クールな経営者は不器用に溺愛する 〜ツンデレ社長とWワーク女子〜

瀬崎由美

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第十三話・徹夜明けの勤務

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 仮眠を一時間だけ取った後、寝起きに熱いシャワーを浴びて、私は会社員モードへ頭を切り替える。今日は午後に部内ミーティングがあるから、朝一で会議室を確保して、課長に頼まれていた資料を人数分コピー。ああ、そう言えばコピー用紙がそろそろ無くなりそうだし、総務に取りにいかなきゃならなかったとも思い出し、同じ営業事務の円佳にも手を貸してもらう前提でタスクリストを頭の中で作り上げていく。

 満員電車でペチャンコになりながら辿り着いた最寄り駅から徒歩十分。大学を卒業して働き始めたここは大手グループ会社を親会社に持つ商社で、主に法人向けに介護用品を卸したりしている。電動式のリクライニングベッドや車椅子、リハビリ用の器材などを取り扱う。会社にかかってくる問い合わせの電話も、病院や介護施設などがほとんどで、営業担当者達は日々それらの施設を順に回っては契約を取り付けてくる。

 同期の円佳と私は第二営業部の事務職で、営業担当達のサポート業務が仕事だ。とは言っても、顧客からの電話問い合わせに対応することも多いから、取り扱い商品については営業の人達と同じだけ知識を入れておかなければならない。彼らは日中は外に出ていることが多いから、社内に残っている私達が代わりに対応することになるからだ。だから部内ミーティングは日々進化する介護用品の勉強会も兼ねている。

 会社に着くと、いつも一番乗りの近藤さんが自前のマグカップを手に給湯室から出てくるところだった。ライトグレーのパンツスーツで髪を後ろで一つに束ねた彼女は、私を見た後にちょっとギョッとした顔になる。私と円佳の教育係でもあった彼女はつい先月に産休と育休を経て復職したばかりで、しばらくは勘を取り戻すべく事務仕事を中心にしていたけれど、おそらく今日のミーティングから営業職へ復帰することになるのだろう。

「おはようございます」
「おはよう、荒川さん。昨日もバイトだったの? 目にクマが出てるわよ」

 自分の目元を指先でトントンと示しながら、近藤さんが心配そうに聞いてくる。私がダブルワークを考えた時に一番に相談に乗ってくれた先輩は、復職後にまだ私がネットカフェで働き続けていることを知って驚いていた。

「無理してない? 身体を壊したら元も子もないのよ」
「ありがとうございます、こう見えて身体だけは丈夫なんで」
「またそんなこと言って。徹夜で元気なのは二十代前半までよ……気をつけなさいね」
「はぁい、肝に銘じます」

 先輩の手に持つマグカップからコーヒーの香ばしい匂いがふわっと漂ってくる。小さな子供がいて家ではのんびり飲めないらしく、保育園に預けた後に会社で飲むモーニングコーヒーが唯一の楽しみだと近藤さんは笑っていた。子育てと会社勤めとで、どう考えても私よりも先輩の方が大変なんじゃないかといつも思う。

 私は自分のデスクにバッグを置いてから、総務部に顔を出してコピー用紙のストックと会議室の鍵を借りてくる。ミーティングは午後からだけど、コピーした書類を振り分ける作業もあるからと言い訳して丸一日を押さえたので、これで昼休みの休憩場所もばっちり確保だ。事務フロアとは別の階にある会議室は割と静かで仮眠するにはもってこいなのだ。おかげで午後は少し復活することができた。

 一日中ずっと睡魔と戦いながら働いた後、ぼんやりした頭で帰ってきたワンルームマンションで、私は冷凍庫の中から一膳分をラップしたご飯を取り出してからレンジに放り込む。眠気でお腹が空いているのかどうかもはっきりしないけれど、無理してでも何かを食べないと先輩の言う通りに身体には良くない。特に今日は会議で眠ってしまってはいけないと、ランチはゼリー飲料だけで済ませてしまったのだから。そう言えば、私の昼食風景を見て円佳にまで心配されてしまったことを思い出す。自分では平気なつもりだったけれど、知らない内に周りのいろんな人に気を遣わせてしまっているのかもしれない。
 湯煎するのも面倒だと常温のままのレトルトカレーを四角いままのご飯の上に乗せて、私はスプーンで機械的に口の中へと運ぶ。正直、眠すぎて味なんて全く分からない。

 気力を振り絞ってシャワーを浴び、僅かに残った余力を削り取りつつ髪を乾かしてから壁際に沿って設置したシングルベッドへと倒れ込む。まだ明日も平日で当たり前に朝から満員電車に乗って会社に行かなければいけない。でも、今日も無事に乗り越えることができたのにホッとする。次のバイトは金曜日だし、よっぽど人手が足りないとかでなければ当分は週末以外のシフトには入らなくて良さそうで、これもみんな高坂さんのおかげだ。

「今度ちゃんとお礼しなきゃ……」

 彼からしたらUSBメモリをブースに置き忘れてしまったばかりに、面倒なことに巻き込まれるなんてとんだ災難だっただろう。なのに私がまだ『INARI』でバイトしてるのを知って、あんな風に心配してくれていた。まだ名前と勤務先くらいしか知らないけれど、彼がとても良い人だということだけは十分に分かった。
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