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その他
番外編 〜 ネロウディアスの模型展示会2 〜 ノア7歳
しおりを挟むネロウディアス皇帝視点
「素晴らしいデス皇女殿下! ここまでまとまった企画書が書けるなんて、今から将来が楽しみデース!」
ベル商会から派遣された、このちょっと癖のある話し方をする女性は、エレール・モア・ティッシューという、ティッシュー男爵家の夫人らしい。何でも外国から嫁いで来たそうで、若くして(30代)ベル商会の管理職にまで上り詰めた優秀なイベントプランナーなのだとか。
イベントプランナーが何かはよくわからぬが、ディバイン公爵夫人が、この夫人に任せれば大丈夫だと太鼓判を押す者なので、朕も安心して見ていられるのだ。
「アイデアはお父様が、数字の面ではお母様が助言をくださったので、お父様とお母様のお陰です」
我が娘ながら、謙虚で良い子なのだ!!
照れながら話す姿も可愛いのだぞ。
「それでも、皇女様自身が企画し、まとめ上げたものデス。素晴らしいデースネ!」
うむうむ。そうであろう。朕の娘はすごいのだ!
「ありがとうございます」
エリザは将来ベル商会で働きたいと言っていたから、今回の事は良い経験になるだろう。
レーテもきっと、それを思って提案したのだな。やはり朕のレーテは優しく聡明な聖母なのだ!
「それで、今回の組立式模型の展示会は、かなり大規模になりそうデスが、ここまで数字も出していますし、会場を先に押さえておくべきではないかと思いマース」
「では、規模は企画書から変える必要はないのでしょうか」
「はい! 問題ありまセン! こちらの企画書は大きな変更なく進める事が可能デース」
「良かったぁ!」
朕をチラリと見る娘に、うむと頷く。
「ただ、ここに書いてある会場候補の皇城は、一般参加の方が気軽に来られないので却下デス」
な、何だと!? それでは、朕の参加が難しくなるではないか!?
「そこをどうにか皇城には出来ぬのか!?」
「無理デスネ~」
「!?」
朕が楽しみにしている模型の展示会が……っ、いや、どこであろうと必ず参加してやるのだ! 愛娘の企画した、大好きな模型の展示会、朕は諦めぬぞ!!
「う~ん……あっ、確か“おもちゃの宝箱”帝都支店が先日庶民街にも出来ましたよね!」
エリザが思いついたようにティッシュー夫人に問いかける。
「はい。庶民の皆様にも大変ご好評いただいておりマース」
「確か、元商家のお邸を丸ごとおもちゃ屋にしたと聞いています。それなら、空きスペースもあるのではないかと思うのです!」
そうなのか? 初めて知ったのだ。
「なるほど、おもちゃの宝箱でしたら一般の方も参加しやすいデース。実はディバイン公爵夫人は、イベントスペースというものを庶民街の支店に作られているのデス。そちらが使用出来るか、確認しておきマース!」
さすが朕の愛娘なのだ! すぐに会場候補を出すとは、レーテに似たのだな。
うんうん頷いていると、いつの間にか打ち合わせが終わり、二人はお別れの挨拶をしていた。
「では、よろしくお願いします!」
「またご連絡いたしマース」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから三ヶ月後、朕が待ちに待った組立式模型の展示会前日───
三ヶ月前から大々的に告知していた甲斐もあってか、出展者が相当数集まり、もはや今日が本番ではないかと言わんばかりの熱気に包まれている。
ディバイン公爵夫人が、塗装、組立の作業ブースを作ってくれた事で、ギリギリまで出展する作品を作り込もうとする者たちでブースは溢れているし、会場は会場で、作品を新素材のケースの中に入れたはいいが、角度で悩んでいる者も多数見受けられた。
勿論朕も、自らの大作を持ってきているのだが、出展ブースはクジで決まるので、ドキドキでクジを引く列に並んでいる所なのだ。
「おおっ、ジェラルド国王! そなたも参加していたのか!」
そこで偶々出会ったのが、リッシュグルス国の国王だった。
「ネロウディアス皇帝陛下! もちろんですっ、こんな楽しそうな集まりに顔を出さないわけありません! 僕の渾身の作品を持って来たので、早く陳列したくてウズウズしています!」
お互いお忍びで来ている為、一般貴族のような格好をしているが、ジェラルド王を護衛している者は顔を半分マスクで隠しているので、余計目立って全く忍べておらぬ……。少し怖いのだ。
……ん? この者はどこかで……、
「もしや、ユニヴァ殿か!?」
ジェラルド王の兄の、ユニヴァ殿ではないかとつい声を上げてしまう。すると、
「ネロウディアス皇帝陛下、申し訳ありませんが、少し声を抑えていただけますと助かります」
「うぬ?! すまぬのだ。しかし、兄弟で我が国へお忍びとは、国は大丈夫なのか?」
「問題ありません。身代わり……ゴホンッ、優秀な部下もおりますので、上手くやっております」
今身代わりって聞こえたが!?
「そ、そうなのか……。ユニヴァ殿は作品の出展はするのだろうか?」
あえてマスクには触れず、作品について質問してみると、「私は弟の付き添いですから、出展する気はありませんし、弟の作品に勝てる腕も持ってはいませんので。大体弟の作品以外に興味もありません」と即答されたのだ。
「そ、そうか……」
じゃあ何しに来たんだ。とはさすがに言えなかったのだ。
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