クールな経営者は不器用に溺愛する 〜ツンデレ社長とWワーク女子〜

瀬崎由美

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第三十五話・デート

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 荷物が全て運び出されガランとした部屋を不動産屋の担当者に引き渡した後、私達は柊人さんの車でマンションへ向かおうとしていた。途中何度か彼のスマホが着信を知らせたから、コンビニの駐車場に車を停めて電話する彼を待つ。その間、私はひとまず目的なく一人で店に入った。自動ドアが開くと同時に軽快な音色が店内に響き渡る。棚の前にしゃがみ込んで商品の補充をしていた学生バイト風の店員が「いらっしゃいませー」と声を掛けてくるが、かなり忙しそうで手を止める様子はない。店内には彼しかスタッフの姿は見えないから休憩の時間帯なんだろうか。

 私は何とはなしに店内を見て回り、ホット飲料の棚に並んでいた缶コーヒーとペットボトル入りのミルクティーを手に取った。片手に一本ずつ持つと、手の平がじんわりと熱くなる。レジでお金を支払ってから外に出ると、まだ柊人さんは車の中で通話中みたいだった。私は極力音を立てないよう気を付けながら助手席へ戻り、こちらを向いたタイミングでコーヒーを差し出す。ありがとうと口パクでお礼を言ってきた後、柊人さんは電話の向こうの部下の報告を少し険しい顔で聞いていた。今日の出張は本当に早めに切り上げてきても平気だったんだろうか……?

「分かった。最新の数字は週明けに必ず送ってもらえるように。データが揃ってなければ話にならない、今日のところは戻って来週以降にまた対応してくれ」

 どうも出張先の顧客側が用意した書類に不備があったみたいで、渋い表情で電話を切った後、座席の背凭れに身体を倒しながらふぅと大きく息を吐いている。「大丈夫?」と顔を覗き込んでみると、ふっと柔らかな笑みを浮かべて「問題ない」と柊人さんは短く答えた。彼の仕事のことはあまり詳しくは分からないけれど、とにかく忙しそうなのだけは分かる。電話を切った後もメッセージを受信する音が何度か鳴っていた。

 引っ越しの荷物が届けられるのは夕方以降になると聞いている。単身者向けの激安パックだからか、一旦トラックを乗せ換えたりして少し時間が掛かるみたいだ。でもはっきりした到着時間が分からないと今からの予定が立たてられない。せっかく一緒に休日を過ごせることになったのに、と私は唇を尖らせる。

「道も混んでるみたいだし、結構遅くなるかもな」

 柊人さんが車を走らせながらそう言うと、私はどうしようかと眉を寄せて悩み始める。それなら夕飯は外食するより自炊した方が良さそうなんだけど、荷物が届く前に彼の家にある調理器具で作るとなると一気にハードルが上がる。本当に彼のマンションには料理をする為の一式が揃っていないのだ。初めて食器棚を開けた時、思わず絶句してしまったくらいには。

「……マンションの近くで、どこか食べに行こうか? もし早めに荷物が来てもすぐ帰れる距離で」

 私が困惑しているのに気付いたのか、柊人さんが苦笑いを浮かべながら提案してくれる。以前にも私が彼の自宅で何か作ろうとして、あまりに何もなくて茫然としていたのを思い出したのだろう。一人暮らしの男子学生でも片手鍋とフライパンしかないってことはないはずだ。

 マンション内の契約駐車場に車を停めてから、駅に向かって並んで歩く。落ち着いた住宅街かと思っていたら、駅前のスーパーの裏手には飲食店が立ち並ぶ通りがあった。カフェや定食屋、パン屋など、近所の人達が立ち寄りそうなこじんまりしたお店が多かったけれど、ケーキ屋は雑誌でも取り上げられることがあるという有名店の本店らしい。レジ前にはちょっとした列ができていた。

 柊人さんに連れられてきたのは、一見すると普通の住宅かと見間違えそうだったが、よく見たら小さな看板が門柱にぶら下がっている。でも、かなり崩した筆記体だったから店の名前は必死で目を凝らしても私には読めなかった。
 ベルが鳴り響く扉を押し開けると、ふんわりと優しいコンソメの香りが襲ってくる。夕食にはまだ早い時間帯ということもあって、店内には客はたった二人のようで食器の鳴る音が少しだけ聞こえてくる。

「柊人さんは来たことあるの?」
「いや、部下がうちの近所にこういう店があると言ってたの覚えてただけ。ネットの口コミが良いとか言ってたかな。それをさっき思い出した」

 カントリー風のほっこり可愛い内装で、どう考えても女性が好きそうな店だったから、彼が会社のどんな人からその情報を教えてもらったのかはちょっと気になる。そして席についてメニューを見て初めて、ここがオムライス専門店だと気付いた。ベースのオムライスを選んだ後、ソースとトッピングを指定するシステムらしい。日替わりスープとパンは全てのセットに含まれているという説明に、入ってすぐ香ってきたのがコンソメスープの匂いだと判明した。

「デザートはプリンとチーズケーキの二種類からお選び下さい」

 お店の人のその言葉に、柊人さんは迷いなく私の方を向いて「咲良の好きなのでいいよ」と笑いかけてくる。

「じゃあ、それぞれ一つずつをお願いします」
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