クールな経営者は不器用に溺愛する 〜ツンデレ社長とWワーク女子〜

瀬崎由美

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第二十三話・一夜明けて

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 いつの間にか眠ってしまっていた私は、掛け布団を被せられた上で高坂さんに抱き枕のように抱き締められた状態で目を覚ました。ベッドの脇の時計を見ると五時を少し過ぎたところ。そろそろ窓の向こうが白んできそうな時間だけれど、遮光カーテンのおかげでよく分からない。

 そうっとベッドの中で寝返りを打って身体の向きを変え、私は隣で静かに眠っている高坂さんの寝顔を覗き見る。長い睫毛に自然な形の整った眉毛。昨夜はパーティー用に後ろへ撫で付けてセットしていた髪はいつも通りのナチュラルな髪型に戻っている。というか、よく見たら眠っている彼はバスローブを着ている。私が寝てしまった後に一人でシャワーを浴びたんだろうか? 全然、気付かなかった。

 薄暗い部屋の中を見回してみると、昨日脱ぎ捨てたはずのドレスはきちんとハンガーに掛けられて彼のスーツと一緒に部屋の隅にあった。全部彼一人にやらせてしまったのかと思うと、知らずに眠りこけていたことが恥ずかしくなってくる。

 ――とりあえず、私もシャワー浴びさせてもらおうっと。

 彼を起こさないように気を付けながら抜け出ると、ベッド下に置いてあったスリッパを履いて浴室へと向かう。毛足の長いカーペットは足音が立たなくていい。広い洗面所に入ると鏡に映り込んだ自分の姿に思わず赤面する。ガーターベルトとストッキングだけというのは、若い若くないに関係なく普通にヤバい。これじゃただの痴女だ。
 私は慌ててストッキングはゴミ箱へ放り込み、ガーターベルトだけを脱衣篭に入れた。伝線した時を考えてバッグには替えのストッキングを忍ばせてある。

 熱いシャワーを浴びながら、私は素になって昨夜のことを思い出す。高坂さんはとても優しかったし、後悔はしていない。というか、最後まではやってないからノーカン? いやいや、あんなにイカされて何も無かったことにしてもいいんだろうか?

 ――私にとってはそうかもだけど、高坂さんにとっては……

 結局、彼は最後まで一線を越えては来なかった。恋人でもないからきっとそれで良かったのだろうと無理矢理に思い込む。そう、私達は元々そういう関係じゃないのだから。そもそも私と高坂さんでは生きる世界が大きく違うし、彼から相手にしてもらえるわけがない。パーティー会場で目撃した彼のモテぶりが脳裏に浮かび、私は胸がちくりと痛むのを感じた。
 シャワーのおかげで現実を顧みた後、薄暗い部屋に戻って着替えを済ませる。この時間ならフロントに行けば、タクシーを呼んでもらえるだろう。一刻も早くこの場を立ち去らなければという思いに駆られる。
 スリッパをパンプスへと履き替え、ソファーの上のショルダーバッグに手を伸ばし掛けた時、高坂さんの声が聞こえてベッドを振り返り見る。

「帰るのなら、送りますよ」

 薄暗い中、少し距離があったせいで彼がどんな表情をしているのかはよく見えなかった。でも、聞こえた声がとても寂しそうに思えて、私は返答に迷う。私が返事をせずに立ち尽くしていたら、高坂さんがベッドから起き上がってハンガーに掛けた自分の服に着替え始める。バスローブの下はボクサータイプの下着だけだったらしく、私のところからは後ろ姿しか見えなかったけれど、それなりに鍛えているといった感じの無駄のない背筋。彼が車で送ってくれるつもりで準備をしだしたことに気付き、私は慌てる。

「フロントでタクシー呼んでもらうつもりなんで、高坂さんはまだ寝ていて下さい」

 私はバッグを手に持って、彼に向かって改めてお礼を伝える。

「昨日はありがとうございました。お部屋でアフタヌーンティーをいただけるなんて、夢みたいでした」

 彼と出会わなければ、あんなことは一生経験できなかっただろう。とても贅沢なサプライズは夢の中の出来事のように思えた。それに、彼と過ごした夜のことも……
 私が部屋を出るために入り口へと向おうとすると、高坂さんの声が止めに入る。

「俺がちゃんと送ります。昨日もそう約束したはずですから」

 そう言ってジャケットを羽織ってから、ネクタイは無造作にポケットへとねじ込み、ソファーの横に立て掛けていた鞄を手に取る。そして、私の腰に手を回してエスコートし、一緒に部屋を出ようとする。

「あのっ、本当に私は一人でも大丈夫なので……」

 隣を歩き始める彼を見上げて困惑気味に伝えると、高坂さんは顔をしかめた。困っているというよりは、少し寂し気な目で。

「咲良さんは、俺と一緒にいるのが嫌ですか?」
「い、いえ、そんなことは全然。ただ、私が早く目が覚めてしまっただけです」
「だったら、家まで送らせて下さい」

 まだ他の客室に起きている人の気配はなく、空調の音だけが聞こえる廊下。ここでそんな言い合いを続けるわけにもいかなくて、私は諦めて大人しく彼の申し出に従うことにする。部屋を出る前からずっと彼の手が私の腰へ触れていて、それだけが昨夜のことが夢じゃなかったと伝えてくれていた。

 ――それに、今日も下の名前で呼んでくれてる。

 彼とどうなりたいとかは考えたことはないけれど、距離が一瞬でも近付いたことに胸がじんわりと満たされていく。たとえ、これっきりだったとしても。
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