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第十話・一人で過ごす休日
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日曜の朝は八時に日勤のパートさんと引き継ぎしてから、徹夜明けで朝日の眩しさに耐えながら駅へと向かう。この時間はいつもは賑やかな駅前もまだ静かで、休日出勤の会社員よりも早めに遊びに出掛けるという人の方が多い気がする。私のようにこれから帰宅してとりあえず寝るだけという昼夜逆転の人間はどれくらいいるのだろう? かと言って、夕方まで寝続けてしまうと明日からの会社勤めに支障が出てしまうので、いつも日曜日は生活リズムを戻すのに必死だ。少なくとも昼過ぎまでに起きないと夜に眠れなくなってしまうから。
駅のホームでスマホのアラームを設定し直していると、妹の風香からのメッセージの受信に気付く。特別仲が良いわけじゃないけれど、妹が高校に入学してスマホを持たせてもらえるようになってから定期的に連絡を取り合うようになった。それ以前は父と妹との面会を兼ねて月に一度、一緒に夕ご飯を食べる程度だったけれど。
『お母さんがお店を閉めてパートに出ることにしたみたい。だから私も、卒業したら他で働いていいって。明日から就活開始だー!』
大学四年で周りが内定をもらい始めている中で、卒業後も母の店を手伝うよう強要されていた風香から、ようやく弁当屋から解放されたと嬉しそうなメッセージが送られてきて、私は睡眠不足で情緒がおかしくなっていたのか目に溜まった涙を服の袖で拭った。
「良かった……」
思わず口から漏れた声に、電車待ちの列で前に立っていた人が驚いて振り返っていた。
妹から送られてきたメッセージによると、母は私達が帰った後、店を臨時休業にして家に戻ってきたらしい。そして、しばらく自室に籠っていたと思ったら、通帳や帳簿類を広げたり、どこかへ電話を掛けたりしてから、風香に弁当屋の廃業を宣言したのだという。
昨日、私が高坂さんと店へ訪れたことを知らない妹は、なんで急にと不思議がっていたけれど、母に決心させてくれたのは間違いなく高坂さんのおかげだ。彼の説得力のある指摘に、あの頑固な母が何の反論もできなかったのだから。私は電話帳から彼の番号を表示させて、お礼と報告のメッセージを送ろうとしたが、途中で指を止める。
――今送ったら、絶対に変な文章になっちゃいそう……
徹夜明けのテンションは危険だ。ちゃんと仮眠してから送り直そうと、書きかけたメッセージは一旦削除する。
枕の下に突っ込んでいたスマホのアラームを止めて、短い仮眠から目覚めた私はまだぼーっとする頭のままユニットバスで熱いシャワーを全身に浴びる。本当はもっと長く眠っていたいところだけれど、明日からの会社勤めの為にあえて午後の予定を設定して無理矢理に身体を叩き起こす。
自分自身の怠け心を蹴散らしながら、普段より少し気合いを入れたメイクと洋服。あまり実用的ではない小振りなショルダーバッグはこういう日にしか使えない。
予約時間を気にしながら出掛けた先は、自宅から電車を乗り継いで一時間ほど先にあるリバーサイドホテル。客室が全室河川敷に面していて、近くに観光地はないけれどその景観を求めて訪れて来る人も多い隠れた人気のホテルだ。八階建てで規模はそこまで大きくはないけれど、広い中庭には白壁のチャペルもあり、今まさに誰かが式を挙げたところらしく色とりどりの風船が空高く舞い上がっていくのがガラス張りのエレベーターの中からも見えた。
私はホテルの最上階にあるカフェに着くと、予約している旨を店員へ伝える。すぐに川辺が見下ろせる窓際のテーブル席に案内された。そして、ソファーへ腰を下ろしてから、私は気持ちを落ち着けるようにふぅっと長めに息を吐く。ホテルのカフェっていうだけで、どうしてこんなに緊張してしまうんだろう。非日常な空間に必要以上に背筋が伸びる。
店内をこっそり見回してみると、ランチタイムはとっくに過ぎてはいたが、宿泊客らしき老夫婦が一組いる以外は若い女性客ばかり。大抵は二人か三人組で皆一様にちょっとめかし込んでいる。いわゆる女子会ってやつだろうか。
「ドリンクはこちらの中からお選び下さい。二時間の制限はございますが、お代わりはご自由に利用いただけます」
「あ、じゃあ、ダージリンでお願いします」
たくさんある紅茶メニューの中から、私は無難な茶葉を指定する。最初は飲み慣れているものの方が安心だ。湯気の立つポットが運ばれて来ると、自分でティーカップへと注ぎ入れてからゆっくりと口を付ける。本当は紅茶も砂糖を入れて甘くしたいところなんだけど、今日は我慢。周囲から聞こえてくる食器が鳴る音に耳を傾けながら、窓の外へ視線を移して何でもない顔でお目当ての物の到着を待つ。
「お待たせいたしました、ご予約いただいておりました季節のアフタヌーンティーでございます」
声に振り返ると、目の前に置かれたのは三段のケーキスタンド。一番下の段にはサンドイッチとキッシュのセイボリー、二段目はスコーン、三段目は一口サイズのケーキとムースなどのスイーツが並んでいる。取り皿とカトラリーをセッティングした後、ペコリと頭を下げて去って行く店員を見送ってから、私はおもむろにバッグから取り出したスマホでその全様を画像に収めた。隣のテーブルの女性客が「わ、すごいっ」と驚いて言っているのが聞こえてきたけれどそれには聞こえないフリをする。
毎日数量限定で予約必須のアフタヌーンティー。特にこれといった趣味もない私の唯一の楽しみだ。起きてからまだ何も食べていなかったお腹が、ぐーっと鳴るのを宥めながら、まずはサンドイッチへと手を伸ばす。
駅のホームでスマホのアラームを設定し直していると、妹の風香からのメッセージの受信に気付く。特別仲が良いわけじゃないけれど、妹が高校に入学してスマホを持たせてもらえるようになってから定期的に連絡を取り合うようになった。それ以前は父と妹との面会を兼ねて月に一度、一緒に夕ご飯を食べる程度だったけれど。
『お母さんがお店を閉めてパートに出ることにしたみたい。だから私も、卒業したら他で働いていいって。明日から就活開始だー!』
大学四年で周りが内定をもらい始めている中で、卒業後も母の店を手伝うよう強要されていた風香から、ようやく弁当屋から解放されたと嬉しそうなメッセージが送られてきて、私は睡眠不足で情緒がおかしくなっていたのか目に溜まった涙を服の袖で拭った。
「良かった……」
思わず口から漏れた声に、電車待ちの列で前に立っていた人が驚いて振り返っていた。
妹から送られてきたメッセージによると、母は私達が帰った後、店を臨時休業にして家に戻ってきたらしい。そして、しばらく自室に籠っていたと思ったら、通帳や帳簿類を広げたり、どこかへ電話を掛けたりしてから、風香に弁当屋の廃業を宣言したのだという。
昨日、私が高坂さんと店へ訪れたことを知らない妹は、なんで急にと不思議がっていたけれど、母に決心させてくれたのは間違いなく高坂さんのおかげだ。彼の説得力のある指摘に、あの頑固な母が何の反論もできなかったのだから。私は電話帳から彼の番号を表示させて、お礼と報告のメッセージを送ろうとしたが、途中で指を止める。
――今送ったら、絶対に変な文章になっちゃいそう……
徹夜明けのテンションは危険だ。ちゃんと仮眠してから送り直そうと、書きかけたメッセージは一旦削除する。
枕の下に突っ込んでいたスマホのアラームを止めて、短い仮眠から目覚めた私はまだぼーっとする頭のままユニットバスで熱いシャワーを全身に浴びる。本当はもっと長く眠っていたいところだけれど、明日からの会社勤めの為にあえて午後の予定を設定して無理矢理に身体を叩き起こす。
自分自身の怠け心を蹴散らしながら、普段より少し気合いを入れたメイクと洋服。あまり実用的ではない小振りなショルダーバッグはこういう日にしか使えない。
予約時間を気にしながら出掛けた先は、自宅から電車を乗り継いで一時間ほど先にあるリバーサイドホテル。客室が全室河川敷に面していて、近くに観光地はないけれどその景観を求めて訪れて来る人も多い隠れた人気のホテルだ。八階建てで規模はそこまで大きくはないけれど、広い中庭には白壁のチャペルもあり、今まさに誰かが式を挙げたところらしく色とりどりの風船が空高く舞い上がっていくのがガラス張りのエレベーターの中からも見えた。
私はホテルの最上階にあるカフェに着くと、予約している旨を店員へ伝える。すぐに川辺が見下ろせる窓際のテーブル席に案内された。そして、ソファーへ腰を下ろしてから、私は気持ちを落ち着けるようにふぅっと長めに息を吐く。ホテルのカフェっていうだけで、どうしてこんなに緊張してしまうんだろう。非日常な空間に必要以上に背筋が伸びる。
店内をこっそり見回してみると、ランチタイムはとっくに過ぎてはいたが、宿泊客らしき老夫婦が一組いる以外は若い女性客ばかり。大抵は二人か三人組で皆一様にちょっとめかし込んでいる。いわゆる女子会ってやつだろうか。
「ドリンクはこちらの中からお選び下さい。二時間の制限はございますが、お代わりはご自由に利用いただけます」
「あ、じゃあ、ダージリンでお願いします」
たくさんある紅茶メニューの中から、私は無難な茶葉を指定する。最初は飲み慣れているものの方が安心だ。湯気の立つポットが運ばれて来ると、自分でティーカップへと注ぎ入れてからゆっくりと口を付ける。本当は紅茶も砂糖を入れて甘くしたいところなんだけど、今日は我慢。周囲から聞こえてくる食器が鳴る音に耳を傾けながら、窓の外へ視線を移して何でもない顔でお目当ての物の到着を待つ。
「お待たせいたしました、ご予約いただいておりました季節のアフタヌーンティーでございます」
声に振り返ると、目の前に置かれたのは三段のケーキスタンド。一番下の段にはサンドイッチとキッシュのセイボリー、二段目はスコーン、三段目は一口サイズのケーキとムースなどのスイーツが並んでいる。取り皿とカトラリーをセッティングした後、ペコリと頭を下げて去って行く店員を見送ってから、私はおもむろにバッグから取り出したスマホでその全様を画像に収めた。隣のテーブルの女性客が「わ、すごいっ」と驚いて言っているのが聞こえてきたけれどそれには聞こえないフリをする。
毎日数量限定で予約必須のアフタヌーンティー。特にこれといった趣味もない私の唯一の楽しみだ。起きてからまだ何も食べていなかったお腹が、ぐーっと鳴るのを宥めながら、まずはサンドイッチへと手を伸ばす。
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