クールな経営者は不器用に溺愛する 〜ツンデレ社長とWワーク女子〜

瀬崎由美

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第十八話・企業パーティー3

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「見せたいもの、ですか?」

 高坂さんの顔を見上げながら私が訊ねると、なぜか彼の頬が微かに緩んだように見えた。車で来ているからお酒は飲んでいないはずなのに、少し耳が赤くなっているのは会場の熱気のせいだろうか。
 小さく頷き返してから、高坂さんは私の背をそっと押してパーティーが行われている大広間を出るように促してくる。わけが分からなかったけれど、黙って彼に付いていくと、来る時に乗ったのとは別のエレベーターホールへと連れて行かれた。こっちのエレベーターは客室のある階にだけ泊まる宿泊客専用という案内表示が目に入り、私は隣にいる彼の横顔に確認の視線を送る。私はどこへ連れて行かれるんだろうか?

 エレベーターが到着すると他の客が先に乗っていたせいか、高坂さんは何も言わずに黙って六階のボタンを押した。私も他に人がいるのに余計なことは聞けず、階数表示が順に変わって行くのを彼の隣で見上げる。レストランやバーなどは一階と最上階にしか無いみたいで、六階フロアには部屋番号のプレートが付いたドアが左右にずらりと並んでいるだけだ。私は緊張と同時に胸の鼓動が勢いよく打ち始め、エレベーターホールの前で思わず立ちすくんでしまった。

 高坂さんに限ってという彼への信頼の感情と一緒に、それでも構わないと思っている自分もいて、頭の中は混乱していた。胸の前でハンドバッグをキュッと握りしめながら、黙って彼の顔を見上げる。こういう時は何て言葉を掛ければいいんだろう、自分の経験値の少なさが悔やまれる。大学を卒業してからは大した恋愛もしていない。最後に男性とそういう雰囲気になったのなんて、もう四年近く前だ。

 エレベーターの前で躊躇っている私に気付いた高坂さんが、ハッとしたような顔をしてから焦った表情で前髪を掻き上げる。せっかく整えられた髪型が乱れてしまったがあまり気にしていないみたいだ。

「ああ、ちゃんと説明しなかったせいですね。すみません、見せたいものというのが部屋にあるんです」
「そう、なんですか……?」

 私はホッとしながらもどこか残念に思う複雑な気持ちのまま、高坂さんの後を追って廊下を進んでいく。角部屋らしき五一三号室のドアの前で胸ポケットからカードキーを取り出して開錠すると、高坂さんが部屋の中央に設置されているL字形のソファーへと私をエスコートしてくれる。何サイズかもよく分からないような大きなベッドがあり、ゆったりと広い客室。階層はそれほど高くなかったから油断していたけれど、明らかにスタンダードではない部屋だ。

 その大きくて長いソファーに囲まれた低いテーブルの上を見て、私は思わず息を呑んだ。真っ白の光沢あるお皿が縦に三段並ぶケーキスタンド。お皿の上に並ぶサンドイッチやマフィンにスイーツは、見知らぬ誰かが口コミサイトで公開したレビューが画像では散々目にしたことがあり、その度に羨ましい気持ちで指を咥えていた。横には陶磁器製のティーポットと二客のティーカップが置かれていて、私は驚きで目を丸くしたまま高坂さんのことを見る。
 これは私がずっと行きたがっていた、このホテル内にあるカフェのアフタヌーンティーのメニューそのものだったからだ。

「この時間だとカフェでの提供は無理だと言われてしまったので」
「なのに、わざわざ用意して下さったんですか?」
「飲み物のお代わりがあれば、ルームサービスで持って来てくれるみたいです」

 そう言いながら、高坂さんがケーキスタンドの前に私を座るよう促してくれる。私はまだ驚きで顔を強張らせながらも、料理と彼の顔とを交互に見比べた。このホテルの客室でアフタヌーンティーを楽しめるサービスがあるなんて聞いたことはない。どう考えてもこれは特別に手配してもらったものだ。

「これは、私が以前に話してたから、ですか?」

 バイト先で交わしたちょっとした雑談を彼は覚えてくれていて、ここに私を連れてくるために社内行事の会場を急遽変更したのだろうか? あの時はそれほど興味はなさそうにしていたのに……。そして、そんな大がかりなサプライズを彼がなぜ私にしてくれるのかがさっぱり分からない。彼には何のメリットもないはずなのに。

「ええ、荒川さんがどうしても予約が取れないって言っていたので。どうぞゆっくり召し上がっていて下さい。私は一度会場に戻りますが、連絡いただければ車でお送りします」

 そう言ってソファーから離れて行こうとする高坂さんに、私は「待って下さい!」と声を掛けて呼び止める。

「どうして私に、こんなことをして下さるんですか?」

 こんなことをしてもらったら、私からのお礼の意味がますます無くなる。彼を見上げながらの問いかけに、高坂さんは真っ直ぐに私の目を見つめながら静かに言った。

「ただ私は、あなたに喜んでもらえたらと思っただけです。それ以外の理由はありません」

 彼の瞳をじっと見つめ返し、その言葉に一切の嘘や社交辞令は感じられなくて、私は無意識に彼の腕に手を伸ばした。ジャケットの袖を摘まんで引っ張りながら、とても自分本位な言葉を口にする。

「行かないで下さい。でも、どうしても行くのなら、すぐに戻って来てください。こんな広い部屋で一人は寂し過ぎるので」

 私の精一杯の我が儘を高坂さんは一瞬驚いたように目を見開いていたが、すぐにくすりと小さく笑い返す。そして、「分かりました」とソファーの私の隣へと腰を下ろした。
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