クールな経営者は不器用に溺愛する 〜ツンデレ社長とWワーク女子〜

瀬崎由美

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第三十六話・デート2

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 かなり早い夕ご飯を食べ終わってもまだ外は明るくて、私達は少し遠回りしながらマンションへと戻ることにした。引っ越し業者からの到着連絡はまだ来ていないし、ちょっと散歩するぐらいは平気だろう。
 これから住むことになったこの辺りのことを探検するつもりで、キョロキョロと周りを見回しながら歩いていると、おもむろに柊人さんが私の手を掴んで引っ張る。

「よそ見ばかりしてると、危ないから」

 後方から自動車が近付いてきていたみたいだったのに、私は柊人さんに言われるまで全然気付いていなかった。見知らぬ土地にテンションが上がっているのか、完全に注意力散漫になっていた。キュッと握られた右手を指を絡めて繋ぎ直し、私は隣を歩く彼の顔を見上げる。さりげなく車道側に回ってから、私の速度に合わせて歩いてくれている。彼の優しさにいつも守ってもらってばかりだ。

 駅とマンションのちょうど真ん中辺りで、かなり大きめの公園を見つけた。遊具もあり、広々とした芝生スペースもあって、もう夕方も近いのに小学生くらいの子供達が楽しそうに走り回っている。ポメラニアンっぽい小型犬を散歩させている女性もいて、とてものどかな光景だ。敷地内には今は葉を茂らせているだけだけれど、かなり立派な桜の木もあった。

「春はここでお花見ができそうだね」
「ああ、そういえばこの公園、何本か桜があったな」

 何年もこの地域に住んでいるはずなのに柊人さん的にはあまり印象は強くないみたいだけれど、パッと見ただけでもかなりの本数が植えられている。きっとこの辺りでのお花見スポットの可能性は高い。
 お花見と言えばと、私は子供の頃のことを思い出す。

「小学校入学前くらいかな、家の近所の公園に家族でお弁当持ってよく出かけてた。うちの母、料理が得意だったから、お花見シーズンとか関係なしで天気のいい日に外でお弁当食べること多かったんだよね」

 両親が離婚する前の話だから、もう随分と遠い記憶だ。公園の芝生の上にビニールシートを敷いて、朝から母が用意してくれたお弁当を食べた。おかずに前の晩の残り物が入っていても、外で食べるとまた格別で。当時はまだ小さかった風香はきっと何も覚えていないだろうけど、お弁当を食べた後に妹と二人で公園の中で一番キレイな落ち葉を探したり、駆け回ったり。父と一緒にボールで遊んでもらったこともある。自宅から歩いて行ける距離なのにちょっとしたピクニック気分でとても楽しかった。

 傍目には仲の良い家族に見えたはずなのに、その後数年もしない内に両親は別れてしまったけれど。子供はどちらが引き取るかでは揉めたみたいだったらしいが、離婚すること自体は割とあっさり決まったのだと、私はかなり後になって父から聞かされた。今となっては、あの家族団らんのピクニックは偽りだらけだったと思わずにいられないのだけれど。

「弁当、か……俺はこれといった思い出はないな」

 公園を横目に見ながら、柊人さんが寂しそうに笑う。

「うちは子供の頃から家族が揃うことがあまりなかったから。弟とはよく遊んだけど、父は帰ってこないことの方が多かったし」
「そうなんだ……」
「父の会社の税務はうちが任されてるから、その関係で今の方が顔を合わせることはあるかな。ま、仕事以外のことは話したりしないけど」

 柊人さんのお父さんは不動産会社を経営していると以前に聞いたことがある。弟さんがお父さんの下で働いているらしいけれど、公認会計士を目指していた柊人さんは大学を卒業してから独立するまでは会計事務所に勤めていたと言っていた。うちの両親のように離婚してはいなくても、彼の両親もあまり仲が良いとは言えないみたいだった。

「あ、お弁当! 就職してしばらくは会社に持って行ってたんだけど、ダブルワークで余裕なくなって。でももう夜勤もないし、復活させてもいいかな。柊人さんも持って行けそうな時があれば言って。二人分まとめて作るから」

 お弁当の思い出がなぜかしんみりした話に変わってしまい、私はわざとらしいくらい張り切った声で提案する。母ほどではないけれど、私もそれなりに料理は好きだし、父子家庭になったおかげで父と一緒に子供の頃から家事は一通りこなしてきた。

「じゃあ、週の半分は外に出てる感じだけど、会社で食べられそうな時はお願いするよ。あ、来週も前半は出張が入っていて帰ってこれないと思う。一緒に住んで早々で悪いんだけど――」

 マンションにはたまに寝に帰るだけだと言っていたのは本当らしく、彼にお弁当を持たせてあげる機会は当面はなさそうだった。私は極力明るく笑いながら「分かった」と頷き返した。一緒に住もうって誘ったのは俺なのに、と申し訳なさそうにする柊人さんへ、私は平気だと伝えるつもりで繋いでいる手をギュッと強く握り返す。

 マンションの建物がちょうど遠目に見えてきた時、見覚えのある業者のロゴが印字されたトラックが背後から追い越していく。そして、私達が到着した時にはすでに台車に乗せられた段ボールの山がエントランスの自動ドア前まで運ばれようとしていた。
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