クールな経営者は不器用に溺愛する 〜ツンデレ社長とWワーク女子〜

瀬崎由美

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第十二話・平日のバイト2

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 新規入会客の会員登録をしながら、私は店を出て行ったばかりの高坂さんのことが気になって仕方なくて、ソワソワと何度も外へと視線を送っていた。そして、ちょうど休憩を終えて島崎君が裏の事務所に入ったのに気付くと、

「ごめん、後をお願いしていい? 私ちょっと休憩に入ります!」

 と、島崎君に酔っ払いの入店手続きを丸投げして、私は入り口ドアの外へと飛び出した。後ろから「うっす」と島崎君が雑に返事してくれたのはかろうじて聞こえた。ブースで休憩していた彼にも酔っ払い客の騒ぎは聞こえていたとは思うけれど、それなりに夜勤歴の長い島崎君なら上手く対応してくれるはずだ。さっきまであんなに好き勝手な態度を取っていた客も、ガタイのよいフリーターと受付を交代した途端に急に大人しくなっているのが視界の隅に入る。

 店には専用駐車場なんて無いから、高坂さんはきっと自分の会社に車を置いているはずだと、駅方面へ向かって小走りで追いかける。会社では集中して作業できない時に社長室を抜け出してネットカフェを利用するのだとこないだチラッと言っていたし。
 駅前に続く大通りまで出たら、前を歩くスーツ姿の男性をすぐに見つけた。背丈も鞄も高坂さんだと確信した私は、息を切らしながら彼の名前を後ろから呼ぶ。

「こ、高坂さんっ、待って下さい!」

 私が声を掛けるとすぐに気付いた高坂さんが、立ち止まって振り返る。そして、私が制服のまま追い掛けてきたのに驚いた顔をしている。彼がこんな風に感情を分かりやすく出したのは初めてかもしれない。いつもは微妙に眉を動かす程度の変化だったから。

「荒川さん、どうされたんですか?」

 そこまで距離は無かったのにハァハァと荒い呼吸になってしまうのは、日頃の運動不足のせいだ。それに加えて今日は少し気温が低めなのもあるかもしれない。とにかく私が慌てて追いかけてきたことを察した彼は歩道の端へと私を促して、私の呼吸が落ち着くのを待ってくれようとする。背後からライトを点灯させた自転車がベルを鳴らしながら私達のことを追い越していった。

「あのっ、さっきのことなんですが――」
「ん、何のことですか?」
「私が何でまだあの店でバイトを続けてるかってことです。心配してくださってるようなので、高坂さんにはちゃんとお話した方がいいんじゃないかって思って」
「……あぁ」

 実際のところ、私の事情なんて彼にとっては全く興味ないことなのは分かっている。けど、あんなに親身になって母の店まで付き合ってくれた彼に、何の結果も得られなかったと勘違いさせてしまうのは恩知らずな気がした。母は駅前のスーパーで総菜売り場の調理のパートを始めたみたいだし、風香も大学近くのコンビニでバイトをしつつ、就職活動を再開している。法学部に通っている妹は弁護士事務所を中心に面接を受けたりしているみたいだし、ゼミの教授からも知り合いの弁護士さんを紹介してもらえそうだと張り切っていた。ただ、弁当屋で使っていた業務用の器材はリサイクルショップで足元を見られて大幅に買い叩かれたと愚痴ってはいたけれど……
 とにかく彼のおかげで状況は大きく改善し始めているのは確かなのだ。だから、少しでも安心してもらえたらと思った。

「妹は大学の学費の為に奨学金を借りてるんです。学生の今はまだ返済は始まってないみたいだけど、卒業したら毎月それを返していかなきゃならなくて」

 あの家の経営状況を考えると、ほぼ全額を借りているのは明らかで、社会に出た後に妹が長い年月をかけてそれを返していくことを考えると姉としていたたまれない。私立大学の学費分を返済するのに一体何年かかってしまうのだろうか。私自身は父に全て出してもらい、何の負債も抱えずに会社勤めをさせてもらっているのに……

「私、それを妹と一緒に返していってあげたいって考えてるんです。きっとあの子が将来結婚するってなった時、まだ借入れが残ってたら障壁になってしまうだろうし、一日も早く返済できるように」

 それが姉として五歳年下の妹にやってあげられることだと考えている。これまでも風香はきっと辛い思いを強いられてきているはずで、それを知らずにのうのうと生きていたことが私には罪悪感を抱かせている。一緒に暮らした期間が短かったせいで、どこか他人行儀だと感じることがあったけれど、彼女の重荷を半分持ってあげることでようやく姉妹らしい関係を築ける気がするのだ。

「でも、おかげさまで生活の方は何とかなるみたいだし、私もシフトの回数はかなり減らせそうなんです」
「そうですか。それは良かった」

 私が当分は週末だけのシフトになりそうだと話すと、高坂さんは小さく頷いて返してくれた。急に呼び止めたことを謝ってから、私は再び店に向かって小走りで戻る。その時に彼がどんな表情になっていたのかは振り返らなかったから分からないけれど、少しは納得してもらえたならいいなと思いながら、私はこれから自分で調理して食べる予定の夜食のことを頭に浮かべていた。始発の時間まで、まだまだ夜勤バイトは終わらない。
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