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人外との日常

水を流し水に流せず水饅頭

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ワイナール皇国暦286年、6の月



「青は試してませんが、赤の効果で充分かと思いますから次に行きます
次は紫の魔法薬。
実は辺境伯家では紫が争奪戦になるぐらいだろうと注視しておられます」

「どういう理由か教えてもらえるか?」
「赤の薬で効果は信用できるってのは解ったよ、この鼻でね?
でも、赤い薬よりもって事なんだよね?」
「色が紫ってのは怖いがな?」
「違ぇねぇな!」
「「「「「アッハッハッハッハ…」」」」」

「まぁ確かに紫色は抵抗があるかもしれませんね?
この紫魔法薬は状態異常を回復させる薬になります」

「状態異常?」「状態異常?」「状態異常?」「状態異常?」「状態異常?」
「状態異常って何だい?聞かない言葉だが?」

「状態異常とは感覚麻痺や毒に侵されたり、病いになった状態を纏めた言葉です
ですから、紫魔法薬を飲めば麻痺は取れ、毒は抜け、病いは癒されます」

「病いを癒す⁉︎」「そりゃトンデモだな⁉︎」「全くだ!皆、必ず身内や友人に病人が居たりするからな」「あゝ、だから冒険者なんて危ない事をしてるんだしな」「殺してでも欲しがるヤツは居るだろう…」
冒険者達の目がギラギラと光りだす
「まぁだからって組合長代行達から奪えるとも思えんがな」

「うふふ…まぁ返り討ちで殺して、生き返らせてあげますよ
死ぬほど痛い思いをしたい方は御遠慮なく」

「「「「「……⁉︎……」」」」」
「ま…まさか…蘇生出来る魔法薬もあると…」
1人の冒険者が喘ぐ様に言う

「ええ、死んだばかりであれば…高確率で蘇生が可能です
実験したらしいですから、間違い無いでしょう」

「実験したって…」「蘇生をか…」「実験で殺されたヤツが居る…」「怖い…」
「しかし、その魔法薬がダンジョンに行けば手に入る…」

「その通りです。
しかし、簡単ではありませんよ?
ダンジョンの浅い場所では青い魔法薬を含めた、比較的弱い武具…鉄製品よりマシな、ですね。が獲られます
鉱石であれば銅でしょうね
そして、魔獣やモンスターからの素材や鉱石とは違い
宝が必ず獲られる訳でもありません
何故か?それは、頑張る冒険者への御褒美だからです」

「ふぅん、なるほどね?
頑張って、命懸けで挑んでこその御宝って訳か」

「うふふ…そう言う事です
そして、浅い階層から下を攻略出来るのは今の皆さんには無理でしょうから
紫や赤の魔法薬は入手困難でしょう
ですが、強くなり、罠を回避し、生き残っていける者には必ず手に入れる事が出来る宝ですよ」

「「「「「………………」」」」」
「…俺は挑むぞ…」「ん?何言ってやがる、俺が紫を手に入れる」「バカ言ってんじゃねー、俺には足が動かない親が居るんだ。俺がやる」「アタシの友達にもヒドイ傷痕がある子が居るからね」「俺が手に入れて分けてやろうか?」「バカにすんな!アタシが手に入れて分けるんだよ!」

「では皆さん、ダンジョンに挑む心構えも出来た様ですから伝達事項を数点
鉱石は比較的容易に入手出来ます
ですから1度は必ず持ち帰って下さい
冒険者組合では、その持ち帰った鉱石を元にランクを付けます
銅ランク・銀ランク・金ランクという具合です
これから冒険者組合は、そのランクによって依頼仕事を振り分けることになります
理解出来ますか?」

「あゝ解るよ。つまり、ランクが上がれば実入りが良い仕事を廻してくれるんだろう?」

「そうです、頑張っている冒険者への組合からの特典だと思って下さい
次に、今回集合出来なかった冒険者へ今日の事の伝達をお願いします」

「なるほどね?ノエルとか仕事でコウトーから出てるもんね?」
「あゝそういや、ニシャライも一緒か?」
「そうそう、アヌビスまで行ってるはずよ」

「いいですか?次に行きます
現在、ダンジョン入り口傍に冒険者組合の支所を造っています
ダンジョンに挑む場合は必ず届出をして下さい
でなければダンジョンに入る事が出来ても直ぐに此の世とお別れする事になります
それはダンジョンを統べる存在が無礼な者を嫌う為です
それに、これは入場料を獲るとかではなく、生存確認をする為でもあります
皆さんも行方不明のままは嫌でしょう?
せめて、死体になってでも帰りたいのではないですか?」

冒険者全員が頷く

「そして支所では、水を生み出す魔石を貸し出します
ダンジョン探索で水の入手手段が無い方は申し出てください
ただし、預り金を微収します。1つにつき銀貨1枚預かります
魔石返却後に銀貨1枚も返却します
そのまま、返却せず持っていても構いませんが1度づつ充填するので無駄になるでしょうね?
ただの石に銀貨1枚を捨て金にしたい方はご自由にどうぞ」

考えていたであろう冒険者達が苦笑いする
だが、返却した方が得だと理解した者達はニヤリと笑う

「最後に、ダンジョンに入れる様になるのは10日後ぐらいの予定です
その間に荷運びの手段とかを考える事をお勧めします
私達も1度入りましたが荷馬車や荷車は無理でしょう
確実に守れず破壊されて弁済する羽目になると思います」

冒険者達が悩みだす

「先程も言いましたが、ダンジョンには組合の許可無く入る事はお勧め出来ません
出し抜こうと考える方もいるかもしれませんが、蛮勇としか思えません
何故か?それはダンジョンを開くまでの期間
その周辺にはダンジョンに入ろうと中位龍と下位龍が数千単位で群れなしているからです」

冒険者達がどよめき蒼褪める

「龍王様がダンジョンを統べる存在に御協力頂いているので当然ですね」

「いや…いや…流石に龍の群れは攻略出来ないんじゃないか?」
冒険者全員が頷く

「心配要りませんよ?
龍の群れが棲まうのは最下層辺りですし
最下層辺りまで行ける者ならば龍王様に匹敵する力を持つだろうと仰っておられました」

「龍王様に匹敵…」
「なんてこった…俺たちに龍王様の高みに来いと言われているのか…」
「すげ~ヤル気が出てくるな!」
「あゝ、俺たちが英雄になれるかもしれねーぞ!」

「そういう事です。
では組合からの話は以上になります
皆さんの活躍を冒険者組合一同期待しています」

「「「「「おおおうっ‼︎」」」」」
訓練場が揺れた








「御祖母様、キャリー叔母さん、スコット、クレール、シリノエス、どうです?」

「ロウ?どう?って…素敵としか言い様がありませんよ」
「同感いたしますわ御義母様!この様な美しい庭園、馥郁たる空気、旦那様が桃源郷か天国かと言われていたのも納得ですわ」
「本当に…しかし、この座…これは何で出来ているのでしょうか?ロウ様」

「あゝ、これ?畳って言う名前で、草を加工して編み込んだ物だよ
始祖の世界にあった……んじゃないかなぁ?」

「ほほう、タタミ。絨毯無しでも座り心地が良いものですね」
「ロウ?」

「何ですか御祖母様?そんな探る様な目をして
それよりも、クレールとシリノエスは?何か感想は無いの?」

「…いえ…何と言葉にすればいいのか…」
「私達も来て良かったのでしょうか…」

「なに言ってんの?キャロルが来てるんだ、君達御付きも来るべきじゃない?
まぁ、と言っても当の本人はワラシとロワール、コマちゃん、魔世とはしゃいでいる訳だけどね」
ロウが日本庭園の方から聴こえてくる笑い声に苦笑する

「ロウ?新しい従魔のマヨは、とても可愛らしい…いえ、美しい子ね?」
「本当に!私も社交界で美しい人を見てまいりましたが、マヨは桁が違うと言うか、神々しい美しさですね」
「まぁ、ロウの従魔ですから人間離れしているのも当然かもしれませんね?キャリーさん」
「しかし、マヨさんには美しさのあまり気後れしてしまいワラシちゃんみたいに【ちゃん】付けが難しいです」
「そうなのですか?シリノエスさん?」
「貴女はワラシちゃんも言い難そうね?クレール?」
「私は…」

「まぁ、クレールがワラシに苦手意識を持つのはしょうがないよ
その内に慣れると思うよ?
魔世は元の本性が宝石みたいな存在ですから美しいのでしょうね?
でも、そう言って頂くと魔世も喜んでいるでしょうね」

「あら?あんなに離れているのにマヨに聴こえているのかしら?」

「聴こえているでしょう、僕達は魔世の胎内に居るのですからね?」

「「「「「胎内⁉︎」」」」」

「そうですよ、あの通ってきた鏡
あの鏡を通った瞬間から魔世の胎内にいますよ」

「はい、主人様の仰る通りです」
いつの間にか魔世が茶のお代わりを持ってきていた

「あら⁉︎いつの間に⁉︎」
「「「「⁉︎」」」」

「あちらでも遊んでいます」
魔世がコロコロと笑う

「まあ⁉︎キャロルの所にもマヨが居るの⁉︎」

「はい。
あ、主人様?ちゃぶ台でも出しましょうか?
後、何か果物でも?」

「う…果物は怖いなぁ…飲み物ぐらいならワラシの水が元だろうから心配要らないんだけど
食べ物には魔力が入るだろうから普通の人には…」

「では、水菓子でも」

「え⁉︎水菓子が出来る⁉︎」

「はい主人様、甘藷は持っていませんか?
それを蒸して潰したら、主人様の収納に保管している魔獣からゼラチンを採りましょう
ゼラチンをワラシ先輩の水で混ぜ、甘藷を包み込めば宜しいかと」

「…⁉︎…アハッ♪アハハハハ♪そりゃイイネ!早速作ろう
そうか!そうだよね!魔世には僕の知識が入ってんだし当然か」

「あらロウ?お菓子を作るのですか?」
「ロウ様、お手伝いしますよ」
「「私達も手伝います」」
「私も見学して宜しいですか?」

「水菓子だから手間はかからないし、殆ど見るだけになると思いますが構いませんよ?
魔世、厨房を創って?」

「はい」
魔世が襖を開くと、既に煮炊き場が創られていた

「後は…ワラシーー!ちょっと手伝ってーー‼︎」

ワラシが一目散に駆けてくる
「なにー?」
キャロルも少し遅れ駆けてきて、コマちゃんと魔世が両側から挟んでロワールも来る

「今からお菓子作りをするから水出したりして手伝ってくれる?」

「わかった!てつだう!」

「うん、お願いね。じゃあ厨房に入ろうか」










「アイリス!しっかりしろ!」
「アイリスさん!しっかりしなさい!」

「………」

「お前達!いったい何があったのか判らないのか!」

「…申し訳ありません…」
「あっと言う間の出来事で…」
「いきなり襲撃されました…」
「りかいする間も無く…」
「すみません…」
「のがれるのに精一杯でした」
「危険が迫っているので逃げろと…」
「機敏に逃れたのは私達だけで…」
「…アイリスさんも食い止めるのが精一杯だと…」

「くっ…そぅ!」
ロマンが壁を殴る
「このアイリスの状態!これで何で死んでないんだ!
死なさない様に嬲ったとしか思えん!」

「いえ…旦那様…これは傷付けた上で治療しております
お前達?アイリスさんを発見した場所に四肢はありましたか?」
「いえ…そういえばありませんでした」
「では、発見現場は血の海でしたか?」
「はっ⁉︎そう言われれば、血の跡などありませんでしたし
アイリスさんは壁に寄りかかる様な状態でした」
「やはり…旦那様、これは見せしめではないでしょうか?」

「見せしめだと?」

「はい、アイリスさんの両手肘から切断し止血、両足膝から切断し止血、両眼を潰している
今は意識が戻らないので判断付きかねますが、呻き声からして舌も…」

「……ぐうぅ…見えず喋れず、手足も使えない。
生かしてはいるが、人として殺している…それに自決も出来ない…いったい誰がっ!」

「ここまでアイリスさんを追い詰めれるのは数人しか居ないでしょう」

「誰だ」

「皇家、公爵家です…それと大旦那様、大奥様、ロウ様でしょうか
ですが、この短時間での治療までとなると…該当者が思い当たりません
公爵家に武はありますが、治療は出来ません
皇家には始祖からの治療魔法があるかと思いますが、武はそれ程でもないかと」

「では、皇家と公爵家のどれかが手を組んだのだろうな
くそが!ナメやがって!

…手紙を書く…ハンス、辺境へ馬を飛ばしてくれ」

「いえ、私は動けません。誰か別の者を送って下さい、私は屋敷を固めます
奥方様達が大奥様ぐらい力があれば私が行きますが、アイリスさんが居なくては無理です
それに早馬であれば誰であろうと最短10日は必要になります」

「……そうか、そうだな…私は冷静な判断力が鈍っている様だ
くっ…後数日アイリス発見が早ければ後手に回らず済んだんだが…」

「「「「「申し訳ありません……」」」」」

「いや、お前達が謝る必要はない
私がアイリスの実力を過信していたんだろう
アイリスが何者にも負けるはずが無い、とな…」
ロマンの顔が自嘲気味に歪む

「旦那様の幼い頃からですから、それも仕方がないでしょう」

「ふっ……」
ロマンが一瞬懐かしげに眼を細める
「いや、今は浸っても仕方ない。ハンス、早馬の手配を頼む。私は手紙を書く」

「はい」

「辺境から父上達が来るのは早くて25日後か……
打てる手を考えなければな…」










「ロウ?ゼラチンとは何ですか?
その魔獣の皮から採れるのですか?」

「ええ、ゼラチンは皮と肉の境目ぐらいから煮出して採るもので
冷やせば水を柔らかく固める効果があるんです
別名、コラーゲンとも言い……言うみたいです」

「コラーゲン?柔らかく固める?不思議な表現ですね?
魔法の様な効果を魔獣の皮がするのですか?」

「ええ、そうですね
しかし、魔獣だけでは無く、普通の獣、鳥、魚、そしてヒト種から採れます
でも、僕は本当は寒天か葛粉が欲しかったんですけどね…
東辺境には海が無いし、わざわざ森に入るのも何なんで諦めました」

「寒天?葛粉?ロウは知らない言葉を良く知っていますねぇ」

「一生懸命勉強しましたからね
さて、煮えて白濁してきましたね?
臭み取りに白ワインを使ったのが良かったのか、獣臭も飛んでるし
もう少し煮たら軽く漉して、冷めたら完成です
甘藷はどうですか?蒸し加減はいいですか?」

「ロウ様、もう直ぐでしょう」

「うん、蒸し上がったら放置して、冷ましてから皮を剥いて下さい
皮を剥いたら潰します。潰す時は甘藷1本に塩ひと摘み混ぜて下さいね」

「「「「「塩⁉︎」」」」」

「あれ?全員知りませんでした?元が少しでも甘いモノに少量の塩で甘味が増すんですよ
料理をする人の常識…かなぁ?あれ?意外に知られてないのかな?」

「まぁ、塩を入れれば塩辛いとは思っていましたが
ロウが言うのであれば間違い無いのでしょうね」

「…?僕が言う事が間違い無いって言うのは疑問ですけど…
次は潰した甘藷を捏ねて、小さな真ん丸を作ります
それを、魔世が用意した丸い器に煮出し汁、ゼラチンを少し入れたのの真ん中にポンと入れ
またゼラチンを入れて…」
ロウが1つやって見せる
「ワラシ?コレを凍らない様に冷やしてくれる?」

「わかった!」

ロウが、ワラシが冷やした器を受け取り
小皿にポンとひっくり返すと、そこには“プルルン”と水饅頭があった

「「「「「まぁ⁉︎」」」」」
「なんと⁉︎」
「わぁ!キレイ!」

「さぁ、人数分作って食べましょう」





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