新メニューの開発や店舗の改装にはそれなりのコストがかかりますし、何か爆発的ヒット商品が生まれたとしてもこの立地では挽回は難しいかと」
もう何をやっても僅かな望みすらないと言われて、私は愕然とする。でも、それは彼から言われる前から十分に分かっていたことで、私は黙って頷き返すしかできなかった。
それよりもワザと期待を持たせるようなことを言ったりはせず、冷静に言葉を選びながらも現実をきちんと突きつけてくれた高坂さんへは感謝しかない。誠実な彼のことは信じても大丈夫な気がして、私は幼い頃に両親が離婚していて、母が私のことを毛嫌いし何を言っても聞き入れてくれないという話までしてしまっていた。彼は私の話すことを静かに頷いたりして聞いてくれた後、少し考える風に黙り込んだ。
――いきなりこんな身の上話なんか聞かされたら、普通に迷惑だったよね……
私が逆の立場だったら、確実にドン引きしていたはずだ。ファミレスのコーヒーだけで長々と引き留めてしまったことを謝る私へ、高坂さんは平気だと言うようにゆっくりと首を横に振った。
「今日は相談に乗っていただいて、ありがとうございました。私では母を説得できるとは思えないけど、店を閉めるようにもう一度話してみます」
そう言って私がテーブルの端に置いてあった伝票に手を伸ばそうとすると、高坂さんがさっと手で制してくる。
「今日のことは俺からのお礼の一環なので」
そう言って伝票を取ってから、隣の椅子に置いていた鞄とジャケットを片手で持ち、会計へと立ち上がった。あまりにさりげなく奢って貰う流れになったけれど、遅れた上に待ち合わせ場所までこちらの都合で変更してもらったのだから、せめてコーヒー代くらいはと私も慌てて席を立ち、彼の後を追いかける。
「あのっ、せめて自分の分だけでも――」
トートバッグから財布を出そうとした私の手にそっと触れてから、高坂さんは黙って首を横へ振ってみせる。
「じゃあ、それはまた今度、お願いします」
「えっ?」
「まだ今回の事は解決していません。最後までお付き合いします」
どういう意味かと首を傾げた私へ、会計を済ませた彼がスマホを取り出してスケジュールアプリを開き、少し考えた後に告げてくる。
「来週末、午後から空いている日はありますか?」
「え、えっと……土日は朝までバイトがありますが、午後からなら――」
「そうですか、じゃあできるだけ遅めの時間の方が良さそうですね。土曜の十五時に店に伺うとお母さんには伝えておいてください」
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