【完結】従順な俺を壊して

川崎葵

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第五章 落ち着くのは

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「きゃーっ、智くんじゃーんっ。久しぶりー。」

突然甲高い女の人の声がしたと思えば、俺の隣を歩いていた智くんの腕に豊満な胸を押し付けてここにどうやって来たのだろうと思うほど布面積の少ない体を密着させている。

「真菜ちゃん久しぶり。今日颯斗見た?」

「え、颯斗来てるの?どこ?」

「俺も知らないんだ。聞いてみただけ。」

そんな会話が聞こえてきていたが、突然智くんはその人にキスをしたんじゃないかと思える程スムーズな動きであごを掴み、耳元に唇を近づけて何かを囁いた。
囁いたと分かったのも口元が動いているのが見えたからであり、何を言っているのかは一切聞こえなかったが、その女性は満面の笑みで智くんに手を振ってどこかへ去っていった。

俺が想像しているようなとこではないというのは、大いに当たりだった。
こんなにも密着度の高いものだとは微塵も思っていなかった。
辺りを見渡しても密着している男女は多く、下手すればキスも堂々としている始末である。

他にも酒か薬に潰れたらしき人間が壁に寄りかかって倒れこんでいたり、正面にあるステージの最前列当たりでは何やら喧嘩が勃発しているようで、野次馬がたかって円が出来ている中心に殴り合っている男の人たちが見える隣で、他の世界など見えていないかのように舞い踊っている人たちがいる。
完全に俺は場違いの人間だった。

「きゃーっ、何この子可愛いっ。何々?どんな子?」

突然背後から俺は腕を引かれ、思わず振り向けば先ほど智くんと話していた人と大差ない人が俺の腕を掴んでいた。

「はーい、初めての子だからね。そんなガンガンこないの。俺のほうが良くない?」

「智いっつもそれじゃーん。」

俺の腕を掴んでいた手に、自分の手を握らせるように差し込みながら智くんが回収していき、極自然な流れで自分に注目を集めていく。

「亮お前久しぶりじゃん。何その子、お前のこれ?」

今度は左側から亮に声をかけてきた男の人がおり、小指を立てて恋人かとニヤニヤした顔をしながら尋ねてくる。

「そや。せやから近づくな。あっちいけぇな。」

「なーんだよ可愛がろうと思ったのに。ちぇ。」

どんどん人が寄ってくる割りに、皆2人の名前を知っていることに俺は少し気後れしている。
この2人がこれだけ有名ならば、颯斗の認知度もかなりのものなのだろう。

ストリート系で知らない人はいないと言っていた位だから、颯斗が知らなくとも回りは全員知っているという状態なのだろう。
もしかしたら、2人も現状そんな感じで声をかけられている可能性は高い。

2人は器用に俺への注目を流しながら奥へと進んでいくので、俺は辺りを見渡して颯斗の姿を探し続けた。
しかし、どうにも颯斗らしき人物が見えてこない。
ここではなかったのだろうか。
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