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第三十三話・引っ越し準備
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営業の社員がみんな外回りで出ていて、珍しく同期の円佳と二人きりの部署内。私は朝コンビニで買って来ていたチョコクロワッサンを齧りながら、スマホを手に顔を顰めていた。
ネットカフェのバイトは割と簡単に辞めることができた。反対して変に騒がれても困るとでも思ったのだろう、電話で退職を告げた時の店長はあっさり「分かりました」と許諾してくれた。ただ、私の連絡先を知っている何人かのバイト仲間からは「急に辞めるって、何かあったんですか?」と問い合わせはあった。みんな私が昼は別の仕事をしているのは知っているから、そっちが原因だと思い込んでいるのだろう。それには曖昧に返事しておいた。立つ鳥後を濁さず、だ。
「ねえ、さっきから何唸ってんの?」
隣のデスクから怪訝な表情を浮かべた円佳が聞いてくる。実家暮らしの同僚は今日は母親が作ってくれたというお弁当を食べていた。父親の分のついでに、たまに作ってくれるらしい。冷凍じゃないハンバーグがとても美味しそうだ。私はスマホから目を離し、今見ていたサイトの画像を見せながら答える。
「引っ越し屋を探してるんだけど、いろいろあり過ぎて決められなくって……」
「え、咲良、あの部屋出るの?」
「うん、今月いっぱいでって不動産屋には伝えてるんだけど、同時に家電の処理も引き受けてもらえてってなると、どこがいいんだろう?」
柊人さんのマンションへ引っ越しするとなると、今の部屋で使っている家電のほとんどは処分していかなきゃならない。彼のところにはすでに必要な家具家電はあるし、持って行っても邪魔になるだけだから。引っ越しの際に業者に頼むのが一番なんだけど、それらの手数料が通常料金に含まれていないところも多くて、トータルでどこが一番安上がりなのかがさっぱり見当が付かない。
すると、自分は一度も実家を出たことがなく子供の頃の引っ越し経験もないはずの円佳が、神的なアドバイスを口にする。
「えーっ、そんなのリサイクルショップに買い取ってもらいなよ。就職して買い揃えたやつだったら、まだそこまで古くないでしょ? てか、引っ越し先、家電付きなの?」
円佳の案に成程と大きく頷き返しながらも、引っ越し先については「まあ、そんな感じ」と曖昧に答える。いつかは柊人さんのことを紹介したいとは考えてるけれど、それは今じゃない。
私は改めて近場のリサイクルショップの一覧をスマホ画面に表示し始める。円佳もそれを横から興味津々と覗き込んでくる。きっと一人暮らしをしたことがないから珍しいのだろう。私は出張買取してくれるという店の電話番号をメモした。
その翌週末、ワンルームマンションにリサイクル業者が朝から訪れてきて、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジが買い取られていった。買取り金額は正直言って大したことはない。引っ越し業者に処分料を払わなくて済んだだけマシだと思えばいい。
ただ、テレビはそこまで大きくないから迷っていたら、妹が自分の部屋用に欲しいというので譲ってあげることになった。今度、車を持っている友達に頼んで引取りに来るらしい。そう言えば、母には店で合ってもらったけどまだ風香に柊人さんを紹介したことはなかった。
「私もちゃんとお礼を言いたいな。だって、お母さんに店をやめるように説得してくれた人なんでしょう?」
「うん、また機会あればね」
「いい人だよねー。私もお姉ちゃんが夜も働いてくれてるの、ずっと心配だったから……」
近い内に引っ越しするという話を電話で伝えた時、風香は柊人さんのことをとても感謝しているみたいだった。母がどういう流れで弁当屋を畳む気になったかは以前に説明してあったけれど、それがキッカケでお付き合いして一緒に住むことになったと言ったら心底驚いていた。
妹自身も外でアルバイトを始めたと聞いてからも、毎月の仕送りは続けていた。シフトが減った分、振り込む金額は少なくなったけれど。それは卒業後に始まる奨学金の返済の為に貯めておくよう伝えてある。風香も長年、母のことを見てきているから、その辺りは十分心得ているようで、バイト代も毎月少しずつ残しているみたいだ。
「ごめんね、早く払い終えるよう頑張って繰り上げ返済するつもりだから」
「大丈夫、その辺は信用してる。でもちゃんと卒業旅行とかは行きなよ、今しか出来ないことなんだから」
「はーい」
せっかくの大学生活まで親の犠牲にしなくてもいい。これまでだってきっと、妹は私が経験したことのない苦労を背負わされていただろうから。ようやく普通の大学生らしい生活が遅れるようになったのが最後の半年だけだなんて可哀想としか言えないけれど。
「そうだ、お姉ちゃんに報告があったんだった」
「なに?」
「ゼミの教授から紹介してもらった弁護士さんのとこに、内定もらえた。早く慣れるようにって、卒業するまでもバイトでおいでって言ってもらえて、コンビニ辞めてそっちで働くことになった」
「ええーっ、それは最初に言わないとダメなやつ!」
「ごめんごめん……だって、お姉ちゃんの彼氏ネタの方が衝撃的だったから」
衝撃的って何よ、と笑いながらも私は声が詰まりそうになるのを堪える。今日は電話で良かった。風香がしっかりと前に進んでいるのを知れて、私はスマホのマイクを指で押さえながら鼻を啜った。
ネットカフェのバイトは割と簡単に辞めることができた。反対して変に騒がれても困るとでも思ったのだろう、電話で退職を告げた時の店長はあっさり「分かりました」と許諾してくれた。ただ、私の連絡先を知っている何人かのバイト仲間からは「急に辞めるって、何かあったんですか?」と問い合わせはあった。みんな私が昼は別の仕事をしているのは知っているから、そっちが原因だと思い込んでいるのだろう。それには曖昧に返事しておいた。立つ鳥後を濁さず、だ。
「ねえ、さっきから何唸ってんの?」
隣のデスクから怪訝な表情を浮かべた円佳が聞いてくる。実家暮らしの同僚は今日は母親が作ってくれたというお弁当を食べていた。父親の分のついでに、たまに作ってくれるらしい。冷凍じゃないハンバーグがとても美味しそうだ。私はスマホから目を離し、今見ていたサイトの画像を見せながら答える。
「引っ越し屋を探してるんだけど、いろいろあり過ぎて決められなくって……」
「え、咲良、あの部屋出るの?」
「うん、今月いっぱいでって不動産屋には伝えてるんだけど、同時に家電の処理も引き受けてもらえてってなると、どこがいいんだろう?」
柊人さんのマンションへ引っ越しするとなると、今の部屋で使っている家電のほとんどは処分していかなきゃならない。彼のところにはすでに必要な家具家電はあるし、持って行っても邪魔になるだけだから。引っ越しの際に業者に頼むのが一番なんだけど、それらの手数料が通常料金に含まれていないところも多くて、トータルでどこが一番安上がりなのかがさっぱり見当が付かない。
すると、自分は一度も実家を出たことがなく子供の頃の引っ越し経験もないはずの円佳が、神的なアドバイスを口にする。
「えーっ、そんなのリサイクルショップに買い取ってもらいなよ。就職して買い揃えたやつだったら、まだそこまで古くないでしょ? てか、引っ越し先、家電付きなの?」
円佳の案に成程と大きく頷き返しながらも、引っ越し先については「まあ、そんな感じ」と曖昧に答える。いつかは柊人さんのことを紹介したいとは考えてるけれど、それは今じゃない。
私は改めて近場のリサイクルショップの一覧をスマホ画面に表示し始める。円佳もそれを横から興味津々と覗き込んでくる。きっと一人暮らしをしたことがないから珍しいのだろう。私は出張買取してくれるという店の電話番号をメモした。
その翌週末、ワンルームマンションにリサイクル業者が朝から訪れてきて、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジが買い取られていった。買取り金額は正直言って大したことはない。引っ越し業者に処分料を払わなくて済んだだけマシだと思えばいい。
ただ、テレビはそこまで大きくないから迷っていたら、妹が自分の部屋用に欲しいというので譲ってあげることになった。今度、車を持っている友達に頼んで引取りに来るらしい。そう言えば、母には店で合ってもらったけどまだ風香に柊人さんを紹介したことはなかった。
「私もちゃんとお礼を言いたいな。だって、お母さんに店をやめるように説得してくれた人なんでしょう?」
「うん、また機会あればね」
「いい人だよねー。私もお姉ちゃんが夜も働いてくれてるの、ずっと心配だったから……」
近い内に引っ越しするという話を電話で伝えた時、風香は柊人さんのことをとても感謝しているみたいだった。母がどういう流れで弁当屋を畳む気になったかは以前に説明してあったけれど、それがキッカケでお付き合いして一緒に住むことになったと言ったら心底驚いていた。
妹自身も外でアルバイトを始めたと聞いてからも、毎月の仕送りは続けていた。シフトが減った分、振り込む金額は少なくなったけれど。それは卒業後に始まる奨学金の返済の為に貯めておくよう伝えてある。風香も長年、母のことを見てきているから、その辺りは十分心得ているようで、バイト代も毎月少しずつ残しているみたいだ。
「ごめんね、早く払い終えるよう頑張って繰り上げ返済するつもりだから」
「大丈夫、その辺は信用してる。でもちゃんと卒業旅行とかは行きなよ、今しか出来ないことなんだから」
「はーい」
せっかくの大学生活まで親の犠牲にしなくてもいい。これまでだってきっと、妹は私が経験したことのない苦労を背負わされていただろうから。ようやく普通の大学生らしい生活が遅れるようになったのが最後の半年だけだなんて可哀想としか言えないけれど。
「そうだ、お姉ちゃんに報告があったんだった」
「なに?」
「ゼミの教授から紹介してもらった弁護士さんのとこに、内定もらえた。早く慣れるようにって、卒業するまでもバイトでおいでって言ってもらえて、コンビニ辞めてそっちで働くことになった」
「ええーっ、それは最初に言わないとダメなやつ!」
「ごめんごめん……だって、お姉ちゃんの彼氏ネタの方が衝撃的だったから」
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