ショートに託す母の想い ―親子の春をつなぐ鋏音―

S.H.L

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第2章 それぞれの想いと伝統

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 週末の朝、永井家の食卓は静かだった。
 瑞希はカウンターでトーストを焼き、夏音はダイニングでノートを広げている。

 「バスケ、進学先でも続けるんだよね?」
 「うん。でも髪は…」
 「そっか」
 二人とも、同じ言葉を何度も繰り返すだけ。
 瑞希は「娘のため」と思っているが、娘には伝わらない。むしろ反発を招くばかり。

 土曜日の午後、職場の職員室。
 「どうしたの、瑞希。なんか元気ない?」
 家庭科の真理子が声をかける。
 「あぁ…娘のことなんだけどさ」
 「うんうん」
 「中学のバスケ部に入りたいんだけど、伝統のショートカットに抵抗があるみたいで…」
 「わかるなぁ。うちの生徒も、髪型で揉めること多いよ」
 「あの子なりの自分らしさがあるから、無理に切らせるのもどうかと思うんだけど…」
 「私もショートにしてるけど、息子が理容師で毎週整えてくれるから楽なのよ」
 「湊人くん、元気?」
 「うん。この前家を買って、今は一室を理容スペースにしてる。今度、髪でも切りに来る?」

 瑞希は、ふと鏡に映る自分の姿を見る。
 「もし、私が先に髪を切ったら…夏音も少しは納得するかな」
 その夜、瑞希は長い髪を撫でながら、娘の寝顔を見つめていた。
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