63 / 261
第三章 出会い
63
しおりを挟む
そのとき、頭に差し迫る何かを見た記憶がフラッシュバックする。
肩がびくりと跳ね、次に手首を無理矢理引っ張った記憶が蘇り、何かが体を這い、何かが噛み付き、体が崩れて地面と衝突し、引きずられて組み敷かれる。
体の自由が利かなくて、動けなかった。
俺はシャワーを持ったまま崩れ落ち、浴室に座り込む。
そのとき、誰かが助けてくれた。
優しい声音で、温かい大きな手。
甘い、落ち着く香り。
「亀、大丈夫?」
浴室の扉の向こうから声がした。
俺はそれに喉が詰まって声を返せなかった。
「亀?開けるよ?」
許可を出す前に、扉は多田によって開けられた。
座り込んだ無様な俺に多田は濡れることも厭わずに入ってきた。
「亀っ?大丈夫?気分悪い?」
「うぅん・・・。昨日のこと、思い出したら、力抜けちゃっただけ。大丈夫・・・。」
「そっか。立てる?上がろう?」
「大丈夫。一回、流したら出るよ。感覚が、気持ち悪いから・・・。」
「分かった。無理、しないでね。俺脱衣所で待ってるから、何かあったら言って。」
「ありがと。」
俺は礼をいい、多田が出たのを確認して、シャワーヘッドを壁にかけ、俺は座り込んだまま降り注ぐシャワーに身を置く。
粗方流し終われば、痛い部分は力を弱めたりしながら、全身をくまなく洗った。
全てを綺麗にしたかった。
一緒に感覚も消したかったが、感覚は消えてくれなかった。
消えてくれないことは、洗わなくとも知っていたのだが。
また、俺はこの感覚に苦しまないといけない。
体を這う、この気持ち悪い感覚と。
全てを流し終われば俺は立ち上がり、浴室の扉を開ける。
脱衣所には多田が扉を背に座り込んで俺を待っていた。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。あんまり見ないで。見られたくない。」
「うん、ごめん。」
そう言って視線は外してくれたが、脱衣所からは出て行ってくれない。
「どうして、そこにいるの?」
「亀が倒れたりしないか不安だから。」
「大丈夫だよ。そんな心配しないでも。」
「するよ。ごめんね、俺がいるのに、こんなことになって・・・。」
多田が珍しく声のトーンを落としている。
多田は基本的にニコニコしており、物事はいつも客観的に見て余裕を見せていた。
だが、今目の前にいる多田は笑っていないし、余裕もなさそうだった。
こんなことになってと謝るのなら、何があったのか知っているのだろうか。
情報屋なら、どこかしらの情報網でそんなことも入手できるのだろうか。
「何で多田が謝るの?何があったか知ってるの?」
「知らない。分からない。だからごめん。俺の力が未熟だから、防げなかった。」
「知らないなら謝らないでよ。知ってたのに黙ってたなら俺も怒るけど、知らないことを責めたりなんてしないよ。」
「ダメなんだ。情報屋として仲間を守れないのは、最大の落ち度なんだよ。ごめん。」
「情報屋としての心構えとか俺は知らないけど、知らないことに対して俺は怒らない。だから謝らないで。謝られても困るよ。自己満足で謝ってるならもう十分でしょ。謝罪は聞いた。俺は謝罪を求めてない。これで終わり。京介も多田のせいじゃないって言ったんでしょ。だから態々こんなとこで謝ってるんだよね。俺の裸目の前にして。恥ずかしいからやめてよ。」
「ごめん。」
「分かったって。先リビング行っててよ。京介に活入れてもらって。俺そんなに元気じゃないよ。」
「ごめんね。」
多田はまた謝りつつも立ち上がり、大人しくリビングへと帰っていった。
あんな風に落ち込むのはとても珍しい。
というよりも、多田が落ち込んだのを初めて見た。
思ったよりも自分を責めるタイプらしい。
元気であるならば色々励ましてあげるのだが、生憎俺は多田の罪悪感の当事者であり昨夜の出来事に滅入っている。
人を励ますほどの元気はない。
肩がびくりと跳ね、次に手首を無理矢理引っ張った記憶が蘇り、何かが体を這い、何かが噛み付き、体が崩れて地面と衝突し、引きずられて組み敷かれる。
体の自由が利かなくて、動けなかった。
俺はシャワーを持ったまま崩れ落ち、浴室に座り込む。
そのとき、誰かが助けてくれた。
優しい声音で、温かい大きな手。
甘い、落ち着く香り。
「亀、大丈夫?」
浴室の扉の向こうから声がした。
俺はそれに喉が詰まって声を返せなかった。
「亀?開けるよ?」
許可を出す前に、扉は多田によって開けられた。
座り込んだ無様な俺に多田は濡れることも厭わずに入ってきた。
「亀っ?大丈夫?気分悪い?」
「うぅん・・・。昨日のこと、思い出したら、力抜けちゃっただけ。大丈夫・・・。」
「そっか。立てる?上がろう?」
「大丈夫。一回、流したら出るよ。感覚が、気持ち悪いから・・・。」
「分かった。無理、しないでね。俺脱衣所で待ってるから、何かあったら言って。」
「ありがと。」
俺は礼をいい、多田が出たのを確認して、シャワーヘッドを壁にかけ、俺は座り込んだまま降り注ぐシャワーに身を置く。
粗方流し終われば、痛い部分は力を弱めたりしながら、全身をくまなく洗った。
全てを綺麗にしたかった。
一緒に感覚も消したかったが、感覚は消えてくれなかった。
消えてくれないことは、洗わなくとも知っていたのだが。
また、俺はこの感覚に苦しまないといけない。
体を這う、この気持ち悪い感覚と。
全てを流し終われば俺は立ち上がり、浴室の扉を開ける。
脱衣所には多田が扉を背に座り込んで俺を待っていた。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。あんまり見ないで。見られたくない。」
「うん、ごめん。」
そう言って視線は外してくれたが、脱衣所からは出て行ってくれない。
「どうして、そこにいるの?」
「亀が倒れたりしないか不安だから。」
「大丈夫だよ。そんな心配しないでも。」
「するよ。ごめんね、俺がいるのに、こんなことになって・・・。」
多田が珍しく声のトーンを落としている。
多田は基本的にニコニコしており、物事はいつも客観的に見て余裕を見せていた。
だが、今目の前にいる多田は笑っていないし、余裕もなさそうだった。
こんなことになってと謝るのなら、何があったのか知っているのだろうか。
情報屋なら、どこかしらの情報網でそんなことも入手できるのだろうか。
「何で多田が謝るの?何があったか知ってるの?」
「知らない。分からない。だからごめん。俺の力が未熟だから、防げなかった。」
「知らないなら謝らないでよ。知ってたのに黙ってたなら俺も怒るけど、知らないことを責めたりなんてしないよ。」
「ダメなんだ。情報屋として仲間を守れないのは、最大の落ち度なんだよ。ごめん。」
「情報屋としての心構えとか俺は知らないけど、知らないことに対して俺は怒らない。だから謝らないで。謝られても困るよ。自己満足で謝ってるならもう十分でしょ。謝罪は聞いた。俺は謝罪を求めてない。これで終わり。京介も多田のせいじゃないって言ったんでしょ。だから態々こんなとこで謝ってるんだよね。俺の裸目の前にして。恥ずかしいからやめてよ。」
「ごめん。」
「分かったって。先リビング行っててよ。京介に活入れてもらって。俺そんなに元気じゃないよ。」
「ごめんね。」
多田はまた謝りつつも立ち上がり、大人しくリビングへと帰っていった。
あんな風に落ち込むのはとても珍しい。
というよりも、多田が落ち込んだのを初めて見た。
思ったよりも自分を責めるタイプらしい。
元気であるならば色々励ましてあげるのだが、生憎俺は多田の罪悪感の当事者であり昨夜の出来事に滅入っている。
人を励ますほどの元気はない。
0
あなたにおすすめの小説
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる