聖女のおまけです。

三月べに

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27 転生者。

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 もふもふがお昼寝している。
 私はそれを距離を置いて、見ていた。
 あのあとローニャちゃんの魔法で、水っ気を飛ばしてもらい乾燥。魔法の炎に包まれた時は、あったかいというより少し熱いほどだったが、アトラクション並みに楽しい経験だった。
 そんなローニャちゃんは、森で狩りをしたノットとリュセさんとチセさんの獲物を持って、自分のお店である喫茶店に一度帰っていった。シゼさんとセナさんとオルヴィアス様を連れて。
 料理を作ってくれるらしい。私も手伝おうとしたけれども、それを言うと誰かしら私についてくるわけで、また大所帯になるとわかっていたので、やめておいた。
 で、今。
 私の視線の先には、残ったもふもふのリュセさんとチセさんがお昼寝をしている。
 疲れて仮眠を取っているようだ。
 模様なし純白のチーターさんの毛並みはキラキラしていて、きっと艶やかな撫で心地に決まっている。
 真っ青な狼さんはごわごわしていそうだから、ブラッシングをさせてほしい。それにしても、豪快な寝息を立てている。大きなお口だ。
 これって、こっそりもふもふするチャンスなのでは?
 ゴクリと息を飲んで、私は一歩踏み出した。
 すると、ギロリと二人に睨まれる。
 グルルと唸り、威嚇された。
 近付くな、と言わんばかり。
 レイヴに腕を回されて、引き離された。
 そうすれば、リュセさん達はお昼寝を続行。
 やっぱり警戒心が強いのでしょうか。しくしく。

「ノットさん。傭兵団さんとどんな話をしたのですか?」

 気を取り直して、私のそばにつくように命じられたノットに話しかける。
 ついでのようにさりげなくノットの鬣に触れようとしたけれども、サッと受け止められた。失敗である。

「別に……。大した話はしていない」
「ふーん、そうですか」

 私はニコニコしながら、ノットを見た。
 ノットは「何ニヤついている」と冷めた目を向けられる。

「べっつにぃー」

 むふふっと笑って、手を伸ばす。白銀のもふもふに触れた。
 ノットが睨むように私を見て、手を振り払った。
 そこで光が現れる。
 光の中から出てきたのは、ローニャちゃんだ。
 そして、緑のジャッカルさんと純黒の獅子さんと見目麗しいエルフさん。
 かっこいいもふもふと美少女と麗しい妖精。
 もう目の保養。素晴らしいかな。

「お待たせしました」

 可憐な声で、天使のような愛らしい微笑みで、ローニャちゃんが言う。
 セドリックさんがセナさんから鍋を受け取ったから、私は覗いてみた。
 香ばしい玉ねぎとトマトの香り。なんて美味しそうなんだ。

「ありがとう、ローニャちゃん! いただきますね!」

 料理まで出来るなんて、完璧すぎるこの天使。
 間近でその微笑みを見ることになった。
 そんなローニャちゃんは、眠っているリュセさん達に気付く。
 チセさんは飛び起きて、シゼさんの鍋に駆け寄る。
 リュセさんの方は寝ているから、近付かない方がいい。
 そう声をかけようと思ったけれども、リュセさんはちらりとチセさんに注目しているローニャちゃんを見た。起きている。なのに、また瞼を閉じた。
 あ、悪戯をするつもりかな。
 見守っていれば、目の前に来たローニャちゃんをリュセさんが羽交い締めにした。
 人前でなんて大胆な!
 好きなんだね? ローニャちゃんが好きなんだね? 好きなんだね!?
 もう尻尾が上機嫌に、ゆったりと左右に揺れていた。
 そこで鍋を置いたセナさんが戻ってきて、リュセさんに拳骨を落とす。それからローニャちゃんを、軽々と持ち上げて助け出した。
 おお、小柄なジャッカルさんは見た目に反して、力持ちだ。
 ご機嫌だったリュセさんはむくれっ面をして、じとりとセナさんを見上げた。
 修羅場かな!? 修羅場じゃないか?
 逆ハーレムの修羅場じゃないのか……。
 でもセナさんも、ローニャちゃんを気にかけていて好きっぽい。
 もふもふの逆ハーレム、最高じゃないですか。
 いいな、いいな。羨ましい。

「……」

 でもふと私は左右に目をやった。
 左には幻獣のレイヴ。鳥のもふもふ。
 右には獣人のノット。獅子のもふもふ。
 私ってば、両手にもふもふではないか。
 それに私は、異世界に来たい願いが叶った。
 魔法があって、もふもふまであって、なんとも幸せじゃないか。
 私はにこりと笑みを零した。

「また何ニヤついている?」

 またノットに問われる。
 私は同じ回答をした。

「べっつにぃー」

 そう幸せに微笑んだのだ。
 ローニャちゃんが作ってきてくれたガウーのスープは、美味しくって身体が温まった。ちょっと陽が暮れて、ひんやりしてきた湖のそばだったからちょうどいい。
 ガウーっていうのは、地球にいない生き物だけれど、豚肉に近かった。
 おや? もしかして私ってば、知らないうちに知らない動物のお肉を食べていたのかもしれない。……ま、美味しかったからいいっか。
 お城の料理に引けを取らない美味しさ。ご馳走さまでした。
 今日は張ってもらったテントで眠る。もちろんレイヴも一緒だ。今夜は人型で寝てもらおう。幻獣の姿じゃあ、テントに入りきれないもの。
 夜になると、星空が美しく瞬いていた。それが湖の水面にも映るから、息を呑む光景だ。
 来てよかった。心から思ったのだった。

 翌朝は、陽射しで目が覚める。
 もふもふの幻獣がテントを退かして、私を囲うように丸くなっていた。
 ちょっとひんやりしている気温だから、ぶるっと震える。
 黒い翼に埋まって、暖を取った。
 それから、顔を洗いに湖のそばに行く。
 ドレスを押さえて、水を両手ですくってみれば冷たかった。覚悟をして、顔に浸ける。目が覚めた。

「おはようございます。ハナさん」

 そこにローニャちゃんが近付いてきて、挨拶をしてくれる。

「おはようございます、ローニャちゃん」

 私はへにゃりと笑ってしまう。昨日と同じ騎士のような格好でいるのに、可憐な姿だ。美少女。目の保養。

「ちょっといいですか?」

 ローニャちゃんが許可を求めるのは、私と後ろで寄り添う幻獣の姿のレイヴ。
 レイヴは、無言で頷いた。
 すると、ローニャちゃんは隣にしゃがんだ。

「唐突ですが、私は地球という星で生きた前世を持っています。ハナさんはどの地球からいらっしゃった異世界人ですか?」

 私は素っ頓狂な声を出しそうになったが、この絶世の美少女の前でなんとか堪えた。
 ローニャちゃんはとても穏やかな微笑みだ。

「ち、地球から来ました! ……つまり、ローニャちゃんは転生者なんですね!!」
「あ、ちょっと声を抑えてください」
「あっ、ごめんっ!」

 つい興奮してしまい、声を上げてしまった。
 転生者。生まれ変わった人のこと。
 これ、信じる人は少ないだろう。言い触らしていいものでもない。

「地球人仲間ですね」

 なんてローニャちゃんは首を傾けて、微笑んだ。
 はいぃ! そうですねっ! えへへ!

「……ハナさんは、巻き込まれて異世界に来たそうですが……」

 笑みが儚くなって一度俯いたローニャちゃんは、私を見つめてきた。

「……大丈夫ですか?」

 その問いに、きょとんとしてしまう。

「どういう……?」
「いえ……その、なんというか……生まれ育った世界からいきなり別の世界に来てしまって……不幸、ではないのですか?」
「……あー」

 思い出すのは、この世界に来て目覚めてから会った亜豆ちゃんの反応だ。
 巻き込んでしまったことを謝っていたし、最初は泣いていたらしい。
 私はそうじゃないのだ。

「私は大丈夫ですよ」

 私は笑って見せた。

「私はずっとこういう魔法に溢れたファンタジーな世界に行くことを願っていたんです。巻き込まれ異世界転移って形ですけれど、こうなってよかったと思ってるんですよ? おかしな話に聞こえるかもしれませんが、私は幸福です」

 自信たっぷりに、言い退ける。

「魔法が使えるなんて、嬉しすぎて、文字通り宙を舞ってしまいましたよ。こうして美しい幻獣とも会えましたし……」

 レイヴが凭れてきたから、そっと撫でた。

「偉大な精霊にまで出会えて、そして冒険まで出来て楽しいですよ。幸せなんですよ。だから大丈夫です」

 幸せだ。楽しくてしょうがない。
 全くいい人生である。

「……そうですか」

 ホッとしたような笑みで、ローニャちゃんは頷く。

「それはよかったです。……美しい世界ですよね」

 ローニャちゃんは湖の向こうに視線をやって、呟くように言った。

「たくさん、美しい光景があります。これからも楽しんでください」
「……はい!」

 笑い合う。
 なんだろうか。ほっこりした気分だ。

「じゃあ今日は早速、潜水の魔法で水の中で美しい光景を見ます!」

 そう息巻いたのだったけれども。
 セドリックから、却下がされてしまう。

「な、なにゆえですか? セドリック隊長」
「水の底に行くのです。万が一のことがあったら、危険すぎます」
「そ、そんなぁ……」

 セドリックは頑なだった。それには賛同するようで、人の姿になったレイヴが腕を回して行かせない意思を示す。
 ショックでガクリと項垂れては、ローニャちゃんに視線を送る。
 やり取りを見ていた彼女は、苦笑を漏らしていた。
 大人しくレイヴとノットとお留守番をする。
 リクとローニャちゃんが呪文を唱えると、そっと盗賊の根城の入り口に潜っていく。よく見れば、ローニャちゃん達に纏うベールがあった。それが水の浸入を阻んでいるようだ。
 そのままハルト様一行とローニャちゃん達が行ってしまった。
 ローニャちゃんについて行ったのは、リュセさんとセナさん。
 シゼさんとチセさんはお留守番らしい。
 ローニャちゃんの魔法で作った草のベッドで、寝そべっているシゼさん。
 そのベッドに凭れて眠るチセさん。二人とも獣人の姿なので、もふもふである。
 私はまた懲りもせずに、近付いてみた。

「グルルッ」

 チセさんが唸る。

「おはようございます。チセさん、シゼさん」
「……」

 睨むだけで返答してくれないチセさん。
 シゼさんなんて、ピクリとも反応をしなかった。

「どうしてお二人は行かないのですか?」

 噛み付かれない距離を取りつつ、尋ねてみる。

「……」
「……」

 二人とも、だんまりだった。
 私は仕方なさそうについてきたノットを振り返る。
 ノットは代わりに尋ねてくれることはしてくれなかった。
 むしろ邪魔するなと言わんばかりに、私の肩を掴み引き離そうとする。

「……お前、異世界から来たんだってな」

 そこでシゼさんが、口を開いた。
 ノットとは違う純黒の獅子が、低い声を放つ。

「はいっ!」

 ビシッと返事をしてしまった。

「……」

 また黙ってしまったシゼさんが、私を横目で見上げてくる。
 なんだろう。ジロジロと見られている。
 この容姿になってから、慣れてしまったけれども。

「どんな世界だ?」
「えっと……魔法が現実にない世界です。獣人族も幻獣もいませんね」
「……そうか」

 こんな回答でよかったみたいだ。
 シゼさんは満足したのか、目を閉じてしまった。
 ローニャちゃんといい、どうしたのだろうか?
 でも異世界に興味を持つなんて、不思議ではない。
 チセさんはどんな世界だよ、と言いたげな顔をした。それでも私と口をきく気はないようだ。

「だから、お会い出来て嬉しいです」
「……」

 そんなチセさんとシゼさんに笑って伝えた。
 シゼさんは一度目を開く。でもすぐに閉じた。

「座ってろ」
「はーい」

 ノットに引っ張られて、私は引き返して適当に座る。

「……んー」

 精霊の森には負けるけれど、清らかなに感じる空気を吸い込んだ。
 そして、背伸びした。
 小一時間後。
 皆が戻ってきた。
 金品財宝を、一気にどっさりと運んできたのだ。
 水に濡れてより輝いた金貨の山と数多な宝石。眩しい。
 何か手伝いたかったけれど、セドリックに休んでいていいと断られて、大人しく見守った。


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