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06 お兄さん。
しおりを挟む亜豆ちゃんの訓練を見物したその日。私を気遣ってくれたのか、夕食に姿を現さなかった。亜豆ちゃんには元気な姿を見せているつもりなのに、この容姿の効果は絶大だ。
私は新しい魔法が、習得出来なくてむくれてしまう。儚げな女性を演じるじゃなかった。
重力自在魔法を使って宙に浮いて、あぐらをかく。それでは足りずに、横になって逆さで部屋を見回す。暇である。
亜豆ちゃんには国を救うという大きな使命があるけれど、私には何もない。巻き添えになった縁で亜豆ちゃんのお手伝いをしたいと申し出てところで、あの王子に足手纏いだと一蹴されると安易に想像できた。
いつまでも、ぐうたらしているつもりもない。いやそれはそれでとても魅力的な生活ではある。働かずに世話をされて美味しい食事をもらえて、ふかふかのベッドで眠れて、好きなことが出来るなんて夢のような人生。
それが長く続くわけない。経験上、そう直感する。いくらなんでも一生を面倒見てくれないだろう。堕落に慣れてしまう前に何か見つけなくては。
私が出来る、何かを。
とはいえやはり魔法を使っていたい。もっと学びたい。魔法に触れている何かがいい。そのうち見付けよう。
そうベッドに静かに身体を下ろして、ふかふかのベッドで眠った。
翌日は、リースさんがいない隙に魔法特訓を始める。夜の明かりの元である蝋燭を見つめて、火をつける練習をした。ボッとついた火。橙色に揺らめく。今や火をつけられただけでは驚かない。少し操ってみようと、更に念を送った。
ボオオッと強く燃え上がる。大きくなれと手を上げながら念じる。手の動きに合わせて、火は大きくなりやがて炎となった。その炎を宙に漂わせたくって、引き寄せる。
途端に、炎が予想以上に燃え上がって、私に向かってきた。
咄嗟のことに腕で自分を庇おうとしたけれど、火だるまにはならなかった。熱を感じたけれど、見てみれば火は水に包めれていて消えてしまう。
「危ないところでしたね。魔力の気配がしたので、勝手に入らせていただきました。申し訳ありません」
へーリーさんが部屋にいた。勝手に入ったことを頭を深々と下げて謝罪してくれるけれど、助けれくれたのだからその必要はない。
「ありがとうございます、へーリーさん」
「無理は禁物だと昨日伝えたはずですよ、ハナ様」
ごめんなさい、と反省の色を見せる。しゅんと俯いて見せただけで、またもや容姿の効果なのか、へーリーさんは仕方なそうに微笑んだ。
「それにしても火の扱いがお上手ですね。炎にまで育てる器用さは評価に値します」
「本当ですか? ありがとうございます」
褒められて、パッと笑顔になる。お城に使える魔導師様に褒められるなんて、ベッドの上で飛び跳ねて喜びたいところだ。
「通常魔法は学園に通ってゆっくりと学ぶものです。中には細かいコントロールが要する魔法も多くありますが、聖女様にお渡しした本は主に攻撃魔法が記されていました。魔物と戦ってもらうためです。なので、ハナ様は学ばないようにお願い申し上げます」
「え、なんでですか」
「部屋の中で行うは危険だから、と言うのも理由の一つです。攻撃魔法は多くの魔力を消耗します故、身体に負担がかかってしまいます」
ゆるりと穏やかな口調でさらっとだめだと言われて、ギョッとしてしまう。儚げな容姿のせいだ。誤解をとかなくては。
「そう心配してくれますが、私は大丈夫ですよ」
「無理はだめです、ハナ様」
「元気溌剌なんです」
「心配かけまいとしているのですね。それでもだめです」
元気いっぱいと腕を上げて見せたのだけれど、へーリーさんは私の手を握ってやめさせる。信じてもらえない。
ならばでんぐり返し! いや側転!
側転を披露してみせようか。身体が丈夫だって見せてくれようぞ。
「倒れてしまってからでは遅いのです……どうか、私のためだと思って……」
へーリーさんがあまりにも真剣な眼差しで言うものだから、側転披露が出来なかった。私の両手を包み込んで、熱い眼差しで見つめてくる。
私はハッとした。これはフラグなのかもしれない。恋愛フラグというやつ。
私の儚げな容姿に惚れてしまって、へーリーさんはここまで心配してくれているのかもしれない。だから昨日は部屋まで手を握ってリードしてくれたんだ。なんて効果まで発揮してくれているのだ、儚げな容姿め。
へーリーさんに好意があるとわかった途端に、ドキドキと心臓の音が胸の中で大きく響き渡る。
こんな素敵な人に好意を持たれるなんて、なんてことなの。背が高くて顔も整っていて、穏やかで紳士的。お城の魔導師として偉い立場の人。そして独身貴族! そんな人を魅了するなんて、きゃー私ってば罪深い女!
でも魔導師へーリーさんと一緒になれたら、毎日魔法尽くしの日々を送れるかもしれない。それはそれで魅力的。
「私はずっと妹が欲しいと願っておりました」
ぽーっと妄想を始めた私を引き戻したへーリーさんの発言に、目を見開く。
「大切にさせてください」
「……」
まさかの恋愛対象外通告に、ワナワナと震えそうになった。
妄想の最中に告げられては、大ダメージである。
見計らったのか、見計らってクリティカルヒットさせたのですか。
そうか、妹のように思ったのか。確かにへーリーさんは歳上。私はいつも気にかけていなくてはいけない身体の弱い妹ということだろう。
亜豆ちゃんと並んで小柄だものな。寝込んでいる間に随分ほっそりもした。
私も髪が真っ白で病的な白い肌の小さな妹がいたなら、何が何でも最優先にしたはず。キラキラな白銀の髪に透き通るような白い顔で辛そうに見上げられたら、もうおんぶだって肩車だってやってやりたくなる。
でも待てよ。私がそう見えるというとなると、流石に自己陶酔が出来ないぞ。そこまで演じるつもりはないぞよ。私は二十代だぞよ。……だぞよ?
けれども、私は考えを変える。
「ずっと、願っていたことなのですか?」
へーリーさんがずっと願っていたこと。
「はい、幼い頃から願っておりました。両親は魔法商売の店を経営していて、少々寂しい思いをしました。おかげで魔法を学ぶ時間が人よりも多くありましたが、共に遊ぶ兄弟がいたらと何度想像したかわかりません」
私と似ている、と思った。
叶わないと思っていた願いを抱いていた私とちょっぴり同じだと。
「今は面倒を見る妹が欲しいのですか?」
「はい、そうです」
「ではその願いを叶えましょう」
私が叶えることができるなら、喜んで叶えよう。
だって、へーリーさんが私の願いを叶えてくれたようなもの。そのお返しだ。
手を握り返せば、へーリーさんは笑みで頷いた。
「へーリーお兄さん」
「……はい、ハナ様」
整った顔が綻ぶ。私も照れて笑みを深める。
「ハナ様はやめにしませんか、へーリーお兄さん」
「ではハナさんで、よろしいでしょうか?」
呼び捨てには抵抗があるみたいだから、私はそれでいいと答えた。
異世界でお兄さんが出来たと喜んだ。もう二度恋愛フラグなんて考えないと決めた。
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