聖女のおまけです。

三月べに

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05 お茶会。

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 それから三日はベッドの上に安静になっているように言われたけれど、私の方は元気溌剌。リースさんの目を盗んでは、浮いて遊んでいた。
 何やら入れ替えに偉い人が来ては、要約すると「この度は大変ご愁傷様です」と言われたが、私は早く浮きたいってことし考えてなかった。
 亜豆ちゃんは、夕食の時だけ遊びに来てくれる。どうやらとても忙しいらしく、私のベッドに乗るとだらーんとしてしまう。
 疲れた、が開口一番。聖女は大変らしい。私なら疲れたとしても笑顔でいると思う。魔法学びが羨ましい。
 流石に国を救うための特訓に、入れてもらえないだろう。そんな我儘は言えない。手厚くもてなされると言われても、お姫様のように贅沢三昧我儘を振り舞うつもりはない。いやちょっとやってみたいとは思ったけれど。
 そもそも寝ているだけで食事が運ばれてくるのは、十分贅沢三昧。ご馳走様です。
 贅沢より魔法。夕食の度に見せてもらう魔導書から習得させてもらった。
 歩く許可が出れば、リースさんが案内してくれる。立ち入ってはいけない場所を教えるためだ。とても広く大きな城はまるで迷路のように、そこかしこと螺旋階段があった。私の部屋があるのは、客室の別塔だという。
 螺旋階段を下りて、真っ直ぐに中庭へと案内された。
 これまた素敵な噴水付きの庭園だった。不思議な国に迷い込みそうな庭園には、心が踊る。ここでは誰もが散策を許されているから、気分転換にはいいと言われた。逆に言えば誰かと会う羽目になる場所、と覚えておいた。イメージ的には、令嬢が集まりそうな場所だから極力避けたいと思う。貴族とか、関わらないに越したことない。



 異世界に来てから、ちょうど二週間。私は一人で散策を楽しんだ。実は亜豆ちゃんの特訓の様子を見たかったこともあって、庭園を横切って城の中を歩いてみた。しかし、広々とした城の中で簡単には見付けられなかった。
 代わりに見付けたのは、騎士だ。
 そこは訓練場のようで大きな広間だった。騎士らしき甲冑を纏う男性が数人、一人の男性に向かっていく。彼の方は、甲冑なんて身に纏っていなかった。長身で、ワイシャツはボタンをつけずに上半身を露わにしている姿。短い白銀の髪は、オールバック風に掻き上げている髪型。黒い革のグローブを嵌めた片手で剣を振り回して、向かう騎士達を薙ぎ払った。それも楽しげに、だった。遠目でも、笑っていることがわかる。
 魔法が拝めるかもとこっそり鑑賞していたけれど、その男の無双を眺めるだけに終わってしまった。
 その日の夜。亜豆ちゃんは、男の人を連れて来た。歳は三十歳前後。オレンジ髪を後ろで三つ編みにした優しい微笑みを浮かべたその人は、高価そうな白いローブを羽織っていて、腕には花束を抱えている。

「へーリーアンサス・バラシオンと申します。城の魔導師です。お元気になられたということでよかったです。一時期はもう目覚めないとばかり。もっと早くに挨拶をしたかったのですが、時間が取れず今日になってしまって申し訳ありません。これは見舞いの花です。どうぞ」
「ありがとうございます」

 私は接客スマイルを貼り付けながら、頭を下げて受け取る。
 どう考えても召喚の儀式を行った魔導師の一人だろう。それも身形からして、最高級の魔導師に違いない。そもそも魔導師は、この国では魔法使いの中で一番優れた者の称号だと亜豆ちゃんから聞いた。
 城一番の魔導師さんだと認識しておく。そして、私を(巻き添えだけど)召喚してくれた人の一人だろう。私は私なりにとびっきりの笑顔でお礼を言う。

「わざわざありがとうございます。へーリーアンサンス様……とお呼びした方がいいでしょうか」

 そして猫を被って、下手に出る。

「へーリーさんでも構いません。聖女様にもそう呼んでもらっています」
「もうあたしのことはアズキでいいって言ってるのに、へーリーさんは聞いてくれない!」
「聖女様ですから」

 むくれる亜豆ちゃんに対しても、変わらない微笑みを向けた。
 あ、この人は王子と違って亜豆ちゃんに夢中になっていないようだ。嫌な態度をしないので、好感度が上がった。
 へーリーさんは長居をすることなく、退室。お偉いさんと同じことを言っていたけれども、いい人だった。
 早速食事を始めながら、今日見たものを話す。

「それ多分、十三番隊だと思う。なんか能力があっても性格に難ありの騎士ばかりが集まった隊なんだって。危ないから近付かない方がいいって言われたよ。花奈ちゃんも近付かないでね」

 どこの世界にも性格に難ありの問題児はいるものだとしみじみする。わざわざ近付くつもりもないので、頷いておいた。

「でもどうして花奈ちゃんはそんなところに行ってたの? 庭園じゃないの?」

 問われてしまったので、特訓中の亜豆ちゃんを見たかったのだと白状する。

「じゃあ明日一緒に行こうよ! それからお茶会しよう!」

 すぐさま提案してくれた亜豆ちゃんは、パアッと目を輝かせた。それはどうだろうか。国を救うための特訓について行ってしまうのはよろしくない。私が返事を渋っても、亜豆ちゃんは決定事項にしてしまい、「明日迎えに来る!」と約束した。
 翌日、朝の食事を終えて少し経ったあとに、護衛らしき騎士を連れた王子と共に亜豆ちゃんはやって来た。
 その格好は素晴らしいものだった。騎士が着ているデザインとよく似たジャケットを着て、中には前開きのドレスを着ているように見える。下にはズボン、それにロングブーツを合わせていた。可愛い容姿もあって、まさに戦う聖女様っといった感じで素敵だ。
 私の方は、ボリュミーのドレスが重いと言えば、軽いドレスを用意してもらった。オフホワイトのフレアスカートのドレスに、黒のコルセットを合わせるものだから、真っ白オバケみたい。
 王子の方は相変わらず煌びやかな衣装。朝からご機嫌斜めのような表情で私を見下ろした。でも亜豆ちゃんと目が合えば、にっこりと甘い笑みを見せる。わかりやすい男であった。

「本当に元気になってよかった……」

 亜豆ちゃんは胸を撫で下ろして、私と腕を組んで歩く。まだ気にしていたらしい。

「花奈ちゃんがちゃんと歩けるの、初めて見た」

 ずっとベッドの上で話していたから、回復を疑っていたのようだ。ちゃんと散歩してたってば。
 亜豆ちゃん達について行って辿り着いたのは、王子や第一番隊が訓練する大広間だった。昨日覗いた訓練場よりも、広くそして大理石のようにな床や壁が白い空間。無駄に煌びやか。
 そこにいたのは、第一番隊と呼ばれる騎士達。王子や聖女の亜豆ちゃんに機敏と挨拶をした。私は挨拶する価値がないと言わんばかりに王子が「さぁ、始めよう」と訓練を開始した。
 それでも、騎士達の視線が集まる。
 あ、私は壁の花の如く、気にしないでいいですよ。
 熱心に見られている気がするけれど、気のせいだ。
 私はあとから来たへーリーさんが椅子を用意してくれたので、それに座って観覧させてもらう。
 訓練中の亜豆ちゃんは、かっこよかった。剣を持ち、王子や騎士と剣の手合わせ。それから、魔法の手合わせ。破壊力のありそうな攻撃魔法がぶつかり合って、迫力満点だった。魔法が使われる度に横で見物するへーリーさんが、解説をしてくれたものだから助かる。
 ブランチタイムで、お茶会。
 そこには何故か王子までいたけれど、気に留めずに亜豆ちゃんを褒めちぎった。流石は聖女様。亜豆ちゃんは照れながら、紅茶を啜る。

「当たり前だ。アズキは日々努力をしている。寝ているばかりの君とは違う」
「それはそうですね」

 王子が突っかかる物言いをしてきたけれど、私は接客スマイルで聞き流す。寝ているばかりではないけれども、王子相手に反論しても仕方ないと諦める。確かに私が寝ている間も亜豆ちゃんは努力をしてきたのだから、それには同感だと頷く。

「しかし、聞くところによればハナ様も魔法を習得なさったそうではありませんか」

 そばに立っていたへーリーさんが会話に入った。

「あ、簡単な魔法だけです。魔導書を読ませていただいて何個か」
「身体に障ってしまいます。これからはしないようにお願い申し上げます」

 へーリーさんは、私が心配だという優しい眼差しで言う。そう言われても、魔法が好きなのにやめられない。

「ふん、それに学んだところで役には立てない。学ぶだけ無駄だ」

 王子が鼻で笑い退けたので、今すぐ蹴り倒したくなった。それをやったら、きっと死刑なのだろうから我慢。我慢よ花奈。

「花奈ちゃんは好きで学んでるの! ジェームズ殿下」
「……だが、アズキ。アズキだって彼女に無理をされて、倒れられたら心配してしまうだろう」
「そ、それはそうだけれど」

 亜豆ちゃんが庇ってくれたけれど、慌てて作ろう王子に言いくるめられそうになる。そうだった。王子の名前はジェームズ殿下だと、亜豆ちゃんに前に聞いたのだったとぼんやり思う。

「ただでさえ巻き添えの代償を受けたのです。無理は禁物です。魔力の消耗も避けるべきなのです。ハナ様。もうお休みになられた方がいいでしょう。お部屋まで案内します」

 ハナ様なんて、くすぐったい。へーリーさんにやめてもらおうとしてけれど、私は気付く。どうやら巻き添えの代償に、身体が弱くなったと思われてしまっているらしい。
 私は身体が弱いどころか強い方である。インドアな読書家のくせに身体能力は高く、体力テストも上位に食い込むレベルなのである。だからひ弱とはかけ離れている人生だった。
 亜豆ちゃんやへーリーさん達が心配するほど、身体は弱ってもいない。元気溌剌である。
 でもそういう扱いも悪くないと、私はつい欲をかいてしまった。
 だって儚げな女性と思われて心配され続けてみたいじゃないか。儚げな女性ってだけで、甘美な響きじゃないか。儚げな女性を貫いてみるのもロマンじゃないか。儚げな女性として手厚くリードされて部屋まで送ってもらいたいじゃないか。

「そうさせていただきます。では失礼いたします、ジェームズ殿下。亜豆ちゃん」

 のほほんと微笑みで、淑女の会釈をして部屋に戻ることにした。もちろん、手を差し出してくれたへーリーさんのリードで。
 その後、リースさんに聞いたところ、「聖女のおまけは儚げで可憐な女性だ」と噂されていると知り、私は悶えた。


 
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