クールな経営者は不器用に溺愛する 〜ツンデレ社長とWワーク女子〜

瀬崎由美

文字の大きさ
17 / 50

第十七話・企業パーティー2

しおりを挟む
 ケーキで甘ったるくなった口の中を整えるべく、私はドリンクコーナーでアイスティーを受け取ると、また壁際の椅子へ戻る為に移動する。周囲ではあらゆるところで名刺交換や挨拶などの交流が行われているが、完全部外者の私には全く関係のない話だ。邪魔にならないよう隅っこの椅子を選んで座りながら、会場内の様子を遠巻きに眺める。

 しばらくして入り口の方がざわめきだしたのに気付き、そちらへと視線を送る。すると、背の高い高坂さんの顔が人だかりの中にチラチラと見えた。今まさに囲まれているのは彼だったらしく、よく見てみるとその周りに集まっているのは圧倒的に女性の方が多い。招待客も従業員もこぞって集まっている感じだ。

 ――すごい人気……

「ほんと、スゴイですよね、うちの社長のモテっぷりは」

 真横から男性の声が急に聞こえてきて、私は驚き顔で左隣を見る。その顔はどこか見た覚えがある気がして少し考えた後、USBメモリを届けた時に出てきた営業の人だと気付いたけれど、貰った名刺に書いてあった名前までは思い出せない。私が愛想笑いで会釈したら、壁に凭れながら立ったまま彼は人懐っこく話し掛けてくる。首から下げているネームプレートをチラ見すると、『営業部 野原』と書いてあるのが見えた。そういえば、そんな名前だったかもしれない。

「彼氏があそこまでモテると苦労しますよね」
「……そうですよねぇ、大変そう」
「え、そんな他人事みたいに言います? お姉さん、うちの社長の彼女さんでしょう?」

 てっきり一般論として話し掛けられたと思って返答したら、野原さんが驚いた顔で私のことを見てくる。私は慌てて手をブンブン振って否定する。何をどうしたらそんな勘違いにいきつくのか。

「ち、違いますっ!」
「いやいや、そんなわけないですよね?」

 本当に違いますと必死で打ち消す私のことを、訝し気な目で見ている。確かに今日はパートナー役を仰せつかってはいるけど、高坂さんとは何もないのは本当だ。なのに野原さんは一向に信じてくれないどころか、ここにいる社員全員がそうだと思っているとまで断言する。何がどういうわけでそんな話になってしまうんだろうか?

「いや、だって、うちの社長が女性同伴だなんて、初めてですよ。しかも、急に予定していたホテルを変更するとか、今日は何かあるって考えて当然です」
「え?」
「先月、急にここのホテルを押さえろって言われて、担当部署が悲鳴上げてましたからね。しかもいつもは提供する料理に指定なんてしないのに、今回はデザート類を増やせって……」

 野原さんの話すことに、私は目をぱちくりさせる。今日のこのパーティーがそんなギリギリに会場を決めたなんて部外者の私が知ってるわけはない。本当は別の老舗ホテルで前もって準備していたものをキャンセル料を支払う覚悟で変更したという話に、どうしてそんな……? と首を傾げる。

「高坂社長はあんな感じでモテる人ですけど、心配はいらないと思います。男の俺から見ても真面目で誠実な上司なんで」
「はぁ」

 一方的にそんなよく分からないことを告げた後、野原さんは他の社員らしき人達のところへと行ってしまい、私は頭の中がやや混乱したまま放置されてしまった。この場にいる高坂さんの会社の人達がみんな、私のことを彼の恋人だと思っているという話にはなんで⁉ という気持ちだけれど、彼が会場を急遽変更したことには思い当たる節がないわけじゃなかった。

 ――えっ、私がヌン活の話をしたから⁉ なんて、まさかね……

 先月、私は彼にこのホテルのアフタヌーンティーの予約が全然取れないという話をしたけれど、まさかそれがキッカケなんてことは……

 ――そう言えば、会場がどこかを教えてもらうの、結構遅かったような……

 考えれば考えるほど自意識過剰なことしか思いつかず、私は頭を冷やす為にアイスティーを一気に飲み干した。冷たい紅茶が喉を通る感覚がするのに、頬がどんどん熱くなっていく。人だかりからようやく抜け出した高坂さんがこちらへと向かってくるのに、私は目を合わせられずに俯いて視線をそらす。

「荒川さん、大丈夫ですか? 何か具合でも?」

 私が顔を赤くして俯いているのに気付いた高坂さんが、心配そうに私の前で跪いて顔を覗き込んでくる。ますます顔を上げ辛くなった私は、下を向いたまま首を横に振って「何もないです、平気です」と繰り返した。ただ、勝手なことを想像して一方的に動揺しているだけなのだ。

「平気ならいいんですが……」

 まだ心配そうな彼の後ろでは、会場内にいる人達が私の前で彼が跪いている光景に唖然としている気配がして、私は慌てて椅子から立ち上がった。私が立つと彼も一緒に立ち上がってくれたので、内心ホッとする。今日の主賓をいつまでもしゃがみ込ませているなんて尋常じゃない状況で、ますます変な噂を流されかねない。

「私の用事は終わりましたから、気分が悪いのならお送りしますよ」
「いえっ、本当に何ともないので……」

 頬の熱が収まったことで私が平気だと笑って見せると、高坂さんは少し考えている風だった。何か伝えるかどうしようかと迷っているような、そんなまどろっこしい彼の姿は初めてだ。彼はいつも迷いなく言葉にする人だと思っていたから、私はどうしたのかと顔を覗き込む。高坂さんはふぅと短く息を吐いた後、意を決したように口を開く。

「実は、お見せしたいものがあるんですが、まだ帰らなくても平気ですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

【完】ソレは、脱がさないで

Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング2位 パッとしない私を少しだけ特別にしてくれるランジェリー。 ランジェリー会社で今日も私の胸を狙ってくる男がいる。 関連物語 『経理部の女王様が落ちた先には』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高4位 ベリーズカフェさんにて総合ランキング最高4位 2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位 2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位 『FUJIメゾン・ビビ~インターフォンを鳴らして~』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高11位 『わたしを見て 触って キスをして 恋をして』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高25位 『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『ムラムラムラモヤモヤモヤ今日も秘書は止まらない』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

処理中です...