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第二十九話・高坂さんのマンション2
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マグカップに入れたコーヒーを運んできた高坂さんは、それをテーブルの上に置いた後、私の隣に腰掛けた。そして、資料を手にグズグズと泣く私の頬に手を触れて、涙を優しく拭ってくれる。私は身体を傾け、彼の胸へと顔を埋める。その背中をゆっくり上下に撫でてくれる大きな手の熱にこの上ない幸せと安心を感じていた。
「こんな、与えてもらってばかりなのに、本当に私でいいんですか?」
彼は私と付き合う意志があると言ってくれたけど、一方的に私が救ってもらうばかりでは彼の負担になっているだけだ。彼の周りにはたくさんの女性がいるはずなのに、どうして私を選んでくれたんだろう?
高坂さんは背中を撫でていた手を止めて、もう一度私の頬へと触れてきた。涙でメイクは流れ落ちているだろうし、今の私はボロボロの顔になって見られたものじゃないはずだ。なのに両手で頬を包み込むとその顔を真正面から覗き込んでくる。
「俺はあなただから守ることにしたんです。他の誰でもない」
彼の目を見れば、それが口先だけの言葉じゃないことを語っていた。彼のことはまだほとんど何も知らない。でも嘘や冗談でそんなことを言う人じゃないのは分かっている。彼の顔が近付いてくるのを私は瞼を閉じて静かに待ち受けた。すぐに温かくて柔らかな唇が唇へと触れてくる。唇の端から順に確かめていくような慎重なキス。彼は頬から手を離して私の身体を両腕で抱き締め直した。
淹れたてのコーヒーの香りがすぐ目の前からふんわりと漂う。私の分には先に砂糖もミルクも加えてくれたみたいだけれど、私達はそれには口を付けることなく服越しに互いの体温を確かめ合っていた。身体を触れ合わせながら高坂さんが何度も名前を呼んでくれる。とても近い場所から彼の声が耳に届いて心地良い。
「バイトは辞めて、ここに引っ越して来てもいいですか?」
彼の胸の中で顔を見上げながら私が聞くと、高坂さんは静かに頷き返してくれた。次のシフト希望は出さず、今月いっぱいで辞めることを決めた。人手不足だから急過ぎると文句を言われるかもしれないけれど、もしそうだったら昨晩あったことを本社のマネージャーに伝えるつもりだ。不自然に一部が消えている監視カメラの映像データを確認してもらえば、私の言い分は間違いなく通るはず。
「一日も早く、おいで」
私の前髪を指で掻き分けて、高坂さんが額へと口付けてくる。私の全てを受け入れてくれる優しい声。泣いていたせいで腫らした瞼の上に唇が触れ、こめかみから頬に添って落とされていくキスを私は何も言わずに受け入れる。それが再び唇へと戻ってきて、熱い舌が中へと入り込んでくる。それは口腔内を探って私の舌を見つけると、舌と唇を使ってねっとり絡んで離そうとしない。その情熱的なキスに私は夢中になって自分でも彼の舌を求めにいく。
「ふぅん……」
口での呼吸がままならず、鼻から吐息を漏らす。彼の手が服の上から胸を揉み始めると、もっと触れて欲しくて彼の首に腕を回して身体を密着させる。彼の手の動きが激しさを増すにつれて、下腹部がじゅわっと熱くなるのを感じた。喉からは声にならない声が出る。彼の手がブラウスの裾から中へ侵入してきて、ブラジャーのレース地をもどかしそうに触れてから、中でぐるりと背へ回り躊躇いなくホックを片手で外してしまう。その一瞬で自由になった乳房を広げた手で包み込むと、優しく揉みながらふるふると揺らし出す。私は彼の手の温もりと穏やかな刺激を彼の肩に顔を埋めながら、その愛撫を黙って受け入れていた。けれど、指先で胸の先端を摘ままれるとビクリと身体を震わせる。
「んっ!」
急に身体の中を走る電流のような感覚。私が顔を上げて見つめると、高坂さんも見つめ返してくれた。その瞳の熱がものすごく熱くて胸の奥がきゅんと反応する。
「高坂さん……」
私が名前を呼ぶと、彼の目が少し寂しそうな色を見せる。
「下の名前で呼んで欲しい」
その切ないお願いを叶えようと私は彼の名前を思い出し、目を伏せながら口にする。彼のことをそんな風に呼ぶのは初めてだから、少し照れてしまう。
「柊人、さん」
上目遣いでおそるおそる反応を伺うと、彼は胸から手を離して片手で顔を押さえながら笑みを漏らしていた。名前を呼ぶだけでこんなに嬉しそうにしてもらえるなんて、逆にこちらが恥ずかしくなってくる。でも、私はもう一度同じように呼び掛けた。こんどは真正面に彼の顔を見据えて。
「柊人さん」
てっきり返事が返ってくるのかと思っていたら、高坂さん――いや、柊人さんは一瞬固まったように動きを止めた後、ソファーからいきなり立ち上がり、私の身体を抱き抱えた。ホテルの時と同じくお姫様抱っこをされて、私は驚いて落とされないようにと彼の首にひっしとしがみ付く。
そして、私を抱えたまま彼はリビングのドアを片手で開けて、そのまま廊下を進んでいく。玄関を入って左の部屋、戸が開けっぱなしになっていた彼の寝室へと。
「こんな、与えてもらってばかりなのに、本当に私でいいんですか?」
彼は私と付き合う意志があると言ってくれたけど、一方的に私が救ってもらうばかりでは彼の負担になっているだけだ。彼の周りにはたくさんの女性がいるはずなのに、どうして私を選んでくれたんだろう?
高坂さんは背中を撫でていた手を止めて、もう一度私の頬へと触れてきた。涙でメイクは流れ落ちているだろうし、今の私はボロボロの顔になって見られたものじゃないはずだ。なのに両手で頬を包み込むとその顔を真正面から覗き込んでくる。
「俺はあなただから守ることにしたんです。他の誰でもない」
彼の目を見れば、それが口先だけの言葉じゃないことを語っていた。彼のことはまだほとんど何も知らない。でも嘘や冗談でそんなことを言う人じゃないのは分かっている。彼の顔が近付いてくるのを私は瞼を閉じて静かに待ち受けた。すぐに温かくて柔らかな唇が唇へと触れてくる。唇の端から順に確かめていくような慎重なキス。彼は頬から手を離して私の身体を両腕で抱き締め直した。
淹れたてのコーヒーの香りがすぐ目の前からふんわりと漂う。私の分には先に砂糖もミルクも加えてくれたみたいだけれど、私達はそれには口を付けることなく服越しに互いの体温を確かめ合っていた。身体を触れ合わせながら高坂さんが何度も名前を呼んでくれる。とても近い場所から彼の声が耳に届いて心地良い。
「バイトは辞めて、ここに引っ越して来てもいいですか?」
彼の胸の中で顔を見上げながら私が聞くと、高坂さんは静かに頷き返してくれた。次のシフト希望は出さず、今月いっぱいで辞めることを決めた。人手不足だから急過ぎると文句を言われるかもしれないけれど、もしそうだったら昨晩あったことを本社のマネージャーに伝えるつもりだ。不自然に一部が消えている監視カメラの映像データを確認してもらえば、私の言い分は間違いなく通るはず。
「一日も早く、おいで」
私の前髪を指で掻き分けて、高坂さんが額へと口付けてくる。私の全てを受け入れてくれる優しい声。泣いていたせいで腫らした瞼の上に唇が触れ、こめかみから頬に添って落とされていくキスを私は何も言わずに受け入れる。それが再び唇へと戻ってきて、熱い舌が中へと入り込んでくる。それは口腔内を探って私の舌を見つけると、舌と唇を使ってねっとり絡んで離そうとしない。その情熱的なキスに私は夢中になって自分でも彼の舌を求めにいく。
「ふぅん……」
口での呼吸がままならず、鼻から吐息を漏らす。彼の手が服の上から胸を揉み始めると、もっと触れて欲しくて彼の首に腕を回して身体を密着させる。彼の手の動きが激しさを増すにつれて、下腹部がじゅわっと熱くなるのを感じた。喉からは声にならない声が出る。彼の手がブラウスの裾から中へ侵入してきて、ブラジャーのレース地をもどかしそうに触れてから、中でぐるりと背へ回り躊躇いなくホックを片手で外してしまう。その一瞬で自由になった乳房を広げた手で包み込むと、優しく揉みながらふるふると揺らし出す。私は彼の手の温もりと穏やかな刺激を彼の肩に顔を埋めながら、その愛撫を黙って受け入れていた。けれど、指先で胸の先端を摘ままれるとビクリと身体を震わせる。
「んっ!」
急に身体の中を走る電流のような感覚。私が顔を上げて見つめると、高坂さんも見つめ返してくれた。その瞳の熱がものすごく熱くて胸の奥がきゅんと反応する。
「高坂さん……」
私が名前を呼ぶと、彼の目が少し寂しそうな色を見せる。
「下の名前で呼んで欲しい」
その切ないお願いを叶えようと私は彼の名前を思い出し、目を伏せながら口にする。彼のことをそんな風に呼ぶのは初めてだから、少し照れてしまう。
「柊人、さん」
上目遣いでおそるおそる反応を伺うと、彼は胸から手を離して片手で顔を押さえながら笑みを漏らしていた。名前を呼ぶだけでこんなに嬉しそうにしてもらえるなんて、逆にこちらが恥ずかしくなってくる。でも、私はもう一度同じように呼び掛けた。こんどは真正面に彼の顔を見据えて。
「柊人さん」
てっきり返事が返ってくるのかと思っていたら、高坂さん――いや、柊人さんは一瞬固まったように動きを止めた後、ソファーからいきなり立ち上がり、私の身体を抱き抱えた。ホテルの時と同じくお姫様抱っこをされて、私は驚いて落とされないようにと彼の首にひっしとしがみ付く。
そして、私を抱えたまま彼はリビングのドアを片手で開けて、そのまま廊下を進んでいく。玄関を入って左の部屋、戸が開けっぱなしになっていた彼の寝室へと。
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