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第5章
第66話 第二王子もポンコツでした
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「見た目だけ真似てもすぐに分かります。それに偽装魔導具は、私の加護の前では効果はありません」
「なっ!?」
正直、フェイ様じゃなければ騙されていたかもしれない。
精霊や妖精の加護があっても、偽装や魅了関係の魔導具や魔法に完全な耐性があるわけではないので、ハッタリだったが言い切った。
「そもそもフェイ様は私と二人きりの時は愛称で呼ぶわ。それに言葉遣いもフェイ様とは全然違いますし、もっとあの方はストレートに私を口説きますのよ!」
「な、あ」
「ソフィーリア様、叩き潰してよろしいでしょうか」
「許可します」
後ろに控えていたローズは指をパチンと鳴らすと、魔導具が小気味いい音で砕け床に転がる。
「なにをした……」
「魔石を砕いたのよ。これでもう偽装は使えないわ」
「ぐ……」
「クローバー魔法国が扱う魔導具の中で、この手の商品は販売禁止されたものだけれど、どこで買ったのかしら?」
「……私が正直に答えるとでも?」
偽装効果が解けたが、黒い髪のカツラを付けた第二王子は忌々しそうに私を見つめた。背丈はフェイ様と同じぐらいだろうか。瞳の色はアメジスト色ではなく、黒曜の瞳だ。睨みつける敵意は、時間跳躍の時間軸で見たフェイ様と少しだけ雰囲気が似ている。
「……」
「姫様?」
「何でもないわ」
女王としての顔をここで剥がすわけにはいかない。私は毅然とした態度で第二王子ヒショウを見つめた。
「お答えいただけないのなら結構です。クローバー魔法国に直接確認を取りますので」
「!」
「それでは失礼します」
ニッコリと微笑むと、私は彼とすれ違う。その刹那、第二王子は私の腕を掴もうとしたが、後ろに控えていたローズがその腕を掴み、床に叩きつける。
「ぐへ」
今ので気絶してしまったようだ。これでは話が聞けそうにない。
「ソフィーリア様。第二王子を水路に投げておきますか? それとも今ここで息の根を止めるべきでしょうか」
「ダメです。さらっと怖いこと言わないで!」
本当に妖精は時々物騒なことを言い出す。老紳士の妖精の護衛役までも物騒なことは言わないだろう。私は期待を込めてヤマさんを見つめた。
「それならば私が衛兵に引き渡してきましょう」
「さすがヤマさん。それでお願いします!」
ヤマさんの申し出に私は快諾する。
大人の対応。担ぐ際に腹を殴っていた気がするけれど、気のせいだ。
うん。多分。
それにしても第二王子のヒショウ様は武術の心得はあまりないのか、受け身を取れずあっさりと倒れてしまった。フェイ様なら受け身ぐらい簡単にとるのに。兄弟でも教育方針が異なるのかもしれない。
(うーん。もっと姑息で用意周到な姦計をしてくると思ったのだけれど、いびりに、悪口、毒、偽装、暴行。単調というか、行き当たりばったりのような……)
まだ初日だが中々の勝負の仕掛け方だ。
短期決戦というか戦争吹っ掛けるような強引さ。
(あの浅はかさが後継者争いを激化した元凶だった? うーん、でもなんだろう。何か引っかかるというか気になる)
第一王子も第二王子も、自分から墓穴を掘るような凡ミスばかり。王族以外の相手なら効果はあったかもしれないが、それにしては私へのリサーチが乏しいのに初日で勝負を決めているところも、なんだか気になる。
(作為的な──この流れすら誰かが画策してわざと第一、第二王子を貶めている……のは考えすぎかしら?)
もしいるとしたら私はその相手にとって都合のいい手駒なのだろう。
他国で次期女王。自国の王族に対して礼節をもって接しなければならない。普通はそう考える。誰かが唆して第一、第二王子を失脚させようと利用したとしたら。
「ソフィーリア様。お一人で考えるよりも、この国の事でしたら婚約者様にご相談したらいかがですか」
「う……。そ、それもそうね」
色々あったので、フェイ様に相談をするのは賛成だ。
つい数時間前に会ったばかりだというのに、もう会いたくてたまらない。そんなことを言ったら、重いと思われないだろうか。
この流れで第三王子が来ないことを祈りつつ、フェイ様の部屋を目指した。
*???視点*
暗がりの部屋は埃っぽかったが、一部始終を眺めるには最適の場所だった。
三階建ての一室。そんな場所から──は物欲しそうな顔で、異国の次期女王ソフィーリア・ラウンドルフ・フランシスを見つめていた。
「第一王子藤陽と第二王子飛翔は、想定通り動いてくれたようだ。ここ数年で、自分たちが強者だと勘違いした者たちは御しやすい」
ソフィーリアの姿が建物中に消えるのを見送ったのち、──はため息が漏れた。
「しかし私が手を貸す必要もないとはね。ソフィーリア、女王として気高く美しい成長をなされたようだ」
「…………」
「ああ、再会が待ち遠しいな。ねえ、そう思わないかい。父上」
ソフィーリアが清飛の部屋に向かうのを見送ったのち、部屋の隅にある小窓を眺めながら──は、自らの父グエン国王にそう告げた。
「あ、あああ……。梅は、どこだ? どこにいった?」
暗がりの中で呻くような声が漏れる。
「チッ。幻術が解けてしまったか。……かけ直して頂けますかね、『原初の魔女』殿」
『注文の多い男だのぅ』
暗がりの中で、魔女は不服そうに答えた。
「さて、私たちの愛しい方を奪いに行こうじゃないか」
魔女は言葉の代わりに影を、ちゃぷん、と水面のように揺らした。
「なっ!?」
正直、フェイ様じゃなければ騙されていたかもしれない。
精霊や妖精の加護があっても、偽装や魅了関係の魔導具や魔法に完全な耐性があるわけではないので、ハッタリだったが言い切った。
「そもそもフェイ様は私と二人きりの時は愛称で呼ぶわ。それに言葉遣いもフェイ様とは全然違いますし、もっとあの方はストレートに私を口説きますのよ!」
「な、あ」
「ソフィーリア様、叩き潰してよろしいでしょうか」
「許可します」
後ろに控えていたローズは指をパチンと鳴らすと、魔導具が小気味いい音で砕け床に転がる。
「なにをした……」
「魔石を砕いたのよ。これでもう偽装は使えないわ」
「ぐ……」
「クローバー魔法国が扱う魔導具の中で、この手の商品は販売禁止されたものだけれど、どこで買ったのかしら?」
「……私が正直に答えるとでも?」
偽装効果が解けたが、黒い髪のカツラを付けた第二王子は忌々しそうに私を見つめた。背丈はフェイ様と同じぐらいだろうか。瞳の色はアメジスト色ではなく、黒曜の瞳だ。睨みつける敵意は、時間跳躍の時間軸で見たフェイ様と少しだけ雰囲気が似ている。
「……」
「姫様?」
「何でもないわ」
女王としての顔をここで剥がすわけにはいかない。私は毅然とした態度で第二王子ヒショウを見つめた。
「お答えいただけないのなら結構です。クローバー魔法国に直接確認を取りますので」
「!」
「それでは失礼します」
ニッコリと微笑むと、私は彼とすれ違う。その刹那、第二王子は私の腕を掴もうとしたが、後ろに控えていたローズがその腕を掴み、床に叩きつける。
「ぐへ」
今ので気絶してしまったようだ。これでは話が聞けそうにない。
「ソフィーリア様。第二王子を水路に投げておきますか? それとも今ここで息の根を止めるべきでしょうか」
「ダメです。さらっと怖いこと言わないで!」
本当に妖精は時々物騒なことを言い出す。老紳士の妖精の護衛役までも物騒なことは言わないだろう。私は期待を込めてヤマさんを見つめた。
「それならば私が衛兵に引き渡してきましょう」
「さすがヤマさん。それでお願いします!」
ヤマさんの申し出に私は快諾する。
大人の対応。担ぐ際に腹を殴っていた気がするけれど、気のせいだ。
うん。多分。
それにしても第二王子のヒショウ様は武術の心得はあまりないのか、受け身を取れずあっさりと倒れてしまった。フェイ様なら受け身ぐらい簡単にとるのに。兄弟でも教育方針が異なるのかもしれない。
(うーん。もっと姑息で用意周到な姦計をしてくると思ったのだけれど、いびりに、悪口、毒、偽装、暴行。単調というか、行き当たりばったりのような……)
まだ初日だが中々の勝負の仕掛け方だ。
短期決戦というか戦争吹っ掛けるような強引さ。
(あの浅はかさが後継者争いを激化した元凶だった? うーん、でもなんだろう。何か引っかかるというか気になる)
第一王子も第二王子も、自分から墓穴を掘るような凡ミスばかり。王族以外の相手なら効果はあったかもしれないが、それにしては私へのリサーチが乏しいのに初日で勝負を決めているところも、なんだか気になる。
(作為的な──この流れすら誰かが画策してわざと第一、第二王子を貶めている……のは考えすぎかしら?)
もしいるとしたら私はその相手にとって都合のいい手駒なのだろう。
他国で次期女王。自国の王族に対して礼節をもって接しなければならない。普通はそう考える。誰かが唆して第一、第二王子を失脚させようと利用したとしたら。
「ソフィーリア様。お一人で考えるよりも、この国の事でしたら婚約者様にご相談したらいかがですか」
「う……。そ、それもそうね」
色々あったので、フェイ様に相談をするのは賛成だ。
つい数時間前に会ったばかりだというのに、もう会いたくてたまらない。そんなことを言ったら、重いと思われないだろうか。
この流れで第三王子が来ないことを祈りつつ、フェイ様の部屋を目指した。
*???視点*
暗がりの部屋は埃っぽかったが、一部始終を眺めるには最適の場所だった。
三階建ての一室。そんな場所から──は物欲しそうな顔で、異国の次期女王ソフィーリア・ラウンドルフ・フランシスを見つめていた。
「第一王子藤陽と第二王子飛翔は、想定通り動いてくれたようだ。ここ数年で、自分たちが強者だと勘違いした者たちは御しやすい」
ソフィーリアの姿が建物中に消えるのを見送ったのち、──はため息が漏れた。
「しかし私が手を貸す必要もないとはね。ソフィーリア、女王として気高く美しい成長をなされたようだ」
「…………」
「ああ、再会が待ち遠しいな。ねえ、そう思わないかい。父上」
ソフィーリアが清飛の部屋に向かうのを見送ったのち、部屋の隅にある小窓を眺めながら──は、自らの父グエン国王にそう告げた。
「あ、あああ……。梅は、どこだ? どこにいった?」
暗がりの中で呻くような声が漏れる。
「チッ。幻術が解けてしまったか。……かけ直して頂けますかね、『原初の魔女』殿」
『注文の多い男だのぅ』
暗がりの中で、魔女は不服そうに答えた。
「さて、私たちの愛しい方を奪いに行こうじゃないか」
魔女は言葉の代わりに影を、ちゃぷん、と水面のように揺らした。
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