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第十七話・企業パーティー2
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ケーキで甘ったるくなった口の中を整えるべく、私はドリンクコーナーでアイスティーを受け取ると、また壁際の椅子へ戻る為に移動する。周囲ではあらゆるところで名刺交換や挨拶などの交流が行われているが、完全部外者の私には全く関係のない話だ。邪魔にならないよう隅っこの椅子を選んで座りながら、会場内の様子を遠巻きに眺める。
しばらくして入り口の方がざわめきだしたのに気付き、そちらへと視線を送る。すると、背の高い高坂さんの顔が人だかりの中にチラチラと見えた。今まさに囲まれているのは彼だったらしく、よく見てみるとその周りに集まっているのは圧倒的に女性の方が多い。招待客も従業員もこぞって集まっている感じだ。
――すごい人気……
「ほんと、スゴイですよね、うちの社長のモテっぷりは」
真横から男性の声が急に聞こえてきて、私は驚き顔で左隣を見る。その顔はどこか見た覚えがある気がして少し考えた後、USBメモリを届けた時に出てきた営業の人だと気付いたけれど、貰った名刺に書いてあった名前までは思い出せない。私が愛想笑いで会釈したら、壁に凭れながら立ったまま彼は人懐っこく話し掛けてくる。首から下げているネームプレートをチラ見すると、『営業部 野原』と書いてあるのが見えた。そういえば、そんな名前だったかもしれない。
「彼氏があそこまでモテると苦労しますよね」
「……そうですよねぇ、大変そう」
「え、そんな他人事みたいに言います? お姉さん、うちの社長の彼女さんでしょう?」
てっきり一般論として話し掛けられたと思って返答したら、野原さんが驚いた顔で私のことを見てくる。私は慌てて手をブンブン振って否定する。何をどうしたらそんな勘違いにいきつくのか。
「ち、違いますっ!」
「いやいや、そんなわけないですよね?」
本当に違いますと必死で打ち消す私のことを、訝し気な目で見ている。確かに今日はパートナー役を仰せつかってはいるけど、高坂さんとは何もないのは本当だ。なのに野原さんは一向に信じてくれないどころか、ここにいる社員全員がそうだと思っているとまで断言する。何がどういうわけでそんな話になってしまうんだろうか?
「いや、だって、うちの社長が女性同伴だなんて、初めてですよ。しかも、急に予定していたホテルを変更するとか、今日は何かあるって考えて当然です」
「え?」
「先月、急にここのホテルを押さえろって言われて、担当部署が悲鳴上げてましたからね。しかもいつもは提供する料理に指定なんてしないのに、今回はデザート類を増やせって……」
野原さんの話すことに、私は目をぱちくりさせる。今日のこのパーティーがそんなギリギリに会場を決めたなんて部外者の私が知ってるわけはない。本当は別の老舗ホテルで前もって準備していたものをキャンセル料を支払う覚悟で変更したという話に、どうしてそんな……? と首を傾げる。
「高坂社長はあんな感じでモテる人ですけど、心配はいらないと思います。男の俺から見ても真面目で誠実な上司なんで」
「はぁ」
一方的にそんなよく分からないことを告げた後、野原さんは他の社員らしき人達のところへと行ってしまい、私は頭の中がやや混乱したまま放置されてしまった。この場にいる高坂さんの会社の人達がみんな、私のことを彼の恋人だと思っているという話にはなんで⁉ という気持ちだけれど、彼が会場を急遽変更したことには思い当たる節がないわけじゃなかった。
――えっ、私がヌン活の話をしたから⁉ なんて、まさかね……
先月、私は彼にこのホテルのアフタヌーンティーの予約が全然取れないという話をしたけれど、まさかそれがキッカケなんてことは……
――そう言えば、会場がどこかを教えてもらうの、結構遅かったような……
考えれば考えるほど自意識過剰なことしか思いつかず、私は頭を冷やす為にアイスティーを一気に飲み干した。冷たい紅茶が喉を通る感覚がするのに、頬がどんどん熱くなっていく。人だかりからようやく抜け出した高坂さんがこちらへと向かってくるのに、私は目を合わせられずに俯いて視線をそらす。
「荒川さん、大丈夫ですか? 何か具合でも?」
私が顔を赤くして俯いているのに気付いた高坂さんが、心配そうに私の前で跪いて顔を覗き込んでくる。ますます顔を上げ辛くなった私は、下を向いたまま首を横に振って「何もないです、平気です」と繰り返した。ただ、勝手なことを想像して一方的に動揺しているだけなのだ。
「平気ならいいんですが……」
まだ心配そうな彼の後ろでは、会場内にいる人達が私の前で彼が跪いている光景に唖然としている気配がして、私は慌てて椅子から立ち上がった。私が立つと彼も一緒に立ち上がってくれたので、内心ホッとする。今日の主賓をいつまでもしゃがみ込ませているなんて尋常じゃない状況で、ますます変な噂を流されかねない。
「私の用事は終わりましたから、気分が悪いのならお送りしますよ」
「いえっ、本当に何ともないので……」
頬の熱が収まったことで私が平気だと笑って見せると、高坂さんは少し考えている風だった。何か伝えるかどうしようかと迷っているような、そんなまどろっこしい彼の姿は初めてだ。彼はいつも迷いなく言葉にする人だと思っていたから、私はどうしたのかと顔を覗き込む。高坂さんはふぅと短く息を吐いた後、意を決したように口を開く。
「実は、お見せしたいものがあるんですが、まだ帰らなくても平気ですか?」
しばらくして入り口の方がざわめきだしたのに気付き、そちらへと視線を送る。すると、背の高い高坂さんの顔が人だかりの中にチラチラと見えた。今まさに囲まれているのは彼だったらしく、よく見てみるとその周りに集まっているのは圧倒的に女性の方が多い。招待客も従業員もこぞって集まっている感じだ。
――すごい人気……
「ほんと、スゴイですよね、うちの社長のモテっぷりは」
真横から男性の声が急に聞こえてきて、私は驚き顔で左隣を見る。その顔はどこか見た覚えがある気がして少し考えた後、USBメモリを届けた時に出てきた営業の人だと気付いたけれど、貰った名刺に書いてあった名前までは思い出せない。私が愛想笑いで会釈したら、壁に凭れながら立ったまま彼は人懐っこく話し掛けてくる。首から下げているネームプレートをチラ見すると、『営業部 野原』と書いてあるのが見えた。そういえば、そんな名前だったかもしれない。
「彼氏があそこまでモテると苦労しますよね」
「……そうですよねぇ、大変そう」
「え、そんな他人事みたいに言います? お姉さん、うちの社長の彼女さんでしょう?」
てっきり一般論として話し掛けられたと思って返答したら、野原さんが驚いた顔で私のことを見てくる。私は慌てて手をブンブン振って否定する。何をどうしたらそんな勘違いにいきつくのか。
「ち、違いますっ!」
「いやいや、そんなわけないですよね?」
本当に違いますと必死で打ち消す私のことを、訝し気な目で見ている。確かに今日はパートナー役を仰せつかってはいるけど、高坂さんとは何もないのは本当だ。なのに野原さんは一向に信じてくれないどころか、ここにいる社員全員がそうだと思っているとまで断言する。何がどういうわけでそんな話になってしまうんだろうか?
「いや、だって、うちの社長が女性同伴だなんて、初めてですよ。しかも、急に予定していたホテルを変更するとか、今日は何かあるって考えて当然です」
「え?」
「先月、急にここのホテルを押さえろって言われて、担当部署が悲鳴上げてましたからね。しかもいつもは提供する料理に指定なんてしないのに、今回はデザート類を増やせって……」
野原さんの話すことに、私は目をぱちくりさせる。今日のこのパーティーがそんなギリギリに会場を決めたなんて部外者の私が知ってるわけはない。本当は別の老舗ホテルで前もって準備していたものをキャンセル料を支払う覚悟で変更したという話に、どうしてそんな……? と首を傾げる。
「高坂社長はあんな感じでモテる人ですけど、心配はいらないと思います。男の俺から見ても真面目で誠実な上司なんで」
「はぁ」
一方的にそんなよく分からないことを告げた後、野原さんは他の社員らしき人達のところへと行ってしまい、私は頭の中がやや混乱したまま放置されてしまった。この場にいる高坂さんの会社の人達がみんな、私のことを彼の恋人だと思っているという話にはなんで⁉ という気持ちだけれど、彼が会場を急遽変更したことには思い当たる節がないわけじゃなかった。
――えっ、私がヌン活の話をしたから⁉ なんて、まさかね……
先月、私は彼にこのホテルのアフタヌーンティーの予約が全然取れないという話をしたけれど、まさかそれがキッカケなんてことは……
――そう言えば、会場がどこかを教えてもらうの、結構遅かったような……
考えれば考えるほど自意識過剰なことしか思いつかず、私は頭を冷やす為にアイスティーを一気に飲み干した。冷たい紅茶が喉を通る感覚がするのに、頬がどんどん熱くなっていく。人だかりからようやく抜け出した高坂さんがこちらへと向かってくるのに、私は目を合わせられずに俯いて視線をそらす。
「荒川さん、大丈夫ですか? 何か具合でも?」
私が顔を赤くして俯いているのに気付いた高坂さんが、心配そうに私の前で跪いて顔を覗き込んでくる。ますます顔を上げ辛くなった私は、下を向いたまま首を横に振って「何もないです、平気です」と繰り返した。ただ、勝手なことを想像して一方的に動揺しているだけなのだ。
「平気ならいいんですが……」
まだ心配そうな彼の後ろでは、会場内にいる人達が私の前で彼が跪いている光景に唖然としている気配がして、私は慌てて椅子から立ち上がった。私が立つと彼も一緒に立ち上がってくれたので、内心ホッとする。今日の主賓をいつまでもしゃがみ込ませているなんて尋常じゃない状況で、ますます変な噂を流されかねない。
「私の用事は終わりましたから、気分が悪いのならお送りしますよ」
「いえっ、本当に何ともないので……」
頬の熱が収まったことで私が平気だと笑って見せると、高坂さんは少し考えている風だった。何か伝えるかどうしようかと迷っているような、そんなまどろっこしい彼の姿は初めてだ。彼はいつも迷いなく言葉にする人だと思っていたから、私はどうしたのかと顔を覗き込む。高坂さんはふぅと短く息を吐いた後、意を決したように口を開く。
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