お嬢様と執事のありふれた吸血鬼生活

結城鹿島

文字の大きさ
7 / 29

夜会の招待2

しおりを挟む
 ヴィオラは起き上がると、すばやく寝巻の上に一枚羽織った。髪をまとめたいところだが、いつまでも外で待たせておくわけにはいかない。相手がトトなら、多少はだらしないのも許してもらえるだろう。

がたつく窓をジェフリーがゆっくり開けると、朝の空気と共にトトは軽やかに室内に降り立った。
日差し避けのローブの下から覗くのは、明るい胡桃色の髪。ぱっと見は特徴のない、クロクスではありきたりの風貌をしている。
瞳の色が紫にも赤にも見える不思議な光を放っていることは、近づいて、まじまじ観察しなければわからない。

「ほらほら早く執事君が早くしてくれないから、誰かに見られちゃうかと冷や冷やしたよ。ここ二階なんだからね?」

「でしたらそんな所から、いらっしゃらないで下さいサルヴァトーレ様。相変わらずのようで、何よりでございます」

「付け足しみたいな挨拶どうもね」

ジェフリーにはぞんざいに手を上げ挨拶を済ませたトトが、ヴィオラの前では優雅に腰を折る。そしてヴィオラの手をとり、
「やあヴィオラ、今日も元気そうだね。久しぶり」
軽く口づけた。

「ほんっとに、相変わらずねえ……」

二十代前半に見える姿は、五年前に初めて会った時から当然変わっていない。その後も数回は会っているが、吸血鬼とは思えない人懐こい笑顔もそのままだ。行先を知らせてるわけではないので、どうやってヴィオラたちの居場所を探りあててくるのかは謎だ。

「一年ぶりくらいかしら? お久しぶり。トトも元気そうでよかったわ」

「勿論、僕はいつだって元気だよ。僕が元気じゃなかったら、皆が悲しむからね。さて、今日はヴィオラにお届け物に来たんだ」

声を弾ませ、トトは上着の内ポケットから一枚の封筒を取り出した。
「はい、ヴィオラ。どーぞ」

「なあに?」
受け取った封筒は、飾り気のまったくない白い無地のもの。

「夜会の招待状だよ。たまにはみんなで集まろうと思ってね」
ウィンクでトトが答える。

色気より快活さの方が上回っているが、なんだか照れてしまう。トトの行動はいちいち派手だ。カッと熱くなった顔を、ぱたぱたと手でヴィオラはあおいだ。
一歩後ろに控えるジェフリーが顔を引きつらせていることは、トトにしか見えていない。

「吸血鬼同士で集まるなんて、危険なのではありませんか? 怪しい集まりに、うちのお嬢様を誘うのは遠慮していただきたいですね。サルヴァトーレ様」

ジェフリーのいつになくきつい調子に、ヴィオラはこほんと咳で咎める。執事を見上げれば、ばつの悪そうな顔がそこにあった。

「ジェフリーがトトのことを苦手なのは承知しているけど、お客様への態度じゃないわ」
「……申し訳ありませんでした」

嫌々一礼するジェフリーに、ヴィオラは溜息をそっと零した。ジェフリーはトトに対しては、どうにも子供っぽい。中身で言えばトトの方が年上なのだが、いかんせん見た目が宜しくない。
トトの方はいつものように、ふふっと笑い声を漏らして肩を揺らしている。

「トトが気にしないならまあいいわ……。前にもお茶会にはお邪魔したことあったけど、わざわさ招待状を用意するってことは正式なお誘いなの?」
封を開け、招待状を広げてみる。

「……ちょっと、トト、これ、どこに招待されるってのよ?」

招待状には、場所の名前も日時も、招待主の名前も、何も書かれていなかった。完全な白紙だ。

「場所はね、自治都市テルメロアだよ。聖カニアの祭りの次の日に、テルメロアの白鴉亭で夕方から。以前のお茶会なんて目じゃないよ。たくさんの子たちを集めて大々的に楽しもうって思ってるんだ」

「テルメロア……テルメロア……?」

はて、どこだっただろう。聞いたことがあるような気がするが分からない。
考え込むヴィオラの一方、ジェフリー勝手に納得している。

「なるほど、多少は気を使っているということですか。もっと気を使って頂いて、声かけ自体を遠慮して頂きたいところです」
「ほんっと、ブレないなあ……執事君は」
二人のやりとりは小声だったので、思案しているヴィオラの耳には届いていない。

「その招待状は鍵だよ、ヴィオラ。会場入り口で門番に出してくれればいい」
「鍵?」
「まあまあ、実際に行ってみたらわかるよ」
「安全に関しては大丈夫なの? 吸血鬼が大勢集まるとなると、ハンターに嗅ぎつけられる危険性は増すでしょう? トトのことだから、何か考えているとは思うけど」

ジェフリーほど神経質にはならなくても、ヴィオラだって気にはする。

「だーかーら、テルメロアなんだってば。でも、ちょっと心配してもらう位で丁度いいかな」

ヴィオラは首を傾げた。

「たまにはみんなで集まって騒ぐのもいいなって思ったのもあるけど、ハンターに気を付けてって非武闘派の皆を呼んで注意喚起するための会でもあるんだよ」

「あら、そういうことなの」

トトは吸血鬼の顔役のような存在だ。血族に関係なく、穏健派をまとめている。

「ま、そうは言ってもただの夜会だよ。僕もピアノ弾いちゃうから、ヴィオラたちも聴きにおいでよ。ね? 遊びにおいでって」

「トトのピアノは聴いてみたいけど……」
確か、前に知り合いに聞いた話では、天使も泣き出す腕前だということだ。どっちの意味でかは知らない。

「それじゃ、僕はまだみんなに招待状を届けないとだから」
言いながら、トトは窓から体を乗り出す。

「あ、待ってトト、行くかどうかの返事を――」

する前に、既にトトの姿は地表にあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

新緑の光と約束~精霊の愛し子と守護者~

依羽
ファンタジー
「……うちに来るかい?」 森で拾われた赤ん坊は、ルカと名付けられ、家族に愛されて育った。 だが8歳のある日、重傷の兄を救うため、ルカから緑の光が―― 「ルカは精霊の愛し子。お前は守護者だ」 それは、偶然の出会い、のはずだった。 だけど、結ばれていた"運命"。 精霊の愛し子である愛くるしい弟と、守護者であり弟を溺愛する兄の、温かな家族の物語。 他の投稿サイト様でも公開しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...