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第1章 ロングヘアと母娘の距離
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永井瑞希は、小学校の体育館でミニバスの練習を見つめていた。
薄暗い冬の夕方、娘・夏音の小柄な背中がコートを駆けている。鋭いパス、素早いドリブル、真剣なまなざし。だが、ポニーテールが跳ねるたび、瑞希の心には苦い思いがこみ上げてくる。
「かのん、今日もお疲れさま」
練習後の更衣室。瑞希はタオルを差し出す。
「ありがとう。あのさ、お母さん――」
「何?」
「…やっぱり髪、切りたくない」
瑞希は胸の奥でため息をつく。
「でも、中学のバスケ部は昔からショートカットで…」
「校則で決まってないのに、なんで強制なの?」
「強制じゃないけど、伝統っていうか、みんなで同じ気持ちで頑張るための…」
「意味わかんないよ。お母さんだって、いつも肩より長い髪じゃん」
「私は仕事が体育だから、動きやすいように…」
「お母さんは切らなくていいの?」
瑞希は言葉に詰まる。
家に帰った後も、会話はどこかぎこちない。
父親はいない。夏音と瑞希の二人家族だ。
夕飯のあと、瑞希は鏡の前で自分の髪を見つめる。「私も昔は…」と思い出しかけるが、娘の視線が気になって黙り込んでしまう。
夏音は、母が自分の気持ちをわかってくれていないと感じていた。母は強くて優しいけど、何でもできる人だと思っていた。
「どうして私だけ、我慢しなきゃいけないの?」
夜遅く、机に向かう夏音は、ポニーテールのゴムを外して髪を指で梳いた。
ロングヘアは自分の「お守り」だった。友達も褒めてくれるし、試合の時はリボンを結ぶのが好きだった。
その「お守り」を手放す勇気が、まだどうしても持てないでいた。
薄暗い冬の夕方、娘・夏音の小柄な背中がコートを駆けている。鋭いパス、素早いドリブル、真剣なまなざし。だが、ポニーテールが跳ねるたび、瑞希の心には苦い思いがこみ上げてくる。
「かのん、今日もお疲れさま」
練習後の更衣室。瑞希はタオルを差し出す。
「ありがとう。あのさ、お母さん――」
「何?」
「…やっぱり髪、切りたくない」
瑞希は胸の奥でため息をつく。
「でも、中学のバスケ部は昔からショートカットで…」
「校則で決まってないのに、なんで強制なの?」
「強制じゃないけど、伝統っていうか、みんなで同じ気持ちで頑張るための…」
「意味わかんないよ。お母さんだって、いつも肩より長い髪じゃん」
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「お母さんは切らなくていいの?」
瑞希は言葉に詰まる。
家に帰った後も、会話はどこかぎこちない。
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夏音は、母が自分の気持ちをわかってくれていないと感じていた。母は強くて優しいけど、何でもできる人だと思っていた。
「どうして私だけ、我慢しなきゃいけないの?」
夜遅く、机に向かう夏音は、ポニーテールのゴムを外して髪を指で梳いた。
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